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こんばんは！エンリケです。

「アメリカの新核戦略」の４回目です。

今回の記事には、中共の急速な核戦力増強に焦点を当てた深い洞察が詰まっています。

加藤さんの鋭い視点は、単なる兵器の解説にとどまらず、戦略的な思考や平和への道筋を探る糸口をも提供しています。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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加藤大尉の軍隊式英会話：世界の秘密兵器編　　　
　　Takashi Kato

アメリカの新核戦略（４）

加藤喬（元米陸軍大尉）

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□前代未聞の快挙──９１０万人が視聴したスター
シップの生還劇

　亡父はＳＦの黎明期に活躍した翻訳家。『ＳＦマ
ガジン』初代編集長も務めました。ＳＦが「空想科
学小説」と呼ばれていた頃の話です。後年作家とな
り、宇宙を舞台にしたＳＦも数多く著しています。
そんな父の影響で、わたしは幼少期より宇宙へ行く
夢を抱いて育ちました。ＳＦを通じ、時代を先取り
しているような気がしたものです。

　が、去る１０月１３日、スペースＸ社スターシッ
プ５号機の打ち上げから着水までをネットで目の当
たりにし、現実がＳＦを追い越してしまったことを
悟りました。読者諸氏にアメリカに息づく「夢見る
力」を感じていただくため、手短にスターシップの
背景を説明します。

　スターシップは、イーロン・マスク氏が考案した
完全再利用型の大型ブースターと宇宙船の総称。全
長１２１メートル、総重量４４００トンというサイ
ズは人類を月に送ったサターン５型を凌駕し史上最
大です。

スターシップ１号機は２０２３年４月に打ち上げら
れましたがブースターと宇宙船の分離に失敗。高度
３９キロで制御不能の錐もみ状態に陥ったため、地
上の安全確保のため爆破されました。２号機は同年
１１月に打ち上げられ、ブースターと宇宙船の分離
には成功したもののブースターは間もなく爆発。宇
宙船は軌道挿入前に連絡を絶ちました。３号機打ち
上げは２０２４年３月に行なわれ、ブースターはメ
キシコ湾に着水寸前に爆発し、宇宙船も大気圏再突
入中に空中分解しています。

３か月後、４号機のブースターはメキシコ湾で着水
に成功。宇宙船は再突入に伴う高熱でフラップが破
損したもののインド洋への着水には成功しています。
そして今回、５号機のブースターは分離後打ち上げ
基地まで戻り、逆噴射で降下速度を落とし発射塔に
設けられたメカニカル・アームによって見事回収さ
れました。宇宙船も大気圏再突入に損傷なしで成功
し、インド洋の予定水域に正確に着水。

打ち上げごとに問題点を特定、解決し、なんと１年
半でほぼ完ぺきな成功に辿り着いています。宇宙開
発史上、これほど長足の進歩を短時間で成し遂げた
例はなく、一私企業が見せた前代未聞の快挙と言え
ましょう。

　ちなみに、巨大ブースターを空中で捉えたロボッ
トアームの愛称は「メカジラ」。これは１９７４年
の東宝特撮映画『ゴジラ対メカゴジラ』に因んだ命
名ですが、父はこの作品に原作者として名を連ねて
います。
　
　マスク氏が「完全再利用型」にこだわるのは打ち
上げ費用を半減するためです。ロシアのソユーズや
日本のH2Aは非常に信頼性の高いロケットですが、使
い捨てなので経費削減には限りがあります。対照的
にスペースＸ社の主力機種ファルコン９は再利用で
コストを低く抑えることに成功。米国の衛星打ち上
げ市場を独占しています。これは航空会社が利潤を
上げることができるのと同じ理由です。旅客機は燃
料を補給しメンテナンスを済ませれば即、次の目的
地に向かって飛び立てます。つまり稼働率の高さが
利益につながっているのです。

　マスク氏は同じ経営哲学を超大型のスターシップ
にも応用。同宇宙船は恒久的な月基地建設を目指す
アルテミス計画や火星植民プロジェクトにも使われ
ます。言い換えれば、マスク氏は「採算がとれるこ
と」を見通して宇宙ビジネス進めているのです。こ
の厳格な収支管理が政府主導の宇宙計画と根本的に
異なります。

