配信日時 2024/08/30 20:00

【加藤大尉の軍隊式英会話:世界の秘密兵器編】 戦術核(3)    加藤喬(元米陸軍大尉)

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こんばんは!エンリケです。

「戦術核」の3回目です。
冒頭文に共感します。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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加藤大尉の軍隊式英会話:世界の秘密兵器編   
  Takashi Kato

戦術核(3)

加藤喬(元米陸軍大尉)

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□ウクライナ軍の越境攻撃が招く「戦術核使用」の
危機

 1962年10月、キューバ・ミサイル危機が勃
発。フロリダ半島から目と鼻の先にあるキューバに
ソ連が核ミサイル基地を建設している事実が発覚し
たのです。

ジョン・F・ケネディ大統領はキューバ海上封鎖を
敢行しニキータ・フルシチョフ第一書記に基地の撤
去を要求。米ソ首脳同士の交渉が難航するなか、同
月27日、キューバ上空で米空軍のU2偵察機がソ
連の地対空ミサイルで撃墜されパイロットが死亡す
る事態が起こりました。米本土の核ミサイル基地は
発射準備態勢に入り、核爆弾を搭載した複数のB5
2爆撃機が空中給油を受けながら24時間体制でソ
連空域付近をパトロールしたといわれています。ち
なみにこのとき在日米軍も臨戦態勢に置かれていま
す。

 同日にはまた、米海軍がキューバに向かっていた
ソ連海軍潜水艦に対し爆雷を投下、強制浮上を促し
ています。米側は知らなかったのですが同潜水艦に
は核魚雷が搭載されており、艦長はソ連と米国がす
でに開戦したと考え核魚雷発射を決断します。が、
副艦長だったヴァシーリイ・アルヒーポフ中佐が頑
強に反対して艦長を説得。浮上し敵意がないことを
示し、核戦争はすんでのところで回避されました。

 アルヒーポフ中佐はこれに先立つ1961年、ミ
サイル原潜の副艦長として原子炉事故に遭遇。乗組
員らは炉心溶解の惨事を防いだものの高線量被爆し、
うち8名は3週間以内に死亡しています。同中佐は
この被爆体験から、核戦争に伴う放射線障害の惨
(むご)さを予感していたに違いありません。中佐
本人は1998年に癌で亡くなっており、放射線障
害が疑われています。

 ちなみに、我々がこの勇気あるソ連軍人の英断を
知ったのは冷戦後のこと。第1回東京オリンピック
の2年前、世界は破滅の危機に瀕していたのです。
当時、わたしは幼稚園でいつもと変わらぬ日々を過
ごしていましたが「知らぬが仏」とはまさにこのこ
とだったでしょう。

 プーチン大統領はかねてより「ロシアの独立が脅
かされる事態になれば、核兵器の使用もやぶさかで
ない」と西側諸国に警告しています。ここで心すべ
きは「独立が脅かされる事態」とは、ひとえに同大
統領の主観的判断にかかっているということです。
わが身の危険は言うに及ばず、自政権の崩壊が避け
られなくなった場合も「ロシア存立の危機」と解釈
する可能性は十分ありましょう。そこで気になるの
が、ウクライナ軍によるロシア領クルクス地方侵攻
です。

同地は第2次世界大戦中の1943年、独ソ両軍の
戦車計6000両が対峙し史上最大の戦車戦が行な
われた要衝。ソ連側の勝利に終わったことから、ク
ルスクは旧ソおよびロシアにとって愛国心の象徴と
される土地柄です。

 8月6日、ウクライナ軍はこのクルクスに越境攻
撃をしかけ米国の高機動ロケット砲システムで周辺
の橋を破壊。ロシア軍の補給路を断ちました。援軍、
燃料、弾薬が送れないため、モスクワはウクライナ
軍の撃退に手間取っているようです。

クルクスに外国軍の侵入を許したのはロシア軍将官
らの油断と過信。とは言うものの、最終責任を負う
のはプーチン最高司令官です。今後、この大失態が
プーチン氏をどのような苦境と心理状態に追い込む
のか?

