配信日時 2023/06/07 09:00

【陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(13)】 東京湾防衛の要塞(1) 荒木肇

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当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
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おはようございます。エンリケです。

「陸軍砲兵史」
の第13回目です。

面白いですねー!

こういう歴史を知ることで、
当時の人が見ていたもの、考えていたことを
追体験でき、今と比べられる時間が楽しくて
たまりません。

さっそくご覧ください


エンリケ


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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(13)

東京湾防衛の要塞(1)


荒木 肇

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□はじめに

 大雨災害です。各地に被害が出ました。交通網も
さまざまな支障があります。皆さま、いかがでしょ
うか。

 今回はアメリカ合衆国の東インド艦隊の江戸湾侵
入の恐怖と「黒船」の衝撃、その結果の防備体制の
強化を見たいと思います。合わせて当時の軍艦につ
いても調べてみました。


▼ペリーの恐怖

 アヘン戦争(1840~42年)の情報が幕府に
伝わったのは、天保11年といいますから開戦から
すぐに汽走武装砲艦ネメシスなどの活躍も知られた
ことでしょう。残された絵には木造の中国軍船が破
壊されて炎上している場面などがあります。

 ペリー提督が江戸湾に侵入し、品川沖から砲撃を
するジェスチャーを見せたのも、当時のわが国には
射程2キロにもなる大型砲がなかったからでした。
もともと幕府自身は大坂の陣(1614~15年)
では城を砲撃し、天草の乱(島原の乱ともいう16
37~8年)ではオランダ船からの砲撃を行なうと
いう火力重視の考えをもっていました。また、名古
屋城の図面などを見ても、防衛用の大砲が多く配備
されていたことも明らかです。


それが、大坂の陣の後には十貫目玉(弾量37.5
キロ、口径約180ミリ)以上の大型砲の開発・保
有を禁じます。おかげで、幕末の頃には2貫目玉
(弾量7.5キロ、口径107ミリ)を使う青銅砲
を造る技術しかありませんでした。

先にも述べたように、この頃長崎の町役人、高島秋
帆はオランダ製の大砲や小銃を買い集め、門人たち
と研究、訓練に励んでもいました。西洋流の砲術、
部隊行動を見せましたが幕府首脳はこれを認めず、
それどころか秋帆を罪人としてしまいます。当時は
新しいものを紹介し、政策について意見をいえば
「ご政道に口をはさむ無礼者」とされていたからで
す。ちなみに秋帆を罰したのは、教科書にも載る天
保の改革の推進者である老中水野忠邦(1794~
1851年)でした。

興味深いのは、水野はこれまでの「無二念打払令
(むにねんうちはらいれい)」を廃止し、「薪水
(しんすい)給与令」を出しています。外国船が近
づいたらとにかく撃退してしまえという方針を止め
て、人道的な対応をせよというわけです。話し合い
で解決するが、それなりの防備も施しておこうとい
う考えだったのでしょう。江戸湾の防衛にも関心が
なかったわけではなく一応の情報収集もしていまし
た。

江戸湾の防備状況を調べたのは幕府高官鳥居耀蔵
(とりい・ようぞう。1796~1873年)です。
鳥居は知行7500石の大旗本、彼はその養子です。
高名な儒学者林述斎の第7子でした。1839年に
は目付(めつけ)に昇進し、漢学の素養の深さや詩
文作成の能力が評価されていました。

思想的にはとことん攘夷に固まっています。「復古、
士道作興」を掲げる忠邦に忠実で、江戸町奉行にな
ってからは蘭学を弾圧し、町民生活をおびやかす妖
怪(ようかい)として嫌われました。耀蔵の「よう」
と叙任して甲斐守(かいのかみ)と名乗ったので
「よう・かい」とあだ名をつけられたのです。

