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おはようございます、エンリケです。
「陸軍砲兵史」
の第52回目です。
きょうもおもしろい歴史ばなしです。
「1936年の危機」
というキーワードも出てきます。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(52)
96式15糎榴弾砲
荒木 肇
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▼陸軍最後の野戦重砲
96式15糎榴弾砲は陸軍最後の野戦重砲です。1
926(大正15)年1月から欧州大戦の研究を通
して、技術会議では単一砲車自動車牽引式の15糎
榴弾砲の研究が始まります。すでに欧州各国ではト
ラクターによる牽引がされる最大射程1万メートル
を超える新型榴弾砲が開発されていました。
試製砲は年内に出来あがりましたが、重量が4トン
にもなってしまい、四駢(よんべん)繋駕、8頭の
馬でも曳けないことが分かります。そこで、自動車
牽引専用火砲として開発することになりました。
いったんは研究も頓挫しましたが、1933(昭和
8)年末に設計を始め、1935年9月には試製砲
が完成します。各種の改修が行なわれ、翌年には野
戦砲兵学校で実用試験に臨み、実用の価値ありと判
定され、冬季の北満(洲)試験でも問題は起きませ
んでした。この後は部隊編成実用試験を終えて、3
8年5月に仮制式化されました。
よく制式名称、年号についてお尋ねがあります。明
治時代は「三十八年式」とか、「二十六年式」など
の明治年号がつくのが普通です。それが大正時代に
なっても「十四年式」や「十一年式」となりますが、
昭和になると日本紀元が使われるようになりました。
分かりやすいのは西暦に660年を足せばよいので
す。だから1940(昭和15)年は紀元2600
年でした。大正15年と昭和元年は同じです。西暦
1926年つまり紀元2586年となります。「8
9式中戦車」は2589年、つまり1929(昭和
4)年に制式化されたわけです。
「96式」というのは1936(昭和11)年に制
定とされました。この頃は、なかなか新型兵器が多
く生まれています。陸軍では96式軽機関銃、海軍
でも96式艦上戦闘機などが有名です。ただし陸海
軍の違いが一つあります。昭和15年は先ほども書
いた紀元2600年ですが、その年に制式とした兵
器を陸軍は「百式」としました。ところが海軍は
「零式」です。その後も「一式」、「二式」は陸海
軍ともにつかったので、これだけが珍しい例かも知
れません。
ただし、複雑なのは、試製ができたとき、それを予
算化できたとき、検査に通ったとき、制式化の認定
が取れたとき・・・などなどが、制式名の年式の候
補になります。だから、必ずしも我々が思う、年号
が付くとは限りません。現にこの「96式」は19
38(紀元2598)年に仮制式になっています。
▼1936年の危機
こうした言葉がありました。「1936年の危機」
といいます。当時の雑誌や軍事関係の記事にはよく
見られるフレーズです。どこが危機かというと、1
934(昭和9)年にワシントン軍縮会議の廃棄を
日本帝国政府は各国に通告しています。ワシントン
およびロンドン条約は36年末で効力を失うのです。
そうなると、列国は軍備拡張競争に走るのではない
か。際限もない軍拡が始まるのでないかという恐れ
があります。もう一つはヨーロッパで、ヒトラーや
ムッソリーニといったヴェルサイユ体制破棄を主張
する勢力が力をつけてきたのです。
こんなときに1933(昭和8)年10月に、参謀
本部作戦課長に有名な石原莞爾歩兵大佐が就きます。
大佐は1931年の満洲事変の立役者です。石原大
佐は実は参謀本部の勤務が初めてでした。ふつう、
陸軍大学校の成績優秀者は若い大尉クラスの頃から
勤務将校として、陸軍省や参謀本部、教育総監部な
どの中央官衙で経験を積みました。
途中で留学したり、腰掛の短い部隊勤務などをした
りしますが、課員をし、班長を務め、それから課長
になるというのがふつうです。それがいきなり花形
の作戦課長ですから周囲も本人も驚いたことでしょ
う。
彼は中央に入って、初めて陸軍の実態を知って、そ
の装備のお粗末さに危機感をもちました。軍備充実
こそが喫緊の課題だということです。ソ連の極東兵
力に対して、せめて8割になるような在満洲兵力を
持たねばと思ったと回想録には書いています。航空
兵力を増強し、満洲国の育成強化、大陸への兵力の
増強を構想しました。
1936(昭和11)年2月のことです。陸軍の装
備を改善し、その数も増やそうという予算を内閣に
提出しようとした時でした。そこに起きたのが、2
・26事件です。帝都を反乱軍が占拠した大騒動で
した。
石原大佐は極東ソ連軍の脅威について語り、海軍と
話し合います。ところが、海軍は無条約時代に入り、
艦艇をそろえ、大規模な拡張に入ろうとしていまし
た。しかも、海軍はまるで満洲などに興味はありま
せん。海軍は伝統的に「北守南進」でした。戦う相
手としてソ連海軍など考えたこともないのです。ア
ジアに大きな勢力をもつ英米海軍ならともかく、海
軍国としては2流、いや3流のソ連など相手にはな
らないと思っていました。
結局、陸海の話し合いは、「南北併進」、予算は陸
海平等に分けるということになりました。
▼「本格的軍備充実」
陸軍首脳は1937(昭和12)年から軍備拡充
に入ることを決めました。具体的には1942(昭
和17)年までに戦時兵力を41個師団、飛行14
2個中隊を揃えるというのです。満洲には10個師
団、内地と朝鮮に17個師団を置く。1939(昭
和14)年4月には、現制師団から歩兵1個聯隊、
野砲兵3個中隊を抽出し、師団を3単位制にする計
画です。
師団が増えれば、それに関わる部隊、機関、人を育
てる施設や学校も増やさねばなりません。野砲兵も
増やし、軍が編成されたときには、それに応じる重
砲部隊も必要です。それやこれやで大騒ぎになりま
した。
そうしたときに、盧溝橋で事件が起きます。193
7年7月7日、支那軍との衝突があり、小競り合い
から両軍の衝突が起きてしまうのです。次回は96
式15糎榴弾砲の初陣から話を始めます。
(つづく)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか─安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!─昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
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