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【本の紹介】『武装商船「報国丸」の生涯─知られざる沈没の謎─』 森永孝昭(佐世保重工業ドックマスター)
建造から就航、徴用、作戦、謎の沈没まで、ドック
マスターとして船の世界を知り尽くした著者が10年
の歳月をかけて描き出した、知られざる軍艦「報国
丸」の生涯。そんな報国丸の全容に迫る本著は史料
的価値ある本格書。船舶艦船ファンなら必携の一冊
です。
『武装商船「報国丸」の生涯─知られざる沈没の謎
─』
森永孝昭(佐世保重工業ドックマスター)
判型:A5判360ページ
定価:2700円+税
発行日:2023.3
定価:¥2970
発行:並木書房
https://amzn.to/3nBBCcr
こんにちは、エンリケです。
< 報国丸を本格的に書き出したのは定年退職後で
あったが、物書きが生業ではない船乗りで造船所勤
務の筆者は、脱稿までに十年の歳月を要した。数少
ない記録や書籍の実物を、歩いてあるいはネットで
探し当てて入手し、内容を精査分析する作業を延々
と続ける必要があったからだ。
そんななかで、職業が幸いというか期せずして船
と戦争を結びつけることができた。それは今では見
られない昔の建造、進水、試運転の方法も詳細に書
けたし、航海を含め海戦に欠かせない距離、速度、
方位、視界、それに時刻を正確に、随所の実状にそ
って整合することができた。……今ここで語ってお
かなければ、真実は永遠に歴史の中に消え去るであ
ろうとの思いで執筆した次第である。(著者の言葉)>
著者の森永孝昭(もりなが・たかあき)さんはドッ
クマスター。覚えてらっしゃる方も多いでしょうが、
森永さんには、昨年2月から3月にかけて「水雷艇
「友鶴」転覆事件―その遭難から入渠まで―」とい
う短期連載を弊メルマガに連載いただいたことがあ
ります。
森永孝昭(もりなが・たかあき)
1949年長崎県佐世保市生まれ。1972年長崎大学水産
学部卒業後、神戸・広海汽船入社、航海士として14
隻の外国航路船で勤務。1982年甲種船長免状(現:
1級海技士)取得。1983年佐世保重工業株式会社入
社、ドックマスターとして勤務、2009年定年。常勤
嘱託を経て2020年非常勤嘱託ドックマスターとなり
現在に至る。その間、大型貨物船はじめVLCCタンカ
ー等の新造船244隻の試運転船船長を務める。また貨
物船、タンカー、自衛艦、米艦、客船、フェリー、
特殊船等の離接岸、入出渠時の操船実績は延べ6467
隻となる。現在、一般財団法人日本船渠長協会会員。
過去の外部委嘱等は西部海難防止協会専門委員、佐
世保水先人会監事。
「ドックマスター」は、ひとことでいえば造船所直
属の船長さんです。
新造船や修理した船を実際に動かすときに舵を取る、
航海経験豊富で卓越した技術を持ち、船の全てに精
通したベテラン中のベテラン船長です。
海自新造艦の公試も行います。
ドックマスターは、
豊富な航海経験が求められるので、造船所での勤務
経験の積み重ねだけでは就けない職種だそうです。
プロ中のプロの船乗りと言って差し支えありません。
ドックマスター・森永さんがこんかい取り上げたの
が「改造軍艦「報国丸」」です。報国丸をひとこと
でいえば、元商船で、重武装の軍艦に改造され軍務
に就いたフネです。
この種のフネに対しては、にわか軍艦と軽く見る向
きもありましょう。しかし報国丸が改造軍艦として
「通商破壊戦」で活躍した事実は極めて重要です。
正規の軍艦でもなし得なかった臨検1、拿捕2、撃
