配信日時 2023/10/06 13:38

【本の紹介】『永遠の74式戦車──日本が誇る傑作戦車』 伊藤学 著

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「74式戦車」の栄光と感謝の思い

半世紀にわたり、わが国土を守り続けた「74式戦車」。
その歴史的な旅路がいま、感動的なフィナーレを迎
えようとしています。わが戦車兵たちにとって「ナ
ナヨン」は、一時代を築き上げ、その役目を光り輝
く形で終えたといってよいのです。

素直な操縦性と、105ミリ戦車砲の高度な射撃統制装
置による驚異的な命中精度で知られている「74式戦
車」。その革命的な「姿勢制御機構」は、後の90式
戦車や10式戦車にも受け継がれ、わが戦車の進化に
欠かせない装備となりました。

この本では、「74式戦車」の開発からそのメカニズ
ム、運用、そして現役隊員たちの熱い思いを元戦車
乗りがつづっています。感謝の意を込めて、「ナナ
ヨン」へのオマージュを捧げる一冊です。

地上軍や地上軍装備、戦車に興味がある人、そして
74式戦車に限りなき友情を覚える全ての人に読ん
でほしい一冊です。

『永遠の74式戦車──日本が誇る傑作戦車』
 伊藤学 著(元74式戦車乗員・元2等陸曹)
 四六判252ページ+口絵8ページ
 定価1800円+税
 並木書房
 2023年10月発行
 https://amzn.to/48w5Kcg


こんにちは、エンリケです。

本著は、74式戦車の開発・機構・運用から、乗員
の熱き思い、74式戦車から配置転換した16式機
動戦闘車乗員の新たな決心まで、元戦車乗りの著者
がそのすべてを明らかにした本です。「74式戦車
事典」といって差し支えないレベルの内容という感
も持ちます。

著者・伊藤さんのお人柄とご経歴によるものでしょ
う、現役へのインタビューの多さと分厚さに圧倒さ
れました。

戦車を動かしている人たちが、戦車のことを話す。
聞き手も現場を知悉した戦車乗り。
読み手にとって、これほど贅沢でうれしくてタメに
なる戦車コンテンツってあるでしょうか?

ほんとに面白かったです。


著者の伊藤さんは少年工科学校出身の元二等陸曹。
装填手、操縦手、砲手、車長のすべてを務めた機甲
兵(機甲科職種)。陸自イラク派遣部隊に参加した
こともあります。現在はライター&カメラマンとし
てご活躍中です。

伊藤 学(いとう・まなぶ)
1979(昭和54)年生まれ。岩手県一関市出身、在住。
岩手県立一関第一高等学校1年次修了後、退学し、
陸上自衛隊生徒として陸上自衛隊少年工科学校(現、
高等工科学校)に入校。卒業後は機甲科職種へ進み、
戦車に関する各種教育を受け、第9戦車大隊(岩手
県・岩手駐屯地)に配属、戦車乗員として勤務。20
04年、第3次イラク復興支援群に参加。イラク・サ
マーワ宿営地で整備小隊火器車輌整備班員として勤
務。2005年、富士学校機甲科部に転属、砲術助教と
して勤務。2008年、陸上自衛隊退職。最終階級は2
等陸曹。現在、航空・軍事分野のカメラマン兼ライ
ターとして活動中。著書に『陸曹が見たイラク派遣
最前線─熱砂の中の90日』(並木書房、2021年)。

ちなみに伊藤さんには、2020年7月から202
1年4月にかけて「熱砂の自衛隊イラク派遣90日」
という連載を寄稿いただきました。覚えている方も
多くいらっしゃることでしょう。


今回伊藤さんが上梓されたのは、本業といって良い
「戦車」の本です。それも、10式でなく74式。
それがまたいいなあと感じます。

戦車といえば10式という風潮ですが、歴史的に見
ると74式が10式の土台になっているわけで、7
4式への理解の深さが10式への理解、ひいてはわ
が戦車、わが地上戦、わが地上軍教義、世界の戦車、
世界の地上軍、地上戦への理解の深さに直結すると
思います。

たとえば74式戦車の素直な操作性、高度な射撃統
制装置により高い命中精度を誇る105ミリ戦車砲、
74式戦車で実用化された油気圧懸架装置による
「姿勢制御機構」など、74式戦車は、わが戦車の
過去と今をつなぐ貴重な証左に溢れた歴史的存在と
いっても過言ではありません。

歴史を断絶せずシームレスに見て知り、いまとむか
しをひとつのつながりとして把握する姿勢が現在へ
の深い理解には不可欠です。非常に大切なことで、
戦車の歴史も同じではないでしょうか?

