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『日中和平工作秘史』
太田 茂(著)
出版年月日:2022/11/16
判型・ページ数:A5・412ページ
定価:本体2,700円+税
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おはようございます、エンリケです。
あなたは繆斌工作をご存じでしょうか?
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繆斌工作
重慶の蒋介石の和平交渉の使者として1945年3月、繆
斌が来日。小磯國昭首相、緒方竹虎情報局総裁、東
久邇宮稔彦王、石原莞爾らはこれを強く推進しよう
としたが、重光葵外相らが「謀略」として徹底的に
反対した。最終的に天皇が工作中止の引導を渡した。
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日支和平工作史上最大の謎とされ、
今でも真偽論争がある繆斌工作。
この本は、約400点の文献資料に基づいて
繆斌工作の真実性を解明・論証したものです。
『日中和平工作秘史』
太田 茂(著)
出版年月日:2022/11/16
判型・ページ数:A5・412ページ
定価:本体2,700円+税
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この本は、
日中和平工作史上最大の謎とされ、今も真偽の論争
がある繆斌工作について、約400点の文献資料に
基づいて、インテリジェンスの手法オシント
(open-source intelligence)と、検事として培っ
てきた「情況証拠を総合する事実認定の手法」で、
繆斌工作の真実性を解明・論証した本です。
まずは、気になる人もいると思うので、
「謀略」「特務機関」ということばから確認してお
きましょう。
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謀略(旧日本軍)
間接あるいは直接に敵の戦争指導及び作戦行動の
遂行を妨害する目的を持って、公然の戦闘員でない
者、戦闘団隊に所属しないものを使用して行う破壊
行為、もしくは政治、思想、経済などに対する陰謀
ならびにこれらの指導、教唆に対する行為。謀略の
ための準備、計画および勤務を謀略勤務という。
『諜報宣伝勤務指針』には、宣伝と謀略は特に密接
な関係にあるので、両者は同一の目的に対して、相
互に連携して実施することが必要であること、
相互に補完して、その効果を増大すること必要があ
ること、よってこれらの計画および実施は最も緊密
な連携の下に遂行し、その進展を円滑にしなければ
ならないことなどが記されている。
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(『インテリジェンス用語事典』P366 より)
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特務機関(旧日本軍)
旧日本軍の特殊任務組織。諜報・宣撫工作・対反
乱作戦などを占領地域および作戦地域で行っていた
組織。1918年のシベリア出兵以降、現地におい
て情報収集および謀略工作などの特殊任務を担当す
る機関が次々と設置され、これら諜報機関について
「大本営もしくは野戦軍の配置するこれら機関を通
常特務機関と称す」とある。
特務機関の名称の発案者は、当時のオムスク機関
長であった高柳保太郎陸軍少将で、ロシア語の「ヴ
ォエンナヤ・ミーシャ(軍事任務)」の意訳とされ
る。陸軍史上に初めて特務機関なる名称が登場した
のは、シベリア出兵時のハルビン特務機関(機関長・
石坂善次郎)である。その後、満洲において同機関
を中心として数多くの特務機関が設置されたが。支
那事変以後、特務機関なる名称は使われなくなり、
それぞれの工作に応じて地名または機関長名、ある
いは秘匿名とされる名称が使われるようになった。
「土肥原機関」「梅機関」「F機関」など。
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(『インテリジェンス用語事典』P298 より)
この種のはなしは、
概念をよく精査することが重要で、
占領行政のはなしなのか?
謀略のはなしなのか?
特務機関の活動のはなしなのか?
インテリジェンスのはなしなのか?
外交裏ばなしなのか?
歴史裏ばなしなのか?
でまるっきり読むポイントが違ってきます。
本著は、シナ事変情報史というべき内容です。
その失敗の原因を探り、今に活かそうとの目的があ
ります。
この種の裏面史のはなしでは、
その工作の意味と効果と歴史的な位置づけ、正鵠を
射た事実と見識の蓄積による妥当な理解といった
「インテリジェンス・軍事・政治・文明資質」がないと、
どうしても「イズムに引っ張られた弱い論拠のウダ
ばなし」に陥りがちです。
さて本著はどうでしょうか?
