配信日時 2023/02/17 20:00

【加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編】軍隊とパワハラ(1)──軍隊の通過儀礼とパワハ ラの違い 加藤喬(元米陸軍大尉)

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戦争、選挙、金融…
世界中のあらゆる事件をネタに…
常に裏で利益をむさぼるある集団がいた…

国際情勢のあらゆる事象の背後には、
常に彼らの存在が見え隠れすると
国際関係学者の藤井厳喜先生は言います。


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こんばんは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が
出ました。

今回は、
WW2でドイツ国防軍が使用。WW2で最も知られた兵器
の1つであり、生産停止後も独自の存在感を発揮し
続けた伝説の名銃・MP38&MP40サブマシンガンです。

『MP38&MP40サブマシンガン』
アルハンドロ・デ・ケサダ (著), 床井 雅美 (監修),
 加藤喬 (翻訳)
2022/5/12 発行
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武器オンチの日本人に
特におススメです。



では今日の記事、さっそくどうぞ。


エンリケ

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加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編
     Takashi Kato

軍隊とパワハラ(1)──軍隊の通過儀礼とパワハ
ラの違い

加藤喬(元米陸軍大尉)

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□ランド研究所の4つの提言

 ランド研究所は、1948 年に設立されたアメ
リカの非営利シンクタンク。国家安全保障分野など
における研究分析を通じ、米首脳部の意思および政
策決定に貢献してきた頭脳集団です。よく知られた
成果には、相互確証破壊(Mutual Assured
Destruction:MAD)による核抑止政策やインターネ
ットの構築などがあります。
 
 『長期戦は避けるべし:米政策とロシア・ウクラ
イナ戦争の行方』は、同研究所が最近発表した論文
で、米政府がとるべき行動指針を明確に提言してい
ます。結論から言うと、


「戦争が長引くにつれ、核兵器による対立とロシア
対NATOの全面戦争にエスカレートする恐れが格
段に高まる。欧米の経済的疲弊が進む一方で、ロシ
アと中国の相互依存が促進される。これは中国に対
する対処能力が制約されることを意味する。また、
万が一核が投入されれば核不使用の原則が破綻し、
将来の紛争で核の敷居が低くなる。これらの理由か
ら、同戦争を長引かせるのはアメリカとウクライナ
にとっても世界にとっても得策ではない」

となります。停戦合意にはロシアとウクライナ双方
に「和平を実現させる方が戦争継続より得るものが
多い」と確信させる必要があり、そのために4つの
提言を行っています。

1)米政府はウクライナへの今後の支援条件を明確
に規定する。同国が和平交渉に応じない場合は支援
の増加をやめ、戦争勝利への楽観論を減少させる。
2)米政府はウクライナの安全保障に将来も責任を
持つ。
3)米政府はウクライナがいかなる国とも同盟を結
ばない中立国となることを推進し、同国への外国軍
の駐屯や演習を認めない。
4)米政府は停戦が実現した場合、ロシアへの条件
付き制裁緩和を考慮する。

 二元論の牙城アメリカでも、プーチン対ゼレンス
キーといった勧善懲悪世相に流されず、勝者総取り
のゼロサム理論に拘泥しないところは流石(さすが)
です。事実の冷徹な分析を信条とするランド研究所
の面目躍如たる提言だと思います。一見狂気とも映
る相互確証破壊(MAD)戦略を練り上げ、冷戦時代
から今日に至るまで世界平和に貢献してきた同研究
所の現実主義は健在です。

 ところが、2月7日に行なわれたバイデン大統領
の一般教書演説では、停戦実現への働きかけの文言
は皆無。招待されていたウクライナ大使に「アメリ
カは最後までウクライナと共に立つ」と宣し、自党
議員らの起立喝采を受けたものの、支援継続に懐疑
的な共和党議員らは座ったままでした。