古いから使えない、というのも愚かな発想で、陳腐
化したと扱われていたものでさえ実戦に投入すれば
いまも意外な効果をもたらすケースは、特に地上軍
の場合は多いと思います。

特に地上軍の場合、装備や兵器の歴史をきちんと理
解把握しておくことはひじょうに重要と思います。

危機管理の面から見ても「ハイテク技術が使えない
状況でも、手持ちの装備をアナログで上手に動かす
「力」」は必須不可欠で、敵に勝つために不可欠な、
ある意味最も重要な能力と感じます。

167ページでは、むかし演習で74式戦車小隊と
10式戦車小隊が戦い4対0のパーフェクトゲーム
で10式戦車を全車撃破したエピソードも紹介され
ています。示唆を与えてくれるエピソードです。

さて1974年に制式化された74式戦車、実はい
まも現役で、山形9師団(9戦車大隊)、名古屋10
師団(10戦車大隊)、広島13旅団(13戦車中隊)
で師旅団の虎の子として配備されています。富士学
校においても機甲教導連隊で教育用に少数ながら運
用中です。

半世紀以上に渡ってわが師旅団の機動打撃の中核と
して活躍してきた74式戦車ですが、90式戦車、
10式戦車、そして実質的な後継とされる16式機
動戦闘車にその座を譲りつつあります。

伊藤さんは本著で、後継たる16式機動戦闘車につ
いても1章を割いて分析解説しています。


そして「おわりに」で伊藤さんは、
こういう言葉を残されています。

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「74式戦車は現代戦を戦えるか?」。インタビュー
ではぜひこれを聞いてみたいと考えていた。第9戦
車大隊長の工藤2佐は「負けることはない」と答え、
中隊長の佐々木1尉は過去に演習で74式戦車小隊を
指揮して10式戦車小隊と戦い、我の損害を出さず相
手の10式戦車小隊を全車撃破というパーフェクトな
結果を残した。まったく同じ条件で戦い、74式戦車
小隊が2世代も上の新鋭、10式戦車小隊を全滅させ
たのである。こうした話を聞くたびに、私は自分の
考えが間違っていなかったことに安堵し、そして実
際に74式戦車が現代戦を戦えることを証明した隊員
諸官に敬意を抱かずにはいられなかった。(「おわ
りに」より)
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このことばに共感できる人は多いのでは?


また本著について「はじめに」でこうおっしゃっています。

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はじめに

 今でも大切に保管している1枚の写真。
  第9戦車大隊の74式戦車の装填手用ハッチから上
体を出し、満悦の笑顔を浮かべる少年。
  小学6年生の私だ。
  もちろんこの時、この8年後に今度は第9戦車大
隊の戦車乗員としてこの席に着くことになろうとは
想像もしなかった。
  自衛隊生徒として陸上自衛隊少年工科学校(現・
陸上自衛隊高等工科学校)に入校し、卒業後は機甲
科職種に進んで富士学校機甲科部が実施する機甲生
徒課程(TSC:Tank Student Course)に入校した。
当時、90式戦車は第7師団の第71戦車連隊に配備完
了、第72戦車連隊に配備が始まった時期で、74式戦
車はまだ第71戦車連隊を除く全国の戦車部隊で主力
戦車として活躍していた。
  機甲生徒課程では74式戦車と90式戦車、2車種の
操縦・射撃・整備教育を受けたが、教育内容の配分
としては74式戦車の教育訓練のほうに比較的多く時
間を配当されていた。陸上自衛隊の機甲科職種はま
だまだ74式戦車の乗員を必要としていたのである。
  機甲生徒課程修了後、生徒後期教育で部隊実習先
となった部隊は岩手県滝沢市の岩手駐屯地に所在す
る第9戦車大隊。後期教育修了後はそのまま同大隊
に正式配属となった。
  第9戦車大隊の装備する戦車は74式戦車。岩手出
身の私が生まれ育った地で任務に就ける。第9戦車
大隊はまさに私にとって郷土部隊だった。希望が叶
って配属が決定した時は喜びを感じつつも身が引き
締まる思いであった。
  部隊配属後の日々は常に74式戦車とともにあった
といっても過言ではない。第9戦車大隊在籍中は74
式戦車乗員であり続けたからだ。
  各種訓練や整備、時には演習……。汗と埃と油に
まみれながら奮闘した日々。
  0・1秒でも速く砲弾を装?するにはどうしたら
いいか常に考え、機敏な装?動作を追求した。
  泥濘地、積雪地、夜間、長距離行進。困難な状況
を走破した時は操縦手として自信につながった。
  戦車射撃は初弾必中。1発で敵を仕留めなければ
こちらがやられる。射撃技術を向上させるために教
範や資料を頭に叩き込み、時には先輩に教えを乞い
ながら「一射入魂」の精神で砲弾を撃った。
  装?、操縦、射撃、単車指揮。もっと上手くなり
たいという向上心、誰にも負けたくないという意気
込みが戦車乗員を成長させる。
  厳しくも充実した日々。私は74式戦車の乗員であ
ったことを誇りに思っている。
  この本は私が知る74式戦車のすべてを、自分の愛
車を自慢するような気持ちで綴った。
  読者の皆様には陸上自衛隊の歴史に残る傑作戦車、
74式戦車の実像と、その乗員たちの息づかいを感じ
ていただけたら執筆者として望外の喜びである。

