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荒木さんの最新刊
知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。
そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
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自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
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『自衛隊警務隊逮捕術』
荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。
「陸軍工兵から施設科へ」第69回です。
日本刀のはなし、大好きです。
とても興味深い内容です。
とても学びが深いです。
さっそくご覧ください
エンリケ
メルマガバックナンバー
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陸軍工兵から施設科へ(69)
日本刀神話と論争
荒木 肇
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□はじめに
あなたの語ることは多くの人の支持は受けないよ
・・・と笑われたことがありました。それは映画か
ら始まり、テレビのドラマでも毎日くり返されるチ
ャンバラに関する話です。日本刀は斬れないという
わたしの経験談でした。もちろん、素晴らしい神技
のような刀を操る名人、達人はおられます。その妙
技を目の当たりにしても、とてもそれは一般人(ち
ょっと鍛錬した人も含めて)に出来ることではない
と確信していたのです。
まず、鉄を斬ることはできません。だから戦国時
代の戦闘描写で鎧を着た武者がバッタバッタと斬り
倒される・・・ありえません。わが家に伝わった鎧
兜は、鎖帷子(くさりかたびら)も合わせて重量約
20キログラム。そんな物をなぜ、身に着けたか。
刀で斬られることもないし、鑓で突かれても通らな
いからです。
では役に立たないか。そんなことはありません。
普通に置かれた肉や、据え付けられた巻き藁(わら)
や、鎧に守られない素肌にはとても威力がありま
す。豚の骨付き肉なども斬りましたが、よく「脂が
ついて斬れなくなる」というのは納得いかない話で
す。どうも大正時代のチャンバラ小説を書いた作家
が言いだしたことと聞いたことがあります。脂は斬
れないかというと斬れる。だって、包丁でロース肉
の脂身も斬れますし、なにより高速の円運動で刀は
撃ち込まれますし、引き斬るのも普通です。
ところが、何より初心者に毛が生えたような私た
ちが一番困惑したのが日本刀の構造的脆弱さでした。
それはすぐに鐔元(つばもと)から曲がってしまう
のです。真っ向から斬る時は多くが無事でしたが、
いわゆる袈裟(けさ)がけが難しい。竹や巻き藁は
斜めに斬り下げたり、斬り上げたりしますが、握る
柄と刀身を支えるのは、わずか一か所。目釘(めく
ぎ)です。これが多くは竹でできています。これが
すぐ折れてしまう。当時は、学生食堂で使い回しの
箸をもらってきて、先端を切って長さを整え使って
いました。
もちろん強いのは鉄でできたものでした。実戦で
使われたものには頑丈な鉄製があります。ただ、問
題は木製の柄と刀身の茎(なかご)をつなぐのがそ
こだけであり、鐔元にどうしても無理がかかります。
素人の私たちはたいていそこを曲げてしまいまし
た。もちろん、直す方法はあります。古い畳の間に
はさんで、上で何度も飛び跳ねる。まずまず直りま
した。刀は曲がってしまっては、正しい間合い(相
手との距離)が正しく取れなくなるからです。
ただし、刃こぼれだけは直りません。砥石で専門
家が摺り上げることしかないのです。
▼「南京大虐殺のまぼろし」
本多勝一氏が中国で「取材した」、数々の日本軍
の悪行が明るみに出ました。ところが、これに果敢
に挑んだジャーナリストがおりました。1973年
に刊行された『南京大虐殺のまぼろし』です。鈴木
明氏(ペンネームです。1925~2003年)は
丹念な取材をもとに「南京大虐殺」を描こうとしま
す。その著作の中で、南京の事件を大々的に報道し
たのは米国人で国民党政府の顧問だったハロルド・
ティンベーリだったことを明らかにもしました。
『南京大虐殺のまぼろし』は大宅壮一ノンフィク
ション賞を受けて、大きな評判を呼びました。わた
しもすぐに読んで感動した1人です。ただ調べれば
調べるほど検証不可能なことが増えていって、「ま
ぼろし」ではないかと主張した誠実な本でした。「
あったか、なかったか」、実態解明すら明確には分
からない、まるで「まぼろし」を実証するようなも
のだという著者の思いが十分に伝わってきました。
ところが、この本に「問題のすり替えだ」、「中
国人のいうことを疑うのか」と学者や文化人が猛反
発します。発刊した当座は「素晴らしい」と評した
人も手のひら返しで攻撃を始めます。
陸軍将校たちの親睦・研究団体を継承した「偕行
社」の中にも波紋が広がります。その頃の「あった、
なかった」の両派による言論の争いには驚かされ
ました。「なかったのではないか」、あるいは「陸
軍の恥部を声高に語るな」という人たちに「目を覚
ませ、反省するのだ」と大きな声をあげている方が
いました。実名は挙げませんが、近代陸軍史に誠実
に挑まれた方のその主張には、いささか「老いの一
徹」という匂いも感じ、しかもマスコミ界で成功さ
れた方でもありました。ちょっと偕行会には近づか
ないでおこうと当時のわたしは思いました。
▼日本刀百人斬りレース
当時の写真入りで本多氏の記事に載った「2人の
日本人将校による100人斬り競争」が大きな話題
になりました。そこに山本七平氏による疑問提示が
加わります。よくご存じない方もいると思いますが、
南京に進撃した部隊の2人の少尉が中国人を100
人斬り倒すというレースを始めたという記事です。
早く100人になったほうが勝者でという話です。
お二人とも戦後の中国による戦争犯罪裁判で死刑に
なったという悲劇でした。その検察側証拠になった
のが当時の毎日新聞の記事です。それを書いた記者
は、最後までねつ造を認めず、事実かどうかについ
ては「歴史と人民大衆が決めることだ」と意味深な
言葉を残しています。
わたしは山本七平氏の主張を読んで、この人はほ
んとうに戦場に軍刀こしらえの日本刀を持ちこんだ
のだと確信しました。構造的な欠陥があることは言
うに及ばず、曲がること、錆びやすいこと、案外斬
れないということなどの記述がわたしの経験からも
納得できたのです。
しかも、当時、わたしが古書店で見つけて購入した
昭和15(1940)年の『戦ふ日本刀』(成瀬関
次・実業之日本社)をふんだんに引用されています。
成瀬氏は武道家であり、刀剣師であり、刀の補修
業務などに軍属として戦場に立ちました。そこには
わたしが思った通りのことが書かれていました。鉄
条網を斬ろうとして刃がノコギリのようになったこ
と、大きく曲がり修理不可能になった刀のこと、そ
うした刀剣の弱点を多くの将兵が理解していなかっ
たことなどが実例を挙げて載っています。
次回は本多氏と山本七平氏の議論を紹介します。
(つづく)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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