 ちなみに先月のギャロップ世論調査によると、6
割強のアメリカ人は戦争が継続してもウクライナを
支援し続けるべきとし、即刻停戦支持の3割を圧倒
しています。遠い東欧での核使用はアメリカに対す
る存立危機にはならないとの楽観論なら、ランド研
究所が示した現実的警告を顧みない亡国の世相でし
ょう。

 こういった現状をきっかけに思い起こしたのは、
2019年の国連気候サミットでスウェーデンの環
境活動家グレタさんが放った怒りの言葉でした。地
球温暖化阻止への断固たる態度を取らない各国代表
らを前に

「あなた方は私の未来と子供時代を奪ったのです。
よくもそんなことが!」

と16歳(当時)の小柄な少女が悲痛な表情でまく
し立てました。もちろん、地球上の全生命が絶滅の
危機に瀕しているとの断定口調には賛否ありましょ
うが、人生を歩み始めたばかりの若者が大人の施政
者らに抱く不信と不公平感はよく分かりました。

皮肉にも昨年末から日本やアメリカが厳冬に見舞わ
れ、地球温暖化とグレタさんのニュースはあまり聞
かなくなりました。しかし先が見通せない気候変動
とは異なり、ロシアによる核使用はICBMの撃ちあい
にエスカレートしかねない「今そこにある危機」。
こんな時こそ若年層の圧倒的支持を受けるグレタさ
んには、核のチキンレースに没頭する老大統領に

「あなたは私たちの未来と子供時代を奪おうとして
いる。よくもそんなことが!」

と詰め寄って欲しい。そう願うのは私だけではない
ないはずです。


▼軍隊とパワハラ(1)軍隊の通過儀礼とパワハラ
の違い

これまで「加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編」では、
それぞれの武器が持つ抑止力に着目してきました。
しかし今回はやや趣向を変え、昨今、自衛隊でも
問題化している軍隊とパワハラについて考えてみま
す。

中隊の全員が休憩所に集められ、十数人の空挺教官
(ブラックハット)たちに囲まれた。何事かといぶ
かっていると、

「全員、腕立て伏せ1000回!」

そこここで怒号が飛び、200名近い兵士がその場で
一斉に腕立て伏せを始めた。たちまち粗い息遣いや
呻きが聞こえ始めた。1000回の腕立てなどオリンピ
ックの選手にだってできるものではない。しかしブ
ラックハットは地面にへたり込んだ者を見るや耳元
で、

「お前はタダの薄汚い歩兵だ!」

と蔑んだ。

ほどなく全員が五体を痙攣させてのたうった。そこ
にフラックハットたちはホースで放水。泥田のなか
に数百の怯え切った眼だけが異様な光を放った。奇
怪な光景は新興宗教の儀式にも見えた。こんな理不
尽な訓練に毎日耐えられるはずはない。誰もが蒼く
なって震えた。パニックのさなか、空挺学校を甘く
見て志願した自分を呪っていた。

「カデット、心配するな。これはただの脅した」

声をかけてきたのは隣にいた兵隊だ。ゆっくりと完
璧なフォームで腕立てを続けていた。どこにも余計
な力が入っていない。野戦服の左胸に海軍特殊戦部
隊SEALsの徽章が見えた。

「軍の学校はどこも同じだ。最初にショックを与え
て、元々やる気も体力もない者を振り落とすんだ。
きついのは今日だけだ」

礼を言いたかったが息が切れて声にならない。SE
ALsといえば陸軍レインジャーやグリーンベレー
と並ぶ米軍の超エリート。極限の訓練を耐え抜いた
猛者(もさ)の言うことなら信じられた。わたしは
彼にならってゆっくりとしたペースで腕立てを続け
た。

1980年代半ば、カデット(士官候補生)として
陸軍空挺学校に入校した時の体験です。

民間人から見れば訓練というより嫌がらせ、いわゆ
るパワハラだと感じることでしょう。しかしこれは、
陸・海・空軍・海兵隊を問わず伝統的に行なわれ
ている正当な通過儀礼のひとつなのです。