沈3という輝かしい戦果を挙げていることを知る人
はほとんどいません。
本著を通じて「大東亜戦争でわが国が展開した通商
破壊戦」を理解把握し顧みるよすがにして欲しいと
強く思います。
では本著に寄せる著者の思いをどうぞ。
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はじめに
先の大戦では、想像を絶する膨大な商船が戦没し、
大勢の船員、兵士、便乗者が犠牲となった。
しかし、戦没船の大多数は、昭和一八年から終戦
の二〇年八月までのもので、特に敵の兵器と物量が
飛躍的に向上した昭和一九年からは、潜水艦による
雷撃、飛行機による空爆も一方的で、目を覆いたく
なる商船犠牲が続出するのである。
これに反して昭和一七年までは、南方航路も比較
的安定していたし、作戦従事船以外の犠牲は少なか
ったのだ。それは昭和一七年一二月までに戦没した
商船が、全体の一割であることが証明している。
このような戦争前期に「報国丸」は、姉妹船「愛
国丸」とともに太平洋、インド洋へと進出、大活躍
をするのである。
ところが、この優勢な時期、制海権を有していた
ともいえるインド洋で、「報国丸」は戦没したので
ある。それは、どの本でも「不運にも敵弾が命中、
搭載魚雷が誘爆し沈没した」という表現で最期を語
っている。
さらに「報国丸」の悲劇は、徴用輸送船と同様、
あたかも非力な商船として一律に取り扱われ、次々
と出てくる甚大な喪失船舶の中に埋没してしまった
ことである。
そして、軍艦の海戦史と違い、誰にも知られず触
れられず一顧だにされずに現在まできたのである。
しかし、考えれば、この戦没は不自然で到底納得
できるものではないのだ。
なぜなら歴史が示す通り第二次世界大戦は、総力
と物量の戦いであって、その圧倒的戦力差によって、
日本が敗戦国となったのは周知のとおりである。し
たがってこの原則から見れば「報国丸」が出会った
相手はあまりにも”ひ弱”で、その歴然たる武力の
差から、沈むべきは敵艦船であったのは間違いない
からだ。
この不可解さに、筆者は長年こだわって、真実を
追求していったのである。
しかし、この遭遇戦に関する書物は極端に少なく、
しかも大雑把なうえ誤謬も多く、また虚実が混在し、
たいへんな苦労と時間を要した。しかし内外の資料
を拾い集めつなぎ合わせていくうちに、ついに真相
に迫ることができた。そこには明らかに隠された部
分があったのである。
そして、これは小説でもフィクションでもない”
実録の再現”となった。
「報国丸」の全貌は、その時代背景を抜きにして語
ることはできず、建造から就航、徴用、活躍、沈没
までを世界の動向と戦争の進展にからめながら経過
をたどっていった。
戦後生まれといわれた世代も、戦争体験者の声を
幾度となく聞いたにもかかわらず、気にもかけず何
もせず、いつの間にか高齢となりそれらを忘れ去ろ
うとしている。
今ここで語っておかなければ、真実は永遠に歴史
の中に消え去るであろうとの思いで執筆した次第で
ある。
二〇二三年二月
森永孝昭
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一般向け本格史書として報国丸を取り上げた書はお
そらく本著を嚆矢とします。
ドックマスターならではの史料的価値ある内容が実
に嬉しいですね。
この本ならば、生涯本棚に座すこと間違いありませ
ん。
それほど他に類を見ない質と価値を持ちます。
個人的に私は、なぜ帝国海軍はインド洋における海
上優勢維持を図らなかったのか?
