配信日時 2024/11/21 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (479)】陸自の演習場整備(7)     渡邉陽子(ライター)

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こんばんは、エンリケです。

「ライター・渡邉陽子のコラム」。
こんかいは第479号。

「陸自の演習場整備」の7回目です。

戦場といえば銃弾が飛び交うイメージが強いですが、自衛隊の訓練
場ではまったく別の戦いが繰り広げられています。演習場整備とい
う地味でありながら過酷な任務です。

急斜面やぬかるみに足を取られながら、境界線を明確にするための
草刈り作業や塚石の探索に挑む隊員たちの姿は、「見えない敵」と
の闘いそのものです。その裏には、演習場と民有地との境界を守る
ため、時に命の危険すら伴う徹底した努力がありました。ドローン
や測定機器を駆使した最新技術と、根気強い手作業の融合にも驚か
されます。

渡邉さん自身、取材中に泥まみれになり、転倒を繰り返しながら現
場を追体験。その言葉を通じて、自衛隊員たちの日々の奮闘や知恵、
そしてチームワークの奥深さを感じ取ることができます。

見過ごされがちな舞台裏に光を当てたこの記事。読み進めるうちに、
軍事の現場を支える縁の下の力持ちたちに敬意を抱かずにはいられ
ないでしょう。ぜひ、彼らの“無言の闘い”を感じ取ってください。

それでは、本編をお楽しみください。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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『ライター・渡邉陽子のコラム (479)』

 陸自の演習場整備(7)

 


  渡邉陽子(ライター)

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こんばんは。渡邉陽子です。今週のコラムを読み返しながら、全身
泥まみれになったことを思い出しました。悲劇だったのは宿にコイ
ンランドリーがなかったことです。ユニットバスで必死に洗い、翌
朝生乾きの服を着てまた演習場に行ったのも、今となっては笑い話
です。


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■陸自の演習場整備(7)

除草は道路わきだけでなく、演習場と民有地の長い境界線も含みま
す。外柵がない部分の境界線は塚石で示されています。
20年ほど前、もともとあったはずの境界線が次第に曖昧になったり
不明になったりしていたため、改めて塚石を探すことになったそう
です。民間の人が演習場と気づかないまま、山菜取りなどで境界線
がはっきりしないところから入ってきてしまうこともあって危険だ
ったのです。そこで演習場の図面から場所を読み取って塚石を探し
たものの、草に埋もれた塚石はなかなか見つけられません。隊員た
ちは地面を這って探し回り、ひとつ見つけたらそこに印をつけてと
いう作業を延々と繰り返しました。またGPSを活用したり、特科
や重迫中隊が塚石を探す際は、射撃の際に諸元を出すために使うポ
ケコンを使って方向と距離を出し、それを頼りに探すといった工夫
もしたとか。そうして苦労の末にすべての塚石を見つけることがで
きたのでした。

しかしこの境界線、起伏が非常に激しく急斜面が多いため、ロープ
を使わなければ上り下りできない場所もあるほどです。しかも足元
もぬかるんでいるところが少なくなく、かなり難易度の高い除草で
す。車両が入れる場所も限られているので、草刈り機などの機材も
ずっと持って移動しなければなりません。
私も除草している前線まで四苦八苦しながら前進したのですが、豪
快に転倒したほか、案内してくれた広報担当者に支えてもらうこと
数えきれず、衣類は過去の取材に例がないほど泥まみれとなりまし
た。写真でお見せできないのが残念です。また、あまりに足場の悪
い急斜面で、前進を断念した場所もありました。偵察隊長を乗せた
車両もスタック、立ち往生している場面にも出くわしました。四輪
駆動車ですらはまってしまう、なんとも恐ろしいぬかるみです。
「(レスキューを頼んだ部隊に)今夜ビール差し入れします」と偵
察隊長が言っていたのはここだけの話です。

これまで、訓練の取材で演習場には数えきれないほど足を踏み入れ
てきました。真冬にホワイトアウトを経験したり、真夏にブヨに刺
されて手がグローブのように腫れ上がったりとさまざまな経験をし
てきましたが、初めて目にする演習場整備の現場は想像以上に過酷
であることを、身をもって実感した次第です。「けがに気をつけて」
と隊員たちが繰り返し言われているのも納得です。
なお、2021年あたりからドローンで境界線の状況を確認するといっ
たことも行なわれるようになりました。整備期間中は毎晩、部隊ご
とにその日の成果を報告するのですが、その際の資料作りにもドロ
ーンで撮影した写真が役立っているそうです。

境界線での草刈り作業を終えて戻ってきた火力支援中隊の隊員は
「アップダウンが激しいところなので汗だくです。車のある場所ま
では、ここからさらに40分ほど歩きます」。
別の場所の境界線の草刈りを実施していたのは4中隊です。3即機
は改編当初3個中隊の編成で、3連隊時代にあった4中隊は一度廃
止されたのですが、2023年3月に改めて新編した部隊です。
新編直前に4中隊準備隊として出場した連隊の小銃射撃競技会では
みごと優勝、幸先のよいスタートを切りました。
中隊長の遊佐1尉は「演習場東側の境界約4.6キロの除草を実施して
いるところで、現在2小隊の作業を視察中です。気をつけているの
は安全、確実であること。ひとりでも欠けると戦力が落ちてしまう
ので、とにかくけがのないよう安全第一でやっています。ここまで
の作業は計画通り順調に進んでいます」
「4中隊は新編して約半年、もともと3連隊にいた隊員が中心です
が、全国から異動してきた隊員も何割かいます。今はちょうどお互
いがどんな人間かわかり、中隊の力をどんどんつけていこうという
状態です。私も演習場整備期間中は課業外の時間に各小隊を回り、
積極的にコミュニケーションを図っています。休憩時間などもいつ
も以上に隊員たちと話ができる環境だと感じます」

演習場南側の境界には外柵がないため、今回の演習場整備でやはり
塚石を探すところから始まりました。担当は3中隊、塚石を見つけ
たら杭を打ち、杭の上部の穴にロープを巻き結びます。
杭は地盤の固さによって打ちやすさも打ち込む深さもまちまち、一
定ではありません。穴にロープを通すだけでなくわざわざ巻き結び
にするのは、動物が接触することもあるので固定したほうが確実だ
からです。根気のいる作業です。



(つづく)


(わたなべ・ようこ)



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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。

2016年6月、デビュー作
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2022年、
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