ロボットアーム採用も然り。巨大なブースターを安
全確実に着陸させるためには頑丈な着陸脚が要りま
すが、これは大幅な重量増加につながるうえ機械的
故障の追加要因になります。そこで、着陸装置を一
切持たない簡素で軽い機体を空中で捕獲するという、
まさにＳＦ的アイデアを採用したのです。ブースタ
ーは発射台に戻ってくる訳ですから、燃料補給とメ
ンテナンスをその場で行なえます。これがさらなる
稼働率向上につながる訳で、メカジラにもマスク氏
の厳格な経営感覚が活きています。

　スペースＸ社はスターシップ５号機の全飛行過程
を自社のスターリンク・システムで全世界にネット
配信。お陰でブースターがメカジラに捕捉される瞬
間や、スターシップが大気圏に再突入し青白いプラ
ズマに包まれる様子を実況で見ることができました。
画面には「９１０万人視聴中」とありましたから、
この中から必ずマスク氏の「夢見る力」や「起業家
精神」に心酔、スペースＸ社にはせ参じる人々が出
て来ます。常識破りの想像力、才気、才能、そして
失敗を恐れぬ勇気を併せ持つ人材を惹きつけるうえ
で、まさに理想的な「求人広告」。マスク氏はそこ
まで織り込んでいるはずです。

スターシップ５号機（動画）
　- SpaceX - Launches

　打ち上げから着水までリアルタイムでネット配信
する姿勢には、スペースＸ社の「失敗に学び開発を
加速する」哲学と透明性を尊ぶ社風が感じられます。
「失敗という選択肢はない」のモットーが裏目に出
て大胆な発想の芽を摘んでしまった米国空宇宙局
（ＮＡＳＡ）には真似のできない芸当。アルテミス
計画をはじめとする目玉プロジェクトでスペースＸ
社と組んでいるＮＡＳＡが、ここで一念発起して一
私企業から学ぶかどうか注目されます。

一方、宇宙航空産業の花形だったボーイング社はス
ターライナー有人宇宙船の故障でメンツを失い、民
間航空機分野でも737MAXで大失態を続け先日はつい
に全従業員の１割にあたる大解雇を余儀なくされま
した。同社は政府契約や予算超過の悪癖に慣れ切り、
夢見る力を失ってしまったのではないかと思います。

　スターシップ５号機成功の翌日、スペースＸ社の
ファルコン・ヘビーロケットがＮＡＳＡの大型惑星
探査機を打ち上げています。目的地は生命存在が期
待される木星の衛星エウロパ。NASAの「スペース・
ラーンチ・システム」が使用される予定でしたが、
コストと性能の面からファルコン・ヘビーに変更さ
れた経緯があります。翌１５日、フロリダとカリフ
ォルニアから、それぞれ１０数個のスターリンク衛
星を積んだ２機のファルコン９ロケット打ち上げら
れ軌道投入に成功しています。あっぱれなスペース
Ｘ社の底力と言うべきでしょう。

「多惑星文化」と「採算性」。一見相反するゴール
にマスク氏は突き進んでいます。類まれな「夢見る
力」が、いま全開です。

 

▼アメリカの新核戦略（４）

兵器は人が生存をかけて使う道具。生き延びるため
には相手より優れた武器を持たねばなりません。兵
器開発競争が文明の黎明から今日まで途切れなく続
いているのはこのためです。よく指摘される武器の
効用に「抑止力」(deterrence)があります。刀を抜
かずとも相手を委縮させ対峙を防ぐ「鞘の内の勝ち」
の如く、敵に攻撃を思いとどまらせる圧倒的な破壊
力のことです。「平和を望むがゆえに兵器を手放せ
ない」。人類が陥って久しいこのジレンマの裏面が
「抑止力」なのです。
加藤大尉の軍隊式英会話：兵器編」では、それぞれ
の武器が持つ抑止力に着目。兵器と平和の関係を考
えていくことにします。

「米新核戦略計画」の４回目は急拡大が懸念される
中国の核戦力を取り上げます。

１０月１０日付『ニューヨークタイムズ電子版』は
国連総会で中国の高官が、

「中国は核保有国に対し、核の先制使用はしないと
確約することを要請する。（中略）中国が核兵器開
発に踏み切ったのは、当時の特別な歴史的環境に鑑
み、核独占に終止符を打ち、核恫喝に対処し、ひい
ては核戦争を防ぐためだった。中国は決して核によ
る覇権を求めないし、非核保有国を恫喝したり怯え
させたりすることはない」