まず、プーチン大統領は米国製兵器によるロシア領
内攻撃を許可したアメリカを「直接対峙の敵」と認
識しましょう。これは核の敷居を下げる大きな要素
となり得ます。いまひとつは、ロシア領を外国軍隊
に占領された屈辱が独裁者の権威をこれまでになく
損(そこ)ない、同氏に批判的なグループを勢いづ
かせる可能性です。

実際、「ロシアの民間軍事会社パラディンの頭目ジ
ョールギー・ヤクレフスキーが、露軍に対しプーチ
ン政権の転覆を呼びかけた」とされる動画がネット
上に出回っています。昨年、露傭兵会社ワグネル軍
団のプリゴジン総帥が起こした武装蜂起と同氏の末
路を彷彿とさせます。「裏切り者は許さない」プー
チンの性癖を熟知しているヤクレフスキー氏は、当
然、報復を覚悟のうえで発言したはず。とすれば、
今後しばらくロシア軍内の動向を注視する必要があ
りましょう。

 「追いつめられれば飛びかかってくる」とされる
プーチン大統領の心境やいかに。モスクワではメド
ベージェフ前首相をはじめとするタカ派が核使用を
頻繁に口にしており、露政界の「反響室効果(エコ
チェンバー現象)」が同大統領の好戦的傾向を助長
する恐れは十分あります。

前述のキューバ危機ではアルヒーポフ中佐の良識と
勇気ある決断で核戦争は起こりませんでしたが、低
士気に喘ぐ現在の露軍にそのような逸材があるかど
うか疑問です。

 仮に露軍の戦術核が使われた場合、米側はどう反
応するか? 拡大を防ぐ心理が勝るのか、それとも
戦術核で報復する防衛本能がボタンを押させるのか
・・・はたまた「この機に戦略核で先制攻撃をかけ
る」という核大国の身勝手が支配するのか全く見当
がつきません。核で交戦する際の人間心理は誰も体
験したことがないからです。

同様の理由で、史上初の戦術核使用が他の係争国同
士に与える影響が危惧されます。たとえば核保有国
イスラエルが核保有間際とされる天敵イランに対し
どう出るのかは予測できません。また、ことあるご
とに「日韓に核攻撃を仕掛ける」とうそぶく北朝鮮
の反応も見通せません。

 ウクライナ戦争の進展をめぐり、ここにきて世界
は危機的状況に立ち至っています。キューバ危機の
再来とならぬことを切に願う所以です。

後記:本稿執筆時の8月23日、ロバート・ケネデ
ィ・ジュニア(RKJ)氏がトランプ候補支持を表明し
ました。RKJ撤退が11月の本選挙に与える影響は評
論家諸氏の分析に任せるとして、わたしはトランプ・
RKJ協調がウクライナ戦争終結につながるのではな
いかと望みをかけています。米政界でウクライナ支
援に反対の立場をとる大物は両氏のみだからです。
「トランプ氏とRKJ氏が組んで停戦を実現させてほし
い」と願う米有権者は少なくない。わたしはそう見
ています。


▼戦術核(3)

兵器は人が生存をかけて使う道具。生き延びるため
には相手より優れた武器を持たねばなりません。兵
器開発競争が文明の黎明から今日まで途切れなく続
いているのはこのためです。よく指摘される武器の
効用に「抑止力」(deterrence)があります。刀を抜
かずとも相手を委縮させ対峙を防ぐ「鞘の内の勝ち」
の如く、敵に攻撃を思いとどまらせる圧倒的な破壊
力のことです。「平和を望むがゆえに兵器を手放せ
ない」。人類が陥って久しいこのジレンマの裏面が
「抑止力」なのです。
加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編」では、それぞれ
の武器が持つ抑止力に着目。兵器と平和の関係を考
えていくことにします。