<軍部・政府中央のインテリジェンスの絶望的お粗
末さを明らかにし、今日に通ずる反省・教訓を提示
する!>
との帯の一文を目にしたので、正直期待していませ
んでした、、、
とりあえずは中身を見てください。
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目次
第1章 和平工作の諸相
第1 船津工作から銭永銘工作まで
――客観的には実現の見込みは乏しかった
1 船津工作―川越大使の不適切対応と大山事件の
勃発で水泡に/2 トラウトマン工作―南京攻略で
驕った日本の和平条件の吊り上げが蒋介石の退路を
断った/3 宇垣工作―近衛は期待するも、蒋介石
の下野にこだわった宇垣の失策と外相辞任によりあ
っけなく崩壊/4 汪兆銘工作―汪兆銘の梯子を外
した南京政府の露骨な傀儡化が工作成功の芽を摘ん
でしまった/5 小野寺工作―影佐らの汪兆銘工作
に屈して実らず/6 蘭工作・桐工作―南京政府樹
立と承認を妨害する重慶側の謀略の疑い?/7 銭
永銘工作―松岡外相が張り切ったが、やはり影佐の
汪兆銘工作に負けてしまった
第2 戦争末期に試みられた中国との和平工作
――実現の可能性を秘めていた
1 何世てい(木編に貞)工作―近衛文麿の実弟水谷川忠麿が取り
組んだ/2 吉田東祐によるその後の工作/3 今
井武夫による工作―認識の甘さに衝撃、時すでに遅
かった/4 中山優・傅けい波、スチュワート工作/
5 安江仙弘陸軍大佐によるユダヤルート工作―ユ
ダヤ人を助けた安江大佐に重慶は注目した。石原莞
爾も支援
第3 欧州を舞台とする和平工作
――アメリカのソフト・ピース派のアレン・
ダレスらOSSが主導、アメリカの和平の意思を示
すが日本の為政者の無理解により実らず
1 バッゲ工作―重光外相が東郷外相に引き継がな
かった/2 小野寺工作―岡本公使の妨害と陸軍中
央の無理解により実らず/3 欧州での和平工作に
活躍したアレン・ダレスとOSS――繆斌工作の真
実性判断の上でも重要/4 海軍の藤村ルートによ
るダレス工作/5 バーゼルの国際決済銀行(BIS)
の吉村、陸軍の岡本、外交官加瀬らによるダレス工
作/6 バチカン工作
第2章 蒋介石論 蒋介石は日本との和平を求めて
いた
1 蒋介石は、日本を深く理解していた/2 反共
と国共合作のジレンマに悩み続けた蒋介石/3 カ
イロ宣言の甘言と、テヘラン、ヤルタでのスターリ
ン、ルーズベルト、チャーチルの裏切り/4 蒋介
石は中国を裏切るヤルタの密約を早くつかみ、苦し
んだ/5 蒋介石は、満州問題の特殊性をよく理解
していた/6 蒋介石は、日中戦争の「国際的解決
」を基本方針としつつ、日本との和平方策も捨てず
、それは状況に応じて変化していた(鹿錫俊教授に
よる蒋介石日記の分析)/7 蒋介石の「以徳報怨
」は、その一貫した対日姿勢の具体化だった/8
蒋介石の二面性――鉄の意志と冷酷さ/9 蒋介石
が選んだ「人」へのメッセージは一貫していた
第3章 アメリカに日本との和平の意思はあった
1 蒋介石には日本との単独和平のカードもあった/
2 鍵はアメリカの日本との和平意思の有無にある
第4章 繆斌工作は真実だった
第1 繆斌工作の概要
1 工作の発端から始動まで/2 工作の開始/
3 繆斌来日と東久邇宮、緒方竹虎らとの会談――
東久邇宮は繆斌を信じた/4 ほとんど「因縁」に
近い最高戦争指導会議での反対論/5 小磯や東久
邇宮らの最後の努力/6 天皇が工作中止の引導を
与えた/7 石原莞爾との対面/8 中国でのその
後
第2 繆斌工作にかかわった人々――心ある「国士」
たち
1 繆 斌/2 蒋君輝/3 戴 笠/4 田村眞
作/5 緒方竹虎/6 南部圭助/7 小磯國昭/
