配信日時 2023/09/18 20:00

【我が国の未来を見通す(84)】『強靭な国家』を造る(21) 「強靭な国家」を目指して何をすべきか(その11)   宗像久男(元陸将)

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こんばんは、エンリケです。

84回目の配信は、
第4編「『強靭な国家』をつくる」の
21回目です。

もっとも効率的で効果的で実用的な公共投資は
軍事のそれだと私は考えています。

一番美味しい公共投資を戦後日本はみすみすフ
イにしているようです。

今日の記事、さっそくどうぞ


エンリケ


追伸
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我が国の未来を見通す(84)

『強靭な国家』を造る(21)
「強靭な国家」を目指して何をすべきか(その11)


宗像久男(元陸将)

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□はじめに

 もう45年ほど前になりますが、初級幹部の時代、
アメリカのコロラド大学の修士課程に留学させてい
ただき、1978年から2年間、コロラド州のボル
ダー市に滞在しました。振り返りますと、この2年
間のアメリカ生活は、その後の私の人生に“最も強
烈なインパクト”に与えてくれたと思っています。

細部については本メルマガの主旨から外れますので
省略しますが、今日のテーマと関連する経験をひと
つだけ紹介しましょう。

留学して2年目の夏季休暇を利用して、アメリカの
首都・ワシントンを訪問する機会がありました。ワ
シントン観光の“お決まりのコース”のホワイトハ
ウスや国会議事堂などが居並ぶモールを訪問したと
ころ、軽トラックやワゴンの上に様々な土産などを
賑やかに陳列し、観光客を相手に商売しているエリ
アがありました。帰国時のアメリカ土産を買おうと
思い立ち、様々な“小物”を手に取ってみますと、
裏に「メイドイン・ジャパン」と書かれていました。
「これでは帰国の土産にならない」とまた別のもの
を探すことを繰り返しました。

何度か繰り返すうちについに我慢仕切れなくなって、
ワゴンのオーナーに「ここにある物でメイドイン・
ジャパンでないものはないですか?」と訊ねたとこ
ろ、「これとこれネ」と明らかに日本製ではないよ
うな小物を2つ差し出したのです。つまり、これ以
外の小物はすべて「メイドイン・ジャパン」だった
のでした。

1970年代の2度のオイルショックの影響によっ
て、70後半~80年代の長い間、国際社会は“ス
タグフレーション”に見舞われていましたが、この
世界不況からいち早く抜け出したのが日本企業でし
た。米国人社会学者のエズラ・ボーゲルが『ジャパ
ン アズ ナンバーワン』を上梓し、アメリカ経済
界をして「日本に学べ!」が合言葉のようになった
時期でした。

私はこの事実をだいぶ後にわかるのですが、ワシン
トンの例だけでなく、アメリカで知り合った知人友
人などが「スズキを買った」とか「日本の車は故障
しない」などと、自慢げに話すのを何度も耳にしま
した。

そのはずです。住んでいた町のどこの駐車場に行っ
ても、ちょうどエンジンの真下あたりが真っ黒にな
っており、近づいてよく見ると油でした。当時のア
メリカ製の自動車は、新車といえどもオイル漏れす
る車が多く、漏れ落ちた油が駐車場に何層にもこび
りついていたのです。確かに、安い中古車でしたが、
私の愛車シェボレーNOVAもしょっちゅうエンジ
ンオイルを補給していました。

このように、戦後の日本にも、とても“誇らしい”
時代があったのです。さて話は変わりますが、9月
10日朝のNHKの「日曜討論」は「研究力の低下
どうする?」というテーマで議論が交わされていま
した。正直申し上げれば、有識者たちの発言で参考
になったものはほとんどありませんでした。

また、愛読しているスタンフォード大学西鋭夫教授
のレポートの今回のテーマは「大学崩壊」でした。
西教授は、我が国の基礎研究力がなぜ低下している
のか、その原因を鋭く解説していました。それに留
まらず、NHKのようなマスコミに取り上げられる
様々なニュースとその解説がいかに意図的に“あた
りさわりのない”範囲にとどまっているか、につい
ても自らの体験を通じて発信していました。NHK
の日曜討論の解説やジャニーズ問題のマスコミの沈
黙などから、改めて納得してしまいました。

本メルマガで、我が国の「科学技術」や「教育」を
テーマにしようとしている時、偶然にも同じような
テーマを見つけ、「問題意識を持っているのは私だ
けではない」という点ではかなり勇気づけられたこ
とは確かです。続きは本論で取り上げましょう。

