配信日時 2024/07/19 20:00

【加藤大尉の軍隊式英会話:世界の秘密兵器編】核を捨てたウクライナ(1)    加藤喬(元米陸軍大尉)

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こんばんは!エンリケです。

今日から「核を捨てたウクライナ」が始まります。

ちなみに、「ダイソン球」については初めて聞きました。

さっそくどうぞ。

エンリケ


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加藤大尉の軍隊式英会話:世界の秘密兵器編   
  Takashi Kato

核を捨てたウクライナ(1)

加藤喬(元米陸軍大尉)

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□ダイソン球──太陽を囲む無数の発電ステーショ
ン構想

 アリゾナの高原砂漠を終の棲家にしてからずいぶ
ん経ちます。海抜約1300メートル。日本で言え
ば長野県の野辺山ぐらいの標高です。土地が広く晴
天が多いことから太陽光発電に適しており、わが家
の庭にも20枚ほどソーラーパネルが設置してあり
ます。

今の季節は気温が40度前後まで上がり終日エアコ
ンが欠かせない土地柄ですが、強い日射のお陰で電
気代はすべて自家発電で賄(まかな)えます。荒漠
とした砂漠環境では、太陽ほど手軽でクリーンなエ
ネルギー源はありません。

 曇天に弱いソーラー発電ですが、イーロン・マス
ク氏が先鞭をつけた再利用型ロケットで打ち上げコ
ストが半減するにつれ、近い将来、天気の影響を受
けない地球軌道上に太陽光発電ステーションを作る
ことも可能になります。宇宙文明の発展度を示すカ
ルダシェフ・スケールでいう「惑星文明」に近づく
訳です。

この考え方をもう一歩前進させるとどうなるか? 
人類が目下のテクノロジー幼年期を生き延び「恒星
文明」に進化した暁には、太陽が四方の宇宙空間に
放つエネルギーをすべて利用する時代もやって来る
のではないか・・・

この「太陽を囲む超巨大外殻」あるいは「太陽周辺
に群がる無数の発電ステーション」構想は、気宇壮
大な発想で知られた英国生まれの理論物理学者フリ
ーマン・ダイソン博士にちなみ「ダイソン球」と呼
ばれています。

 ちなみにいま、このダイソン球がネットで話題で
す。欧州宇宙機関(ESA) が2013年に打ち上げ、
銀河系内の10億個にのぼる恒星を精密観測してい
るガイア宇宙望遠鏡と、2009年から運用されて
いる米航空宇宙局(NASA)のワイズ広視野赤外線探
査機からのデータ研究の結果、対象にした約500
万個の恒星のうち7個にダイソン球の存在を示唆す
る兆候が発見されたからです。

その兆候とは赤外線超過のことで、恒星のスペクト
ル分布が赤外線領域で予測より強くなる現象です。
仮にダイソン球が存在した場合、恒星のエネルギー
で熱せられた巨大建造物は赤外線を廃熱として放射
すると考えられているのです。

 もっとも、赤外線超過は生まれて間もない恒星を
囲むガスや塵によっても発生することが知られてお
り、今回の発見がそのままダイソン球につながる訳
ではありません。ですから最終的な判定を下すには、
高い解像力を誇るNASAのジェームズ・ウェッブ宇宙
望遠鏡で精査するのが早道です。が、同望遠鏡を使
用するための順番待ちリストは長く、いつ実現する
かは分からないのが現状です。

 にもかかわらずダイソン球に思いを馳せる人々が
尽きないのは、この巨大建造物が持つ途方もない可
能性と、そう、「希望」のせいでしょう。太陽が産
み出すエネルギーをすべて利用することができれば、
地球文明を多惑星文明に進化させられます。おそら
くは恒星間飛行も可能になり、太陽系外探査も始ま
りましょう。

むろんヒトが恒星文明に到達するには途方もない年
月がかかります。しかし、もしダイソン球がいま確
認されれば、それは人類をはるかに凌ぐ高度に進化
した知的生命が宇宙に存在する証しであり、また、
「誰かがテクノロジー幼年期を生き延びた」先例に
なります。それゆえ、ダイソン球は「いまの我々」
に希望と目標を与えてくれる。核アルマゲドンを回
避する使命感と言ってもいい。昨今ネット上に、ダ
イソン球関連記事と動画が溢れているのはその証左
だろうと思います。

 今晩もし晴れたら、読者諸氏も夜空を見上げダイ
ソン球に思いを馳せてみてください。世の中の憂
(う)さを忘れられるだけでなく、恒星文明の可能
性に心が洗われ、未来を切り開いていく勇気が湧い
てくるでしょう。


▼核を捨てたウクライナ(1)

兵器は人が生存をかけて使う道具。生き延びるため
には相手より優れた武器を持たねばなりません。兵
器開発競争が文明の黎明から今日まで途切れなく続
いているのはこのためです。よく指摘される武器の
効用に「抑止力」(deterrence)があります。刀を抜
かずとも相手を委縮させ対峙を防ぐ「鞘の内の勝ち」
の如く、敵に攻撃を思いとどまらせる圧倒的な破壊
力のことです。「平和を望むがゆえに兵器を手放せ
ない」。人類が陥って久しいこのジレンマの裏面が
「抑止力」なのです。
加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編」では、それぞれ
の武器が持つ抑止力に着目。兵器と平和の関係を考
えていくことにします。

