配信日時 2023/04/19 09:00

【陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(6)】産業革命と火砲 荒木肇

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おはようございます。エンリケです。

「陸軍砲兵史」
の第6回目です。

クリミア戦争って、知っているようで知らない。
あらためてそんな思いに浸されました。
じつに面白いです。

ミニエー銃やアームストロング砲など、
見覚えある名前も登場します。

さっそくご覧ください


エンリケ

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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(6)

産業革命と火砲


荒木 肇

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□ご挨拶・テロの時代

 分からなくなりましたね。今度は現職総理の遭難。
もっとも爆発物の威力が小さく、時限装置も不正確
だったか、幸いなことに大事には至りませんでした。
犯人を取り押さえたのは地元の漁師さんだったとか。
とっさの判断力は、やはり現場に生きる方だったと
いうのが、どこか象徴的です。

 それにしても、背後関係も不明です。またまた単
独犯ですとなると、いよいよ要人警護も難しくなる
でしょう。今回はお一人のSPの方が総理をかばい
ながら避難誘導をされたようでけっこうでした。た
だ、映像を見る限りでは多数の警察官もいましたね。
ただし、みなさん聴衆を見ないで、総理に注目して
いるような気がしました。

 安倍元総理の時より改善されたかと思うと、最初
に犯人に接近したのが民間人であったとは。なんと
も、地方県警察の警備は大丈夫かと心配になります。
おそらくいろいろな事情があるかと思いますが、社
会の変化に対応しきれていないのではありませんか。

 第8師団長はじめ多くの自衛官が亡くなったこと
が明らかになりました。任務中の殉職に心から哀悼
を捧げます。


▼クリミア戦争は補給の戦いだった

 軍事技術史では多くの変化が19世紀前半に起こ
りました。少し駆け足で進みます。まず、ロシアと
仏英連合軍によるクリミア戦争です。この戦争は1
853年から56年という長期戦でした。聖地エル
サレムの管理権をトルコに要求してロシアは南下を
計画します。それを阻止しようと英国などがクリミ
ア半島に進出し、ロシアは敗れました。「クリム」
というのが地域の呼び方です。ウクライナ南部にあ
たり黒海に突き出ています。

 ロシアの陸軍は、ナポレオンの侵攻をはね返し、
当時では世界最大の陸軍国であり、勝利を積み重ね
てきました。中央アジアやコーカサス、ペルシャや
トルコに勝ち、ポーランド人の、マジャール人の反
乱を鎮圧し、常勝の軍隊として有名をはせています。
それというのも、ナポレオン時代の兵器体系や運用
を、みなで学んだ欧州軍隊の水準を守っていたから
です。
 これを打ち破ったのは英仏両軍のクリミア派遣軍
の補給の成功でした。ロシア軍は火薬その他の必需
物資をセヴァストポリ軍港、それを守る要塞に送ら
ねばなりません。セヴァストポリはクリミア半島の
先端にありました。制海権は英仏の海軍がおさえて
います。だから海上補給は不可能でした。

 では陸上、要塞の背後からの輸送ではどうだった
でしょうか。軍港の北には大きな草原が広がってい
ました。人家も道もまれな地域です。農民が使って
いる馬車を約12万5000輌も徴発して輸送部隊
を編成したそうですが、今度は秣(まぐさ・馬糧)
が不足します。当初、道路わきの草を馬たちに食わ
せていたようですが、それも食べつくすと、秣を馬
車に載せなければなりません。そうなると、秣のお
かげで補給物資が減ってしまうということになりま
した。

 対して攻囲した英仏軍は豊富な補給を海上輸送で
行ないました。戦闘の終盤頃には英仏軍は1日に5
万2000発もの砲丸を撃ちだしたといいます。要
塞内のロシア軍は弾薬の不足で反撃を制限するしか
なかったようです。

 この戦いは結局、補給に苦しんだロシアが要塞を
放棄することで終わりました。ロシア黒海艦隊は安
全な港を失います。コンスタンティノープルを北の
海上からの脅威から守るという目的を英仏軍は達成
したのです。
 この戦争には多くの画期性がありました。連絡路
を備えた長大な塹壕線、強固な野戦築城、大砲の一
斉射撃による「弾幕射撃」などが始まります。第1
次世界大戦(1914~18年)と比べてもほとん
ど原理が変わりません。なかったのは機関銃だけだ
ったというのが定説になっています。

