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おはようございます、エンリケです。
『日米史料による特攻作戦全史』の編訳者・小田部
さんがお届けする短期連載「特攻作戦開始から80
年を迎えて」の第5回です。
今回は、陸海軍の特攻作戦の違いに焦点が当てられ
ています。
同じ「特攻」でも、陸軍は志願者中心で少人数、時
には操縦者一人で行われた一方、海軍は部隊と
して出撃しており、複座機や三座機に全員が搭乗す
るのが一般的でした。
より高度な航法技術が求められる任務に就いていた
海軍と、陸軍では異なる特攻戦術が展開されていっ
た、という面もあるようです。
爆弾の投下方法や機体の体当たりのタイミングなど、
陸海軍の隠れた戦術の違いも解説されています。
こういう事実を知る機会は、今までなかったと思い
ます。
陸海軍の差異を重視し注目する繊細な視座は、
とくに我が国では文明レベルで重要と感じます。
小田部さんに感謝です。
どうぞお楽しみください。
エンリケ
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の特攻隊記録』
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短期連載・特攻作戦開始から80年を迎えて(5)
陸軍特攻と海軍特攻の違い
小田部哲哉
───────────────────────
□はじめに
本連載の(3)と(4)で沖縄の航空戦で主力とな
った方々の教育などを話しました。今回は航空要員
などの呼び方、爆弾/爆発物の攻撃方法などについ
てお話します。
▼誰が航空機に搭乗しているか?
航空機に搭乗して戦闘に従事する者(士官を含む)
の呼称も陸海軍で異なりました。操縦する者の正式
名を陸軍は「操縦者」、海軍は「操縦員」と呼んで
いました。それ以外の偵察員、無線員、銃手なども
含む場合、陸軍では「空中勤務者」、海軍では「搭
乗員」と呼んでいました(『特攻作戦全史』p.6)。
ただ、海軍は操縦員だけを指す場合も含め、一般的
には搭乗員と呼んでいたようです。
また、水上・水中特攻では、陸軍は「マルレ」(連
絡艇)の乗組員を乗員と呼び、海軍は高速特攻艇
「震洋」、そして回天の乗組員も航空機同様に搭乗
員と呼んでいました。
陸軍の志願者による特攻(建前上)と海軍の軍の命
令としての特攻、この違いで航空機に乗る人数に違
いがでました。
陸軍は定員2人の九九式襲撃機/九九式軍偵察機、二
式複座戦闘機屠龍でも基本的に1人、三座以上の爆
撃機の場合も操縦員以外には爆弾の安全装置を解除
する爆撃手などの最小限の人数で出撃しました(離
陸時から安全装置を解除して1人で出撃した例もあ
ります)。
志願した操縦者1人で特攻ができるなら、ほかの者
まで志願させて乗せる必要はない、との判断でしよ
う。海軍の場合は(個人でなく)部隊として特攻隊
を出撃させました。また、海軍機は陸軍機よりも航
法技術を要する攻撃を担当したこともあり、複座機、
三座機の特攻の場合でも一部の例外を除き、正規の
搭乗員全員(操縦員のほかに偵察員、銃手)が搭乗
しました。予科練出身者が操縦し、飛行専修予備学
生出身の偵察員が機長、攻撃隊指揮官を務めること
もよくありました。
沖縄周辺の米艦艇のレーダー・ピケット・サイト上
空で特攻隊を待ち構えていた米戦闘機が複座機、多
座機の日本軍機を後方から攻撃しても銃座の場所か
ら撃ってこない機体を特攻機と判断しています。こ
れは主に操縦者以外が乗っていない陸軍機でしよう。
▼投下するか体当たりするか?