と発言したと報じています。心地よい言葉ですが、
日本やフィリピンに対する中国の居丈高な態度を考
えると俄かには信じられません。また、「核による
覇権は求めない」との主張も今回の教材内容と完全
に矛盾しています。

本ビデオに拠れば、今年１月現在、中国の核弾頭保
有数は５００発ですが、これは１年前に比べ９０発
の増加。習近平政権が従来の「必要最低限の核抑止
力」を捨て「米露と同レベルかそれ以上」を目指し、
核戦力増強中であることを示唆しています。

仮にこのペースが続けば、２０３０年には１０００
発、２０３５年には１５００発に達すると推定され
ています。

核運搬手段に関しても、中国は核の三本柱をすでに
保持しています。陸上発射のDF41大陸間弾道弾、爆
撃機に搭載される自由落下核爆弾、そしてミサイル
原潜から発射されるJL１およびJL2弾道弾などです。
　
　　
これらに加え、甘粛省の砂漠に建設されているDF４
１用地下サイロは１１９か所に上るとされています。
米国の核攻撃を受けた後でも、十分な報復能力を確
保するのが目的です。つまり、米ソ冷戦時代同様、
米国に対する「相互確証破壊」によって中国覇権を
維持しようとする試みに他なりません。中国共産党
指導部の甘言に惑わされず、対中抑止力を速やかに
身に着けるのが「日本の良策」だとわたしは思いま
す。

教材ビデオ:

 Why the U.S.'s new nuclear strategic plan foc
uses on China, Russia, and North Korea ? (yout
ube.com)

https://x.gd/SF3vN

（本エピソードは５：５９から始まります）

基本語彙（カタカナ表記は大雑把なものです）
point to（ポイント　ツー）指摘する　〜に注意を
向ける
silo(サイロ)地下のミサイル格納庫　穀物貯蔵庫
Yumen（ユーメン）中国北西部の甘粛省にある街。漢
字では玉門。


シナリオ（カウンターを７：１９に合わせてくださ
い）

In ２０２１, satellite imagery that have been 
obtained by The New York Times pointed to Chin
a's efforts to construct new silos at a site i
n a desert near the North West city of Yumen.

（ニューヨークタイムズが２０２１年に入手した衛
星画像によって、中国が甘粛省玉門付近の砂漠地帯
に新たなミサイル・サイロを建設中であることが指
摘された）

（今回のビデオは７：４４まで続きます）

英語一言アドバイス： 
元来、siloは家畜の飼料や穀物などを貯蔵するタワ
ー状の建物を指します。冷戦時代になり、敵の攻撃
から大陸間弾道弾（ICBM）を守るために堅牢な地下
格納庫が作られるようになると、その形状が貯蔵庫
に似ていたため、こちらもサイロと呼ばれるように
なりました。


発音サイト：
silo の発音silo pronunciation - 検索 (bing.com)
https://x.gd/jkkSO

参考サイト: 
DF41ICBM　DF-41 (ミサイル) - Wikipedia
https://x.gd/2KAWb

中国の新サイロ建設に関する記事　中国の砂漠地帯
にＩＣＢＭ格納庫…米側「核保有量は予想上回るレ
ベルで増加」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
https://x.gd/JpkSE

スターシップ５号機（動画）　- SpaceX - Launches
https://x.gd/Hq5zO



（かとう・たかし）


●著者略歴

加藤喬（かとう・たかし）
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授（2014年7月退官）。
著訳書に第３回開高健賞奨励賞受賞作の『ＬＴ─あ
る“日本製”米軍将校の青春』（TBSブリタニカ）、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『Ｍ16ライフル』『ＡＫ─47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃』『ＭＰ３８／４０
サブマシンガン』（いずれも並木書房）がある。

追記
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電子版記事（桜林美佐氏）：
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
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オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
きょうの記事への感想はこちらから
　⇒ https://okigunnji.com/url/7/
ブックレビューの投稿はこちらから
http://okigunnji.com/url/73/

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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。

軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代　(passage of
lines)　を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。

　同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は　"Repeat"　ではなく　"Say again"　です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。

　兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。　
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac"　
と表現します。

　『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。

加藤　喬
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