配信日時 2024/04/10 09:00

【陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(56)】 自衛隊砲兵史(2) 荒木 肇

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おはようございます、エンリケです。

「陸軍砲兵史」
の第56回目。

まさに、現代日本の軍隊史です。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(56)

自衛隊砲兵史(2)


荒木 肇

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□新たな「軍隊」への眼差し

 予備隊への応募者は日を追うごとに増えました。
採用試験も順調で、身体検査と面接のみで学科試験
はなかったと体験者の話が残っています。応募者の
総数は38万2000人、採用予定は7万5000
人、そうして最終入隊者は7万4768人というわ
けで、合格率は約20%でした。
 
 もっとも志願者の中には、当時の共産党幹部や反
政府団体の指令によって潜入しようとした工作員も
多かったので、国家警察本部も慎重に調査をしたよ
うです。このあたりが戦後史を語る時の難しさで、
武力革命を考えていた人たちは確かにいたし、マス
コミ界や学界の主流でもありました。そういう勢力
にとっては警察力など敵そのものですから公然と批
判し、さまざまな妨害も行なったのです。

 その流れを引く人も、いまだにマスコミや学界、
労働組合や教員界にもおります。そのために、大き
な声であの時代の事実を語れなくなっています。


▼公職追放

 しかも、当時は「公職追放」がありました。簡単
にいえば、戦前、戦中に軍国主義を推進したとされ
た人たちは公共的職務には就けなかったのです。こ
の政策はGHQが行なったものですが、敗者から懲
罰として職を奪うということはわが国の伝統にはあ
りませんでした。どうやらそれは、南北戦争の経験
が大きかったと百瀬孝氏は言われています。南北戦
争では多くの追放が敗者の南部では行なわれたそう
です。公職追放はアメリカの文化的所産でもあった
といわれます。

 特別高等警察罷免・教職追放・公職追放・地方公
職就任禁止・財閥役員追放・労働パージ・レッドパ
ージなどが行なわれました。主に思想犯を捜査対象
とした特別高等警察官は約6000人が一斉に罷免
され、司法・警察関係への再就職も禁止されます。
教職追放は「教職不適格者」と認定されると罷免さ
れ2度と教職に就けなくなりました。追放決定者は
3338人、これに2717人が加わり、他の事情
もあり合計で約11万6000人が教育界を去りま
した。

 公職追放は範囲が広いものでした。「好ましくな
い人物」とされると、勅任官、特殊会社役員を公職
とし、中央官庁・地方機関・府県庁・政府関係会社
協会などを政府機関としてそこから永久に追放する
とします。さらに追放該当者としてリストがありま
した。

 その中には「現役陸海軍将校又は特別志願予備将
校軍人」が含まれています。この特別志願予備将校
というのは、元々予備役将校だった方が服役中に人
事上で現役扱いを受けるために志願した人たちでし
た。軍隊には「現役将校限定の補職」があり、進級
などでも予備役のままであると不利だったので敢え
て現役扱いを受けられるよう志願し、教育を受けた
人たちです。

 そのために、新しく入隊を志願した人たちの中に
は現役将校はおりませんでした。むしろ積極的に排
除したというのが事実です。だから、旧軍の在籍者
でも現役下士官はおりましたが、尉官級では幹部候
補生出身者しかいませんでした。

▼初期の混乱

 予備隊の編制や訓練はアメリカ式でした。警備局
警備課長だった後藤田正晴氏は米軍から渡された歩
兵師団の編成表を見た驚きを語っています。違って
いたのは米軍なら戦車連隊だったのが大隊だったく
らいで、後は米軍野戦師団そのものだったそうです。
中でもフローズン・カンパニー、直訳すれば冷凍中
隊があった、戦死者の死体を冷凍保存する中隊だっ
たそうで、それはさすがにおかしいだろうと返上し
たといいます。