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それではこの74式戦車への愛に溢れた一冊の内容
を見ていきましょう。
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目 次

はじめに 1

第1章 74式戦車の開発 13

戦後二代目の国産戦車「74式戦車」/なぜ74式戦車
が開発されたのか?/STBの開発着手、各種試験
を経て制式化へ/強力な105ミリ戦車砲を装備/
レーザー測遠機・弾道計算機の装備/砲安定装置の
採用/暗視装置による夜間戦闘能力向上/姿勢制御
機構の採用/新型変速操向機による操縦性向上/潜
水渡渉能力の付与/装甲防護力

第2章 74式戦車のメカニズム 25

砲塔部の構造 25

105ミリ戦車砲/74式車載7・62ミリ機関銃/12
・7ミリ重機関銃M2/74式60ミリ発煙弾発射筒/
砲塔の装甲/射撃統制装置/視察装置/投光器(照
準暗視装置投光器)/砲俯仰、砲塔旋回機構/砲安
定装置/無線機および車内通話/砲塔内各種装備/
乗員用座席/後部バスケット

車体部の構造 46

エンジン・変速操向機/油気圧式懸架装置・姿勢制
御機構/走行関係各種装置/操縦席/潜水補助装置
/車体部装甲/車体部各種装置

第3章 戦車砲・各種火器の射領 65

野外照準規整(ボアサイト)/105ミリ戦車砲の
射撃/74式車載7・62ミリ機関銃の射撃/12・7ミ
リ重機関銃M2の射撃/74式60ミリ発煙弾発射筒の
射撃/個人装備火器と下車戦闘/射撃後の武器整備
(砲通し・銃整備)

第4章 74式戦車の各型式 77

さまざまな74式戦車(各型、部隊ごとの特殊な仕様)
/92式地雷原処理ローラー装備型/78式戦車回収車
/87式自走高射機関砲/91式戦車橋/評価支援隊所
属車/市街地戦闘用/演習対抗部隊用/創意工夫資
材を用いた小改造/わずか4両の74式戦車改(G型)
/74式から90式へ、そして10式に受け継がれたもの

第5章 ナナヨン乗りへの道 94

戦車乗員養成教育/自衛官候補生/一般曹候補生/
高等工科学校生徒/一般幹部候補生/筆者が進んだ
「機甲生徒課程(TSC)」

第6章 74式戦車乗員の役割とその動き 103

戦車乗員の役割/装?手──ルーキーとはいえ、その
責任は重大/操縦手──常に考えながら戦車を動か
す/砲手──一撃必中を追求! 戦車の実質的中心
となる乗員/車長──乗員や状況を掌握しつつ戦車
を動かす難しさ

第7章 戦う74式戦車、その戦闘と戦術 117

戦闘における戦車部隊の編成/74式戦車の攻撃要領
/さまざまな攻撃要領──敵を全車撃破!/「まさ
か、この急斜面を登るのか?」/74式戦車の防御要
領/陣地進入と警戒/敵発見!防御戦闘/実際の対
戦車陣地/74式戦車の戦術/74式戦車出動す

第8章 「常在戦場」を意識せよ! 136

戦車部隊における訓練 136

射撃訓練/実動訓練/検閲/陸幕指命演習

車載火器、小火器の射撃訓練 143

戦車装備火器射撃訓練/小火器射撃訓練

より実戦的な戦闘訓練 146

富士訓練センター(FTC:Fuji Training Center)
/AC‐TESC/北海道訓練センター(HTC:
Hokkaido Training Center)/米国射撃訓練──海
を渡った74式戦車/CTC(Combat Training Cent
er)訓練/市街地戦闘訓練