ウクライナ戦争が始まってすでに2年。戦況に関す
る報道は情報戦で歪められており、どちらが優勢な
のかも停戦は可能なのかも判然としません。しかし、
双方の将兵に多大な死傷者が出ており、また、多く
のウクライナ人非戦闘員が犠牲になっているのは確
かなようです。

戦場から送られてくる悲惨な映像を目にするたび
「惨(むご)い戦争を未然に防ぐ手立てはなかった
のか?」との疑問が湧いてきます。この問いを背景
に私の目を引いたのが「ウクライナがNATOに警告:
NATO加盟を認めなければロシア侵攻を防ぐため再核
装備する」と題する『ディフェンス・アップデイツ』
のエピソードでした。3年前、ロシアとウクライナ
の緊張が高まっていた当時の配信です。

抑止力としての核を考えるうえで貴重な示唆に富ん
でおり、読者諸氏にとって適時かつ適切な思考の糧
になるのではないかと思い教材としました。

「核を捨てたウクライナ」シリーズ第1回は、まず、
ソ連邦の一員であった当時のウクライナ核戦力と、
同国が非核化した背景を取り上げます。

 ウクライナは1922年から約70年間、ソビエ
ト社会主義共和国連邦(旧ソ)の一共和国でした。
1991年に旧ソが崩壊した際、ウクライナは大陸
間弾道弾や重爆撃機に搭載される核爆弾などを含め
1700発もの核弾頭を保有。これは旧ソ核戦力の
30パーセントにあたる膨大な数量で、当時のウク
ライナは世界有数の核保有国だったのです。

 ちなみに、核使用の許可権と管理システムは常時
モスクワが握っていたとされています。が、ウクラ
イナ側は核兵器の設計および生産に関する周到な知
識を蓄えていたともいわれています。私見に過ぎま
せんが、旧ソ崩壊後の一時期、ウクライナが核の自
主運用能力を秘密裏に手にしていた可能性は否定で
きない・・・そんな気がしています。

 いずれにせよ、ウクライナは1994年「ウクラ
イナの領土保全と政治的独立を核保有国である米英
露が保証する」としたブダペスト覚書の内容を額面
通り承諾。その後1996年までに、旧ソから受け
継いだ核兵器をすべてロシアに移転し非核保有国と
なったのです。

 18年後、プーチン政権下のロシアは電撃的にク
リミア半島を併合。不意を突かれたウクライナには
なす術がなかったと言います。

ウクライナ領土と主権に対するあからさまな侵害に
対し、米英はブダペスト覚書の義務違反だと批判し
たもののロシアとの直接対峙は避けました。この時
の弱腰外交がプーチン氏を増長させ、2022年の
ウクライナ全面侵攻に繋がったとの見方があります。

教材ビデオ: 
Ukraine puts NATO on notice - Either give us m
embership or we go nuclear to deter Russia ! 
(youtube.com)
https://x.gd/AAlKG

(本エピソードは0:13から始まります)

基本語彙(カタカナ表記は大雑把なものです)
look into(ルックインツー)検討する
all possible options(オール・ポスィブル・オプ
ションズ)可能なすべての選択肢

シナリオ(カウンターを0:37に合わせてくださ
い)

 Andriy Melnyk, Ukrainian ambassador to German
y, suggested to the national public radio netw
ork, Deutschland funk, that President Volodymy
r Zelensky’s administration is looking into a
ll possible options as the probability of the 
conflict with Russia is increasing.

(駐独ウクライナ大使アンドリー・マクリークはド
イツ公共放送ラジオ局ドイチュランドファンクで、
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領政権はロシア
との対立が激化している現状に鑑み、あらゆる選択
肢を検討すると示唆した)

(今回のビデオは1:20まで続きます)


英語一言アドバイス:
 look intoは「見る」+「中に」で、文字通り「覗
き込む」ですが、転じて「〜を詳しく調べる」とか
「〜を検討する」とも訳せます。簡単な単語の組み
合わせなので、覚えておくと便利です。

参考サイト:
ウクライナの核兵器 Ukraine and weapons of mass destruction - Wikipedia
https://x.gd/CTpGF

ブダペスト覚書 ブダペスト覚書 - Wikipedia
https://x.gd/ysFzK

フリーマン・ダイソン博士 フリーマン・ダイソン - Wikipedia
https://x.gd/RkjH9

ダイソン球とは 恒星を覆う「ダイソン球」とは? | 宇宙ラボ (the-universe-lab.com)
https://x.gd/pAPYr



(かとう・たかし)


●著者略歴

加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT─あ
る“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『M16ライフル』『AK─47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃』『MP38/40
サブマシンガン』(いずれも並木書房)がある。

追記
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電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
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『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320
オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
ブックレビューの投稿はこちらから
http://okigunnji.com/url/73/

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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。

軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代 (passage of
lines) を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。

 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は "Repeat" ではなく "Say again" です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。

 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。 
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac" 
と表現します。

 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。

加藤 喬
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