8 山縣初男/9 東久邇宮稔彦王/10 石原莞
爾/11 辻政信/12 近衛文麿/13 そのほか
第3 戦後の関係者の回想
1 否定的な回想/2 繆斌工作の真実性を信ず
る人たちの回想
第4 繆斌工作の真実性の検討
1 その鍵は、当時蒋介石に日本との和平の意思が
あったか否かにある/2 重光が固執した南京政府
は和平交渉の窓口にはなりえなかった/3 周仏海
日記などに見る南京政府の実情/4 蒋介石は、和
平工作を外交ルートに乗せることは絶対にできなか
った/5 繆斌は、蒋介石が和平の窓口とするのに
うってつけの人物だった/6 繆斌は真に和平を求
める以外に工作をする動機はなかった/7 繆斌の
戦局の推移や予測は極めて的確だった/8 繆斌ら
が考えた和平条件は極めて合理的なものだった/9
繆斌刑死の経緯と理由/10 蒋介石は「組織」
ではなく「人」を選んでいた/11 アメリカをど
うやって和平に引き込むか/12 日本政府や軍幹
部の客観情勢認識の恐るべき不足と甘さ/13 繆
斌工作否定論の「次元の低さ」
第5 安江工作と表裏一体だった繆斌工作
おわりに
すべてに通じる「ちぐはぐさ」、「組織の論理」、
「官僚的発想」/孫子の兵法を会得していた蒋介石、
悪しき成功体験で堕落した軍部、政治家、マスコ
ミ/お粗末極まりなかったインテリジェンス、外交
官と軍人の対立/外交官の中にも的確に情勢を把握
していた者がいた/なぜ、政府と軍部の「インテリ
ジェンス」がお粗末だったのか?/立場と視点の違
いによる人物評価の難しさ/日本人は日中和平に尽
くした汪兆銘や繆斌らを忘れるべきではない
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『日中和平工作秘史』
太田 茂(著)
出版年月日:2022/11/16
判型・ページ数:A5・412ページ
定価:本体2,700円+税
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いかがでしょうか?
一読しての感想は、
記述のバランスがとれていて、読んで面白い。
というものでした。
イズム的な偏狭さを全く感じなかったのがうれしか
ったです。
そしてもうひとつ、当時の大陸状況を考えるうえで
欠かすことのできない
「中共の動向と国民党の対中共意識・感覚」
に目が至ります。
もうひとつ気になったのが「安江工作」との関連です。
安江とは、安江仙弘陸軍大佐のこと。樋口季一郎陸
軍中将とともに、満洲においてユダヤ難民を国策に基
づき保護(1938年3月8日 オトポール事件)。
その功績でユダヤ世界最高の名誉とされる「ゴール
デン・ブック」に樋口とともに名を刻されています。
安江さんは、石原莞爾、樋口季一郎、飯村譲の三将
軍と同期だそうです。安江さんと彼らがツーカーだ
った事実は初めて知りました。非常に面白いです。
そんな安江(1940年に退役)がやっていたユダ
ヤルートの終戦工作と繆斌工作が同時に進んでいた
ようだ、と本著は示唆しています。
かなうならもっと知りたいところです。
著者の太田さんは元検事の弁護士さんです。
太田茂(おおた しげる)
1949年福岡県生まれ。京都大学法学部卒。現在
、虎ノ門総合法律事務所弁護士。 1977年大阪
地検検事に任官後、西日本、東京等各地の地検、法
務省官房人事課、刑事局勤務。その間、1986年
から3年間北京の日本大使館一等書記官。法務省秘
書課長、高知・大阪地・高検各次席検事、長野地検
検事正、最高検総務部長を経て、2011年8月京
都地検検事正を退官。早稲田大学法科大学院教授、
日本大学危機管理学部教授を8年間務めた。剣道錬
士七段。令和2年秋、瑞宝重光章。 著書:『ゼロ
