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こんばんは、エンリケです。
87回目の配信は、
第4編「『強靭な国家』をつくる」の
24回目です。
<「ハード・パワー」のそれぞれの要素は、相互に
関連し合っていることから、それぞれの専門家(達)
の“狭い了見”をもってしては抜本的な解決策を導
くまでには至らず、そればかりか、“ある分野の最
適解が他の分野に悪影響を及ぼしている”ような現
象もかなりあることを認識する必要があるのです。>
とのご指摘は誠にそのとおりであり、
「スペシャリストは意思決定者に適さない」最大の
理由といって差し支えないでしょう。
戦後日本で吹き荒れている「合成の誤謬」が我が国
を蝕んでいる感を持ちます。
冒頭文は必読です。
わたし含め、こういう感覚と実践を多くの人が持た
なきゃいけない気がします。
他人は変えられない、変えられるのは自分だけ
ですからね。
次回の「ソフト・パワー」も楽しみです。
では今日の記事、さっそくどうぞ
エンリケ
追伸
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我が国の未来を見通す(87)
『強靭な国家』を造る(24)
「強靭な国家」を目指して何をすべきか(その14)
宗像久男(元陸将)
───────────────────────
□はじめに
今回は、これまであまり取り上げて来なかった話
題に触れてみましょう。最近、百田尚樹氏が「日本
保守党」を旗揚げし、フォロアー数がすでに自民党
を超えたことを自ら月刊誌に発信していました。
旗揚げに至った理由についても縷々述べておりまし
たが、前回紹介したような我が国の現状に対する
“いらだち”や自民党、特に保守系の政治家に対す
る期待感の喪失が百田氏を本気モードにさせたよう
です。彼らに対して「国民を裏切ってきた」の厳し
く批判しているところにその決意のほどが窺い知れ
ます。
個人的には百田氏の心境をよく理解できるつもりで
すが、私自身は、自衛官を退官した後も“気持ちの
上では”「生涯自衛官」を決意し、引き続き「政治
的活動には関与せず」と誓いを立てました。
退官後も、様々な(特に保守系の)団体からお誘い
もありましたが、“その色に染まる”メリットとデ
メリットを勘案し、あえて所属することを辞退し、
あくまで“肩書”なしの一個人の立場で、できる範
囲で活動することを心がけ、実践してきました。
メルマガ発信などもその一環として実行しています
が、私たちは、人を“肩書”で判断し、自分の考え
に近い組織に所属する人が書いたり話したりするこ
とには目を開き、耳を傾けますが、自分の考えと反
対側にいる人たちが書いたり話したりすることには
拒否しがちで、歩み寄ることも交わることがないの
が通例です。
つまり、保守系の人たちがいくら“いきり立って”
立派な主張を述べても、革新系の人たちには届かず、
理解もされず、“揚げ足”をとられるか、反論のた
めの理屈を並べ立てる材料にしかならないのです。
そして、その逆もまた“真”でしょう。
このように、戦後の出発点から70数年の間、政党
名などがひんぱんに変わることはあっても、たとえ
ば、憲法とか国防などの根幹の部分はお互いにほと
んど歩み寄ることなく、(失礼ながら)不毛の議論
に時間を費やしてきました。このようなことが“我
が国をどれほど不幸にしているか”、政治家と言わ
ず、大多数の国民もそろそろ気がつかねばならない
時期に来ていると考えます。
私は、最近は特に、幅広いテーマについて様々な立
場から書かれたものを読む機会がたびたびあります。
現在も、「日本を守ってきたのは憲法9条と国民の
平和希求だ。戦争を放棄した国に戦争を仕掛けてく
る国はない」(原文のママ)と堂々と書いている大
学教授ら著名人が書いた書籍を読んでいます。
少し前に発刊された書籍ではあるのですが、当時の
国際情勢の分析の視点が私などとは180度も違う
ので、とてもおもしろいし、参考になります。この
ような人たちに、その後の国際情勢は自分たちの分
析どおりに展開したのか、もし違っていたのであれ
ばその原因はどこにあったのか、とか、「ウクライ
ナ戦争」や「中台問題」などをどのように分析して
いるか、などについて訊ねてみたい衝動にかられま
す。一方で、このような人たちは、永遠に“こちら
側”に来ることはないのだろうと思ってしまいます。
心配するのは、このような考えを持つ先生たちに教
えられた学生は“先生の考えに染まってしまう”、
