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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
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こんにちは、エンリケです。
あなたも、
インテリジェンスのプロフェッショナル・樋口さん
(元防衛省情報本部分析部主任分析官)に聞きたい
こと、書いてほしいこと、ありますよね?
コチラからお知らせください。
https://okigunnji.com/url/7
さてきょうの記事。
テーマは、ウクライナがロシアに対し展開している
秘密工作です。
事実の丹念綿密な収集蓄積を通じて思考を練り、
インテリジェンスにつなげてゆく実際がわかります。
素人はどうしても気持ちのいい突飛さやつじつま合い
に飛びつきますが、真に事の真相実相核心をつかみ
たいなら、地道な事実・思考の丹念な積み重ねが必
要不可欠だな、と改めて思わされています。
また、
秘密工作活動と秘密作戦の違い
など、この種のはなしに関心ある方には見逃せない
言葉もつまっています。
さっそくどうぞ。
樋口さんに聞きたいことがあれば、
いつでもこちらからどうぞ。
https://okigunnji.com/url/7/
エンリケ
おたよりはコチラから
↓
https://okigunnji.com/url/7/
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ウクライナ情報戦争(8)
ウクライナによる秘密工作活動
─ロシア各地で発生しているサボタージュ活動─
樋口敬祐(元防衛省情報本部分析部主任分析官)
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□はじめに:秘密工作活動と秘密作戦の違い
前回はロシアによる自国内での暗殺などの秘密工作
活動について述べましたが、今回はウクライナが関
与したと疑われる、暗殺よりもさらに組織的な秘密
工作活動について記述したいと思います。
アメリカのインテリジェンスのテキストなどによれ
ば「秘密工作活動」と「秘密作戦」を区分していま
す。
たとえば、1986年に発覚しその後はイラン・コ
ントラ事件と呼ばれるようになりましたが、これな
どはアメリカのNSCとCIAによって計画・遂行
された典型的な秘密工作活動です。
これは、1979年のイラン米大使館人質事件を契
機に国交を断絶していたイランに対してアメリカが
武器を売却し、その代金をニカラグアの反政府ゲリ
ラであるコントラに供与し政権を親米的に転換させ
ようとしていた事件です。
このような工作活動は、完全に秘密裏に行なわれ、
アメリカが関係していることが絶対に暴露されない
ように遂行しなければなりませんでしたが、それが
発覚して大問題に発展しました。
「秘密作戦」も、政府機関や組織、またはそれらに
支援された組織により秘密裏に行なわれる作戦です。
たとえば2011年アメリカが行なったパキスタンにお
けるビンラディン殺害作戦のようなものです。
秘密工作活動も秘密作戦も秘密裏に行なわれ、形だ
け見れば似たような結果になることもあります。
しかし、両者の決定的な違いは、
が計
画や実行について、明確に特定の組織などの関与を
否定、曖昧にすることを主眼とするのに対し、秘密
作戦は少なくとも実行するまでは、その作戦自体を
隠すことに主眼があります。つまり、作戦を実行す
れば国家や組織の関与が明らかになっても構わない
のです。
また、アメリカにおいては、情報組織の下には特
殊作戦部隊はないので、CIAなどの情報機関によ
る情報提供や支援の下、秘密作戦自体は軍の特殊作
戦部隊(デルタフォースやネイビーシールズなど)
が行ないます。
もっとも、ロシアには、情報機関隷下に特殊作戦部
隊があり、秘密工作活動と秘密作戦の区分は明確で
はなく一括りにして積極工作とされているようです
が、このメルマガでは両者を区分して記述していま
す。
インテリジェンスの用語は本当に難しいですね。詳
しく知りたい方は『インテリジェンス用語事典』を
是非ご参照ください。
『インテリジェンス用語事典』
樋口 敬祐 (著),上田 篤盛(著),志田 淳二郎(著),
川上 高司(監修)
発行日:2022/2/10
発行:並木書房
https://amzn.to/3oLyWqi
▼ソ連の流れを組むウクライナの情報機関
ウクライナの情報機関は、元々はソ連の情報機関
の一部として活動していました。ソ連崩壊により独
立し、西側諸国とも情報共有などを行ないつつ、特
に2014年のロシアによるクリミア併合以降は、西側
の訓練を受けたりしているので、組織や情報業務の
やり方などに変化はあると思います。
しかし、一般的に組織風土というのはなかなか変更
できないため、本質的にはソ連時代と同じようなメ
ンタリティーが残っており、同じような活動をして
いることが十分に考えられます。
ウクライナの主要情報機関には、
・ウクライナ保安庁(SBU)(ソ連時代の国家保
安委員会〔KGB〕のウクライナにおける後継機関)
・ウクライナ国防省情報機関(ソ連軍参謀本部情報
総局〔GRU〕のウクライナにおける後継機関で主
に軍事情報を収集)
・ウクライナ対外情報庁(FISU)(外国の政治、経
済、軍事技術、科学技術、情報分野等における諜報
活動、並びに国際組織犯罪、テロ対策に従事)
・ウクライナ国家特別通信局(SSCIP)(通信傍受・
通信保全を担当)
などがあるようです。また、ソ連と同様に情報機
関の下に特殊作戦部隊も有しているようです。
▼サボタージュ活動はウクライナ側の仕業か?
