配信日時 2023/07/03 20:00

【我が国の未来を見通す(73)】 『強靭な国家』を造る(10) 歴史から学ぶ「知恵」の適用(その5) 宗像久男(元陸将)

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こんばんは、エンリケです。

本連載のアーカイブサイトができました。
https://wagamirai.okigunnji.com/

過去記事をすべて格納してますので、
ブックマークに入れ、折に触れ読んでみてください。


73回目の配信です。

第4編「『強靭な国家』をつくる」の
10回目です。

国史を省みると、時代を動かしてきたのは常に

「目覚めた少数」

の人たちでした。

横目使いの多数派が時代を動かしたことは
けっきょくありませんでした。

この連載を通じ、志を維れ新たにした少数の人が、
あすの我が国を導くことになる。

わたしはそう確信しています


では今日の記事、さっそくどうぞ


エンリケ



◆本連載のバックナンバーはこちらで
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我が国の未来を見通す(73)

『強靭な国家』を造る(10)
歴史から学ぶ「知恵」の適用(その5)



宗像久男(元陸将)

───────────────────────

□はじめに

ウクライナが反攻作戦を展開中の6月24日、ロシ
アで「プリコジンの反乱」が発生しました。民間軍
事会社「ワグネル」司令官のプリンコジンは、かね
てから国防省批判などを繰り返していましたので、
ロシアが“一枚板”でないことはわかっていました。

思い余った結果の決断だったものと推測しますが、
一時はモスクワに向かって進軍したものの、ベラル
ーシのルカシェンコ大統領の説得を受けて、プリコ
ジン氏は進軍を停止させ、ベラルーシに出国して反
乱はひとまず一件落着となりました。まだまだ先行
き不透明ですが、本事件は、今後、様々な形に発展
する可能性もあることでしょう。

そこで、まず不思議に思うことは、ロシアには「な
ぜこのような民間軍事会社が存在しているか?」で
す。現在、“雇い兵組織”はロシアの法律では認め
られていないようですが、このような民間軍事会社
は37あり、ウクライナ戦争には25の軍事会社が
参加しているといわれます。大統領に近いオリガル
ヒ(新興財閥)やショイグ国防相までも民間軍事会
社を立ち上げているようです。国防相が“私兵”を
持っているのですから驚きです。

日本では信じられないですが、これらの民間軍事会
社は何らかの形で国防省や治安機関FSBなど府側
と関わりを持っており、ワグネルに対しては、1年
間で860億ルーブル(約1400億年)もの資金
提供があったことをプーチン大統領が認めたように、
戦車や大砲まで所有しています。

このような民間軍事会社が活動している背景は3つ
あると言われています。まずは、兵員の補充の問題
です。不足する兵員を補充するために「国家総動員
令」を出すと国民の動揺や反発を恐れる政府側が、
その代わりに民間軍事会社を戦地に送り込むのです。
彼らはロシアの平均給与の数倍で雇われていますが、
“使い捨て”です。仮に多数の死傷者が発生したと
しても政府の責任は問われないのです。

第2には、クレムリン内の権力・利権争いです。今
回は、プリコジンがジョイグ国防相やゲラシモフ参
謀総長などの主流派を対立し、権力争いに野心を示
したことが、プーチン大統領の「裏切者」発言につ
ながっています。今回、ワグネル排除に動き出した
のも、プーチンの盟友が率いる国営企業ガスプロム
の“官製”民間軍事会社だと言われています。

そして第3には、プーチン体制が崩壊する時に備え
て、力ある政治家やオリガルヒたちが私兵部隊を整
え、自らの身の安全を確保するとともに、権力や利
権を奪取しようと目論んでいるというものです。

このような背景をよく知らず、日本の“常識”だけ
で、今回の反乱を分析すると様々なことを見落とす
でしょう。ワグネルがモスクワに向かって前進して
いる時、多くの市民が彼らを歓迎していた映像が映
し出されていました。もちろん、プーチン大統領や
政府首脳もそれらの映像を観たことでしょう。

そこから先は、ルカシェンコ大統領の出番でしたが、
まず“沈静化”を最優先したのでしょう。説得が成
功するや、プリコジンとワグネル兵士を“別扱いす
る”深夜の政治声明も発せられました。