つまり、“世代が変っても、考え方の対立構造が変
わることがないのではないか”ということです。現
在は情報が溢れています。若い世代の皆様には様々
な情報に接して、先生の考えの是非をみずから咀嚼
するなど、何としても“賢くなってほしい”と願わ
ずにはおれません。
今回はこのくらいにして、この続きは、のちに取り
上げる「国家意思」のところで触れましょう。
▼「国力」の「ハード・パワー」の総括
さて、だいぶ前に「『強靭な国家』造りは、『国力』
の増強に挑むことにある」と考えるに至り、私なり
に「国力」を新しく定義することから始まり、以来、
13回にわたり、「国力」を構成する「ハード・パ
ワー」のそれぞれの要素ごとにブレイクダウンして
分析してきました。
改めて、76話で取り上げた「国力」を定義する方
程式を再提示します。
国力=(人口+領土+経済力+軍事力+食料・天然
資源+政治力+科学技術+教育+文化)×(国家戦略
+国家意思)
です。人口や領土など、ある程度数値化してイメー
ジ・アップしやすい「ハード・パワー」を、(粗々
ではありますが)実際に個々にブレイクダウンして
分析した結果、なかには「政治力」とか「文化」な
ど国際比較が難しい要素もありましたが、「国力」
を構成する要素としてほぼ漏れがないものと自負し
ております。
そこで、「ソフト・パワー」としての「国家戦略」
や「国家意思」を考察する前に、「ハード・パワー」
を総括しておこうと思います。
まず、「ハード・パワー」の筆頭に「人口」を掲げ
ました。「人口減」が即、「国力の低下」に直結す
るのはあらゆるデータから疑いようがありません。
その対策としてこれまでも何度も試みられ、現在も、
“異次元の対策”が現政権の看板政策として掲げら
れていますが、戦前のように、国家が半ば強制的に
「産めよ!増やせよ!」と号令をかけることができ
ない今、“どのようにすれば、適齢期の若者たちが
子供を産むのか”の本質的な議論が欠けているよう
な気がしてならないのです。
その答えの一つは、「将来の希望があるかどうか」
にあると考えます。言葉を代えれば、人口減を防止
して、再び人口増に転じる方策は、小手先の子供手
当などばかりではなく、「未来に希望が持てる国造
り」にかかっているのではないでしょうか。つまり、
「国力」を構成する他の要素と密接にかかわってい
るのです。
次に「領土」です。人類の歴史は、かつての植民地
主義のように、武力に“物を言わせて”一方的に
「領土」拡大を企図するか、はたまた、互いの「領
土」争奪を目的とする「戦争」の繰り返しだったこ
とはすでに述べました。そして、「外国資本による
土地の購入」防止を含めて、“寸土”といえども
「領土」を守り抜く強い意志が必要であることを強
調しました。
戦前の反動として戦後の日本人が失ったものの中で
最大のものは、「国家を誇りに思う心」とか「愛国
心」であり、さらには「国を守る」意識であろうと
思います。ウクライナ戦争のように、今なお「領土
争奪戦」が繰り広げられていることから、「領土」
を守るための最終手段として「軍事力(防衛力)」
が必要不可欠なことも自明であり、「防衛力」を保
有することに対する理解と支持を含めて、「領土」
も「国力」の他の要素と切り離して考えることは不
可能です。
次に「経済力」です。我が国は、依然、GDPは世
界第3位をキープしていますが、「経済力」を比較
するほとんどの指標が“右下がり”になっているこ
とはすでに紹介しました。中でも、「1人あたり名
目GDP」(USドル)は30位まで低下、「経済
成長率」も「失われた30年」と揶揄されるように
ほとんど停滞し、デジタル競争力などの「国際競争
力」も低下傾向にあります。
「財政」「通貨」などに加え、「科学技術」や「教
育」など、「経済力」を強くするために、“打たな
ければならない手”(打ち手)は多岐に及ぶでしょ
う。小手先の「物価」対策に奔走しているだけで不
十分なことは明らかです。
次に、「軍事力(防衛力)」です。我が国が戦後、
「吉田ドクトリン」によって国家の安全保障の大部
分を日米安保条約に委ね、「軽武装重経済」の路線
を歩んできたことはすでに述べ、現下の厳しい情勢
の中で、その路線を保持し続けるだけで十分なのか、
についても問題提起しました。
昨年末、ようやく「安保3文書」も策定されました
が、依然、“かゆい所に手は届いていない”ことも
指摘しました。「防衛力」については、依然、国民
の中に各論があることから、この分野こそ、為政者
の断固たる決意と実行が求められています。某月刊