▼「科学技術」が「国力」に与える影響

前回のメルマガで紹介しましたように、米誌「US
ニューズ&ワールドレポート」では依然として日本
は「世界で最も洗練され、技術発展の進んだ国の1つ」
と評価され、「世界で『強い』国のランキング」の
7位にランクされています。

確かに、上記『ジャパン アズ ナンバーワン』と、
もてはやされた頃からしばらくの間、我が国には
“飛ぶ鳥を落とす勢い”がありました。では、“今
はどうか?”という視点に立って、今回は「科学技
術」に絞って、いくつかの指標について日本のラン
キングの推移を紹介しましょう。この分野について
も「Numbers Don’t Lie」であることを理解できる
ことでしょう。

まず、「研究開発費」(名目額)そのものは、19
81年から1994年頃までは日本は米国に次いで
第2位、1995年以降はEUに抜かれ、2012
年以降は発展著しい中国に抜かれ、第4位に甘んじ
ています。ただし国別ランクでは3位をキープして
います。

一方、「研究開発費の対GDP比」については、1
981年から2009年まで日本はダントツの1位
をキープしていました。しかし、2010年を韓国
に抜かれました。それでも、1996年頃までは3
位以内をキープしていましたが、2020年時点で
は6位に甘んじています。

また「政府の研究開発費」は、中国、米国、ドイツ、
ロシアに続き、第5位ですが、「研究開発費の政府
負担割合」となると、フランスの30%台を筆頭に、
米国、ドイツ、イギリス、中国などが軒並み20%
後半を維持している中で、日本は15%前後に留ま
っていますので、我が国の研究開発費の主体は民間
企業であることがわかります。

ちなみに、今年度の企業別研究開発費は、トヨタ、
本田技研、ソニー、武田薬品、日産、デンソー、パ
ナソニック、第一三共、ソフトバンク、日立などの
大企業がベスト10に入っています。

以下、「科学技術指標」といわれる客観的・定量的
データを用いて、主要な指標に関して日本の現状を
もう少し詳しくチェックしておきましょう。

まず「研究者数」ですが、2021年のデータでは、
日本は、中国(187万人)、アメリカ(149万
人)に次いで3位にランクされ、69万人を数えま
す。

「労働力人口1万人あたりの研究者数」は、200
2年には主要国中1位であったものが2020年に
は4位(98.8人)に落ちています。1位フラン
スを筆頭に、ドイツ、アメリカが日本をリードして
いますが、この指標になると、中国は29.1人と
ランクはかなり下の方になりますが、それだけ労働
力人口が多いとも言えるでしょう。

「女性研究者数」は、2021年時点では16.6
万人であり、「女性研究者の占める割合」とともに
増加傾向にありますが、OECD諸国の中では依然、
最も低い割合となっています。様々な事情があると
は言え、女性研究者のさらなる増加を期待したいも
のです。

「論文数」は、かつては4位でしたが、2021年
は5位に甘んじています(6.8万件)。その中で、
「トップ10%論文」(ほかの論文に引用された回
数が各分野で上位10%に入る論文)は低下傾向に
あり、最近、イランに抜かれ、過去最低の13位に
転落したことがニュースになっています。近年、こ
の「トップ10%論文」は、中国がアメリカを抜い
てトップになっていることにも注目が必要です。

「特許数」(パテントファミリー〔2か国以上への
特許出願数〕)では10年前から1位をキープして
おり、以下、米国、ドイツ、韓国、フランス、台湾、
イギリス、中国が続きます。ただし、近年、中国の
シェアの増加に伴い、情報通信技術、電気工学、一
般機器分野におけるシェアは低下傾向にあります。

これらを総括しますと、現時点では、日本は多くの
指標で、米国や中国に続く3位に位置していますが、
“伸び”という点では他の主要国と比べて小さい傾
向にあること、国際社会の将来に絶対的な影響を及
ぼすと考えられるデジタル競争力が低下傾向にある
ことなどは大いに懸念されることと考えます。

それらの具体的な指標については、すでに第79回
配信で紹介しましたが、主要な指標を再提示してお
きましょう。米国グローバル・ファイナンス誌が発
表している「世界で最も技術的に進んだ国ランキン
グ2022」では、日本は世界第7位にランクされ
てはいますが、「国際経営開発研究所(IMD)」
が公表している「デジタル競争力ランキング」は、
米国が3年連続第1位で、シンガポール、デンマー
クと続きます。5位香港、8位韓国とアジア諸国も
名を連ねますが、我が国はここ数年低下傾向にあり、
2020年は63か国・地域のうち27位まで落ち
ています。

