配信日時 2024/06/07 20:00

【加藤大尉の軍隊式英会話:世界の秘密兵器編】 狙撃(7)     加藤喬(元米陸軍大尉)

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こんばんは!エンリケです。

「狙撃」の7回目です。

「二つの祖国」
への加藤さんの思いに触れ、
胸が張り裂けるような気持ちでおります。


さっそくどうぞ。

エンリケ


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加藤大尉の軍隊式英会話:世界の秘密兵器編   
  Takashi Kato

狙撃(7)

加藤喬(元米陸軍大尉)

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□旧知が憂う「危機感なき世相」の蔓延


「日本は反日の核保有三か国と向き合っていますが、
国民のほとんどはそれに気づいていません。考えら
れない状況です」
 
「昨日、日系戦没将兵記念日の追悼式典に行って来
ました。『自由はタダではない』と感じました」


「日本は2600人強のウクライナ人を受け入れてきま
した。戦渦を逃れてきた人々から『平和を守ること
の困難さを直接学ぶ機会』だったはずです。が、日
本人は彼らが日本で安全に暮らしていることだけに
満足している感があります」
 
 一通目は日本屈指の老舗百貨店を国内外で切り盛
りし、数年前引退した高校の同窓生から、二通目は
アラスカ大卒業後エンジニアとしてオレゴン州に移
り、現在は地元日本人会の世話役を務める旧知から、
そして最後は、半世紀近く私大の司書として学生の
指導に当たってきた旧友から届いたメールです。時
を同じくして届いたこれらのメッセージに、ひとし
きり、二つの祖国に思いを馳せました。
 
 ロシアは日米がアジアで軍事連携を強めているこ
とに反発。『ニューズウィーク電子版』5月13日
付によればノスドレフ駐日ロシア大使は、


「このような振る舞いが続けば、ロシアに対する軍
事的脅威を阻止するため対抗手段をとらざるをえな
い。これは日本政府に普段から警告している」


と述べています。また5月20日、東京の中国大使
館で行なわれた座談会で呉大使が、


「日本が台湾独立の動きに加担すれば、民衆が火の
中に連れ込まれる」


と発言。大使にあるまじき物言いが物議をかもした
と聞いています。


加えて北朝鮮は、武器弾薬供与の見返りにロシアか
らロケット技術支援を引き出すことに成功。米国を
射程にとらえるICBMの実戦配備を進めています。エ
ンジン不調で失敗したものの、去る28日には初の
軍事偵察衛星打ち上げを試みています。


 祖国を取り巻く外患にもかかわらず、前述の座談
会に出席していた鳩山元首相と社民党の福島党首は
「火の中」発言を甘受。いや、鳩山氏に至っては
「基本的に同意する」と中国に寄り添う有様だった
と報じられています。


そうかと思えば5月24日、玉木沖縄県知事は台湾
を包囲する形で行なわれた中国軍の大規模演習に関
し「中国の安全を確保する観点から行なわれている」
と述べ、日台に向けられた中共政府の傍若無人ぶり
もどこ吹く風。してみると、高校の旧知が憂う「危
機感なき世相」蔓延の背景には、「国家」というも
のへの意識が希薄なこれら政治家の言動があるので
はないかと思います。
 
 対照的にアメリカでは、5月の国軍記念日、同月
の戦没将兵記念日、7月の独立記念日、11月の復
員軍人記念日などに家族や友人知人らが集い、現役
将兵、国のために散華した軍人、退役軍人らに感謝
する習慣がまだ生きています。お陰で、国のために
銃をとることは義務であり栄誉であると感ずる市民
は多く「自由はタダではない」との自覚も世代を超
えて共有されています。


しかし問題は、愛国心や祖国愛の対象であるアメリ
カそのものが無残に二分されている現状でしょう。
英国から独立した経緯、機会均等と自由競争、向上
心とアメリカンドリーム、古典的家族制度といった
伝統と国柄が蔑(さげす)まされた結果、これまで
「お国の一大事」に瀕した際、意見の違いを超えア
メリカを束ねてきた市民同士の一体感がすでに失わ
れているからです。
 
