配信日時 2024/10/30 09:00

【陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(85)】自衛隊砲兵史(31) 巧妙なソ連外交──停戦交渉の呼びかけ     荒木 肇

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おはようございます、エンリケです。

「陸軍砲兵史」
の第85回目。

きょうも充実した記事です。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(85)

自衛隊砲兵史(31) 巧妙なソ連外交──停戦交
渉の呼びかけ



荒木 肇

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□総選挙終わる

 ただいま月曜日の朝です。ほぼ結果が出ました。
まったく予想通りと言うべきか、自由民主党は大幅
に議席を減らし、公明党も驚きの結果です。野田元
首相が率いる立憲民主党が大躍進、国民民主党も4
倍の増加となりました。この結果、これからしば
らく内外に大きな波紋が起きるでしょう。

石破さんが「善人」だからだめだったのだという論
評に、なるほどとも思いました。政治家はほどほど
に「悪人」でなければならない、そういった論旨で
した。確かに、彼なりの義理や人情の重視があるの
でしょう。ただし、言うことはすぐに変えるし、一
貫性もないという石破首相はどのように舵取りがで
きるのでしょうか。この後のさまざまな出来事が心
配でもあり、興味も持っています。


▼陸自新戦力到着

今週も元自衛官・木元寛明氏の著作『道北戦争19
79』をもとに話を進めます。

 陸上に太い兵站線を築くことは大変です。しかも
複雑な地形をもつわが国のこと、それを利用した妨
害に悩まされます。7月12日頃がソ連軍の衝力の
ピークになると予想されました。新たな戦力を道北
地区に上陸させるか、補充人員、装備品類、補給品
などで侵攻部隊を早急に再編成することがソ連軍に
とっては必須です。

 ソ連軍は、稚内、天塩、オホーツク海の3方向か
ら外線的に戦力を集中して、音威子府(おといねっ
ぷ)周辺を奪取するのが目標でした。これを分進合
撃(ぶんしん・ごうげき)といいます。分かれて進
撃することで相手に十分な対応を取らせず、目標地
点で合流し、決戦を強いる作戦です。

 ところが、陸自第2師団の抵抗や、地理の不案内、
機械化部隊の戦力発揮には適さない地形、兵站支援
の困難などで目標の達成は難しくなってきました。
ノシャップ岬に拠点を占領する第26普連は健在で
す。ソ連艦船の稚内港の使用を妨害し、侵攻部隊へ
の兵站支援に大きな影響を与えています。ソ連空軍
機の空襲にも反撃し、携帯地対空ミサイルで敵機を
数機撃墜しました。

 一方、幌延地区では激戦が続いています。

 恵庭から鉄道で第1戦車群の74式戦車74輌が
道北にやってきました。群はただちに第2師団に配
属されます。これまでの戦闘で第7戦車大隊の1個
中隊、第2戦車大隊の2個中隊はすでに全車輌が破
壊されていました。それだけに第1戦車群の戦闘加
入は大歓迎されます。

 作戦司令官(北部方面総監)は攻勢に移ろうとし
ました。第7師団主力、戦車団(第2戦車群、第3
戦車群、102装甲輸送隊)は名寄(なよろ)・士
別(しべつ)地区に集結し、14日以降には新たな
作戦を発起できます。内地から北転中の第8師団、
富士教導団は道央・道東から上陸し、17日頃には
戦力発揮の態勢がとれます。

▼シビリアンと戦争

 日ソ両軍の戦力集中競争は7月12日頃に両軍の
戦力が拮抗し、以降は日本側に優勢が移ります。こ
の状況は、東京のシビリアンにはどう映るでしょう
か。軍事的な知識も経験もない政治家や官僚諸氏に
は、道北全体が占領されるような態勢に見えたかも
知れません。

 ソ連はこれまでの軍事的成果をアピールして、稚
内港の租借などを行ない、政治的な成果を得ようと
するでしょう。わが政府は事態の主導権を取り戻し
て、非難の高まるシビリアンコントロールの喪失と
いう状況を脱したいと焦っています。対して、第一
線部隊は奇襲を受けての当初の防戦作戦から、「ソ
連兵を海に追い落とす」ともいうべく攻勢作戦を展
開し、侵攻部隊を撃破する意欲が十分でした。

 これ以上、侵攻は望めない、そう判断したソ連、
そこは巧妙です。13日早朝の国連がスポンサーに
なっているテレビ番組で、ソ連の外務次官が両軍を
引き離し停戦交渉を始めようと呼びかけます。そろ
そろソ連軍の衝力が涸渇し、自衛隊の戦力がますま
す増強されそうなタイミングです。したたかで虫の
よい提案をしてきました。

 実は、この日の前の12日夜には、在日ソ連大使
と陸軍大佐の駐在武官が、都内にある外務省公館で、
わが外務大臣、外務事務次官、欧州局長、ロシア課
長と密かに会合を持ちました。ソ連側からの申し入
れで、和平について提案したいという意向でした。
麻布狸穴(まみあな)にあるソ連大使館は警視庁機
動隊によって守られていましたが、暮夜になって警
視庁の護衛車輌に守られて大使館を出ます。

 公館に着くと、用意された部屋でソ連大使は武官
に地図を出し、日本側高官に見せるように言いまし
た。外務省の日本人に軍事的な知識や見識がないこ
とを見越しているのです。そうした知識や情報をも
つ防衛庁の関係者は招かれていません。

 示されたのは75万分の1の「北海道地方図」で
す。そこにはソ連軍の進出状況が標示されていまし
た。それを見ると、ソ連軍は佐久~天北峠~咲来峠
まで進出し、音威子府を間もなく奪取してしまうよ
うに描かれています。

 ソ連大使はわが外務大臣を恫喝しました。ソ連軍
は近日中に大攻勢をかけて、名寄から士別へ進撃し、
旭川も陥れて、上川平野を占領する予定であると言
うのです。しかも、そうなれば北海道の住民にも大
きな被害が出ると述べました。

 軍事に素人には、兵站線の重要性や戦術のことも
分かりません。何より、戦闘がどのように行なわれ
ているのかなど想像もつきません。政治家も外務省
の役人も、軍事には素人であると自覚するなら、専
門家である防衛庁の陸上幕僚監部防衛部長や運用課
長を同席させるべきでした。

 次回は、巧みなソ連の外交に振り回される政府、
官僚たちの動きです。


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴

荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。

著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか─安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!─昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。


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された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
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