2022年4月以降、ロシア各地で発生した大規模
な火災・爆発事故は、ロシアのウクライナ侵攻と直
接、間接的に関連があるという見方が出ています。
5月4日の英デイリー・エクスプレス紙によると、
ロシアによるウクライナ侵攻以降、5月2日までに、
少なくとも15件の大型火災・爆発事故が報告されて
います。
はじめ事故が発生した地域は、ウクライナに近いロ
シア南部に集中していました。しかし4月に入って
からは、首都モスクワ近郊の軍事関連施設で、原因
不明の大規模火災・爆発事故が次々と発生し始めま
した。
デイリー・エクスプレスは「5月に入ってからは、
火災・爆発の規模が一層大きくなった」と分析して
います。
米シンクタンク外交政策研究所(FPRI)の軍事専門
家ロブ・リー氏は、英国のガーディアン紙とのイン
タビューで「ロシア本土で発生した一連の火災・爆
発事故は、ウクライナのサボタージュ(意図的破壊
行為)の可能性がある」と分析しています。
5月2日にはロシア中部のペルミ地域の爆弾製造工
場で発生した火災により、労働者2人が死亡しまし
た。
またその翌3日には、モスクワの「親クレムリン
(ロシア大統領府)」系の出版社の倉庫では、大型
火災が発生しました。この日の火災により3万3800
平方キロメートル規模の倉庫全体が火に包まれ、建
物の一部が崩壊するなどの大規模被害が発生し、注
目されました。
タス通信によれば「正確な火災原因は究明されてい
ない」といいます。
▼弾薬庫などの破壊工作もウクライナによるものか?
8月になると破壊活動はさらにエスカレートします。
8月9日、クリミア半島のロシア軍の航空基地で爆
発が起きました。タス通信によると、ロシア国防省
は「複数の航空弾薬庫で爆発があった」と明らかに
し、ウクライナ軍による攻撃かどうかは不明である
が、ロシア国防省は「攻撃の結果ではない」として
事故の可能性を強調しています。
しかし、ポドリャク大統領府顧問は同日、SNSに
「キーウは関与していない」としつつも、「これは
始まりだ」と投稿しています。
ゼレンスキー大統領も同日夜のビデオ演説で、爆発
には触れないものの、「ロシアとの戦争はロシアに
よるクリミアの占領で始まった。クリミアで終わら
せねばならない」と述べています。
一方で、西側諸国は、この爆発は、ウクライナ側に
よる破壊工作の可能性を指摘しています。
英国防省は8月12日、クリミア半島のロシア軍航空
基地で起きた爆発によって、ロシア軍のスホイ24戦
闘爆撃機など少なくとも8機が破壊されるか深刻な
被害を受けたと分析し、黒海艦隊の航空部隊の能力
が現在著しく低下したとの見方を示しています。
米紙ニューヨーク・タイムズは、ウクライナ軍高官
の証言として、同軍の指揮下で活動しているパルチ
ザン(一般には外国軍や国内の反革命軍に対して自
発的に武器をとって戦う正規軍に入っていない遊撃
兵)が爆発に関与したと報じました。
その高官は、パルチザンは爆破にウクライナ製の装
置を使ったとも述べています。
ウクライナ軍はロシア軍に占領された地域の住民
向けに、工作活動の手法などを紹介しており、抵抗
運動を広げています。
そのようななか、8月16日には、今度はクリミア
半島ジャンコイにあるロシア軍弾薬庫で爆発が起こ
りました。その被害は弾薬庫だけでなく、周辺の電
力施設や鉄道、民間住宅などに及んでいる模様です。
ロシアの連邦捜査当局は16日に、爆発について捜
査を開始したと明らかにしました。また、クリミア
選出のロシアのミハイル・シェレメト下院議員は同
日、ロシア通信に「破壊工作の背後にはキーウがい
る」と述べ、爆発がウクライナによるものとの見方
を示しました。
一方、ニューヨーク・タイムズは同日、この爆発に
ついて、ウクライナ軍の精鋭部隊が攻撃に関与した
と同国政府高官の話として伝えています。
2014年以降、ロシア海軍の支配下に置かれ、高度に
要塞化されたクリミアは、従来このような活動は見
られませんでした。しかし、7月には、クリミアの
セヴァストポリ港にあるロシアの黒海艦隊の司令部
で、無人機によって運搬された小型爆発装置が爆発
し、6人が負傷しました。
この攻撃についてロシアはウクライナ軍によるも
のとして非難しましたが、ウクライナ当局者はこの
攻撃を強く否定しています。
10月8日には、ウクライナ大橋も何者かによって
破壊されました。これも、ロシアはウクライナ側に
よるとするものの、ウクライナ側はそれを否定して
います。
これら、クリミアにおける複数の爆発事案は、事故
なのかパルチザンを含むウクライナ側による攻撃な
のかは、必ずしも明確にはなっていません。
しかし、9月中旬からのウクライナ東部におけるウ
