配信日時 2023/02/10 08:00

【ウクライナ情報戦争(16)】プリゴジンの情報工作とワグネル ―アフリカの天然資源ビジネスでも暗躍―   樋口敬祐(元防衛省情報本部分析部主任分析官)

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「青天を衝け」渋沢栄一は何をしたのか?
↓  ↓  ↓  ↓  ↓
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戦争、選挙、金融…
世界中のあらゆる事件をネタに…
常に裏で利益をむさぼるある集団がいた…

国際情勢のあらゆる事象の背後には、
常に彼らの存在が見え隠れすると
国際関係学者の藤井厳喜先生は言います。


http://okigunnji.com/url/168/

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おはようございます、エンリケです。

あなたも、
インテリジェンスのプロフェッショナル・樋口さん
(元防衛省情報本部分析部主任分析官)に聞きたい
こと、書いてほしいこと、ありますよね?

コチラからお知らせください。
https://okigunnji.com/url/7


さてきょうの記事。

じつに面白い内容です。

「アフリカにおける露のインフルエンサー」
に関する記述を見ていると、いまわがSNSで活躍し
ているインフルエンサーたちにも、同様の役割を担
わされている人はいるのだろうと推察できますね。

最後の段落でわが陸自に言及されています。
きわめて重要な視座と思います。

さすが樋口さん!

と思わず唸りました。


さっそくどうぞ。


樋口さんに聞きたいことがあれば、
いつでもこちらからどうぞ。
https://okigunnji.com/url/7/


エンリケ


おたよりはコチラから
 ↓
https://okigunnji.com/url/7/


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ウクライナ情報戦争(16)

プリゴジンの情報工作とワグネル
―アフリカの天然資源ビジネスでも暗躍―


 樋口敬祐(元防衛省情報本部分析部主任分析官)

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□はじめに

先回はワグネルの傭兵がいわば使い捨てにされてい
ると述べましたが、CNNが取材した前線のウクラ
イナ軍兵士の証言を読むとより過酷な戦い方が明ら
かになります。

凍てつく大地を掘って作ったバフムト南西区の陣地
で、ウクライナ兵士らが数週間にわたり対峙するの
は、ワグネルの数百人の戦闘員たちです。彼らはウ
クライナの守備隊に向かって、捨て身の攻撃を仕掛
けてくるといいます。

ウクライナ軍の兵士の一人が回想するのは、ワグネ
ルの傭兵(戦闘員)の大規模攻撃にさらされた時の
ことです。「10時間くらい、戦い通しだった。波
状攻撃なんてものじゃない。全く途切れることがな
かった。敵が際限なく向かってくるように思えた」

味方の兵士20人前後で200人は相手にしていた。
「ワグネルは、主に刑務所で直接徴集した新兵か
らなる第1陣をまず送り込む。彼らは軍事的な戦術
についてほとんど知識がなく、装備も貧弱だ」。大
半は、ただ半年の契約期間を生き延びて釈放される
ことだけを期待している。

「彼らは10人ほどのグループを組んで、30メー
トル進むと穴を掘り始める。そこで陣地を確保する」。
続いて別のグループがまた30メートル進む。
そうした形で徐々に前進しようとするが、その間に
多くの犠牲者が出るという。

ワグネルの戦闘員は味方の死体を乗り越え次々と迫
ってくる。「まるでゾンビ映画のようだった」と振
り返る。第1派が損耗し切るか、進めなくなってか
ら初めて、より経験を積んだワグネルの戦闘員が送
り込まれる。大抵は側面から、ウクライナ側の陣地
の制圧を狙ってくる。

この攻撃でウクライナの兵士たちは敵に包囲され、
弾丸も底を突いた。だが幸運にも、ワグネルは最終
的に退却したといいます。

この記事ではワグネルの攻撃に関するこれらの説明
は、CNNが先週入手したウクライナ情報当局の報
告とも一致すると結んでいます。

場所によっては、執拗な波状攻撃によりワグネルの
部隊は陣地の奪取に成功し、火砲の援護下に蛸壺(
たこつぼ)を掘り、獲得した陣地を固めます。しか
し、ウクライナ側によるロシア側の無線などの傍受
によれば、ワグネルとロシア軍の間には調整不足が
散見されるといいます。

ワグネルの部隊が奪取した陣地付近にロシア軍の砲
弾が落ちるのです。いわゆる友軍相撃です。という
のは、ワグネルとロシア正規軍との連携が全く取れ
てないからです。ワグネルの部隊が突入して第1線
の敵の陣地付近に到着しても、そのことが正規軍に
は伝わっていないというのです。