今回の「プリコジンの反乱」がウクライナ戦争にい
かなる影響を及ぼすか、について現時点における安
易な予測は禁物ですが、歴史をたどれば、日露戦争
時、明石大佐などが暗躍し、やがてロシア革命に至
るロシア帝国内の動揺(1905年)、第1次世界
大戦時の「ロシア革命」(1917年)、それに冷
戦崩壊後のエリツイン元大統領らによる「モスクワ
騒乱事件」(1993年)など、戦時下などで時の
政府の混乱に乗じて体制が大きく変わるという歴史
を有しているのがロシアであることは間違いないで
しょう。

「歴史は繰り返す」のか、そのような事態を熟知し、
最も警戒しているプーチン大統領は、反乱が拡大す
ることを恐れ、眉間にしわを寄せたまま、2度の政
治声明を国民に向けて発出したのでした。

ここから先は推測ですが、無事にベラルーシに入国
したプリコジンを、KGB残党のプーチン大統領が
そのまま見逃すはずがないとみるべきでしょう。プ
リコジンが生き延びるためには、再びプーチン大統
領に忠誠を誓い、それを証明しなければならないと
考えますが、そのチャンスがあるかどうか不明です。
一枚板ではないロシアの中に、いつか再び「プリコ
ジンに続け!」との“流れ”が拡大する事態もない
わけではないでしょう。そうなれば、ロシア国内の
“内部崩壊”事態が急展開して、ウクライナ戦争の
行く末に決定的な影響を及ぼす可能性は残っている
と考えます。

後々、ウクライナ戦争を振り返る時に、このたびの
反乱がどのような地位と役割を果たしたことになる
か、についても現時点は不明でしょう。私自身は、
何としても政権にしがみつき、本戦争の目的を達成
したいとするプーチン大統領が“さらなる強硬手段
に訴える”可能性がまた一段上がったことを最も懸
念しています。


▼「健全な国民精神の涵養」の必要性

本題に戻しましょう。歴史から学ぶ4つの「知恵」
の4番目は、「健全な国民精神の涵養」です。書籍
でも紹介していますが、イギリスの歴史家トーマス
・カーライルの名言として「この国民にしてこの政
府あり」とあるように、いかなる国であっても、政
府は、国民精神の “縮図”と考える必要があります。

書籍の中で私自身は、健全な国民精神とは、愛国心、
誇り、道徳、文化、歴史などを含む日本の「心」と
表現していますが、一般的な意味での国民精神は、
「民意」と表現される場合が多く、国民の自覚とか
教養とか主義思想とか、あるいは国民のレベルなど
を総称しているものと考えます。

諸外国には、この「民意」などが入る余地がない国
もありますが、特に、国民が「主権者」である民主
主義国家は、制度の違いこそあれ、国民が自分たち
の代表として政治家や政府を選び、国民の負託を受
けた政治家が法律を作り、政府が政治(行政)を行
なうというシステムですから、少なくとも大多数の
国民の精神は即、政治に反映されます。

ただそのような見方だけでは不十分との考え方もあ
るでしょう。もう少し広い意味で、あるいは長い歴
史の中で、国民精神が基軸となって、国家の伝統や
国柄など「国の統治制度」にまで反映されてきてい
ると考える必要があります。

天安門事件をきっかけに中国と縁を切って日本に帰
化した石平氏は次のように述懐しています。「世界
の現実が『国家の興亡』、つまり栄えては滅びると
いう繰り返えしを行う中で、1系の王朝が3千年近
くも続いている国は、最も国家運営に成功してきた
国に他ならない。世界史の中で最も成功した国が日
本である」(『新しい日本人論』〔加瀬英明、ケン
ト・ギルバート、石平共著〕より)。

その上で、「『民主主義は、戦後にマッカーサーが
日本にもたらした』と大それた虚言を弄する者がい
る。とんでもない。日本の民主主義は、高天原の神
々が『天降って』もたらしたものである」(原文の
まま)として、その源流は、日本の神話は「八百万
(やおよろず)」神が共生する世界であり、ものご
とを進めるにあたり、数えきれない神々が「神議り
(かむばかり)」といって、議論をして意思決定を
することにあると解説します。

余談ですが、この「神議り」は、現在は、毎年10
月、出雲地方に全国の神々が集まって人生諸般のこ
とが議論されるという神話になっています(それゆ
えに、旧暦月で10月は「神無月」ですが、出雲地
方では「神在月」と呼称されています)。

