配信日時 2024/06/19 09:00

【陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(66)】 自衛隊砲兵史(12) 107ミリ重迫撃砲(2) 荒木 肇

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おはようございます、エンリケです。

「陸軍砲兵史」
の第66回目。

兵器の変遷を見ているだけで、
時代の価値観の移り変わりを感じ取れますね。
歴史の醍醐味です。


さっそくどうぞ。


エンリケ


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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(66)

自衛隊砲兵史(12) 107ミリ重迫撃砲(2)


荒木 肇

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□ご挨拶

 暑い日々が続きます。先週の火曜日は、わたしも
所属する(公益社団法人)自衛隊家族会の総会と、
その後の理事会、意見交換会が市ヶ谷で開かれまし
た。
 
その冒頭のご挨拶で、吉田圭秀統合幕僚長が、今後
の女性自衛官の全自衛官に占める割合の増加につい
て語られました。現在約8%の割合であるのを、2
030年までには約12%にするという方針です。
外国軍隊ではその数字は12%から15%ほどであ
り、たしかに我が自衛隊では女性の比率がたいへん
低いという事実があります。

アメリカ軍ではワンスター(准将)からフォースタ
ー(大将)まで、女性将官はまったく珍しくありま
せん。対して自衛隊には将と将補ポストが合計で2
80余りですが、女性の将官はまさに指折れるほど
でしかありません。このことは、女性の仕事と出産、
育児についての日米社会環境の違いとしか言いよう
がないのです。

現に、統幕長のご指摘では女性が高級幹部になるた
めの子育ては、そのご実家の親ごさんによる応援と
援助がなくては無理だという声があるそうです。そ
うであると、夫君である男性幹部が育児休業を取る
という決断も必要になってきます。共同生活者であ
る夫がいながら、女性が犠牲になって退官する。そ
れでは少子高齢化の募集難と言いながら、女性隊員
にならないかと声をかけにくいのではないかと思い
ます。

社会全体が考えなければならないことなのです。


▼昭和戦前期の迫撃砲

 1931(昭和6)年のことでした。フランスか
ら口径81ミリ、重量67キロのストークブラン迫
撃砲の売り込みがありました。列国はどこも世界大
戦で注目されたガス弾の発射手段として軽便な火砲、
迫撃砲を装備しています。陸軍はこれに対してすぐ
反応し、滑空砲であることから「有翼弾」の特許料
を支払いました。そうして直ちに国産化のために開
発計画がスタートします。

 なにぶん、当面の相手はソ連極東軍です。ソ連に
は有力な化学弾部隊があること、ガス弾の投射には
迫撃砲を使うことはよく知られていました。そこで
開発されたのが、94式軽迫撃砲でした。94式で
すから皇紀2594年、昭和9(1934)年にな
りますが、それは制式の年であって、実際の完成は
1935年のことだったのです。

 口径は化学学校側の要求で90.5ミリでした。
しかも精密な射撃ができるように、射弾の修正がし
やすいように頑丈な底板が付きました。それに加え
て駐退復座機も付けたために重量は159キロにも
なってしまいます。

 このあたりは現在の、ソ連邦軍の血筋を受けたロ
シア軍砲兵、化学戦部隊の考えとは真逆な行き方で
しょう。彼らはいまだに砲兵戦とは火砲射撃とは、
精度より量という考え方をとっているようです。

米国をはじめ欧州諸国、わが自衛隊も精度の高い砲
撃を重視しています。もともと砲身砲を使う砲撃は
弾着がばらつくことが前提です。その散布界の中に
半数が収まることを命中とするので、関係のないと
ころにも被害を及ぼします。それが民間人や施設で
あれば、当然、人道にもとる行為なのですが、ロシ
ア軍も、わが隣国の超軍事大国砲兵も、そういう考
えはもっていません。とにかく砲弾をばらまく方針
をとっています。

▼97式曲射歩兵砲

 1937(昭和12)年7月に支那事変が起こりま
す。陸軍はこの不時の戦闘開始より前に、新しい軽
量の迫撃砲を装備することを決めていました。前に
述べたヘビー級の、射撃性能の優れた94式軽迫が
重すぎ、構造も複雑で高価になっていたためです。