の理由を知りたいと常々思っています。その補助線
の一つが「通商破壊戦」ですが、わが通商破壊戦に
参加したフネを描いた本著の内容は想像を遥かに超
える面白さでした。
最大の魅力は、建造~日々の運用まで船舶のすべて
に精通したドックマスターにしか描けない、船舶に
まつわる種々の視座からの具体的知識です。圧倒的。
他の追随を許しません。こんな本、見たことありま
せん。
たとえば「進水式でフネを海に滑り出させるために
はどういう仕掛けがあってどう機能しているか?の
詳細な実際の解説」「排水量だけがフネを計る物差
しではない」「船舶の馬力と燃費と速力の関係を把
握するための式」など、ここで初めて知る「船舶に
かかわる知識」は、びっくりするほど多くあります。
妥協なく、徹底的にといって差し支えないくらいプ
ロならではの船舶知識が詰まっています。こういう
ものに初めて接したせいか、面白すぎてたまりませ
ん。
船舶ファン、艦船ファン、海洋ファン、海軍ファン
は必読、という理由はここにあります。フネにかか
わる仕事をしている人にも必読と言って過言ではあ
りません。
こういう本が出ることは本当に嬉しいことです。
A5版359ページと、どちらかといえば大きめの本
ですが、読みながら受験生時代に先輩から教えても
らった言葉を思い出していました。
「参考書は分厚いほうがいいぞ。それだけ言葉を費
やして幅広くわかりやすく書かれているから理解し
やすい。ストレスが少ない。薄いやつは言葉が圧縮
されて意味を取り違えたり理解把握するのに時間が
かかってストレスがたまる。けっきょく分厚いほう
が早く読めて何回も読めていい。他の本を買う必要
もないから結局安上がりだ」
今回の読書もまさにこの言葉通りでした。あっとい
う間に読了。すごくスイスイ入ってきました。読み
やすく編集したであろう編集者さんの力も非常に大
きいのでしょう。
船舶事典の側面もあるので、座右の書として置いて
おき、フネにかかわるわからないことが出てきたと
きは紐解いて確認できます。
たとえばこんな学びがありました。
・報国丸のカーゴ・ウインチの能力は5トンでした。
小さすぎると思いませんか?でもOKなんです。その
理由も書いてあります。
・「海哩、海里」ということばの意味、背景を知り
たいと思ったことないですか? もしそうなら、こ
の本を読むと解決します。
いかがでしょう?
ぜひこの本でご確認ください。
『武装商船「報国丸」の生涯─知られざる沈没の謎
─』
森永孝昭(佐世保重工業ドックマスター)
判型:A5判360ページ
定価:2700円+税
発行日:2023.3
定価:¥2970
発行:並木書房
https://amzn.to/3nBBCcr
では、この知られざる軍艦史の内容を見ていきまし
ょう。
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目 次
はじめに 1
〈商船編〉11
第一章 建 造 12
建造助成施設 12
東京オリンピック1940/海軍の構想
船台建造 17
建造組立/船の大きさ
進 水 24
進水準備/進水浮上
艤装工事 34
海軍の要求/居住区/機関室
海上試運転 44
播磨灘/マイル:海里
第二章 就 航 53
処女航海 53
大連:満洲への入口
アフリカ航路 59
アジア寄港地/アフリカ訪問/南米到着
西回り帰国 76
パナマ運河/太平洋
海軍指定 83
大連航路/英国の不思議な抗議
海軍徴用 88
改修工事
〈軍艦編〉93
第三章 武装商船 94
商船改造 94
兵装/貨物倉/居住区
特設巡洋艦 99
特設艦船
艦長赴任 103
藍原有孝大佐/海上確認運転/ゾルゲ事件
艦隊編入 112
第二四戦隊/戦隊司令部
世界の動き 120
米国世論と日本世相/日米の軍艦増強
第四章 南太平洋作戦 125
針路南東 125
出港/女装訓練/ヤルート島
対米開戦 136
赤道通過/開戦
ビンセント号 145
索敵/発見/攻撃/収容
マラマ号 155
昭和一七年元旦/偶然の発見/水偵の攻撃/終焉
日本帰投 167
作戦完了/臨検キム号/捕虜下船/帰投報告
第五章 呉軍港 177
作戦の推移 177