そして、このような我が国の建国以来の伝統が、
「神武創業」に立ち返ることを目指した明治維新の
『五か条のご誓文』中で「万機公論に決すべし」と
して復活したのでした。わずか150年ほど前の出
来事ですが、多くの日本人の頭に中に残っていない
ことでしょう。このような「事実」について、帰化
人である石平氏に指摘されることは、改めて恥じ入
るばかりなのです。

石氏は、その根本精神は「平等感」にあるとして、
「栄華を極め、世界の富を集めたような王朝もその
不平等のゆえに滅びの道に至った。搾取される側が、
搾取した者を打倒しようとするからである」と補足
し、「日本の天皇は、蓄財や贅沢をしたことがなく、
常に民衆のことを思って、出来る限りの質素を望ま
れた。だから天皇を打倒しようとする機運はついぞ
国の中からは起こらなかった」と続きます。

このくらいにしておきますが、私たち日本人は、長
い間、このような我が国の伝統や国柄を国民の総和、
つまり「民意」として(少なくとも戦前までは)受
け入れてきたのでした。

さて、現在はどうでしょう。シリーズ「我が国の歴
史を振り返る」の最後の方で紹介したのですが、あ
る時、インターネットで日本人の“現状”を揶揄っ
ている次のような言葉を見つけ、私自身は「あなが
ち間違っていないだけに笑えない」と感じつつ、
「“戦後の日本人はなぜこうなってしまったのだろ
うか”としばらく考え込んでしまった」と補足した
フレーズがあります。

「(1)政局と選挙しか考えない政治家、(2)保身と省
益しか考えない官僚、(3)儲けることしか考えない経
済人、(4)視聴率と特ダネしか考えないマスコミ、
(5)目立つことしか考えない言論人、(6)権利のみ主
張し、義務を果たさない国民、(7)3メートル以内し
か関心がない若者」です。

石氏の主張するような精神が、多くの日本人の根底
に残っていると信じてはいますが、日本人の普段の
「行動原理」として、ここで揶揄されているような
特性を無視することはできないとも考えます。

最近、出生率0.81の韓国について、その原因は
「子供の数が少なければ少ないほど、高い消費水準
と外見的にモダンな生活水準により早く達成できた」
「短期間で先進国のモデルに追いつこうとすれば代
償は避けられない。強いられる近代化の加速が文化
的なひずみを生み、そのひずみの一つが出生率の低
下だ」(『ドット人類史入門』〔エマニエル・ドッ
ト、片山杜秀、佐藤勝共著〕より)とする分析を目
にしました。

しかし、このような“現実”はけっして韓国だけで
はなく、我が国もさほど差がないのでは、考えてい
たところ、本書の中で、ドットは「日本は、『直系
家族社会』がまだ残っているから韓国とは違う」と
の解説していました(細部は省略します)。

ただ、“3メートル以内しか関心がない”と揶揄さ
れるような若者たちの多くは、現在の生活水準や自
分たちの将来などには関心があっても、地域や社会
や国家に対して自分たちが何をできるか、何をしな
ければならないか、などについては、親からも学校
でも教わる機会がなかったこともあって、頭の片隅
にもないことでしょう。

私は、それが我が国の少子化の原因のひとつと考え
ていますが、その延長で、「明日食べる物がなくな
る」とか「エネルギーが枯渇する」との危機意識な
どについて、微塵にも感じたことがないのかも知れ
ません。

“権利のみ主張し、義務を果たさない”国民も巷に
溢れるようになりました。その結果、「愛国心」と
か「自国民であることの誇り」とか「国を守る気概」
などのような、どこの国民でも必ず保有している当
たり前の精神をどこか遠くに置いてきたような状態
になっているのではないでしょうか。

これらから、本シリーズでも再三指摘してきました
が、我が国の未来に立ち込める「暗雲」に対して果
敢に取り組むため、上記のような現代日本人の精神
的特性が“阻害事項”になっていないだろうか、と
どうしても考えてしまいます。

そして、本来、少子高齢化、食料問題やエネルギー
問題などについて、いち早くその本質を解明し、我
が国の置かれた状況を真剣に国民に訴え、国民の自
覚や協力を促すために、国民の先頭に立って「旗振
り役」を演ずべき政府や政治家の行動が、やはり
“政局と選挙が優先する”のか、その熱意や真剣さ
が国民に伝わっていないような気がします。

