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おはようございます。エンリケです。
「陸軍砲兵史」
の第3回目です。
ナポレオンは、徴兵制軍隊であるフランス軍の弱点
を克服するために、アメリカ独立戦争の散兵戦闘の
有効性を取り入れ、遊撃兵中隊を編成し、軽歩兵聯
隊を組織化して、煙幕を利用した戦闘を展開しまし
た。
また、大砲の規格化を実現することで、安全性が高
まり、砲の機動性が増しました。これらの戦術と技
術革新が、従来の用兵の常識を覆し、ナポレオンの
軍隊の強さを生み出したことがよくわかります。
ジョミニの著書も引用され、ナポレオンの時代にお
ける戦闘が詳しく説明されています。
まさに「砲兵史」ですね。
ワクワクして、次の段落を読むのがもったい
なくなる、、、
そんな喜びを味わっています。
さっそくご覧ください
エンリケ
メルマガバックナンバー
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陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(3)
ナポレオンの軍隊
荒木 肇
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□はじめに
「ナポレオンは戦術を知らない」。彼と戦った敵の
将軍はみなそう言いあったようです。彼はそれまで
の軍隊の戦闘に関する考え方をすべて変えてしまい
ました。
それまでの軍隊は横隊で押し出すものでした。中隊
ごとに2列横隊で指揮官は先頭に立ち、両脇には列
を整え、逃亡兵を出さぬように長い斧を持った下士
官がいました。太鼓に合わせ、歩武堂々の行進をし、
50メートルほどの有効射程に入ればマスケット銃
を構えて一斉射撃。倒れた仲間の位置にはすぐに後
ろの者が入ります。
マスケット銃というのは17世紀の初めころから現
われた銃口から弾丸と装薬をこめる(前装式)小銃
の総称です。有名なのはイギリス製のブラウン・ベ
スという1690年に設計された火打石式発火装置
(フリント・ロック)の小銃でした。原理を理解す
るには、100円ライターの歯輪と燧石が最適です。
ブラウン・ベス小銃は細かい改良はされ続けたもの
の1840年まで使われました。それまでの火縄式
発火装置(マッチ・ロック)と比べると発射速度は
2倍になり、不発率もずいぶん少ないものでした。
33%ほどと言われていますから、火縄式の50%
より発射成功率もかなり高くなりました。
ところが、ナポレオンの軍隊には厳格な隊列に入ら
ずに、2人が1組になって自由に行動する銃兵がい
ました。地形に身を隠し、ボサ(草むら)の陰から
お互いを援護しつつ、横隊をつくっている敵兵を狙
撃します。現代からすれば、自分の身を隠して敵を
撃つ、しごく当然のことなのですが、当時はまった
く常識外れの行動でした。
では18世紀の中ごろでは何が普通だったのか。そ
れはアントワーヌ・アンリ・ジョミニ(1779~
1869年)の著書『ジョミニ・戦争概論(邦訳題)』
(佐藤徳太郎訳・1979年・原書房)に書かれて
いる情景があります。ジョミニはスイスに生まれ、
スイス軍、フランス軍、ロシア軍で勤務を続けた有
能な参謀であり将軍でした。とくに注意すべきはナ
ポレオンの執務や考え方を間近に見、聞きした人で
あることです。
ときは1745年のことです。フォントノアの戦い
で、お互いに50歩の距離で向かい合った横隊の英
国近衛歩兵第1聯隊と、同じく横隊のフランス軍近
衛聯隊。その指揮官同士が「先に撃て」と挨拶をし
合ってから射撃を行なったという「美談」でした。
まだまだ戦争をスポーツと認め合うフェアプレイの
精神があったのでしょう。
▼ナポレオンはどのように戦ったか?
