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おはようございます、エンリケです。
インテリジェンスのプロ・樋口さん(元防衛省情報本
部分析部主任分析官)がお届けする
『情報戦を生き抜くためのインテリジェンス』
の28回目。
イスラエルのネタニヤフ首相が「国家作戦だった」と
衝撃の発表をしたこの事件。相手はヒズボラ、手口は
ポケベル爆破…。
え、それ本当に実話!?
…なんだか気になりません?
きょうから、イスラエルとヒズボラの対
立などについて歴史的振り返りがはじまります。
多くの日本人の全く知らない話でしょう。
あなたは知っておいたほうがいいです。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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情報戦争を生き抜くためのインテリジェンス(28)
特別編「レバノンにおけるポケベル爆破事件の真相」(3)
樋口敬祐(元防衛省情報本部分析部主任分析官)
───────────────────────
□はじめに
イスラエルのネタニヤフ首相は、2024年11月10日の
閣議でポケベルなどの通信機器を使った作戦へのイ
スラエルの関与を認めました。イスラエルが公式に
認めたのは初めてです。(2024年11月11日CNN)
ネタニヤフ首相は「この作戦と(ヒズボラの前指導
者)ハッサン・ナスララの殺害は軍幹部の反対にか
かわらず実行した」と述べました。
イスラエルメディアの解釈によれば、今回のネタニ
ヤフ首相の発言は、軍や情報機関の幹部への不満の
表れであり、特に11月5日に解任したガラント前国
防相に対する批判だといいます。
ネタニヤフ首相とガラント前国防相は、過去に何度
も意見の対立で衝突してきましたが、ネタニヤフ首
相によれば、今回解任されたのは、(1)超正統派ユダ
ヤ教徒の徴兵、(2)ハマスとの人質取引、(3)2023年
10月7日のハマスによるイスラエル攻撃に関する政
府の失策を調査する国家委員会の設立などに関する
意見の相違から生じたとしています。
つまり、ネタニヤフ首相は、(1)については、超正統
派ユダヤ教徒の男性の兵役免除を今後も維持するこ
と、(2)については、イスラエル人の人質解放と引き
換えにガザからの完全撤退に署名することを拒否し、
エジプト・ガザ国境沿いにイスラエル軍が駐留を続
けることを主張、(3)については、昨年10月7日のハ
マスによる奇襲攻撃の責任と教訓を国家レベルで明
らかにする国家調査委員会の設立に反対し、捜査権
限がより限定された低レベルの調査を望んでいるよ
うです。(2024年11月11日The Times of Israel)
これらの点に、ついて両者の対立が激化し解任劇に
つながったようです。
ネタニヤフ首相の人質を早く連れ戻す道義的責任や
今後のために国家安全保障上の問題点を明らかにす
ることよりも、現政権を延命させることを優先する
ように見える対応に、内部でも批判が起こっている
ことを示唆しています。
ネタニヤフ首相によるガラント国防相解任の決定に
対し、イスラエル国民は即日、抗議の意思を示し、
テルアビブの高速道路に大勢が集まり道路を封鎖し
ました。
今回のネタニヤフ首相の公表により、ポケベル爆破
事件に対するイスラエルの国家的関与が明らかにな
りましたが、今回からはイスラエルとヒズボラの対
立などについて歴史的に振り返ってみましょう。
▼過去のイスラエルによる爆破事件など
歴史的にイスラエルは毒物なども含みあらゆるもの
を使って暗殺を実行していますが、遠隔装置や爆破
物を使った殺害に絞っても次のようなものがありま
す。
○1972年9月ドイツのミュンヘンオリンピックでイ
スラエル選手団がパレスチナゲリラ「黒い9月」メ
ンバーに多数殺害されるという事件が起きました。
イスラエル政府は復讐を誓い。関与した「黒い9月」
のメンバーを次々に暗殺していきます。
モサドは黒い9月ナンバー2のマフムド・ハムシャ
リを、1972年12月固定電話の爆発により殺害しまし
た。
その要領は、次の通りです。
ハムシャリは当時フランスのパリに住んでいました。
モサドはその住居を探し当てて秘密潜入部隊ケシュ
ト(ヘブライ語で「虹」の意)が、ハムシャリのア
パートに侵入して仕事部屋などの写真を撮って本部
に送る。
その写真をモサドが分析して、ハムシャリのアパー
トの電話機が大理石の台座に置かれているところに
着目。この大理石の台座と瓜二つの台座を作成して、
その中に起爆装置付きの爆弾を入れて埋め込む。
数日後、ジャーナリストを装ったモサドのエージェ
ントが、ハムシャリをアパートの外におびき出して、
偽のインタビューをやっている間に、ケシュトの要
員が侵入して大理石の台座をすげ替える。
自宅に戻ってきたハムシャリにモサドが電話して本
人が出てきたのを確認し、遠隔起爆装置のボタンを
押して台座を爆発させる。
○1970年代にはイスラエル軍は敵対するパレスチナ
解放軍側にイスラエル軍からのものと分からないよ
うに密かに偽装した手榴弾を売り付けていたことも
あります。
手榴弾は通常、信管を抑えるレバーの安全ピンを抜
いて投げると、約3秒後に爆発するようになってい
ます。しかし、この偽装された手りゅう弾は投げる
と0.5秒で爆発するように細工されていました。
パレスチナの兵士がピンを抜いて投げた瞬間に爆発
するようになっていました。兵士が自ら投げた手り
