配信日時 2023/06/14 09:00

【陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(14)】東京湾防衛の要塞(2) 荒木肇

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おはようございます。エンリケです。

「陸軍砲兵史」
の第14回目です。

冒頭の弾薬のお話、実に勉強になりました。

本文も実に面白い内容です!

さっそくご覧ください


エンリケ


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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(14)

東京湾防衛の要塞(2)


荒木 肇

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□信管と弾の話

 砲弾には多くの種類がありました。今後も出てく
るのでおおよその説明をいたします。榴弾、榴霰弾、
破甲榴弾、堅鉄弾、徹甲弾、尖鋭弾、曳火榴弾、発
煙弾、照明弾などなどとさまざまな砲弾があります。
「甲」というのは装甲鈑を指しました。強い鋼鉄の
板のことです。破甲、まさに装甲を破る、徹甲弾、
これも装甲を貫徹するなど名前からその期待される
性能が分かります。尖鋭弾というのは、弾の先端を
とがらせて空気抵抗を少なくし、射程を伸ばすよう
にしたものでした。

 これらには炸裂させる火薬(炸薬といいます)が
入っていますが、この炸薬に望み通りのところで点
火して轟爆させる装置のことを信管といいます。こ
れが弾の先端部分についていれば弾頭信管といい、
弾の内部で後方に置かれているのが弾底信管です。

 機能から区別すると空中で炸裂させる曳火信管、
目標にぶつかって炸裂させるものを着発信管といい、
この両方ができるものを複働(ふくどう)信管とし
ます。着発信管の中にも衝突の瞬間に機能する瞬発
信管、少し遅れて機能させる短延期信管の2種類が
あります。

 この信管はすべて火薬が燃える時間を利用したも
のでした。これを薬盤(やくばん)信管といいまし
た。また、機械的に時計のように働くものを機械信
管といいます。これが第2次世界大戦になると電子
装置を使った近接信管というものも現われました。

 曳火信管は榴霰弾に使われます。大きな筒の中に
たくさんの子弾が入っています。その子弾が黒色火
薬の爆発で斜め下に飛んでいきました。発射してか
ら目標位置に着くまでの時間をあらかじめ設定して
おけば目標上空で炸裂し、内部の子弾は束になって
地上に降り注ぎます。露出した人馬は掃射されまし
た。盛んに使われたのが第1次大戦までです。天蓋
のある陣地や、塹壕にこもり鉄帽(てつぼう・ヘル
メット)をかぶった敵兵には有効ではなく、砲弾は
榴弾が主流になっていきました。

 榴弾には瞬発信管と短延期信管が使われます。文
字通り、瞬発信管は堅い物にあたればすぐに炸薬を
起爆します。短延期信管は目標にあたってからごく
短い時間、作動しません。これは加農で平坦な場所
にいる目標を射撃するとき、あえて目標の少し前に
砲弾が落ちるように撃ちました。すると砲弾はバウ
ンドして敵の頭上で炸裂します。榴弾はその破片そ
のものが殺傷、破壊効果を期待しますから、榴霰弾
のような効果があるのです。

▼英国海軍装甲艦ウォーリア

 1859年に進水したフランス海軍グロワールと、
翌1860年に進水した英国海軍ウォーリアの違い
は何かといえば、その構造でした。グロワールは木
造の艦体に鉄板を覆っただけなのに対して、ウォー
リアは鉄製艦体に装甲をほどこした最初の軍艦にな
りました。

 厚さが114ミリにもなる装甲鈑の下には、厚さ
45センチのチーク材が重ねられて、それを厚さ2
5ミリの鉄製の艦体にボルト付けされました。また、
武装も強力で木造軍艦では一般に32ポンドのカノ
ンを装備するのが普通でした。それが68ポンド砲
と110ポンドのアームストロング砲を採用してい
ます。

 ウォーリアとその姉妹艦であるブラック・プリン
スは、たちまち世界の最強艦となりました。英国は
以後、木造軍艦を造らなくなります。アメリカ合衆
国海軍もそれにならって1863年には鉄製艦体の
軍艦ミシガンを就役させました。

 さらに1870年代には鉄製の艦体から、より軽
量で強度も高い鋼鉄製艦体への進歩が急速に進みま
す。このときもフランス海軍が先駆して1876年
にルドゥタブルを就役させました。

 このころわが日本海軍も初めて英国から軍艦を買
い入れます。竣工したのは1878(明治11)年
のことでした。帆がなくなり、石炭専燃缶4基を備
え、機関出力3500馬力、速力13ノット(約2
4キロメートル)、武装も24珊20口径単装砲4
門、15珊40口径単装砲6門、47ミリ単装砲4
門ほかでした。排水量は3776トン、全長約65
メートル、幅14.6メートルというなかなかのも
ので、清国海軍がドイツから「定遠」、「鎮遠」を
購入するまでアジアでは唯一の近代装甲艦です。

 1870から80年代のわが国要塞の備砲論争は、
侵攻する敵艦の能力をどのように想定していたかを
踏まえたものであったことが大切です。

▼艦砲と装甲

 1853年のシノープの海戦では、ロシア軍艦の
炸裂弾によってトルコ軍艦は次々と沈められました。
それまでは鉄製の球形弾丸を高速で木造艦体にぶち
あてて、艦体そのものを破壊していました。あるい
は艦尾から砲列甲板を掃射して敵砲や乗員を殺傷す
る戦いがふつうでした。だから大型艦はより大きな
重い艦砲、しかも平射カノンを多数備えていたわけ
です。そうした流れを変えたのはロシア艦が撃ちだ
した炸裂弾でした。トルコ艦の木造艦体をぶち破る
と、次々と内部で炸裂したのです。

 これを学んで鉄製装甲艦が登場すると、装甲板を
貫通させるためにより大きく、威力のある艦砲が生
まれます。ところが、当時の艦砲は発砲後の後退を
ブリーチといわれた太いロープで止めるものでした。
砲手は砲の後退をよけて、砲が停止した後にロープ
を人力で引き戻していたのです。装填のたびにこれ
を行なうのが難しくなりました。

 また砲身も改良がされます。滑腔砲から施条砲へ
の進化です。施条はいいことだらけでした。弾速も
あがり、直進性も高まり、貫徹性も向上します。し
かし、前装では難しく、砲尾から装填する後装砲が
主力になってきます。

 フランスの砲兵将校アンリ=ジョセフ・ペクサン
は1823年に炸裂弾が発射できる初めての艦砲を
開発しました(『世界史を変えた50の船』)。平
射カノン砲ともいわれたようです。地上戦の炸裂弾
は多くが擲射でした。砲弾を高く撃ちあげて落下さ
せたのです。ところが艦砲では直線的な弾道をとり、
高速で敵艦の横腹に撃ち込むことが必要とされます。

 ペクサンは「信管」を発明して、標的にぶつかる
まで起爆しないように炸裂弾を安全なものにしたの
です。シノープの海戦でロシア軍が使ったのは、こ
のペクサン砲といわれる後装式の艦砲でした。


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴

荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。

著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか─安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!─昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。


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