 今回教材として取り上げた『フルメタルジャケッ
ト』に描かれている新兵訓練は、数か所のハリウッ
ド的な誇張を除き、入隊時の通過儀礼を正確に再現
しているといえます。

百戦錬磨の兵士も元は民間人。その「娑婆の人間を
軍人に作り替える」のが新兵訓練です。自衛官も含
め、軍人には命をかえりみず任務を貫徹する克己心
(こっきしん)が求められます。したがって、入隊
前に沁み込んだ「個人のアイデンティティ」や「自
己中心主義」といった娑婆気質をまず徹底的に剥ぎ
取り、そのうえで、戦友、部隊、軍、そして国への
忠誠と献身を叩きこむことになります。つまり、自
己を超えた「集団への帰属心」を新たなアイデンテ
ィティとする訳です。坊主頭、(女性新兵の場合は
襟に髪が触れないよう結い上げる)軍服、軍帽を強
いて個性を抹消するのはこのためです。

 こういった儀礼とパワハラの違いは何か? 私の
体験から言うと、新兵を殴りつけたり小突いたりす
る行為、危険な行動の強要、怪我につながる命令、
一気飲みの強制、差別語の使用などは後者です。

伝統的かつ公認された通過儀礼とは、新兵に「部隊
に所属する能力と価値があることを証明させる」た
めのもの。逆にパワハラはある個人を槍玉に挙げ、
部隊から「締め出す」のが目的です。

この観点から言うなら、劇中、ハートマン教練軍曹
が新兵を殴ったり胸倉を掴んだりした行為はパワハ
ラに違いありません。しかし、軍曹の罵詈雑言と厳
格な躾(しつけ)を耐え抜き晴れて卒業に漕ぎつけ
た者には、少数精鋭で知られる海兵隊員の栄誉と、
ハートマン軍曹の「仲間」としての尊敬が与えられ
ることになるのです。陸軍の新兵訓練で、私は同じ
ことを身をもって学びました。

教材ビデオ:
(17) Full Metal Jacket- Gunnery Sergeant Hart
man - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=tHxf17yJsKs
(本エピソードは0:00から始まります)
 

基本語彙(カタカナ表記は大雑把なものです)
hate(ヘイト)嫌う
fair(フェア)公平な 偏見のない
bigotry(ビガトリー)偏見 偏狭


シナリオ(カウンターを0:43に合わせてくださ
い)
 
Because I am hard, you will not like me.  But
the more you hate me, the more you will learn.
  I am hard but I am fair.  There is no racial
 bigotry here.

(俺は厳格だ。だからお前たちは俺を好きにはなら
んだろう。だが、俺を嫌えば嫌うほどお前たちは学
ぶものも多い。俺は厳しいが公平だ。ここに人種的
偏見はない)

(今回のエピソードは最後まで続きます)

英語一言アドバイス:
 sir, yes sir 新兵が繰り返しハートマン軍曹に
言う言葉ですが、直訳すれば「はい、軍曹殿」にな
ります。上官に返事をするときは必ず sir(殿)を付
ける軍隊ならではの表現で、民間では使われません。
上官が女性である場合は ma’amを使います。ちな
みに、教練軍曹(下士官クラス)にsirやma’amを
使うのは海兵隊だけです。

発音サイト: 
sir, yes sirの発音 How to pronounce Sir Yes Sir |
 HowToPronounce.com
https://www.howtopronounce.com/sir-yes-sir-1

参考サイト:

ハートマン一等軍曹役の米俳優:R・リー・アーメ
イ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/R%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%82%A4

(17) Full Metal Jacket- Gunnery Sergeant Hart
man - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=tHxf17yJsKs



(かとう・たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―あ
る“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『M16ライフル』『AK―47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃』『MP38/40
サブマシンガン』(いずれも並木書房)がある。
 
 
追記

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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
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『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
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ブックレビューの投稿はこちらから
http://okigunnji.com/url/73/
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代 (passage of
lines) を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は "Repeat" ではなく "Say again" です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。 
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac" 
と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。
 
加藤 喬
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