 第5代の陸上幕僚長を務めた大森寛という方がい
ました。1907(明治40)年に生まれ、193
0(昭和5)年に東京帝大法学部卒、内務省に入り、
戦時中は海軍司政官、敗戦時には千葉県警察部長で
した。全国の警察部長や特高の追放で、警察を出さ
れてしまいます。弁護士を開業しますが、予備隊発
足にあたり復帰しました。


 総隊総監林敬三氏と第1管区総監は大学の1期上、
2管区総監は同期、4管区総監は2年先輩で、大森
さんは警察監補(現在の陸将補)に任じられ3区総
監を命じられます。このように、初期の予備隊高級
幹部には軍人はいっさいおりませんでした。主に内
務省系統の警察官ばかり、しかも現場とは関係がな
い官僚たちばかりだったのです。

▼予備隊の編制

 総隊総監部の下に全国に4個管区隊、各管区隊は
3個連隊が基幹となっています。第1管区隊は東京
都越中島駐屯地が総監部で、第1連隊が神奈川県久
里浜、同2連隊は長野県松本、同3連隊は新潟県高
田に駐屯しました。第2管区隊は札幌市真駒内に総
監部、第4連隊が遠軽町、同5連隊は石川県金沢市、
同6連隊が栃木県宇都宮市に展開。第3管区隊は総
監部が京都府宇治市、第7連隊は京都府舞鶴市、同
8連隊が広島県広島市海田市、同9連隊は香川県善
通寺市におかれました。第4管区隊は総監部が福岡
市、第10連隊は福岡市に、同11連隊は山口県小
月市、同12連隊は鹿児島県鹿屋市に駐屯します。

 当時、1個連隊は3個大隊、1個大隊は4個中隊、
合計で12個中隊と第13中隊が重迫撃砲中隊、第
14中隊は戦車中隊(当時は特車)でした(195
0年12月、「予備隊に編成に関する規定」)。火
砲を装備する特科連隊は規定では各管区隊に1個連
隊となりました。


 準備は着々となされます。1951(昭和26)
年3月には追放が解除された陸士58期生や同期相
当の若手将校たちが入隊します。同8月には佐官ク
ラスが加わりました。11月には千葉県習志野市に
特科学校が生まれます。第1管区隊には第61連隊、
同2管区隊には第62連隊、同3管区隊には第63
連隊、同4管区隊には第64連隊が置かれました。

▼予備隊の階級

 警察官らしい階級名に特徴がありました。まず現
在の陸士は、2等警査(巡査の査)、1等警査、警
査長、陸曹は3等警察士補、2等同、1等同でした。
准士官にあたる准尉はありません。幹部が2等警察
士(後の2尉)、1等警察士(1尉)、警察士長
(3佐)、2等警察正(2佐)、1等警察正(1佐)
です。3尉相当の階級はありませんでした。将官相
当は警察監補(陸将補)と警察監(陸将)です。

 軍隊ではないということから旧軍の兵科名は使え
ません。しかし、工兵・エンジニアは「施設」とし、
輜重は「輸送」となり、通信や衛生などと戦闘支援
職種や後方支援職種は変えやすかったのです。問題
は、歩兵・騎兵・戦車兵・砲兵といった戦闘兵科で
した。絶対に軍隊であってはなりません。行軍だっ
て、行進と変えたくらいです。言い換えが難しかっ
たのでしょう、歩兵は「普通科」、砲兵は「特科」
とし、戦車は特車と言い換えました。

 お気づきになった方もおられましょうが、現在は
第1普通科連隊といいます。ナンバーの次に職種を
つけています。それが発足時にはただの第1連隊、
それが普通科第1連隊となり、現在は第1普通科連
隊となっているのです。英訳名はどれも、「ザ・フ
ァースト・インファントリー・レジメント」なので
すが。

 次回は、保安隊への変更と陸上自衛隊の発足をお
話します。


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴

荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。

著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか─安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!─昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。


『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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