配信日時 2023/07/05 09:00

【 陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(17)】 東京湾防衛の要塞(5) 荒木 肇

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おはようございます。エンリケです。

「陸軍砲兵史」
の第17回目です。

「サンチ」が「センチ」に変わった経緯を
今回初めて知りました!

では今日の記事をさっそくご覧ください


エンリケ


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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(17)

東京湾防衛の要塞(5)


荒木 肇

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□はじめに

 梅雨の晴れ間といいますが猛暑にあぶられていま
す。毎日の気温の乱高下には合わせるのが難しく、
周囲には夏風邪をひいた人も多くいるようです。わ
たしもご多分にもれず、鼻と喉の痛み、咳の多発に
難儀しました。コロナではなく、風邪とのことで安
心もしましたが、咳と鼻水には苦しめられました。
皆さまもご注意ください。


▼日清戦争に備えて

 明治10年代後期ころから陸軍の台所は火の車で
した。朝鮮への清国の圧力は高まり、ロシアもまた
伝統的な南下政策はやむ気配もありません。山田朗
氏の『軍備拡張の近代史』によれば、1885(明
治18)年の一般会計は約6100万円、うち軍事
費は約1550万円で全体の約26%を占めていま
した。国民総生産の1.9%です。

 戦争準備には金がかかります。歩兵聯隊の数も1
878(明治11)年には15個に過ぎなかったの
ですが、1884年には3個、翌年には5個、その
次には1個が増設され、28個聯隊になりました。
各師団は4個歩兵聯隊で構成されますから7個師団
が準備されたわけです。1888(明治21)年に
は鎮台が師団になりました。


 この準備も大慌てで行なわれます。もともと18
82(明治15)年に立てられた軍備拡充計画は1
885年から行なわれるはずでしたが、計画の実行
が1881年に始まりだったはずが前倒しされて1
882年から10カ年計画で完成されることになり
ました。

 1889(明治22)年には徴兵令が改正されま
す。兵役区分を常備・後備・補充・国民兵役として
戦時動員の体制を整備しました。戦時には3倍以上
になる兵員を組織できるように計画します。

 師団の平時編制では人員9199名、馬匹117
2頭でした。3449名、馬匹33頭の歩兵旅団が
2個(1721名・馬匹14頭の歩兵聯隊2個で1
個歩兵旅団)、と騎兵大隊(3個中隊)、工兵大隊
(3個中隊)、輜重兵大隊(2個中隊)そして砲兵
聯隊(野砲大隊2個、山砲大隊1個。人員722名
・馬匹311頭)でできています。

 それが戦時編制になると師団総人員は約1800
0名と倍増します。馬も約5500頭と約5倍とな
りました。野砲兵聯隊も約1300名と増え、大架
橋(がきょう)縦列、小架橋縦列、そうして衛生隊
(約400名)、弾薬大隊(前同1500名)、野
戦病院等が戦時特設されました。


縦列というのは他にも輜重兵の糧食縦列などもあり、
小隊がいくつか集まった中隊規模の部隊です。架橋
縦列は戦場で橋を架ける工兵の専門部隊でした。弾
薬大隊というのは火砲や小銃の弾薬を補給する専門
の部隊です。砲兵将校に指揮された砲兵輸卒がおり
ました。

制度の改編とは大変なことです。装備が新しくなれ
ばその使い方や保守の教育が、用兵の改編があれば
指揮官の養成、下士兵卒の訓練などなどが必須にな
ります。

また、それまでは移動できる沿岸砲台と思われてい
た海軍も外洋戦闘能力を高めねばなりません。制海
権をとるために主要な艦艇は主に英・仏からの輸入
に頼りました。1871(明治4)年に海軍省が発
足したときには14隻、総排水量が1万2351ト
ンにしか過ぎなかった軍艦も、1883年から90
年までに42隻へと大増強という計画も立てられま
す。実際のところは予算不足で、そこまでは達成し
ませんでしたが、1894年の日清開戦時には軍艦
28隻で総排水量5万7600トン、水雷艇24隻
同1475トンを持つようになりました。

▼グリッロ砲兵少佐の来日

 強力な装甲を舷側に施した高速で動く敵艦に命中
弾を与えるのは、長砲身、高初速の加農が有利。装
甲が甲板には施されていない、もしくは軽装甲の艦
艇を撃つには擲射ができる大口径の榴弾砲が有利。
どちらもまっとうな理がありました。海岸要塞の主
な装備にはどちらが向いているだろうか、そんな論
争が続きます。

 また、同じ頃には国軍には国産兵器を装備すべき
という当然の主張をする人たちも多くいました。小
火器の歴史には高名な村田経芳(むらた・つねよし、
1838~1921年)が純国産小銃だった13年
式村田銃を1880年に制式化し、1885年には
改良型である18年式村田銃が完成します。

 そうして陸軍はイタリア陸軍のポンペオ・グリッ
ロ砲兵少佐を招き、新しい火砲の製造を学びました。
グリッロはしばしばグリローとされ、多くの文献で
はそう書かれています。ところがイタリア文化に詳
しい人によればグリッロというのが正しい発音だそ
うです。だから以後はグリッロという表記にします。

 グリッロ少佐は1843年にピエモンテ州に生ま
れ、砲兵としてイタリア独立戦争に参加し、火砲の
鋳造や設計に詳しい人でした。1884年2月にイ
タリアを離れ、わが国にやってきます。砲兵の指導
者であった大山巌は、「イタリアも長大な海岸線を
もち、沿岸防衛の難しさでわが国と共通点がある」
といい、イタリア軍と話し合った結果でした。

 ところで、火砲の歴史を学ぶと興味深い事実があ
ります。それは各国どこでも75ミリ前後の口径を
もつ砲を野砲とし、それより1段階上の口径の砲は
100ミリ、さらに大きな口径は150ミリ前後と
いう大きさになりました。

 日本陸軍も野砲は75ミリでしたが、列国がいう
15珊榴弾砲や15珊加農はそれぞれの口径は異な
ります。わが国の15榴(弾砲)や15加(農)は
149ミリでした。英国は6インチですからミリで
いえば152ミリ、ドイツは150ミリちょうどで
した。フランスは155ミリでした。アメリカはこ
れを導入します。英国式の6インチを採用したのは
ロシアでした。したがって1939(昭和14)年
のノモンハン事件で撃ち合った15糎(センチ)ク
ラスの重砲は、日本149ミリ、ソ連152ミリだ
ったのです。

 なお、1923(大正12)年に長さの単位の呼
び方がフランス風の珊(サンチ)から英語読みの糎
(センチ)に変わり、ついでに粍(ミリメートル)
などの国字ができました。メートル(米突)を表す
「米」篇をつけ厘・毛でセンチメートルやミリメー
トルを表記するとは工夫したものでした。

 したがってグリッロ少佐がイタリアのアンサルド
社の技術を応用して設計した有名な榴弾砲は、制定
時には「二十八珊榴弾砲」でしたが、昭和では「二
十八糎榴弾砲」と書かれるようになりました。

 

(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴

荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。

著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか─安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!─昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。


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