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こんばんは、エンリケです。
本連載のアーカイブサイトができました。
https://wagamirai.okigunnji.com/
過去記事をすべて格納してますので、
ブックマークに入れ、折に触れ読んでみてください。
71回目の配信です。
第4編「『強靭な国家』をつくる」の
8回目です。
わが民間が創り出す画期的な技術や発明を、
きちんと理解、保護できる日本でありたい
ものです。
では今日の記事、さっそくどうぞ
エンリケ
◆本連載のバックナンバーはこちらで
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ご意見・ご感想はコチラから
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我が国の未来を見通す(71)
『強靭な国家』を造る(8)
歴史から学ぶ「知恵」の適用(その3)
宗像久男(元陸将)
───────────────────────
□はじめに
この度の自衛官候補生による発砲事件は、自衛隊を
退職して14年も過ぎた一OBの立場からしても、
とてもショックで、心が痛み、やるせない気持ちに
させる事件でした。言うまでもなく、たとえその動
機がいかなるものであっても、武器の使用が認めら
れている自衛官が万が一にも絶対に起こしてはなら
ない事件であるからです。
犠牲になられた二人の隊員に心よりご冥福をお祈り
申し上げますとともに、負傷された隊員にお見舞い
申し上げます。陸上自衛隊は調査委員会を立ち上げ
たようですので、警察の調査と協力して、事件発生
に至る原因と様々な角度から背景の解明、そして再
発防止を徹底してもらいたいと願いながら、それら
の全容が明らかになるのを見守りたいと思います。
この事件によって、全国津々浦々の自衛官たちの意
気消沈は想像を超えていると思いますが、事件の影
響により、陸上自衛隊が前向きのエネルギーを失い、
組織力の低下につながることがないよう切に祈りた
いと思います。
▼「相応の力を持つ」――気候変動・エネルギー問
題
話題を戻しましょう。現下の情勢から、“最悪”の
事態を視野に入れて、「相応の力を持つ」ことは、
エネルギー問題にも求められることは間違いないと
考えます。つまり、エネルギーの自給率を向上する
など、未来永劫にわたるエネルギーの安定確保体制
を維持することが求められています。
確かに、国際社会を挙げて気候変動対策が求められ
ていることから、2050年まで地球上の「脱炭素」
を推進するとしても、それまでの過度期にあっては、
再生エネルギーの供給不安定性と化石燃料の供給不
足、そしてそれに伴う価格高騰が経済不況やスタグ
フレーションと重なって、エネルギー争奪戦を引き
起こすリスクがあるといわれています。
現に、ウクライナ戦争の結果、そのような“悪夢”
がすでに現実のものになっていますが、米国コロン
ビア大学のジェイソン・ボードフ教授らはこの過度
期のエネルギーをめぐる新たな地政学を「グリーン
大動乱」と呼称して警鐘を鳴らしています。
このたび、我が国においても「GX(グリーントラ
ンスフォーメーション)」を推進するための法律が
可決されましたが、その目標に向かいながらも今後
30年間近く、化石燃料と原発と再生エネルギーの
最適な組み合わせに加え、世界に先駆けたエネルギ
ー分野の「イノベーション」も求められることは必
定です。
その意味では、先のG7広島サミットにおいて、
(あまり話題にはなりませんでしたが)日本の主張
が他の6カ国と違っていたにもかかわらず、それが
反映された声明がありました。まずは「脱炭素」化
の手法です。焦点となっていた石炭火力発電の廃止
時期が盛り込まれず、石炭火力にアンモニアを混ぜ
て燃やしCO2排出量削減を図る「アンモニア混焼
の導入」が掲載されました。英国やカナダなどが
「それではCO2削減効果が不十分」と批判する中
で、日本の主張を反映されたのです。
また、電気自動車など走行中にCO2を排出しない
ゼロエミッション車(ZEV)の数値目標導入をめ
ぐっても米国や英国と日本の意見は対立しました。
これらの背景に、我が国は太陽光発電などの適地が
少なく再生エネルギー発電を増やしにくいという事
情があるに加え、アンモニア混焼や低燃費車の技術
はG7の中で日本が最も優れていることから、我が
国には珍しく、安易な妥協に踏み切らなかったので
す。
「グリーン大動乱」も予想される中にあって、エネ
ルギー自給率の低い我が国が最優先すべきは、
(「脱炭素」の早急な達成よりも)“安定的なエネル
ギー源の確保”にあることは論を俟ちません。この
たびのG7サミットにおいて、我が国は、国の向か
うべき方向を明確にしたことは評価できると私は考
えます。
加えて、私自身もこの技術については最近詳しく知
ることになったのですが、読者の皆様は「ペロブス
カイト太陽電池」という名前をご存じでしょうか。
厚さ1マイクロメートル(0.001ミリメートル)
ほどの極薄のフィルムに「ペロブスカイト」と呼ば
れる結晶の構造をした物質を塗ることで太陽光を電
気に変えることができるという“優れモノ”で、桐蔭
横浜大学の宮坂力特任教授が発見した日本発の技
術です。
このフィルムは、従来の太陽光パネルに比べて厚さ
100分の1、重さが10分の1と薄くて軽い上に柔軟性に
優れているため、折り曲げて設置することができ、
これまでは重さがネックとなって設置できなかった
ビルの壁面や建物の屋上、さらに曲面の部分にも貼
り付けることができます。
実は、もっと重要なことがあります。「ペロブスカ
イト」という結晶構造の主な原料はヨウ素だという
ことです。我が国の国土の地下にはヨウ素を豊富に
含んだ地下水があり、ここからヨウ素を取り出すこ
とができるため、我が国はチリに次ぐ世界2位のヨウ
素生産国になっています。つまり原料を国内で調達
できるということです。よって、これが広く普及す