クライナ軍の反撃などをみれば、東部における戦い
と連携したクリミア半島における秘密工作活動や秘
密作戦の一つ、またはクリミアにおけるウクライナ
の反撃のための陽動作戦、(欺騙行動の一種)作戦
の一つと捉えることもできます。
ロシアが伝統とする積極工作活動は、ウクライナの
情報機関においても十分に引き継がれているのです。
次回は、今回言及したパルチザンについてもう少し
記述したいと思います。
□出版のお知らせ
このたび拓殖大学の川上高司教授監修で『インテリ
ジェンス用語事典』を出版しました。執筆者は本メ
ルマガ「軍事情報」でもおなじみのインテリジェン
ス研究家の上田篤盛、名桜大学准教授の志田淳二郎、
そしてわたくし樋口敬祐です。
本書は、防衛省で情報分析官を長く務めた筆者らが
中心となり、足かけ4年の歳月をかけ作成したわが
国初の本格的なインテリジェンスに関する事典です。
2017年度から小学校にプログラミング教育が導入さ
れ、すでに高校では「情報科」が必修科目となって
います。また、2025年の大学入学共通テストからは
「情報」が出題教科に追加されることになりました。
しかし、日本における「情報」に関する認識はまだ
まだ低いのが実態です。その一因として日本語の
「情報」は、英語のインフォメーションとインテリ
ジェンスの訳語として使われているため、両者の意
味が混在していることにあります。
一方で、欧米の有識者の間では両者は明確に区別さ
れています。状況を正しく判断して適切な行動をす
るため、また国際情勢を理解する上では、インテリ
ジェンスの知識は欠かせません。
本書は、筆者らが初めて情報業務に関わったころは、
ニード・トゥ・ノウ(最小限の必要な人だけ知れ
ばいい)の原則だと言われ、ひとくくりになんでも
秘密扱いされて戸惑った経験から、ニード・トゥ・
シェア(情報共有が必要)の時代になった今、初学
者にも分かりやすくインテリジェンス用語を伝えた
いとの思いから作り始めた用語集が発展したもので
す。
意見交換を重ねているうちに執筆賛同者が増え、結
果として、事典の中には、インテリジェンスの業界
用語・隠語、情報分析の手法、各国の情報機関、主
なスパイおよび事件、サイバーセキュリティ関連用
語など、インテリジェンスを理解するための基礎知
識を多数の図版をまじえて1040項目を収録する
ことができました。
当然網羅していない項目や、秘密が開示されていな
いため、説明が不足する項目、現場の認識とニュア
ンスが異なる項目など不十分な点が多数あることは
重々承知していますが、インテリジェンスや国際政
治を研究する初学者、インテリジェンスに関わる実
務者には役立つものと思っています。
『インテリジェンス用語事典』
樋口 敬祐 (著),上田 篤盛(著),志田 淳
二郎(著),川上 高司(監修)
発行日:2022/2/10
発行:並木書房
https://amzn.to/3oLyWqi
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(ひぐち・けいすけ(インテリジェンスを日常生活に役
立てる研究家))
樋口さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
このURLからお知らせください。
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https://okigunnji.com/url/7/
【著者紹介】
樋口敬祐(ひぐち・けいすけ)
1956年長崎県生まれ。拓殖大学大学院非常勤講師。
NPO法人外交政策センター事務局長。元防衛省情報
本部分析部主任分析官。防衛大学校卒業後、1979年
に陸上自衛隊入隊。95年統合幕僚会議事務局(第2
幕僚室)勤務以降、情報関係職に従事。陸上自衛隊
調査学校情報教官、防衛省情報本部分析部分析官な
どとして勤務。その間に拓殖大学博士前期課程修了。
修士(安全保障)。拓殖大学大学院博士後期課程修
了。博士(安全保障)。2020年定年退官。著書に
『国際政治の変容と新しい国際政治学』(共著・志
學社)、『2021年パワーポリティクスの時代』(共
著・創成社)、『インテリジェンス用語事典』(共
著・並木書房)
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おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
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