戦特攻隊から刑事へ』『OSS(戦略情報局)の全
貌』『日中和平工作秘史』『新考・近衛文麿論』
(いずれも芙蓉書房出版)、『実践刑事証拠法』、
『応用刑事訴訟法』、『刑事法入門』(いずれも成
文堂)
太田さん最大の特徴は、
検事の職務を行う中で身につけた
「状況証拠による事実認定の手法」
です。
ご自身でもおっしゃってますが、歴史の専門家でも
インテリジェンスの専門家でも軍事の専門家でも太
田さんはありません。
そんななか、世紀の政治工作といわれる
繆斌工作
の真実をあぶりだそうとしたのです。
結論として太田さんは、
この工作があったのは真実であり、
わが国がこれを受け入れられなかったことは
痛恨の失敗であった、という趣旨の指摘をされて
います。
当時の賛成者や反対者の顔ぶれや主張も
丹念に紹介されており、非常に興味深いです。
とくに刺さった言葉を紹介します。
<それぞれが和平工作を求めながら、和平工作の路
線や権限について組織間で対立し、自分以外の和平
工作の足を引っ張り、妨害した>(P371)
<結束性の強い組織集団は、おのずと、自分の組織
への忠誠心は極めて高い一方で、対立する別組織と
の間での権限や主導権争いが激しくなる。和平工作
で他の組織やルートによるものをことごとく排斥し
ようとしたのはその表れだろう>(P372)
<日清・日露戦争の勝利が悪しき成功体験となり、
阿南惟幾が語ったように、士官学校や陸軍大学校は、
成績主義のエリート集団になってしまった。>
(P373)
<日本を誤らせたのは、軍人たちだけではない。政
治家や議会の堕落、強権を煽ったマスコミ、中国を
見下してあくなき儲けを求める経済界にも極めて大
きな責任があった。ポーツマス条約反対の日比谷公
園焼き討ち事件に始まり、盧溝橋事件や南京占領の
ときのお祭り騒ぎなど、ポピュリズムに染まったマ
スコミは、日本を誤った方向に押しやった。>(P373)
<確かに外交の一元化は、国家の基本である。しか
し、それに至る過程において、様々な外交ルート以
外の情報収集や非公式打診、折衝について外交官以
外のルートをバックチャンネルとして適切に活用す
るという柔軟さや懐の深さというものが当時の多く
の外交官に欠けていたと思えてならない。>(P374)
本書には、繆斌工作にいたる各時代の大陸でわが国
が展開した各種工作が整理、紹介されており、支那
における情報史の一面もあって、情報ファンとして
うれしいですね。
ひとつ感じるのは、
もし繆斌工作が成功して大東亜戦争が早期終結でき
たとしたら、大陸では、中共にとって極めて不利な
状況が生まれたことは間違いなかろう、ということ
です。
死に物狂いで繆斌工作に反対した人たちは、
一体何のために、誰のためにそういう行動をとった
のでしょう?
その点は、非常に気になりますね。
そういう意味から、幾度も繰り返し読みたくなる
中毒性を持ったエンタメの一面も持つ本です。
インテリジェンスは裏の戦争、平時の戦争を担いま
す。永遠に戦い続ける宿命です。
そんな彼らが活躍した「戦争の裏面史」の全貌を
描き出す試み。
本著のチャレンジはこれからも続くことでしょう。
きょうご紹介したのは、
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でした。
エンリケ
追伸
裏面史、裏話というのは
魅力的で面白いですよね。
また改めて感じたのは
「軍は反省し改めたが、政治・官僚・エリート層は
反省も改めもしていない」
ということです。
『日中和平工作秘史』
太田 茂(著)
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