れば、我が国は、再生エネルギーに関して、現在の
ように“生殺与奪の権利”を外国に握られないです
むのです。
ただ、残念ながら、実用化まではまだ少し時間がか
かるようです。特に、現時点ではフィルムの劣化が
激し過ぎて、すぐ使い物にならなくなるとのことで、
フィルムを保護する技術の実用化が急がれています。
現在、関係企業、大学、東京都などが連携して世界
に先駆けて実用化を目指していますが、諸外国も最
優先して国家投資を行ない、実用化に向けてしのぎ
を削っています。宮坂教授に言わせると、「我が国
と諸外国では開発費の投入に雲泥の差がある」との
ことで、この分野の「人材育成がカギ」と述べて
“現状”に不満を漏らしています。
岸田総理も先日、テレビで「ペロブスカイト太陽電
池」という名前を口にされていましたので、その存
在はご存じなのでしょう。そうであれば、他に優先
して、政府が率先して実用化に向けた最大限の投資
をすればよいと誰もが考えますが、政府が本気にな
っているという声は聞こえてきません。
我が国は再生エネルギー分野においては悲しい歴史
があります。従来の太陽光パネルにおいて、我が国
は2000年代前半まで世界トップのシェアを誇っ
ていたのですが、中国との価格競争に敗れて次々と
撤退し、すでに紹介しましたように、今では世界シ
ェアの大半を中国に奪われてしまったのです。
それだけに、関係者は日本発のフィルム型太陽電池
で巻き返し、世界の新たなスタンダードを作りたい
と意気込んでいるようですが、私自身は、先日のテ
レビで、宮坂研究所がその製造プロセスを惜しげも
なく“公開”していたことに疑問を感じながら見入
っていました。
この“脇の甘さ”も重なって、またしても、我が国
発祥で、純国産の原料で実用化が可能な「ペロブス
カイト太陽電池」においても、中国など他国に追い
抜かれ、“後れを取る可能性がある”と言わねばな
らないのです。
ウクライナ戦争や米中の対立などで原材料のサプラ
イチェーンや供給網の強化が課題となっている中、
経済安全保障の強化という観点からも国策として
「ペロブスカイト太陽電池」の早期実用化に向かっ
て万全を期すべきと考えます。
気候変動、なかでも「脱炭素」政策に関する実行の
可能性や問題点などについてはすでに詳しく触れま
したので省略します。先日、エネルギー分野で仕事
をした経験を有する有識者と率直な意見交換をする
機会がありました。私が「我が国のエネルギー自給
率は12%」と述べると即座に「原発の再稼働がな
ければ、4%のみ」と即答され、改めてその厳しい
実態に驚愕しました。
2010年代以降から今般のウクライナ戦争に至る
間に、フクシマ、CO2、自然の気まぐれ、ロシア
のリスクまで、原子力、石油・石炭、再生エネルギ
ー、天然ガスのいずれのエネルギー源も大きなリス
クを露呈しました。このことは、すべての熱源や電
源をバランスよく使用しなければ、エネルギーの安
定確保は持続しないことを意味しており、このたび
人類は、ドイツをはじめとする欧州列国のように、
“エネルギーの安全保障なしに「脱炭素」の取り組
みは挫折する”ことを学びました。
エネルギー資源小国の我が国にとっては、この事実
がさらに重くのしかかることは自明です。エネルギ
ー分野においても、「相応の力を持つ」ために、ゆ
めゆめ“策の優先順位”を間違えないことが肝要で
す。
そのためにも、様々な分野の基金の乱立を見直すと
ともに、「脱炭素」に向けて15兆円もの税金を投
入して、“バラマキ”のような政策を即刻中止して、
これまで触れたような「原発再稼働」「核融合技術」
などに加え、「ペロブスカイト太陽電池」の実用化
など、“我が国の存立を左右する”「イノベーショ
ン」に特化して、国策として取り組むべきでしょう。
当然ながら、これらの技術は、結果として「脱炭素」
にも貢献し、国際社会に対する約束も果たすことが
できるため、国内外への説得力は確保できると考え
ます。政府の決断と政策の早期実行や望まれます。
次回以降、歴史から学ぶ「知恵」の3つ目である
「時代の変化に応じ、国の諸制度を変える」という
“難題”について、我が国の未来に向かっていかに
適用するか、について考えてみましょう。
(つづく)
(むなかた・ひさお)
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【著者紹介】
宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、
陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇
宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、
北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上
幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東
北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸
将)。日本製鋼所顧問を経て現在、至誠館大学非常
勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、
セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常
勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自
衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動
きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)
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