 ウクライナ戦争ではロシア軍が戦術核を使う可能
性が取り沙汰されてきました。また、プーチン大統
領の盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領は
昨年6月「ヒロシマ型の3倍の威力がある戦術核兵
器をロシアから受領した」と述べています。いずれ
も東欧で核の敷居が低くなっている現実を示唆して
います。

「戦術核シリーズ」第3回は核出力、すなわち破壊
力を取り上げます。


大陸間弾道弾(ICBM)や潜水艦発射弾道弾(SLBM)
といった戦略核兵器は戦場から遠く離れた敵国本土
の産業や都市を破壊し、戦争遂行能力と国民の戦意
を削ぐのが目的です。したがって核爆発力も100
キロトンから1メガトンに達します。これはTNT火薬
に換算すると10万トンと100万トン。広島を灰
燼に帰したリトルボーイが15キロトン、長崎に甚
大な被害を与えたファットマンが21キロトンだっ
たことを考えれば、戦略核兵器が途方もない破壊力
を秘めているのがわかりましょう。

これに対し、戦場で敵の攻撃を阻止するために使わ
れる戦術核兵器の出力は0.3キロトンから50キロト
ンだとされています。敵に隣接して展開する自軍お
よび友軍への被害を最小限にとどめるためです。

現在配備されている戦術核はほとんどが威力可変弾
頭を搭載しています。これは戦況に応じ核爆発の規
模を調節できるようにしたテクノロジーで、自由落
下爆弾や弾道ミサイルに使用されています。たとえ
ば米空軍と海軍の航空機から投下するB61水爆は、前
もって0.3から340キロトンの爆発力にセットするこ
とが可能です。

同一の爆弾で異なる状況と任務に対応できる訳です
から「使い勝手が良い」兵器だとも言えますが、そ
の便利さは「核の敷居を低くする危険」と表裏一体
です。いったん戦術核が使われてしまうと、その後
の展開を予測したりコントロールしたりするのは困
難だと思われます。核兵器で交戦する羽目に陥った
際、ヒトの心理がどう働くかは誰にもわからないか
らです。

この心理、知らずに済むなら知らないままが良い、
とわたしは思います。

教材ビデオ:
 Tactical Nukes use in #Ukraine by #Russia ! F
ull analysis (youtube.com)
https://x.gd/88b4h

(本エピソードは2:48から始まります)

基本語彙(カタカナ表記は大雑把なものです)
The Pentagon(ザ・ペンタゴン)米国防総省
Stockpile(ストックパイル)備蓄
Overwhelm(オーバーフェルム)圧倒する 制圧する

シナリオ(カウンターを4:02に合わせてくださ
い)

The Pentagon estimates that Russians has a sto
ckpile of as many as 2000 nuclear weapons, whi
ch are designed to be used on the battlefields
 to overwhelm conventional forces.

(米国防省総省はロシアが2000発もの核兵器を
備蓄しているものと推定している。これらは戦場で
通常戦力を圧倒する目的で作られている)

(今回のビデオは4:10まで続きます)

英語一言アドバイス:
overwhelmは力や数量で相手を「圧倒する」ことを意
味する動詞です。軍事用語の場合は「制圧」と訳さ
れる場合もあります。

発音サイト:overwhelm の発音 overwhelm - 検索
 (bing.com)
https://x.gd/l3VJN

参考サイト: 戦術核兵器 戦術核兵器 - Wikipedia
https://x.gd/GjKlaf

核戦争を防いだソ連海軍士官 ヴァシーリイ・アル
ヒーポフ - Wikipedia
https://x.gd/uKAx0




(かとう・たかし)


●著者略歴

加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT─あ
る“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『M16ライフル』『AK─47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃』『MP38/40
サブマシンガン』(いずれも並木書房)がある。

追記
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
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『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320
オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
ブックレビューの投稿はこちらから
http://okigunnji.com/url/73/

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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。

軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代 (passage of
lines) を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。

 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は "Repeat" ではなく "Say again" です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。

 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。 
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac" 
と表現します。

 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。

加藤 喬
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