 ロイター通信が28日に配信した動画ニュースに
よれば、マクロン仏大統領、キャメロン英外相、ジ
ョンソン米下院議長、そしてストルテンベルグNATO
事務総長らは、ウクライナ軍が欧米の兵器でロシア
国内の軍事標的を攻撃できるよう規制緩和すべきだ
との主張をつとに強めています。対するプーチン大
統領は「ウクライナが欧米供与の兵器でロシア国内
を攻撃すれば、世界大戦を引き起こす」と応酬。追
いつめられた果ての虚勢なのか、欧米との全面戦争
を覚悟した確信発言なのかは判断が難しいところで
す。


いずれにせよ一市井人としては、ロシアへの軍事圧
力増強が、プーチン氏を交渉テーブルに着かせるた
めの緻密な外交計算に基づいていることを願うばか
りです。もっとも本稿執筆時の5月30日『ニュー
ヨークタイムズ電子版』が、


 「欧州と政権内部からの突き上げに屈し、バイデ
ン大統領が米国製兵器によるロシア国内攻撃を許可
した」


と報じています。外交実務のプロはお役御免になり、
時流に乗って延命を図る政治家らと、戦争を糧とす
る軍産複合体が核チキンレースを主導しているよう
に思えてなりません。


 仮にウクライナの戦火が英仏その他のNATO加盟国
に飛び火した場合、反米で連携した中国と北朝鮮が
何らかの形でロシア支援に回ることはあり得ましょ
う。事によると、米国の関与を欧州から引き離すた
めの攪乱(かくらん)作戦として台湾へ侵攻したり、
対日ミサイル攻撃に打って出たりする可能性も否定
できません。


最悪の場合、日本は中露北を相手に三正面作戦を強
いられるかも知れない訳です。その際、国民の一体
感なきアメリカが陸海空軍海兵隊を日本へ増派する
かどうか。昨今、米政界では与野党の力がほぼ拮抗
しており、大統領が巨額のウクライナ支援の上に、
夥しい米軍将兵の犠牲が見込まれるインド太平洋戦
域への米軍派遣を決断するかは未知数。よしんば決
意したにせよ、国民の一体感なしには勝てる戦争も
勝てません。
 
 翻って永田町界隈では、祖国防衛に必須の憲法改
正議論すら始まっていないとか。元司書の友が看破
したように、戦争難民の窮状を目の当たりにしなが
ら国を守る覚悟が決められない政治家らの能天気に、
祖国防衛に日々挺身する陸海空の防人(さきもり)
たちも梯子を外された思いでしょう。
 
 旧知から便りに日米それぞれの事情を感じ、二つ
の祖国に思いを馳せた次第です。

 
▼狙撃(7)

兵器は人が生存をかけて使う道具。生き延びるため
には相手より優れた武器を持たねばなりません。兵
器開発競争が文明の黎明から今日まで途切れなく続
いているのはこのためです。よく指摘される武器の
効用に「抑止力」(deterrence)があります。刀を抜
かずとも相手を委縮させ対峙を防ぐ「鞘の内の勝ち」
の如く、敵に攻撃を思いとどまらせる圧倒的な破壊
力のことです。「平和を望むがゆえに兵器を手放せ
ない」。人類が陥って久しいこのジレンマの裏面が
「抑止力」なのです。
加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編」では、それぞれ
の武器が持つ抑止力に着目。兵器と平和の関係を考
えていくことにします。

 「狙撃」シリーズ最終回は「狙撃兵への対抗手段」
です。

国を問わず、敬礼は軍隊独特の慣例。兵卒および下
士官(軍曹と海軍にあっては兵曹)はすべての士官
に、士官は階級が上の士官(上官)に敬礼する習わ
しです。道ですれ違うときなども階級が下の者が先
に敬礼し、上官が敬礼を返し右手を下ろしたあとで
敬礼を終えると定められています。下士官トップの
上級曹長(海軍にあっては最上級上等兵曹)と雖
(いえど)も、年若い新任少尉には敬礼しなければ
ならない訳です。ハリウッド映画などでこのしきた
りを見知っていたわたしは、「敬礼される人間にな
りたい」との一念で士官を目指した経緯があります。

 前回、狙撃兵の主任務は偵察だと述べました。と
いうことは、上述した敬礼の仕草を注意深く観察す
ることで、敵陣の誰が士官なのか、そして士官の中
でもどの人物が上級将校なのか、言い換えれば「重
要度の高い標的」を特定することができる訳です。