戦争拡大/次期作戦
第八潜水戦隊 180
割れる作戦構想/大海指第六〇号と回航班/甲標
的:特型格納筒
武装強化 191
砲の交換/迷彩塗装/魚雷格納庫と新型偵察機/
海上訓練/甲先遣支隊
第六章 インド洋作戦 201
作戦始動 201
呉出撃/ペナン島基地/躍進のインド洋
ヘノタ号 209
追跡/拿捕/ペナン回航
ディエゴスワレス港 220
潜水艦による索敵/発進と攻撃/攻撃隊員の謎
エリシア号 230
通商破壊戦開始/商船発見
洋上会合 238
洋上補給/イ30潜水艦の任務/ココス島
ハウラキ号 246
戦利品/臨検/難航海
第七章 陸軍緊急輸送 257
シンガポール 257
セレター軍港/武装増強/偽装煙突
艦長交代 268
新艦長赴任/引継ぎ/入渠工事
ガダルカナル島の危機 275
飛行場建設/米軍上陸/緊急任務
第三八師団 285
陸軍部隊乗船/ラバウルへ
第八章 絶好の戦機 293
出撃、インド洋 293
出撃準備と協議/二度目のインド洋/運命の二隻
オンディナ号 300
会敵/砲撃開始/降伏船/発砲、被弾
愛国丸の復讐 317
敵船追撃/報国丸乗員救助
第九章 検証と考察 323
砲戦の疑問 323
日本と外国の記述/ベンガルの報告とオンディナ
号の主張/ベンガルとの圧倒的戦力差/オンディ
ナ号の発砲距離
異常接近の謎 333
異常接近の根拠/愛国丸を戦犯起訴しなかった理
由
被弾箇所 338
箇所の特定/謎の一弾
終章 事後顛末 344
その後 344
各艦船と報国丸乗員/拿捕船その後/乗員捕虜の
行方
総 括 350
参考文献 353
おわりに 357
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いかがでしょうか?
読みながら思ったのは、フネが動くさま・航海風景
の詳細な描写です。ドックマスターならではの視線
ですね。
<船は、造船所の岸壁を離れ港外に船首が向いた所
で、船尾のスクリューがかき出した白い渦が湧き上
がったと同時に汽笛を鳴らした。(中略)玉造船所
から神戸港までは、小豆島の南を通過し播磨灘を明
石海峡に向け航走することになる。
明石海峡は狭く幅はわずか二マイルしかなく、大
型船にとってはその中央部分が航行可能水域である。
(後略)>
また、第八章、第九章、終章はぜひ読んでいただき
たいです。「宋襄の仁」が現実になった重さを通じ、
対外戦争では、敵を徹底的に殲滅すべく図り、手を
打たないと自らに災いが及ぶ、という身も蓋もない
現実を知らせてくれます。ほんとうによくわきまえ
たほうがいいです。
船のプロが描き出した知られざる船舶の生涯。
船への愛と、海への敬意と、船乗りへの共感に溢れ
た他では得難い史料的価値も高い本著を、
心からオススメします。
『武装商船「報国丸」の生涯─知られざる沈没の謎─』
森永孝昭(佐世保重工業ドックマスター)
判型:A5判360ページ
定価:2700円+税
発行日:2023.3
定価:¥2970
発行:並木書房
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ありがとうございました。
エンリケ
追伸
船の世界を知り尽くしたドックマスターだから描け
出せた、知られざる改造軍艦「報国丸」の生涯。
史料的価値ある本格書です。
船舶艦船ファンなら必携の一冊です。
愛国丸とともに、遠く離れたインド・太平洋で、正
規の軍艦でもなしえなかった臨検1、拿捕2、撃沈
3という輝かしい戦果を次々に挙げたにもかかわら
ず最後まで表舞台に立てなかった報国丸の生涯を、
ともに本著で味わいましょう。
『武装商船「報国丸」の生涯─知られざる沈没の謎─』
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哲學ツーリズム 光を観る旅
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三井・三菱財閥をわずか一代で超えた男の経営學
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