配信日時 2023/01/19 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (395)】神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(32)   渡邉陽子(ライター)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽に
どうぞ

E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp

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こんばんは、エンリケです。

「ライター・渡邉陽子のコラム」。
こんかいは第395号です。

きょうは、
「神賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」
の32話。

早速ご覧ください。


エンリケ


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『ライター・渡邉陽子のコラム (395)』

 神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(32)

  渡邉陽子(ライター)

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こんばんは。渡邉陽子です。
火箱さんの連載は今回で一区切りとなります。書籍の中では火箱さ
んの自衛官生活はまだまだ続きますので、それまたいずれご紹介で
きればと思っています。
先日、編集者など同じ業界の人たちと十割そばの店に行ったのです
が、人生であれほどおいしい十割そばを食べたのは初めてで感激し
ました。店主の方ともお話できたのですが、専門は日本料理だった
ということで、肴がおいしいのも納得。話が弾んで出してくださっ
たそばがきも、そばがきの概念を覆されるおいしさでした。冷酒に
合うこと(泣)
月に一度しか訪れないエリアなのですが、そのたびに感動する食と
の出会いがあります。仕事の話で大いに盛り上がれるのも最高に楽
しいひとときです。


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■神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(32)

陸幕広報勤務2年目にはすっかり広報業務も板につき、階級も2佐
になっていた。また、報道担当BからAに「昇格」した。
報道担当Aになるとプレッシャーがまたすごい。Aの相手は防衛記
者会だし、直接陸幕長に話をする立場になるし、記者会見の準備も
する。今でこそ広報室長がかなり前面に出ているが、当時の記者会
見は報道Aが仕切ることが多かった。記者の関心ごとはわかってい
るから、「こういう質問があるかもしれない」「発表事項はこれだ」
と、夜中でも対応した。

その頃は携帯電話、ましてスマホなどはなく、広報室に大きなバッ
テリー付きの携帯電話が1台あり(バッテリーはショルダーバッグ
のように肩に下げる)、それで真夜中に出先から「明日こういう記
事が出るらしいです」と陸幕長に電話したこともあった(メディア
も夜中にしか言ってこないのだ)。
「明日の朝、マスコミが陸幕長の官舎の前で待ち構えているかもし
れませんから」と言うと陸幕長も「よしわかった」と。どんな夜中
に電話しようが、陸幕長からまったく文句は言われなかった。

毎朝、各新聞の朝刊に目を通して自衛隊に少しでも関係しそうな記
事を切り抜き、陸幕長や各部署のためにまとめるのも報道の仕事だ
った(現在は実施していない)。
どの記事を切り取るか、ここにもセンスがいる。もちろん防衛問題
をピックアップするのだが、ちょっと違う観点からの記事も陸幕長
は知りたいだろうからと、あれこれ思案しつつ、地方からFAXで
届く記事も合わせてダイジェスト版を作った。
のちに火箱が陸幕長の立場になったときも、毎朝机の上には新聞記
事をまとめたコピーが置かれていた。まさに陸幕広報時代に自身で
やっていたことだ。ただし、それを手にする前に毎朝陸幕広報室に
寄り、広報室長から国内の動きについて直接話を聞くのが習慣とな
っていた。
陸幕長の机で報告を待つだけでなく、自ら立ち寄って情報を入手す
るのは、歴代の幕僚長が行なっていたことだ。寺島陸幕長もよく広
報室に顔を出し、広報室長と話すほか、そこにいるマスコミとも会
話を交わしていた。そういった面を突き合せたコミュニケーション
を図ることも大事で、そこをないがしろにしなければ記者もおかし
なことは書かないようになってくる。
とはいえ、厳しいときは厳しい。彼らも社を代表してきているのだ
から、そこになれあいはない。

広報時代に痛感したのは、「嘘をついたり、ごまかしてはいけない」
ということだった。
知っていることを「知らない」と言ったら嘘になる。知ったかぶり
をしてごまかしてもいけない。だから「言えません」「わかりませ
ん、調べてきます」「知っているが言えません、コメントしません」
と言った。言う立場ではないとはっきり示した。そこを正直に言
わず嘘をつくからこじれていくケースが、ここのところ自衛隊でよ
くみられる。
嘘をつくというのは、結局相手をなめていることでもある。それに
記者に嘘をつくということは、すなわちその発信先である国民に嘘
をつくということだ。
だから火箱は陸幕長時代、毎週木曜日に行なわれる会見でも、常に
国民に対してブリーフィングしているつもりでいた。ときにはむっ
とする質問をしてくる記者もいるが、「こんな風にとらえている国
民もいるのだ」と思って答えるようにしていた。テレビカメラが回
っている前で話すときも、カメラの先に国民がいると思って話した。

パブリシティの重要性を陸幕広報で初めて知り、部隊勤務では学べ
ない多くを学んだ火箱に、また異動の時期が迫っていた。今度は九
州らしい。




(つづく)


(わたなべ・ようこ)



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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。
2022年 https://amzn.to/3ar7IBq
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