誌の見出しにあった“作文だけに終わらないよう”
祈るばかりです。
次に「食料・天然資源」です。これらの乏しい「自
給率」の“生”のデータをみると、食料やエネルギ
ーの将来にわたる安定確保こそ、我が国の最優先課
題と言えるでしょう。
我が国は、元来の「性善説」を保持し、かつ戦後長
い間のアメリカの“庇護”に慣れ過ぎたせいか、世
界の人口増や国際情勢の急変などに対する「危機意
識」を持つ“感性”を失ってしまいました。人口減
などに伴う「経済力」の低下も手伝って、食料やエ
ネルギーなどの安定確保のパワー自体が落ちること
も懸念されます。
農業など「一次産業」の保護政策についても、「聖
域なき構造改革」などと“戦略のかけらもない”よ
うなことを繰り返してきた結果、先進国の中でワー
ストだったことも判明しました。この分野も、(言
いにくいことではありますが)選挙対策最優先の政
治家や現場感覚が欠如している官僚に任せておいた
“ツケ”が溜まっているという事実を再認識しなけ
ればならないでしょう。
また、気候変動対策とエネルギー確保については、
雰囲気や情緒に流されず、科学的根拠に基づき、資
源小国の日本ができること、やらなければならない
ことを冷静に選別しつつ、我が国が“国家として生
き残るための優先順位”を間違わないことが肝要で
しょう。
次に「政治力(外交力)」です。すでに「政治家」
の「資質」について取り上げました。若干付け加え
ますと、我が国の国会議員710名の約27~28
%はいわゆる世襲議員で、自民党に至っては約4割
が世襲だそうです。G7を含む先進国の国会議員の
世襲の割合は1割以下なので、我が国の世襲議員の
割合は、先進国平均より異常に高くなっています。
世襲議員が悪いと言っているわけではありませんが、
「政治家」という仕事は、一般的な「親の家業を子
供が継ぐ」こととその本質が異なることは明らかで
す。いくら「地盤、看板、鞄」が十分でであっても、
当人に政治家としての「資質」があるかどうかが問
題なのです。
不幸なのは、これら「3バン」が盤石で“必勝間違
いない”候補者に対して、政治家としての「志」や
「資質」に勝る候補者が勝てないことです。有権者
たる国民にそれを見抜く力が要求されますが、実態
は“ほぼ見抜けない”か、“白けて”しまって“政
治離れ”になることが心配されます。現にそのよう
な現象が起きていることも紹介しました。
巷には、政治家がサラリーマン化し、「自分がやら
なければ、日本はダメになる―そんな熱い政治家は
いないのか」と“現状”を嘆く意見も散見されます
が、「国家観」をしっかり持って、背水の陣で国を
リードする「志」と「資質」を有する政治家(達)
の“一念発起”、省益を捨てそれを支える官僚、そ
れを支持し、エールを送って国民を感化善導する有
識者やマスコミが我が国の未来を左右することでし
ょう。
次に「科学技術」です。近代から現在に至る国際社
会で、世界の覇権国としてその地位を保持し続けて
いるアメリカをして、それを可能にさせている要因
の筆頭に「科学技術」に対する国家戦略が挙げられ、
その戦略の果敢な推進が他国の追随を許さなかった
のでした。
我が国あっては、「ものづくり技術」という伝統的
な能力を持ちながら、時代の変化を先取りするよう
な戦略を立てきれなかったところに今日の低迷があ
るのではないでしょうか。予想される様々な将来環
境の中で、人類が“より幸福に”“より豊かに”日
々の生活を営むために、期待されるイノベーション
は限りないことでしょう。それらのイノベーション
に対するリスクを国家が引き受ける覚悟と実行こそ
が、日本の未来はおろか、明日の人類を救うことで
しょう。
次に「教育」です。「国家100年の計」としての
「教育」についても紹介しましたが、「低学歴国」
と揶揄されるように、その現状は寂しいものがあり
ます。残念ながら、戦後の長い間、様々な原因が重
なって、国家として「教育」を怠ってきた“ツケ”
がこの分野も溜っているのです。この分野も専門集
団に任せないで、早急にメスを入れる必要があるで
しょう。
最後に「文化」です。歴史的にみれば、国際社会を
席捲した「西欧文明」に“棹を立てた”最初の国が
「日本文明」でした。現在も8文明の一つとしてか
ろうじて残っている「日本文明」ですが、文明間の
“調整役”として機能発揮する「力量」を保持して
いるのか、と自問自答すれば、寂しいものがあるこ
とも紹介しました。
「一国家一文明」として孤立しているがゆえのメリ