ゅう弾で死傷するということを狙ったものでした。
○1996年、イスラエルの情報機関の一つシンベトは、
ハマスの「爆弾製造専門家で「エンジニア」の異名
を持つヤヒア・アヤシュを携帯電話型爆弾で暗殺し
たとされます。
アヤシュは、ハマスの自爆テロの手法をより洗練さ
せた人物として知られていました。彼は、爆弾が仕
掛けられた携帯電話で、かかってきた電話に応答し
ようとしたところ、それが耳元で爆発し死亡しまし
た。
○2000年、パレスチナ自治政府主流派ファタハの活
動家も同様の戦術を使い爆殺しました。
○2020年11月27日、イランの首都テヘラン郊外を乗
用車で移動中だった核科学者、モフセン・ファクリ
ザデ氏は銃撃されて死亡しました。
ファクリザデ氏はイラン革命防衛隊に長く所属し、
イランが2003年に中止したとされる核兵器製造計画
を主導したとみられていました。
イランのザリフ外相(当時)はイランと敵対するイ
スラエルが関与した「重大な形跡」があるとツイー
トしました。
事件当初は、3~4人による待ち伏せ攻撃としてい
ましたが、国家安全保障最高評議会のアリ・シャム
ハニ書記(海軍少将)は同月30日に行なわれたファ
クリザデ氏の葬儀で、襲撃犯は「電子機器を使って」
ファクリザデ氏の車を襲ったと説明しました。
その後のメディアでは、ファクリザデ氏は、顔認証
技術で人物が特定され、遠隔操作された機関銃によ
り正確に銃撃、殺害されたと報じています。犯人に
ついては、国外の反政府勢力とイスラエルだとされ
ています。
一方、イスラエルのエリ・コーヘン情報相は同日、
ラジオ局の取材で、ファクリザデ氏殺害の犯人に心
当たりはないと話しています。
○2024年7月31日ハマスは、最高幹部のイスマイル
・ハニヤ政治局長が殺害されたと発表しました。イ
ランの首都テヘラン滞在中に、イスラエルによる攻
撃を受けたと主張しています。
ハニヤ氏は、ハマス最高指導者の一人でした。イラ
ン政府系のファルス通信は、31日午前2時ごろ、テ
ヘラン北部の滞在先で「上空からの飛翔体」による
攻撃を受けたとの報道もありますが、客室に隠され
た遠隔操作爆弾が使用されたとの報道もあります。
▼イスラエルの情報機関とポケベル爆破作戦の遂行
以上述べてきたように、イスラエルの情報機関は、
爆発物を仕掛けて特定の人物を殺害する能力に長け
ています。
今回の、ポケベルの爆発による殺害は、多くの人物
を一度に死傷させた点では異例ですが、その手口は
周到で類似しています。
今回のネタニヤフ首相の公表、そして前回までに記
述したような作戦の複雑さや準備、動機など考慮す
ると、イスラエルでも情報機関以外にこのようなこ
とを実行する組織はないと考えられます。
そのイスラエルの主要な情報機関は、IDI(アマン)、
ISA(シャバク)、ISIS(モサド)からなります。こ
れら3機関の人員の合計は、12,000~15,000人と推
定されますが、イスラエルの人口の約0.2%にも上り
ます。
仮にこの比率を日本に当てはめると情報要員だけで、
20万人以上の規模の要員が必要になります。
通称アマンは、イスラエル国防軍情報部で、約8,00
0人を擁し、イスラエルの情報機関の中では最大の組
織です。外国の軍事情報の収集、国家レベルでの情
報分析を行なっており、政府に対して危機を警告す
ることが重要な役割とされています。通信情報を収
集する8200部隊もアマンに属しています。
通称シャバクは、イスラエル保安機関で1960年代ま
では、シンベトという通称も使われていました。主
に国内での情報収集、防諜担当組織です。
通称モサドは、イスラエル秘密情報部です。人員は
約2,000人とされますが、世界中に張り巡らされたユ
ダヤ人情報網によって情報収集活動を行なうととも
に特殊作戦を行なう対外情報機関です。モサド長官
の下に工作担当の副長官がいて、情報収集部門、プ
ロパガンダ部門、技術工作部門、実行部隊などが存
在します。
以上のような、役割分担から考えるとアマンの8200
部隊が通信情報収集や機材に爆発物を仕込む準備
(試験)などで作戦を支援し、モサドが総力を挙げ
てポケベルなどの発注、爆発物の仕掛け、爆破の実
行などの一連の作戦を遂行した可能性が高いと考え
ます。
次回は、さらにイスラエルとヒズボラの歴史的な対
立から今後の見通しを考察してみたいと思います。
(つづく)
(ひぐち・けいすけ)
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【著者紹介】
樋口敬祐(ひぐち・けいすけ)
1956年長崎県生まれ。拓殖大学大学院非常勤講師。
元防衛省情報本部分析部主任分析官。防衛大学校卒
業後、1979年に陸上自衛隊入隊。95年統合幕僚会議
事務局(第2幕僚室)勤務以降、情報関係職に従事。
陸上自衛隊調査学校情報教官、防衛省情報本部分析
部分析官などとして勤務。2011年に再任用となり主
任分析官兼分析教官を務める。その間に拓殖大学博
士前期課程修了。修士(安全保障)。拓殖大学大学
院博士後期課程修了。博士(安全保障)。2020年定
年退官(1等陸佐)。著書に『2020年生き残りの戦
略』(共著・創成社)、『2021年パワーポリティク
スの時代』(共著・創成社)、『インテリジェンス
用語事典』(共著・並木書房)、近刊『ウクライナ
とロシアは情報戦をどう戦っているか』(並木書房)
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