航空特攻の場合、爆弾を搭載したまま艦艇に体当た
りをすると思われますが、実際は機体が艦艇に体当
たりする直前に爆弾を投下するようにしていました
(『特攻作戦全史』p.174、p.178、p.181、p.191)。
爆弾は機体重心位置(主翼翼玄の前から約1/3)に近
い胴体下か主翼下に搭載されていました。爆弾が機
体に固定されたまま機体が艦艇に体当たりすると、
まず爆弾より前のプロペラ、エンジン、胴体、主翼
が破壊されます。これが緩衝材になり、爆弾の信管
が艦艇に達する時の爆弾の前進速度が遅くなり、爆
弾の効果が減ることになります。
これに対し、機体が体当たりする直前に爆弾を投下
すると、爆弾は機体の前進速度を維持したまま艦艇
にぶつかり、機体も体当たりすることができ、より
大きな効果を得ることができるためです。
特攻機が背面飛行をしている写真を見たことがある
と思います。これは意図的にしています。
特攻機が上空から降下すると重力の影響もあり機体
の速度が増加します。増加すると翼面の揚力が増え
て、機体を翼の上面方向に引き揚げる力が働きます。
そうなると、特攻機は目標を飛び越えて、その先の
海面に突入しがちになります。これを避けるため、
機体を背面飛行させて目標艦艇を飛び越さないよう
にしていました(『特攻作戦全史』p.90、p.420)。
そうすれば、たとえ目標艦艇の手前の海面に突入し
ても前進速度が残っていれば機体、爆弾が目標艦艇
に到達できる可能性がありました。
陸海軍の違いは水上特攻でもありました。爆発物を
搭載艇から投下するか搭載艇もろともに体当たりさ
せるかです。
陸軍のマルレ、海軍の震洋とも爆発物を搭載して敵
艦艇に向かう点では同じです。
ただ、マルレは敵艦艇の直前で回頭しながら、爆雷
が海中で爆発するように乗員が爆雷を艇の舷側から
海面に投下して、建前上は乗員が生還できるように
していました。実際、このようにして艦艇から離脱
できた艇もありました。
一方、海軍の震洋は搭乗員が震洋の船首を敵艦艇に
ぶつけると、船首の金属バンドが押し込まれ、電気
回路が通電して爆薬が爆発するようにしていたので、
搭乗員は脱出する間がなく、戦死しました。
▼航空、水上、水中特攻以外の特攻
特攻隊は航空、水上、水中特攻だけと思われがちで
すが、本書では刺突(しとつ)爆雷、対戦車人間地
雷、特攻泳者なども特攻としています(『特攻作戦
全史』pp.142-148)。
刺突爆雷は棒の先端に爆雷を取り付けたもので、
それを戦車の側面に押し当てると爆発する兵器です。
対戦車人間地雷は、敵戦車が通りそうな場所にいく
つもタコつぼを掘り、そこに箱入り地雷を持った兵
士を潜ませ、戦車が近くを通過したら戦車の下面ま
たは近くで地雷を爆発させる戦法でした。刺突爆雷、
対戦車人間地雷とも、それを使えば兵士は確実に死
にました。
特攻泳者は、木枠に固定した触角式の機雷をロープ
で引きながら沖に停泊している敵艦艇に泳いで向か
い、艦艇のすぐ横で艦艇に向かって機雷を押し出し
て爆発させました。これも機雷が爆発すれば特攻泳
者は言うまでもなく、それで終わりでした。
おかげさまで『日米史料による特攻作戦全史』は、
さまざまメディアで紹介されたこともあり、早くも
増刷となりました。本連載は残すところ、あと1回
ですが、なにか質問などありましたら、ご連絡くだ
さい。「特攻」はただ体当たりするだけの単純な作
戦と思いがちですが、そこにはさまざまな戦術が隠
され、たいへん複雑な作戦であったことがわかりま
す。
小田部哲哉
(つづく)
(おたべ・てつや)
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【著者紹介】
小田部哲哉(おたべ・てつや)
1947年生まれ。三菱重工業(株)の航空機部門で勤
務。退職後は月刊誌『エアワールド』に「アメリカ
の航空博物館訪問記」を、月刊誌『航空情報』に
「アメリカ海兵航空隊の歴史」をそれぞれ連載した
ほか、ヘリコプター関連記事を月刊誌『Jウイング』
に掲載した。母方の伯父が第14期海軍飛行専修予備
学生出身の神雷爆戦隊員として鹿屋から出撃、未帰
還となったことから航空機や航空戦史に関心を寄せ
ていた。訳書『米軍から見た沖縄特攻作戦─カミカ
ゼvs.米戦闘機、レーダー・ピケット艦』(ロビン・
リエリー著)。
原著者略歴
Robin L. Rielly(ロビン・L・リエリー)
1942年生まれ。沖縄戦当時、父親がLCS(L)-61に乗艦
していたことから、USS LCS(L) 1-130協会で約15年
間歴史研究を行なう。1962〜63年、海兵隊員として
厚木で勤務。シートン・ホール大学修士課程卒業。
ニュージャージー州の高校の優等生特別クラスで米
国史、国際関係論を32年間教え、2000年退職。本書
を含め日本の特攻隊、米海軍揚陸作戦舟艇関係の本
を5冊執筆。『Kamikaze, Corsairs, and Picket S
hips Okinawa,1945』『Mighty Midgets At War』
『American Amphibious Gunboats in World War II』
『Kamikaze Patrol』。空手に関する著書も多く、I
nternational Shotokan Karate Federationで技術副
委員長を務めるかたわら自ら空手を教えている。現
在8段。
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