ットがあるとハンチントンは期待していますが、そ
のためにも国家としての「力量」をアップする前に
立ちはだかる、様々な“障壁”を乗り越える必要が
あるでしょう。逆に、“調整役”としての機能を発
揮することが国家の「力量」アップに繋がる道であ
るとも考えます。
▼「ハード・パワー」の総括からわかったこと
さて、これら「ハード・パワー」を総括してみて改
めて分かったことは次の2点です。第1点目は、繰
り返しますが、「我が国の『ハード・パワー』はほ
ぼ例外なく“下降期”に入っていること」です。ま
ずはこの“現実”を認識し、急ぎその原因を究明し
つつ、それぞれ必要な処置を講ずる必要があると考
えます。
第2点目として、これまで、それぞれの専門家(達)
がそれぞれの知見をもって現状改善や改革を試みた
ことは何度もありますが、ほとんどドラスチックな
改善には至らなかったという“事実”もまた再認識
する必要があるでしょう。
その理由も明白です。何度も繰り返したように、
「ハード・パワー」のそれぞれの要素は、相互に関
連し合っていることから、それぞれの専門家(達)
の“狭い了見”をもってしては抜本的な解決策を導
くまでには至らず、そればかりか、“ある分野の最
適解が他の分野に悪影響を及ぼしている”ような現
象もかなりあることを認識する必要があるのです。
なかには、憲法はじめとする法制度や戦後政策上の
制約、国会対策上立場が異なる政党への対策、省毎
の縦割り責任を有する官僚への説得限界や妥協、あ
るいは国民への説明責任のようなものから、改善あ
るいは改革計画を当初案から大幅に修正せざるを得
なかったという側面も影響していることでしょう。
その根本をたどっていくと、我が国の戦後の「統治
制度」の問題に行き着くのかも知れません。
一方、それぞれの要素を現状分析しているうちに、
“未来へのヒント”がたくさんあることも発見しま
した。“勇気をもって一歩踏み込めば、まだまだ打
開の道はある”としばしば感じたことも事実でした。
総じて言えば、「国力」増強の集大成として「強靭
な国家」を造り上げることは容易なことではありま
せんが、振り返れば、先人たちもその時代時代の
“課題”に果敢に立ち向かい、時に様々な失敗を繰
り返しながら困難を克服しつつ、現在に続く「資産」
を残されました。それらに乗っかるような形で、私
たち・戦後世代は、“割と贅沢な生活”を謳歌でき
ているのです。
これからしばらくは、私たち・戦後世代がもがき、
苦しみ、考え、実行し、我が国の「資産」を受け継
ぎ、後世のために残して行く、つまり、しっかりと
“歴史の縦の糸をつぐむ”ことが求められているの
ではないでしょうか。
次回以降、そのための「ソフト・パワー」について、
少し詳しく考えてみたいと思います。
(つづく)
(むなかた・ひさお)
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【著者紹介】
宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、
陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇
宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、
北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上
幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東
北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸
将)。日本製鋼所顧問を経て現在、至誠館大学非常
勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、
セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常
勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自
衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動
きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)
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