そのような連携状況ですから、両者が功績争いをし
て関係が良くないのは当然の結果でしょう。

また、2月2日の日経新聞の記事によれば、刑務所
の服役者の人権問題に取り組むロシアの人権活動家
オリガ・ロマノワは1月23日、反政権派メディア
のインタビューで、ワグネルが刑務所で募り、前線
に送った囚人約5万人のうち4万人が死傷したか脱
走したとの見方を示しています。

ソレダルやバフムト前線でのワグネルの多大な損耗
などについて、ロシアの強硬派や反政権派の間では
同国軍を批判する声が広がっているようです。ルツ
コイ元副大統領は国防省幹部を公然と「無能」と非
難しています。

ルツコイはアフガニスタン紛争に従軍し、エリツィ
ン政権下の1990年代前半には副大統領も務めた保守
派の元政治家です。インタビュー記事では軍事侵攻
についても「わが国にとって悲劇だ」と嘆いていま
す。


▼「カーゴ200」か「カーゴ300」にならなけ
れば戦闘任務は解除されない契約

ウクライナにおけるワグネルの特に囚人の傭兵に対
する扱いは酷いものです。しかし、2015年に入手さ
れ公開されたワグネルの就業規則では、そもそもワ
グネルの傭兵は「200」か「300」になった場
合以外は、戦闘任務を解除されることはありません。

ロシア(ソ連)軍の隠語でカーゴ200(貨物20
0便)というのは、戦地から送り返されてくる死体
が納められた棺のことで、カーゴ300は負傷者の
ことです。200(つまり死体)、300(つまり
負傷者)はそこから派生した隠語だと思われます。

傭兵は元々の契約で負傷するか死亡しなければ、後
方には下がれないのです。傭兵たちは、お金のため、
または、刑務所から出るためにはとにかく前進し
て戦い、生き残るしかありません。

一方で囚人傭兵の死者は多いとされるものの、契約
期間が終わった一定数の囚人は、いずれ恩赦によっ
て刑務所から出られるということです。凶悪な犯罪
者がなんの裁きも受けずに世に放たれるということ
で、このことはいずれロシア国内の治安にも大きな
影響を及ぼす可能性が高くなるということも意味し
ます。プーチン大統領は戦争に勝つためには、少々
の治安の悪化も止む無しと判断したことになります。
 
▼プリゴジンのビジネス

さてプリゴジンのグループはワグネルによる傭兵・
警備ビジネスのほか、偽情報ビジネス、天然資源の
開発ビジネスを手掛けています。

グループの収益は、天然資源の開発ビジネス事業の
おかげで、ここ数年で大幅に増加したとされます。

そのグループのビジネスを利用して、ロシア政府は、
海外での影響力を強めています。プリゴジンは、
それぞれのビジネスを組み合わせて武力と情報工作
でプーチン政権の海外戦略を影で担うとともに、ア
フリカなどの天然資源開発の利権を得て収益を上げ
ているのです。

そして欧米が今、特に警戒している場所がアフリカ
なのです。ウクライナ戦争からやや横道にそれます
が、プリゴジングループのアフリカにおける活動に
言及したいと思います。

昨年3月24日の国連緊急特別総会におけるロシア
非難決議結果は、近年のロシアのアフリカ大陸への
軍事的、政治的影響力拡大の成果を示すものといえ
るでしょう。

アフリカ諸国54カ国の内、ロシア非難決議に賛成
したのはエジプト、チュニジア、ガーナ、ケニア、
ニジェール、ナイジェリア、ザンビアなど28カ国
でした。明確な反対は、エリトリア1カ国ですが、
棄権は17カ国で南アフリカ、アルジェリア、セネ
ガル、アンゴラ、中央アフリカ、マリ、モザンビー
ク、スーダン、ジンバブエ等が含まれていいます。
その他8カ国は投票に参加しませんでした。

ロシア政府は2014年にウクライナでワグネルを
使用した後、そのメリットに気づき中東やアフリカ
にもワグネルを派遣しました。たとえば中央アフリ
カ共和国では、その見返りに金の鉱山の利権を与え
られたのではないかと指摘されています。マリには
石油もあります。

「アフリカのリーダーは、軍事クーデターで権力の
座に就いた人たちが少なくありません。困難な問題
でも手段を選ばず解決するワグネルの強引なやり方
に共感しているのです」と、かつてシリアに派遣さ
れていた元ワグネルの戦闘員ガビドゥリンは語って
います。