実はナポレオン軍には大きな弱点がありました。そ
れは徴兵制軍隊であったことでした。しかも反革命
の嵐が吹き荒れた18世紀の末です。欧州の各国陸
軍はよく訓練された志願制の歩兵をたくさん持ち、
横隊戦術を整然と行うことができました。それに対
してフランス軍には訓練時間がありません。
ところが、フランス軍には貴重な経験がありました。
アメリカ独立戦争で、プロ集団の英国歩兵をさんざ
ん悩ませてアメリカ独立派の民兵たちが活躍します。
1775年のことでした。有名なコンコードの戦い
です。英国歩兵は民兵たちの「ごろつき」、あるい
は「追はぎ」といった「卑劣な」攻撃に敗れました。
アメリカ民兵たちは先住民との戦いで学んでいたの
です。一人ひとりが判断し、敵を狙撃する、そうい
った自律的な戦い方をしたのでした。この戦いで活
躍した民兵たちをミニットマンと言いました。のち
に大陸間弾道弾の名前にもなっています。欧州軍隊
の横隊密集戦闘に対しての散兵戦闘の有効性が見せ
つけられました。
フランス軍の将校や下士官はこれを学んでいたので
す。反革命戦争に、これを応用しました。ナポレオ
ンはこれをさらに組織化し、1804年には「遊撃
兵中隊」を編成します。翌年から1808年までに、
軽歩兵聯隊は4個大隊で成り、各大隊は1個擲弾兵
中隊、同遊撃兵中隊、4個猟兵中隊となります。そ
して1個訓練大隊(4個中隊)が付属しました(
『ナポレオンの軍隊』木元前掲書)。
どんな戦いをしたか。わたしたちは黒色火薬がどれ
ほどの煙幕になるかを知りません。地域の行事など
で伝統的な火術を見る機会はありますが、現代の黒
色火薬しか使えない空砲射撃でもけっこうな煙が出
ることは分かります。1挺ずつの発砲煙が、あの数
倍にもなり、さらには数十挺分の大量な煙はまさに
煙幕です。
敵は撃たれれば混乱します。しかも相手は姿を見せ
ません。砲兵の射撃がさらに加わり、フランス軍の
姿はさらに見えなくなりました。そうして、その砲
煙や銃から出た煙幕の後ろにはフランス歩兵の縦隊
が突入の機会を待っています。
ナポレオンの軍隊の強さは、これまでの用兵の常識
では図れないものだったのです。
▼穿孔(せんこう)機械の発明
18世紀前半には大きな火砲の技術的進歩がありま
した。まず、フランス軍ではジャン・ヴァリエール
(1667~1759年)による大砲の整理による
各種口径が統一されます。しかし、いくら口径を揃
えても、それぞれの大砲が異なった鋳型で造られて
いる以上、現代のような規格化からは遠く離れてい
るものでした。
外形を決めるのは統一された鋳型です。では重要な
砲腔(ほうこう・内部の穴)はどう造られたのでし
ょうか。それは中子(なかご)を差し込むことでし
た。鋳型と中子の間に熔けたガンメタル(砲金)を
注入しました。問題はこの中子の固定の精度でした。
きちんと固定する技術がなかったために金属の重さ
や熱膨張で、当然、動いてしまいます。したがって、
現在のような同規格の、きちんとした大砲など造れ
ませんでした。
しかも、こうして鋳造された加農(平射を行なう)
はかなり重くなり、とても野戦に持ち出せるような
ものではなかったのです。要塞に固定されるか、あ
るいは要塞を攻撃するために機動力を必要としない
攻城砲として使うか、艦載砲にしか使えませんでし
た。
これを大きく転換したのが、スイス人技師ジャン・
マリッツ(1680~1743年)です。彼は中身
の詰まった金属の塊として砲身を鋳造し、あとから
穴(砲腔)を開けた方が正確に規格化できるのでは
ないかと考えました。彼は息子といっしょに穿孔機
械を開発します。そうして同名の息子のジャン・マ
リッツ(1711~90年)は1755年にはフラ
ンスのすべての王立兵器廠に彼の機械を据えるよう
に命じられました。
機械の特徴は穿孔する刃を固定して砲身を回転させ
ることでした。刃はおもりと歯車装置で前に進みま
す。いつでも一定の圧力で砲身をえぐっていきまし
た。砲身は重く、回転する慣性によって回転軸がぶ
れることはありません。回転する動力は水力、馬力、
蒸気力でした。国際特許などのわずらわしい手続き
がなかった時代です。この穿孔機はすぐに各国で採
用されるようになりました。
▼規格が統一された大砲とは?
この革新的技術開発のおかげで、どの大砲でも同
じ砲腔となりました。砲手がいちいちその大砲のク
セを知る必要がなくなります。また中心線が必ず砲
身の中心を通るので、安全性が高まりました。装薬
(そうやく・発射用の火薬)の燃焼・炸裂に対して、
360度すべてにわたって砲身の厚み、強度が等し
くなったからです。
そうして何より重要な特長として、これまでより
も砲身を軽く造れて、装薬も少なくすることができ
ました。正確に穿たれた砲腔のおかげです。まず、
砲腔と弾丸の直径の差を少なくできました。そうな
ると発射ガスの漏れが減り、少ない装薬で同じ効果
が得られます。同じ理由で砲身自体を短くすること
ができます。装薬が少なくなれば、薬室(同じ砲腔
内での最後部)の周囲の厚みを減らせました。こう
して砲身ばかりか、砲架(ほうが・砲を支える重要
な部品)も軽量化でき、砲の機動性も増したのです。
この新しい大砲をさらに使い良いものにするため
に多くのフランス人技術者が努力しました。その第
一人者こそ砲兵監ジャン・バティスト・ヴァケット・
ド・グリボーバル(1715~89年)でした。
次回はナポレオンの軍隊を支えたグリボーバル砲
と戦術、砲兵の誕生などの話題にします。また、教
育機関リセやエコール・ポリテクニクなども扱いま
す。なお、今回の技術史に関しては、『戦争の世界
史─技術と軍隊と社会』(ウィリアム・H・マクニ
―ル、高橋均訳、2014年、中央公論新社)を参
考にしました。
(つづく)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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三井・三菱財閥をわずか一代で超えた男の経営學
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