第9章 ナナヨン乗りの声を聞け! 156

最後の瞬間まで74式戦車を扱いきる──第9戦車大
隊長 工藤真一2等陸佐 158
私の愛してやまない戦車です──第1中隊長 佐々木
保元1等陸尉 163
74式戦車は機甲科人生そのものです──小隊長兼車
長 田邉陽介3等陸尉 170
まだまだ現役で戦える戦車──砲手 岸根佑弥3等陸
曹 176
「育ててくれてありがとう」──操縦手 佐々木理絵
陸士長 179
「1秒でも速く装?できるよう心がけています」──
装?手 松田多玖也陸士長 185

第10章 新戦力「16式機動戦闘車」191

16式機動戦闘車は74式戦車の代替たり得るか?/陸
上自衛隊は機動戦闘車に何を求めるか

各状況下における16式機動戦闘車の行動 193

島嶼部に対する侵略事態対処/ゲリラや特殊部隊に
よる攻撃等対処/想定される活躍の場

各状況で共通する課題 203

協同戦闘の重要性/C4I能力の充実/74式戦車を
継ぐ

 

第11章 機甲新時代の先駆者に聞く 209

16式機動戦闘車の戦い方──第22即応機動連隊機動
戦闘車隊長 花山佳史2等陸佐 210
日々訓練するしかない──小隊長兼車長 島田篤史3
等陸尉 214
いかに相手を先に制するか──砲手 橋谷田友洸3等
陸曹 218
「安全運転で迅速な運転を心がけています」──操
縦手 及川皓行3等陸曹 221
74式戦車に携われた最後の世代──装?手 佐藤健太
3等陸曹 224

 

資料編 栄光の74式戦車部隊史 227

戦車部隊の編成/戦車北転事業の申し子、独立戦車
中隊
74式戦車装備部隊紹介 229
富士学校機甲科部(1954年~)230
第1戦車団(1974~1981年)230
第1戦車群(1952~2014年)231
戦車教導隊(1954~2019年)231
第1機甲教育隊(1962~2019年)232
機甲教導連隊(2019年~)233
部隊訓練評価隊評価支援隊戦車中隊(2002年~)
233
西部方面戦車隊(2018年~)234
第2戦車連隊(1954年~)234
第71戦車連隊(1961年~)235
第72戦車連隊(1954年~)235
第73戦車連隊(1956年~)236
第1戦車大隊(1954~2022年)237
第3戦車大隊(1954年~)238
第4戦車大隊(1954~2018年)238
第5戦車大隊(1954年~)239
第6戦車大隊(1954~2019年)240
第8戦車大隊(1962~2018年)240
第9戦車大隊(1962年~)241
第10戦車大隊(1962年~)242
第11戦車大隊(1962年~)242
第12戦車大隊(1962~2001年)243
第13戦車中隊(1962年~)244
第14戦車中隊(1981~2018年)244
第7偵察隊(1957年~)245

コラムー三色旗と縁起 75
コラムー演習場での譲り合い──ハンドサイン 10
1
コラムー戦車乗員に欠かせない「人間の感覚」115
コラムー戦車隊員にとって非常に有効な「砂盤」15
5
コラムー二人の曹長の思い出 188
コラムー観閲行進 206

参考文献 246
おわりに 247
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いかがでしょうか?


桜林さんの本にあったことばと記憶してますが、

「戦車は、地上軍の装備で唯一抑止力を発揮できる
存在」

という印象を私は戦車に持っています。

攻撃力と防御力のバランスがとれた、
その国の車輌技術のすべてが詰め込まれたハイテク
の塊。
存在感が存在意義といって差し支えない唯一無二の
地上軍装備。

というイメージです。

そんな戦車を知悉する著者ならではの
視点・発想を味わえる本。

本著最大の魅力はそこにあるといえましょう。

読後感はこの期待を裏切らぬものでした。


さいごになりましたが、帯には、現役自衛官たちの
74への想いが記されています。
それを発見した瞬間、思わず目頭が熱くなりました。
なぜでしょうか?

写真がたくさん掲載されているところも嬉しい
ポイントです。

これからもう一回読むとしましょう。

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エンリケ


追伸

「自衛隊の隊員はどのような装備品を与えられよう
と、その性能を最大限に発揮し、そしていかに運用
すれば効果的に戦えるか、それを考え実行するとい
う面において、世界でトップクラスの能力を持って
いる」

との著者・伊藤さんのことばに、全身がシビレまし
た。


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