 また、英仏連合軍の歩兵はライフル銃を初めて支
給されました。前装滑腔のマスケット銃装備のロシ
ア歩兵を圧倒したのです。新型ライフル銃の射程は
約800メートルにもなり、マスケット銃はせいぜ
い約180メートルあまりでは比較にもなりません。
この差は10年ほど後の第2次長州戦争(1865
年)での徳川幕府軍と長州藩軍の違いと同じです。

 この新型ライフルとはミニエー弾を使うものでし
た。

▼前装ライフルの革新

 小火器の歴史で紹介したので施条銃身から撃たれ
る弾については簡単にお話します。この新しい弾は
フランス軍のミニエー大尉が開発しました。184
9年に特許をとったそれは、球形の弾丸ではなく、
前がとがっていて後部は平らでした。直径は銃身の
内径よりやや小さく、おかげで銃口からマスケット
銃と同じようにストンと落とせました。

新しい工夫は弾の最後部にあったのです。窪みの縁
(へり)の部分が装薬のガスで広げられ、それがラ
イフルに食い込んで弾に回転を与えます。
 それまでの滑腔(内部に施条されていない)銃の
発射手順と比べると、弾の前後を間違えなければ良
いといった修正ですみました。それまでの方法に対
してちょっとした変更を加えればよいというのは、
改良が許されやすい条件です。

 クリミア戦争でこの小銃の素晴らしさを確かめた
フランス軍は1857年に標準装備とします。プロ
イセン陸軍も1854~56年にかけてミニエー弾
対応の小銃を採用。アメリカ陸軍も1855年には
制式を変更しました。

 ペリー艦隊が来航したとき(1853年)の幕府
軍の装備は火縄銃でした。それが6年後には幕府は
「舶来の武器」の自由買い取りを諸藩、旗本に許し
ます。当時の言葉でいうゲベール銃が多く買いあげ
られました。発射のシステムが雷管式になります。
火縄や燧石(火打石)発火と比べれば、不発率は激
減しました。ただし、「円弾の口込めの鉄砲」とい
われるように弾丸は球形で、銃身内部はツルツルで
した。

 岩堂憲人氏の「世界鉄砲史」によれば、ミニエー
銃の有効射程は300メートル、つまり命中が期待
できて加害能力が300メートルもあるということ
です。滑腔のゲベール銃と命中率で比べると300
ヤード(約273メートル)で、ミニエー銃が55
%、ゲベールは16%でしかありません。もっとも
戦場での撃ちあいが想定される200ヤード(約1
82メートル)で、80%対41.5%となってい
ます。
 このミニエー弾ライフルを長州では1865年に
すべての藩士に購入を命じました。これでは第2次
長州戦争で「(長州兵は)4町から5町(436メ
ートルから545メートル)か撃ってきてヒューン
という擦過音(さっかおん)が聞こえる。当方のゲ
ベールは撃っても届かない」という幕府軍現場から
の報告があるのも当然です。

▼アメリカ式製造システムの導入

 機械を造るための機械。この生産こそ、現在まで
もつながる技術力の差を見せつけるものです。ミニ
エー弾を造ることはできても、なかなか小銃を造る
ことはできませんでした。それも当然で、多くの小
銃は手作業で造られました。職人たちはなかなか統
制に服すことはありません。そこで考えられたのが
当時、アメリカ式製造システムといわれた方法です。

 1820年から50年にかけてマサチューセッツ
州スプリングフィールドの兵器工廠とコネティカッ
ト川流域の小火器製造業者たちは新しいシステムを
確立しました。端的にいえば、自動式あるいは半自
動式のミーリング・マシン(フライス盤)を使って、
同じ規格の小銃部品を大量に造り出すことでした。
このような工作機械を使えば、どの小銃でも部品の
交換が可能になりました。これまでのように最終工
程で熟練職人が「すり合わせ」をする手間が省ける
ようになったのです。
 もちろん、フライス盤はひどく高価でしたし、材
料の無駄も大きくなりました。当時の機械ですから、
不良品もたくさん出ました。しかし、大量生産には
とても向いていたのです。
 また、同じ部品を造る機械の原理は、今でも身近
にあります。スペアキーを作るためには原型にそっ
た動きをする切削機が必要です。あれと同じで、コ
ピーする原型の輪郭をなぞって、それと連動する刃
物を用意します。あるいは、製図などで使うパンタ
グラフでも同じです。

 アームストロング砲にたどり着く前にフライス盤
の話になってしまいました。次回こそ、新しい砲身
製造システムを実現したアームストロングのアイデ
アをご紹介します。



(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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