配信日時 2024/03/20 09:00

【陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(53)】 軍馬のお話 荒木 肇

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おはようございます、エンリケです。

「陸軍砲兵史」
の第53回目です。

馬と軍隊をめぐる話は
やはり面白いですね

さっそくどうぞ。


エンリケ


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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(53)

軍馬のお話


荒木 肇

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□季節のご挨拶

 一気に春めいて参りました。わが家の近所のお宅
の白木蓮が満開で、そろそろ花が散りそうです。い
つも道に落ちてしまい、おうちの方がよく掃いてお
られます。菜の花も開いて、チューリップの芽も出
てきました。

 それにしても明るい話題は北陸新幹線、しかし、
その裏にはいまだに避難所生活の方々もたくさんお
られます。陸上自衛官の友人は野外用のお風呂の支
援に行き、まだまだ帰れないと語っていました。被
災された方々に心より、お見舞いを申し上げます。


▼機械化砲兵始まる

 前車と砲車を合わせて2トン未満、これが軽快な
機動力を要求された野砲の重量でした。野砲は6頭
の馬に牽かれて生地を走らねばなりません。その馬
が、わが国では難物です。軍馬は必要なだけ徴発す
ればよいと思いますが、訓練された軍馬は稀少性が
ありました。平時保管馬という日常の訓練に使う馬
は、戦時動員でやってくる馬と違います。幼いころ
から軍隊で訓練され、重い輓曳具や駄載具をつけて
歩く訓練をしていました。

 銃声や砲声を聞いても驚かず、我慢強く、担当の
兵にもよく懐いたそうです。ところが、多くの民間
馬はそうはいきません。記録を見ると、大人しく整
列ができない、将校が抜刀すると、その白刃の輝き
に驚いてしまうといった実態が書かれています。何
が原因か分からないが走りだして、兵隊を傷つけて
しまったという例も珍しくありません。

 火砲が重くなると、もう馬ではだめだという声も
あがり、欧米と同じように自動車牽引をしようとい
う研究が始まります。14年式10糎加農が始まり
です。それまでの38式10糎加農の更新用に、1
923(大正12)年に竣工した野戦重砲でした。
放列砲車重量が3115キログラムですから、とて
も馬6頭では動かせません。

▼自動車牽引10糎加農
 
 この砲は開脚式です。移動するときは脚を閉じて
1本にして牽引車に付けました。その開脚の特許が
大正14年まで有効だったので14年式となったの
です。そのとき、反対意見が出ました。自動車、し
かも装軌の牽引車なんて金がかかるだろうというも
のでした。それはもっともです。ろくに国産自動車
も走っていない国ですから車輌の値段もともかく、
保守・点検・維持にも金がかかって当然でした。そ
こで経理部将校が登場です。1個重砲兵聯隊の馬の
数を出しました。4頭ずつが2組で1門の火砲を牽
きます。聯隊全部で36門あるので288頭、砲1
門に2台の弾薬車がつくので各6頭ずつで216頭、
予備品車やその他で輓馬が300頭に駄馬が120
頭、予備馬は考えずに合計で900頭あまりです。
実際はこれに乗馬がありますから、聯隊の飼育する
馬はもっと多い。年間で1000頭の馬が生きる・
・・となると、食費と管理費と蹄鉄費などで1頭あ
たりざっと200円だったそうです。20万円でし
た。

 トラクターもなかなかの値段で、アメリカ製ホル
ト社のそれが1台3000円したとか。でも馬も1
頭で育成馬なら100~150円したそうなので1
000頭で10万円から15万円ほどです。ホルト
のトラクターなら予備も入れて40台で12万円。
その他、なんだかんだで20万円でお釣りが来る。
馬ほど食べないし(燃料費は安い)、病気にもかか
らない、何より調教の手間がかからない。なんだ、
けっこう経済的じゃないかということになりました。

▼馬の世話は大変だった

 手元にある陸軍経理学校の書類によると給水規定
がありました。1日単位です。人は炊事用と湯茶で
25リットル、洗濯や雑用で15リットル、入浴に
20リットル、合計60リットルでした。馬は飲用
として44リットル、雑用に12リットルの合計5
6リットル。これが熱地(暑いところ)に行くと、
馬は飲料として50リットル、洗浄用で54リット
ルになりました。汗をかいたままでは馬は病気にな
ります。水浴びが必要なのです。

 馬糧も大変でした。輓馬・駄馬には燕麦と大麦を
5250グラム、圧搾馬糧5300グラム、干草4
000グラム、藁3500グラムです。合計で18
キロ50グラムになります。圧搾馬糧というのは糧
秣廠から交付された、内地の製造所から送られてく
るものです。もちろん輸送が不調である、あるいは
入手できないときは「換給」といって、別の物で代
用しても良い・・・とありますが、これにも限度が
あって混ぜても良い割合が決まっています。


 馬が病気だなどと届けると獣医部将校から取り扱
いについて厳しく指導されたそうです。とりわけ代
用にした馬糧の種類と量についてうるさかったと言
います。輸送中の支給もうるさく言われます。貨車
などで鉄道輸送されるとき、燕麦か大麦を2630
グラム食べさせますが、これを圧搾馬糧2630グ
ラムにして良い。切り藁を800グラム、干し草を
6000グラム、そうして食塩を40グラム与えま
した。飲料水は20~30リットルです。

次回は96式15糎榴弾砲について詳しく述べまし
ょう。


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴

荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。

著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか─安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!─昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。


『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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