そればかりか、脱炭素とかSDGsなど、「国連が
先導している」として、その必要性や可能性などに
ついてロクに分析しないまま“垂れ流し”にしたり、
最近の事例では、少子化対策に逆行するような法律
についても政局の混乱の回避のみを優先したまま、
後先を考えずに制定したりしているように見えます。
前回、「部分最適」の話題を取り上げましたが、総
合判断ができないから、それらに対処するための
“共通の要素”があることなどに気がつかない、そ
して優先順位を間違えるから、国を挙げてやるべき
ことから“ずれて”しまう、よって国民は、これら
の問題対処を「自分のこと」として、言葉を代えれ
ば、「国民の義務」として腑に落とすレベルまで真
剣に理解していないような気がします。

少子化対策や農業問題などの解決は、“若者の3メ
ートル以内に、いかにパンチを聞かせ、納得させ、
その気にさせるか”にかかっていると考えますが、
現実はほど遠いような気がします。そこにこそ、我
が国の将来がかかっていると思うだけにとても残念
です。

▼国民が“覚醒”する時来たり

実は、石氏はもっと広く日本のあり方を観ています。
つまり、「日本のあり方が『今後、世界が存続して
ゆけるか』という厳粛なテーマの『解』を示してい
る」として、「世界で最も成功した国・日本がその
『秘密』を内包している」と強調します。

つまり、我が国が「平等感」を基軸にして「万機公
論に決すべし」として3千年近くの長きにわたり国
家運営を成功させてきた、その秘訣こそが、“これ
からの世界の存続に必要不可欠”と説いているので
す。私たち日本の未来に立ちはだかるであろう「暗
雲」を見事に乗り超えることは、日本だけの問題で
なく、世界の存族にまで影響を及ぼすと言えるのか
も知れません。責任は重大なのです。

日本は少子高齢化においては世界の最先頭を走って
いますし、食料やエネルギーの自給率では先進国で
ほぼワーストに位置しています。よって、これらの
危機を乗り越えることは、まさに世界のロールモデ
ルとなることでしょう。事実、『ライフ・シフト』
(リンダ・グラットン他共著)の冒頭でも「世界で
いち早く長寿化が進んでいる日本は、他の国々のお
手本になれる。(中略)世界の先頭に立ってほしい」
と期待が述べられています。

我が国がこれらを見事に乗り超えるためには、何と
しても、大多数の国民の“覚醒”が必要不可欠と考
えますが、“いかに覚醒するか”が難題中の難題で
あり、「任重く道遠し」との感をぬぐい切れません。
数年前からそのような問題意識を持っていた私は、
悩んだ果てに、今の日本人の精神を形成した「出発
点」に戻り、そこから出直すのが最も近道で、かつ
唯一の道ではないか、と考えるようになり、“我が
国の歴史を取り戻す”ことを狙いに、「我が国の歴
史を振り返る」と銘打ってメルマガを発信したこと
をよく覚えています。

戦後70年余りが過ぎましたが、私たちは自らの精
神などについて一度も顧みることなく、手つかずの
まま放置してきました。そのツケが一挙に噴き出し
たのが“今日”であり、我が国の“近未来”であろ
うと思います。

戦後世代の私たちは、長い日本の歴史の中で最も恵
まれた世代であると考えます。多少の天変地異はあ
りましたが、飢餓とか戦争などとは無縁でした。と
は言え、「後世のために、後に続く子孫のために、
必要なことを行ない、必要なことを残しているか」
と問えば、答えは「ノー」でしょう。このままでは
後世に顔向けできないでしょう。国家を挙げて、世
代を挙げて、様々な問題を「自分のこと」として真
剣にかつ全力をもって取り組む時が来た、と私は考
えます。

残された時間があまりないような気がしますが、早
期実現を目指すためにも、次回以降、歴史から学ぶ
4つの「知恵」から離れ、「『強靭な国家』を造る」
その必要性と手段について読者の皆様と一緒になっ
て考えつつ、本シリーズを総括したいと思います。
いよいよ終盤です。


(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、
陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇
宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、
北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上
幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東
北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸
将)。日本製鋼所顧問を経て現在、至誠館大学非常
勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、
セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常
勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自
衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動
きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)



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