ワグネルに所属する傭兵たちは、非常に豊富で高度
な戦闘経験を有し、さらにその戦力は「小国の軍事
力をしのぐ」「戦場において、任務遂行のためには
手段を選ぶことはない」とも語っています。

▼アフリカにおける情報工作

米国務省の報告書では、プリゴジンが情報工作によ
ってもロシアに有利なようにアフリカの政治に影響
を与えようとしたことを示しています。その手段と
して、次のような組織や機能を活用しています。

アフリカの天然資源を開発する企業
民主主義の関係者を弱体化させる政治工作員
NGOを装ったフロント企業
ソーシャル メディアの操作と偽情報作戦

それらを踏まえつつ、米国務省は「プリゴジンのア
フリカでの偽情報作戦」と題した広報文を発表し、
警戒を呼びかけました。

広報文は、プリゴジンがプーチン政権のプロパガン
ダをアフリカで広めていて、その手先となっている
のが、アフリカのインフルエンサーたちだと指摘し
ています。

特にプリゴジンが連携しているアフリカの2人のイ
ンフルエンサーを具体的に挙げています。それぞれ
SNSで数十万以上のフォロワーを持つ活動家で、
ロシア政府やプリゴジンが主催するイベントなどに
出席し、プーチン政権の利益となる情報を拡散して
きたとされています。

1人は3年前にロシアのソチで行なわれたロシア・
アフリカサミットでプーチン政権を支持したことで
「ソチの貴婦人」という異名を持ち、特にフランス
のアフリカ政策を厳しく非難する論客で知られてい
る人物です。

動画投稿サイトで「フランスのマクロン大統領はマ
リやサヘル地域で占領と天然資源の略奪を行なって
いるフランス軍を撤退させるべきだ。フランスはこ
れ以上アフリカにとどまらないで欲しい」などと発
言しています。

もう1人の男性も有名なインフルエンサーです。特
にロシアによるウクライナへの軍事侵攻後は、プー
チン大統領の決断を正当化する主張を各地で展開し
ていると言います。

男性はSNSに「欧米諸国はプーチン大統領の話を
聞かなかった。プーチン大統領は奪われた土地を取
り戻そうとしている。欧米に奪われ破壊された土地
だ」と主張する動画を投稿しています。

アフリカでは軍事侵攻後も欧米よりロシアを支持す
る人が少なくなく、その背景にこのようなプリゴジ
ンとインフルエンサーの存在があるとしています。

▼最後に(陸上自衛隊は新しい戦闘に対応できるの
か)

筆者は、ワグネルの新兵の突撃の実態などを調べて
いて、陸上自衛隊の訓練とダブる部分があるのでは
ないかと思いました。もちろん自衛隊に督戦隊のよ
うな制度はあるはずがないのでその点は全く違うの
ですが。

たとえば元東部方面混成団長などを歴任した二見龍
氏は『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書、2
020年)において次のように指摘しています。

「陸上自衛隊において部隊同士が戦う訓練のメイン
は今でも、演習場で行う陣地攻撃と陣地防御の訓練
です。陣地攻撃訓練が行われる度に私がイメージし
てしまうのは日露戦争における203高地の攻撃です。
当時は、兵士は突撃を繰り返すだけの消耗品として
扱われ、損耗したら新たな兵士が投入され続けまし
た。そのためには、短期間で新たな兵士を作り上げ
なければなりません。となると、兵士に過大な期待
はできません。速成するためには、兵士の期待値を
限定して訓練を行うことになるのです。」

「前線へ兵士を投入し続けていた消耗戦型の軍隊の
イメージと、自衛隊の陣地攻撃訓練における突入の
様子とが、私の中では重なるのです」

「これら(自衛隊の陣地攻撃訓練の要領)は、『教
範』に書かれている通りのことで、参考とされてい
るのは、日露戦争から太平洋戦争まで行われてきた
ことです。それをいまだに頑なに守っているのです」

二見龍の著書では、その理由なども記述されていま
すが、ここでは省略します。

バフムト付近におけるウクライナ軍は、少人数で防
御しかなり苦戦していますが、最前線においてもド
ローンを駆使して情報を収集し、火力を統合してロ
シア軍を撃退しているのです(今やサバゲ―でもド
ローンによる情報収集は当たり前に使われている戦
術のようです)。

それに対し貧弱な装備で訓練も受けていない傭兵た
ちが先頭に立たされ人海戦術で突撃を繰り返してい
るという構図です。

新しい時代には新しい戦い方があり、テクノロジー
の進歩によって今までの常識が通じないことが起き
ます。ウクライナでの戦争における新たな戦い方や
変化についても情報収集し研究しておくべきではな
いでしょうか。