 これを避けるため、戦地に派遣された米軍部隊で
は士官に対する敬礼を一時的に止めたり、また、敬
礼しなくていい場所を定めたりすることがあります。
また、野戦服や軍帽には光を反射する金属製の階級
章ではなく、目立たない色のプラスチック製または
布製の階級章を付けるのが普通です。

 ちなみに軽量小型のアサルトライフルが全兵士に
配備される以前、士官は長大でかさばる歩兵銃の代
わりに拳銃を携行していました。また、最前線の指
揮官はたいてい首から双眼鏡を吊るしていました。
当時の狙撃兵はこういった手がかりを見逃さず、高
級将校や現場指揮官に狙いを定めていたようです。

 より積極的な狙撃兵対策としては、友軍狙撃兵で
敵側の狙撃兵を仕留めることも有効であるようです。
カモフラージュのノウハウ、潜伏場所の選定など、
お互いの手の内を知り抜いているからです。ベトナ
ム戦争における米海兵隊の伝説的狙撃兵、カルロス
・ハンコック一等軍曹と北ベトナム軍スナイパーの
一騎討は今日に至るも語り継がれています。

 ウクライナ戦争では双方が簡易ドローンを多用し
敵陣偵察を行なうようになりました。入手が容易な
ドローンに安価な赤外線カメラを搭載することで、
ギリースーツで自然界に溶け込んだ狙撃手を難なく
発見することが可能になっています。ひとたび潜伏
場所が見抜かれてしまえば、狙撃兵には一目散に撤
退するしか生き延びる術がありません。遠隔操作で
攻撃できるハイテク・ドローンでなくても、狙撃兵
の脅威を取り除くことはできるのです。

 地雷と同じく、狙撃兵は心理的な恐怖感を与える
ことで敵の作戦行動を阻害します。このハイテク時
代にあっても、狙撃兵の発揮する「抑止効果」には
大きなものがあります。しかし、ドローンや赤外線
カメラといった安価な新兵器の登場で、その抑止力
に歯止めがかかるかも知れません。

教材ビデオ:
 Why Snipers Avoid Headshots In Real Life (you
tube.com)
https://x.gd/DEm4e
(本エピソードは16:40から始まります)

基本語彙(カタカナ表記は大雑把なものです)
high value target(ハイバリュー ターゲット)重
要度の高い標的
countermeasure(カウンターメジャー)対抗手段
insignia(インシグニア)徽章、階級章


シナリオ(カウンターを16:52に合わせてくだ
さい)

 High value target is what snipers are usually
 after. 

(多くの場合、狙撃兵が狙うのは重要度の高い標的
だ)

 So as a passive countermeasure, officers remo
ve their rank insignia from their battle unifo
rms or use subdued insignia, which is more dif
ficult to identify.

(したがって受動的な対抗手段として、士官らは野
戦服から階級章を外すか目立たない色の階級章を使
うかする)

 
(今回のビデオは最後まで続きます)

英語一言アドバイス:
 countermeasureは「反」「逆」を意味するcounter
と「方法」「手段」を示すmeasureを組み合わせた言
葉です。日本語では「対抗手段」「防衛手段」にな
ります。Countermeasure against terrorism なら
「テロへの対抗手段」ですし、敵が撃った魚雷への
音響妨害や欺瞞を行なう防衛用魚雷は countermeas
ure torpedoと呼ばれます。

発音サイト:
countermeasureの発音 countermeasure - 検索 (bing.com)
https://x.gd/D8KRC

参考サイト: 
赤外線カメラ 赤外線カメラ - Wikipedia
https://x.gd/3yqci

伝説の米海兵隊狙撃兵カルロス・ハンコック一等軍
曹 カルロス・ハスコック - Wikipedia
https://x.gd/UySbz


(かとう・たかし)


●著者略歴

加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT─あ
る“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『M16ライフル』『AK─47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃』『MP38/40
サブマシンガン』(いずれも並木書房)がある。

追記
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
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『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320
オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
ブックレビューの投稿はこちらから
http://okigunnji.com/url/73/

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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。

軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代 (passage of
lines) を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。

 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は "Repeat" ではなく "Say again" です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。

 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。 
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac" 
と表現します。

 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。

加藤 喬
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哲學ツーリズム 光を観る旅
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