世界経済フォーラム(WEF)が公表している「国
際競争力」についてもすでに紹介しましたが、日本
は、141カ国中、2017年8位、2018年5
位、2019年6位にランクされています。

得意な「ものづくり」技術をさらに発展しつつ、ロ
ボットやAIなどを含むデジタル技術を活用した生
産体制、そして人類の未来社会を先取りする各種イ
ノベーションやテクノロジーの開発などを他国に先
行して実現できるかどうか、我が国はまさに正念場
にあると考えます。

それを可能にする要因の1つとして、次回の「教育」
の分野で触れる「博士号取得者数は2006年度を
ピークに減少傾向」にあるなどと相関関係にあるよ
うです。わずかに明るい兆しがあるとすれば、平成
22年度より低下傾向にあった修士課程入学者が令
和3年度に増加に転じたことで、これが博士課程の
入校者増につながることを関係者は期待しているよ
うです。

▼「科学技術」を「国力」増強に活かす

話題を変えましょう。私たちは、みなGAFAを知
っていますし、その代表たるアップル社の主力製品・
iPhoneやiPadは、「天才的資質を有し
ていたCEOスティーブ・ジョブス氏が発明した」
と信じて疑いません。

実は、iPhoneとかiPadにみられる最先端
技術のほとんどは、長年、アメリカ政府や軍が研究
支援や財政支援を行なった結果として開発されたも
のでした。

アメリカの研究開発に関する政府支出の多さについ
てはすでに述べましたが、『企業家としての国家』
(英国サセックス大学教授マリアナ・マッツカート
著)は、「公共投資がイノベーションを起こす」と
して、「アメリカ政府の公共投資がなければGAF
Aは誕生してない」と強調します。そして、「国は
優先順位の高い技術革新戦略を通して産業発展の過
程をリードする必要がある」と提言しています。

つまり、「イノベーションには事前の想像をはるか
に超えるリスクがつきものであり、それを恐れると
一企業ではなかなか踏み出せないのが一般的だが、
『公的セクター』がリスクを積極的に取り、画期的
な技術革新の中心的役割を果たすこと」の重要性を
説いているのです。

その成功例として、航空産業、原子力エネルギー、
コンピューター、インターネット、バイオテクノロ
ジジーなどまで例外なく、国家(米国政府や軍など)
がリスクを恐れずに“成長エンジン”を築き上げた
結果であると断言しています。

企業の研究開発などの“現場”においては、とかく
国家の存在とか、前回も取り上げたような)「政治
力」の役割を矮小化する傾向が強い今だからこそ、
“国家が果たしてきたこのような役割を再認識する
ことが重要である”と著者は強調していますが、全
く同感です。

長い間、わが国はそれぞれの“企業努力”によって
研究開発費を捻出することによって、文字通り、
「メイド イン ジャパン」を現実のものにしてきた
歴史があります。改めて、本田宗一郎氏や松下幸之
助氏をはじめ先人たちの「会社の発展に留まらず、
広く世の中の人々が便利にそして幸せに暮らせるよ
うに」との技術者そして経営者としての“高い志”
を知ると涙さえ出ます。

一方、基礎研究の分野においても、これまでさんざ
ん利用し、今も利用しているコンピューターやイン
ターネットなどはすべてアメリカ政府や軍が主導し
て開発した軍事技術が民生技術に“スピンオフ”さ
れたものであることを知りながら、日本学術会議な
どは、長い間、軍(防衛)関連の研究開発を拒否し
続けて来ました。最近ようやくデュアルユース(軍
民両用)の先端技術研究は否定しない姿勢を示して
いるようですが、いまだ“つける薬”がない学者た
ちもかなり存在することでしょう。

このあたりに、転落しつつある「トップ10%論文」、
かろうじてトップを走りながらものの情報通信技術、
電気工学などのシェアが他国の追い上げを受けて低
下しつつある「特許数」、さらには「デジタル競争
力」の低下傾向などの根本原因があると推測してい
ます。

文部科学省の「科学技術白書」にも、近年の基礎研
究力の低下傾向に対して、「日本の研究力を今後ど
のように活性化させ展開していくか大きな岐路に立
たされている」と指摘し、「国民的な議論と共通認
識の醸成が求められている」と遠慮深げに懸念を表
明していることを紹介しておきましょう。

