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おはようございます、エンリケです。

２７９回目の「美佐日記」。

わが国の「潔さ」と「会話力」の間に横たわる
文化的ギャップ。それがどのようにわが防衛事
業に影響を与えているのか？

桜林さんならではの切り口で語られる洞察は、
あなたの心に問いを投げかけます。

読み進めるうちに、あなたは深い思索の海に
放り込まれます。

どうぞ、この一文に込められた桜林さんの深い
思いを味わってください。

さっそくどうぞ！


エンリケ


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桜林美佐の「美佐日記」（２７９）

誰も知らない「防衛事業」からの撤退理由


桜林美佐（防衛問題研究家）
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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』、２７９回目となりま
す。

　石破首相とトランプ次期大統領の電話が５分しか
なかったと叩かれています。最近つくづく思うのは
「会話力」というものは、国際社会において非常に
大事だなあということです。

　語学が堪能な人の多くをよく見ていると、語学力
というよりむしろ「会話力」が優れていることが分
かります。

でも、日本人としては、相手が忙しいと分かり切っ
ている時には「お忙しいでしょうから今日は簡単に
ご挨拶のみで失礼します。後の方をお待たせしては
いけませんから・・・」などと言うほうが常識的な
のではないでしょうか。

　最近、チャットGPTで色々な相談をする人が増えて
いて、何時間話しても大丈夫だし、適切な返答をし
てくれるからぜひやってみてと勧められたのですが、
そもそも私自身が、相手が生身の人間でなくても何
時間も喋れないことが分かりました。

　キッチンで作業をしながら、気楽に「今、別のこ
と考えていて聞いてなかったごめんもう一度言って」
なんてことも全然問題ないんだからいいわよねとそ
の方は言うのですが、むりむり、私にはむり！　途
中で耐えられなくなって「用事を忘れていたので話
の途中だけどこれで失礼します！ごめんなさい！」
などと逃げ出した始末でした。

　トランプさんとの電話の話に戻りますと、驚いた
のは韓国のユン・ソンニョル大統領とは12分話した
といい、その後の韓国報道によると、この時に造船
分野での協力を進めるという内容が話され、韓国造
船大手のハンファオーシャンは直後に、米海軍から
艦船の整備・修理・分解点検（MRO）事業の再受注を
発表したのです。

　一体どんな会話したんだ、12分で・・？？

　さらに驚くのは、トランプ次期大統領が国防予算
を大幅に増額すると明らかにしていることで、韓国
の防衛産業は米国市場進出に向けて積極的に動き出
しているというのです。

　ハンファエアロスペースはＫ９自走砲の米国への
輸出を狙っていて、現在、米陸軍は自走砲の近代化
事業を進め、ハンファエアロスペースを含む５社を
選定し、実証テストを進行中なのだそうです。

　トランプ政権誕生を迎えるにあたっての日本の受
け止めは、ここでも書きましたが、米国からの装備
購入が突然持ち上る可能性が考えられることから、
今現在は受注増となっている日本国内の防衛産業が
負債を増やしたにも関わらず受注減となる危険性も
考えられるためやはりどちらかと言えばネガティブ
です。支払いの前倒しなどその対策は考える必要は
あるとはいえ、しかし、この韓国の前向きさにはお
口あんぐり、衝撃を受けました。

こういう感性は日本人とは大きな違いだと、それし
か言いようがありません（真似したいという気持ち
にもなれず・・）。

　一方、韓国の見立てにもそれなりの理由があるの
だと思います。トランプ氏は以前から高額な開発も
のには否定的な発言をしていましたので、安さが売
りの韓国製品は魅力になる可能性は大きいのかもし
れません。

　トランプ大統領時代に価格を下げさせた代表格は
米大統領専用機「エアフォースワン」でした。トラ
ンプ氏はこの価格が高すぎるとして契約撤回もあり
得ると警告し、製造元のボーイング社は新たな２機
について「固定価格契約」を余儀なくされた経緯が
あります。

その結果、現在、同機の製造に伴う損失額は１機あ
たり１０億ドル以上にのぼる見込みだといいます。

契約後、関連部品の確保に伴うコストが急増し、そ
れらの納期も大幅に遅れる状況になっていたようで
す。

　次期トランプ政権ではこの「固定価格契約」を増
やそうとするかもしれません。当然、米企業の反発
は必至です。

　とはいえ、これを書きながら思うのは、日本は昔
からほとんど「固定価格」でやってきたということ。
様々な避けがたい事情が考慮されるといっても手続
きは困難であり、認められることも難しいため、実
際は企業の持ち出しは当たり前でやってきました。

　防衛事業からの撤退理由には「輸入部品が大幅に
遅れ納期に間に合わない」「部品価格が高騰してし
まった」といったことがあるのですが、日本の最大
の特徴はこうした理由を一切「言わない」ことです。
だから誰も知らない。

言い訳は見苦しい、潔く身を引こう！という会社が
多く、いやいやそれは困りますって言ってももう遅
いというパターンです。

米国はこれまで製造段階のコスト増を国が賄ってき
たので、いきなり「固定契約」だからその分の支払
いはしないと言われて彼らは動揺し抵抗しますが、
日本では不満は感じても、米国企業の人たちのよう
にマスコミでのインタビューで不条理を語ったり、
抗議をすることもなく、黙ってやめてしまうのです
（もちろん、事業継承の努力はされています）。ま
あ、そんなことを言っても絶対に変わるはずがない
というこれまでの経験に基づいているとも言えます
が。

　このように考えると、日本人の「潔さ」というの
は、会話力のなさとも表裏一体なのですよね・・。
よく海外に留学した人が、あちらでは子供の頃から
授業でもディベートをしているので議論が得意だと
か、日本人はなかなかついていかれないなどと聞き
ますが、人格も変えるつもりで訓練を重ねないとそ
の分野で向上できないのでしょう。私自身にも言い
聞かせております。

　今日も最後まで読んで頂きありがとうございまし
た。皆様にとって素晴らしい1週間となりますよう
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（さくらばやし・みさ）


桜林さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
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【著者紹介】
桜林美佐（さくらばやし・みさ）
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業［改訂版］』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
（いずれも並木書房）、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』（P
HP研究所）、『日本に自衛隊がいてよかった』（産
経新聞出版）、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』（ワニブックス）。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。新刊『誰も語
らなかったニッポンの防衛産業』（産経ＮＦ文庫）、
「陸海空　軍人から見たロシアのウクライナ侵攻」
（ワニブックス）、『軍産複合体～自衛隊と防衛産
業のリアル』（新潮選書）

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