この耀蔵が伊豆半島の防備状況を視察する正使とな
ります。副使は代々伊豆韮山代官を務める江川太郎
佐衛門秀龍でした。江川は洋式の反射炉建設の途中
ですが、耐熱煉瓦や高火力のコークスも入手しにく
くたいへん苦労をしていました。


もちろん手本はオランダからの書物です。江川の弟
子たちは測量技術なども「蘭式」を採用していたの
で、鳥居はこれをひどく不快としました。鳥居の悪
意のこもった報告により、江川の反射炉には幕府予
算も投じられず、これによって技術進歩はとどこお
ってしまいました。

それでもペリー来日の2年前には佐賀藩主鍋島直正
(なべしま・なおまさ、閑叟と号する、1815~
71年)に協力して佐賀に反射炉を完成させました。
ただし、この反射炉でも生産量は乏しく、大量生産
はできませんでした。こうして江戸湾の防備はほと
んどないままにペリーの来航を迎えてしまったので
す。

▼黒船は鉄船ではなかった

 よく言われた誤解があります。黒船とは鉄板の色
のことであり、アメリカ海軍は装甲した艦でやって
きた。それに対して幕府には鉄製のソリッド(実体)
弾しかなく、交戦することなどできなかったという
話です。中には「石火矢(いしびや)」という用語
から、削った石の弾丸を撃ちだす大砲しかなかった
という迷解説も読んだことがありました。

 実際は米国海軍軍艦が黒かったのは防水、防腐に
役立つ瀝青(れきせい)、あるいはチャンと呼ばれ
た塗料が塗られていたのです。瀝青とは天然のアス
ファルトやコールタール、ピッチなどの総称になり
ます。また、石火矢というのも16世紀から17世
紀にかけて用いられた前装滑腔砲のことでした。

 では、舷側に鉄板を張った装甲艦はいつ、どこで
戦場に出たのでしょうか。『世界史を変えた50の
船』(イアン・グラハム、原書房、2016年)を
見ますと、フランスの大型軍艦グロワールが世界最
初の「鉄甲艦」であるとされています。

 1853年、ペリーの来航の年のことです。クリ
ミア戦争のシノープ海戦でロシア軍艦はトルコ艦隊
をせん滅します。トルコ海軍の軍艦は木造艦でした
から、ロシア軍艦の炸裂弾を浴びて次々と沈んでい
きました。木造の艦体を簡単に貫いた砲弾は艦内で
爆発します。ロシア海軍の備砲は内部に施条があり
長くとがった榴弾を使い、先端には信管が付いてい
たのです。

 フランスはただちにそれまでの装甲された浮き砲
台を改良し、航洋能力のある鉄製装甲艦を開発しま
す。当然、装甲のせいで船体重量は大きくなり、動
かすためにはより強力な蒸気機関が必要です。艦は
大型になりました。1859年に進水し、翌年艤装
を終えて就役したグロアール(栄光)は世界で最初
の航洋鉄甲艦でした。この航洋、つまり航海するこ
とができることが重要です。それは「浮き砲台」の
ような非航洋型の船とは異なるからです。

 フランスのツーロンで建造されたこの艦は排水量
5720トン、全長約78メートル、3本のマスト
についた帆と2500馬力の蒸気機関を備えていま
した。木材の外側に錬鉄製の板を張っています。厚
さ66センチの木材を最大で120ミリの鉄板で覆
うようになっていました。この鉄板は艦の舷側と喫
水線の下1.8メートルまで張られています。これ
を装甲帯といいました。

 姉妹艦は4隻でしたが末娘のクーロンヌはより改
良されました。全部の船体を鉄の装甲で覆ったもの
でした。装甲の下には厚さが100ミリのチーク材
と鉄格子で補強され、最後には厚さ300ミリのチ
ーク材が鉄製の船体に取りつけられていました。

 次回はさらにグロアールに対抗するために建造さ
れた英国海軍のウォーリア(1860年に進水)を
ご紹介します。

 
(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴

荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。

著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか─安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!─昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。


『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
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