 フランス製のストークブランをコピーしようと決
まりました。11月には完成し、翌年には歩兵大隊
に97式曲射歩兵砲として配備されます。重量は6
7キログラム、口径は81.4ミリメートル、最大
射程2850メートルというものでした。TNT火
薬が250グラムから540グラムが充填された有
翼弾を飛ばしました。

 この迫撃砲は南方戦線で活躍します。大きな火砲
は射撃前に「射界清掃」が必須です。発射された弾
が樹木やその枝に触れたらいけません。また陣地進
入も、変換用の予備陣地の設定にも大きな手間がか
かります。この軽量の迫撃砲は、そのすべての手間
が小さくなりました。

 当時の歩兵戦闘の基本は「迂回奇襲」でした。敵
陣地の正面を歩兵が強行突破するのではなく、その
行軍力を生かして敵陣の腹背を突くという戦術です。
これを掩護するための歩兵砲や山砲は南方の密林で
は重すぎました。

 加えて、当時の米軍の対砲評定は地上からの音源
標定と、観測機による発砲炎や煙を目視するもので
した。この迫撃砲はよく身を隠しました。火砲にと
って、その宿命的な発砲音や、炎、煙はどうしても
避けられないものですから、密林内のわが迫撃砲は
ほとんど弾の尽きるまで射撃をできたのです。

▼92式歩兵砲

世界標準だった81ミリ軽迫がなぜ採用が遅れたか。
おそらくそれは曲射・直射ができた
92式歩兵砲(口径70ミリ)があったからではな
いでしょうか。この歩兵砲は「大隊砲」と愛称され
たように、歩兵聯隊に3個ある歩兵大隊ごとに1個
小隊2門配当されました。歩兵大隊の中にあった重
機関銃中隊の歩兵砲小隊でした。

この歩兵砲は1928(昭和3)年から開発が始ま
り、31年には完成し、翌年に制式となりました。
敵の機関銃陣地は直射で撃ち、仰角を変えれば迫撃
砲のように曲射できました。俯仰角は-8°~70°
で最大射程は2800メートルです。軽量で全重は
204キログラムだったので軍馬1頭で曳きました
が、後には分解して駄載もしました。

 しかし、制海権、制空権を奪われた南方戦線では、
その機動力も低下させられ、無駄な重量、防楯(ぼ
うじゅん)や頑丈な砲架が有りすぎました。

▼2式12糎迫撃砲

 陸軍最後の迫撃砲です。これは独ソ戦の教訓が、
ドイツ軍から伝えられたものでした。ソ連軍はドイ
ツ軍の攻勢により、砲身砲の加農や榴弾砲を緒戦で
失い、熟練した砲兵の損害も大きなものになりまし
た。そこでソ連軍がとった方法が、ストークブラン
式の120ミリ滑腔砲でした。

 軽量、安価で、取り扱い教育も簡単に済む、威力
も口径120ミリとなれば155ミリには劣っても、
105ミリより大きかったのです。そこでわが軍も
昭和17(1942)年に2式として口径120ミ
リの迫撃砲を造ります。重量は260キログラムで
した。弾丸重量は12キログラムです。

もちろん、人力で動かすことはできず、運搬はトラ
ックの荷台で行ないました。完成した12迫は南方
地域に送ることはできませんでした。その代わり、
もう大戦末期の本土決戦に備えた師団(決戦師団)
には野砲兵聯隊と、この迫撃砲大隊が編制に入って
いました。迫撃砲聯隊もあり、2個大隊(6個中隊)
36門でした。

戦後の自衛隊も米式装備の導入で、3種類の迫撃砲
を使いました。口径では60ミリ、81ミリ、10
7ミリです。そうして今はまた口径120ミリが戻
っています。次回は、陸自の107ミリ重迫撃砲に
ついてお話しましょう。



(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴

荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。

著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか─安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!─昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。


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された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
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