ワグネルを調べていて以上のようなことを思いまし
た。次回からはワグネルを離れて別の視点で書こう
と思います。


ひぐちけいすけ(インテリジェンスを日常生活に役
立てる研究家)

樋口敬祐
1956年長崎県生まれ。拓殖大学大学院非常勤講
師。NPO法人外交政策センター事務局長。元防衛
省情報本部分析部主任分析官。防衛大学校卒業後、
1979年に陸上自衛隊入隊。95年統合幕僚会議
事務局(第2幕僚室)勤務以降、情報関係職に従事
。陸上自衛隊調査学校情報教官、防衛省情報本部分
析部分析官などとして勤務。その間に拓殖大学博士
前期課程修了。修士(安全保障)。拓殖大学大学院
博士後期課程修了。博士(安全保障)。2020年
定年退官。著書に『2021年パワーポリティクス
の時代』(共著・創成社)、『インテリジェンス用
語事典』(共著・並木書房)、『2023年野蛮の
時代-米中激突第2幕後の世界-』(共著・創成社






(つづく)


□出版のお知らせ

このたび拓殖大学の川上高司教授監修で『インテリ
ジェンス用語事典』を出版しました。執筆者は本メ
ルマガ「軍事情報」でもおなじみのインテリジェン
ス研究家の上田篤盛、名桜大学准教授の志田淳二郎、
そしてわたくし樋口敬祐です。

本書は、防衛省で情報分析官を長く務めた筆者らが
中心となり、足かけ4年の歳月をかけ作成したわが
国初の本格的なインテリジェンスに関する事典です。

2017年度から小学校にプログラミング教育が導入さ
れ、すでに高校では「情報科」が必修科目となって
います。また、2025年の大学入学共通テストからは
「情報」が出題教科に追加されることになりました。

しかし、日本における「情報」に関する認識はまだ
まだ低いのが実態です。その一因として日本語の
「情報」は、英語のインフォメーションとインテリ
ジェンスの訳語として使われているため、両者の意
味が混在していることにあります。

一方で、欧米の有識者の間では両者は明確に区別さ
れています。状況を正しく判断して適切な行動をす
るため、また国際情勢を理解する上では、インテリ
ジェンスの知識は欠かせません。

本書は、筆者らが初めて情報業務に関わったころは、
ニード・トゥ・ノウ(最小限の必要な人だけ知れ
ばいい)の原則だと言われ、ひとくくりになんでも
秘密扱いされて戸惑った経験から、ニード・トゥ・
シェア(情報共有が必要)の時代になった今、初学
者にも分かりやすくインテリジェンス用語を伝えた
いとの思いから作り始めた用語集が発展したもので
す。

意見交換を重ねているうちに執筆賛同者が増え、結
果として、事典の中には、インテリジェンスの業界
用語・隠語、情報分析の手法、各国の情報機関、主
なスパイおよび事件、サイバーセキュリティ関連用
語など、インテリジェンスを理解するための基礎知
識を多数の図版をまじえて1040項目を収録する
ことができました。

当然網羅していない項目や、秘密が開示されていな
いため、説明が不足する項目、現場の認識とニュア
ンスが異なる項目など不十分な点が多数あることは
重々承知していますが、インテリジェンスや国際政
治を研究する初学者、インテリジェンスに関わる実
務者には役立つものと思っています。



『インテリジェンス用語事典』
樋口 敬祐 (著),上田 篤盛(著),志田 淳
二郎(著),川上 高司(監修)
発行日:2022/2/10
発行:並木書房
https://amzn.to/3oLyWqi

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(ひぐち・けいすけ(インテリジェンスを日常生活に役
立てる研究家))



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【著者紹介】

樋口敬祐(ひぐち・けいすけ)
1956年長崎県生まれ。拓殖大学大学院非常勤講師。
NPO法人外交政策センター事務局長。元防衛省情報
本部分析部主任分析官。防衛大学校卒業後、1979年
に陸上自衛隊入隊。95年統合幕僚会議事務局(第2
幕僚室)勤務以降、情報関係職に従事。陸上自衛隊
調査学校情報教官、防衛省情報本部分析部分析官な
どとして勤務。その間に拓殖大学博士前期課程修了。
修士(安全保障)。拓殖大学大学院博士後期課程修
了。博士(安全保障)。2020年定年退官。著書に
『国際政治の変容と新しい国際政治学』(共著・志
學社)、『2021年パワーポリティクスの時代』(共
著・創成社)、『インテリジェンス用語事典』(共
著・並木書房)


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