当然ながら、「国力」に関連する他の要素同様、
「科学技術」の向上についても政府側に問題がある
ことは否定できないでしょう。「政府の研究開発費」
のシェアが列国のシェアの半分ほどしかないことな
どを見るにつけても、歴代の内閣が問題意識をもっ
て真剣に取り組んできたとはとても思えないのです。

わが国の伝統的な「ものづくり」技術は他の追随を
許さず、これから先もそのような技術やスキルが絶
えないことをひたすら祈るものですが、それらをベ
ースにしつつ、国家や社会、あるいは人類社会の未
来を左右するようなイノベーションの実現するため
には、(表現は悪いですが)これまでの家内工業的
な技術の伝承などとは比較にならない“想像を絶す
るリスク”が伴うことは明白でしょう。

それらが一企業や一研究機関が受容する限界を超え
ることは間違いなく、“「リスクの許容は国家の仕
事である”との認識のもとに、「公共投資によって
イノベーションを起こすことが国家(政府)の役割」
との考えが政治家や官僚に広まることを期待したい
と思います。

そしていつの日か、「日本版GAFA」が誕生する
など、後世、「日本政府が企業家として目覚めた結
果、今日の繁栄がある」と大絶賛されることを目指
して、政府が陣頭指揮してほしいと願っています。

▼世界を変えるテクノロジーは何か
 
「科学技術」の最後に、『世界を変える5つのテク
ノロジー』(山本康正著)に紹介されている5つの
テクノロジーを参考までに紹介しておきましょう。
私個人は必ずしもこの5つのテクノロジーに集約さ
れるとは考えていませんが、アメリカ政府がGAF
Aを育てたように、世界に称賛され、企業としても
大発展する可能性がある、代表的なテクノロジーと
して看過できないことは間違いないと考えます。

まず第1は、将来の食料不足を予測した「フードテ
ック」です。700兆円市場が「フードテック」に
は見込まれているとのことで、細部は省略しますが、
ビル・ゲイツが取り組もうとしている、例えば代替
肉バーガーなどの製造技術などを指しています。さ
らに、わが国の農業従事者の減少に対する対策とし
ての「植物工場」のような技術も含まれています。

第2には、人口減や過疎化の進展、あるいは所得格
差増大などを背景に教育格差が益々広がることを予
測した「エドテック」です。所得格差やジェンダー
格差などによる教育機会の不平等はあってはならず、
それらの問題が生起しないような様々な教育技術は
まさにこれからの課題でしょう。

第3には、高齢化が進む将来において、医療や介護
需要の拡大は必須でしょうし、健康年齢の引き上げ
までを視野に入れた「ヘルステック」は我が国のみ
ならず、人類社会にとっての課題であり、夢でもあ
るでしょう。

第4に、「気候変動」を抑制しつつ、いかにエネル
ギーを確保するかの観点からの「クリーンテック」
もしばらくの間、国際社会の注目を浴び続けるでし
ょう。わが国の場合、「気候変動」対策よりもエネ
ルギー確保を優先すべきと考えますが、その両方の
目的を達成できることに越したことはありません。
今後、様々な技術のブレークスルーが待たれると考
えます。

第5に、人類が社会生活を営む上でゼロにすること
ができないのが様々な廃棄物です。その量も大量で
す。これらを再利用する「リサイクルテック」も新
たな発想と革新的な技術が必要なことでしょう。

このように、将来の人類社会に必要となってくる先
端技術を挙げればキリがありませんが、最近話題の
生成AIもこれらのテクノロジーの開発に有効に活
用すべきでしょうし、AIとかロボットをはじめ、
まだ見ぬ将来技術など、様々なテクノロジーの集大
成の先に答えが待っていることでしょう。

繰り返しますが、途方もないリスクも抱えることで
しょうから、関係企業の努力のみならず、国を挙げ
ての取り組みが必要不可欠ですが、最後は「人」で
あり、これらに果敢に取りくみ、新たなテクノロジ
ーを生み出す「人材」を“いかに育成するか”がカ
ギを握っていると考えます。次回、そのための「教
育」の現状や将来方向を取り上げてみましょう。


(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、
陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇
宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、
北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上
幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東
北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸
将)。日本製鋼所顧問を経て現在、至誠館大学非常
勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、
セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常
勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自
衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動
きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)



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