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荒木さんの最新刊
知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。
そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!
自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。
『自衛隊警務隊逮捕術』
荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。
「陸軍工兵から施設科へ」第61回です。
毎号の記事を読みながら、
甘酸っぱい思いに浸ってらっしゃる方も
多いことでしょう。
きょうもさっそくご覧ください
エンリケ
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陸軍工兵から施設科へ(61)
30年代のヒーロー「渡り鳥」
荒木 肇
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□昭和30年代とは?
昭和30年代は西暦では1955年から1964
年をいいます。何度もいいますが64年は新幹線が
走り、東京オリンピックがあった年です。昭和30
年には政府は「経済白書」で初めて「前進への道」
という言葉を使います。そうして翌年には、「もう
戦後ではない」と高らかにうたいあげました。
1955(昭和30)年には社会党の右派と左派
が統一され、自由党と民主党が保守合同の道をとり
ます。これから長く続く、55年体制といわれる社
会が始まりました。そうして5年後、1960年に
は「安保反対闘争」が起きたのです。
経験的にふりかえって見ると、この60年の安保
以前と以後ではずいぶん世の中が変わった気がして
います。小学生だったわたし、思えば60年以上昔
のことになりました。今回も懐かしい映画を語りな
がら世の中のことを思い出してみます。
▼渡り鳥シリーズ
テレビのBS放送で「ギターをもった渡り鳥」と
いうタイトルを見ました。昭和34(1959)年
8月の作品です。さっそく録画しておいて、夕方に
帰宅後に観てみました。ああ、若いころの小林旭さ
んだと懐かしくなります。美青年でした。相手役の
浅丘ルリ子さんも清潔感にあふれてほんとうに綺麗
な人だった。
さて、小林旭さんは、これまた懐かしいペギー葉
山さんの「南国土佐を後にして」という歌謡映画の
主演を果たします。この歌は元はといえば、戦地で
長く過ごした土佐の兵隊さんたちの望郷の歌だった
などの説があるようです。
映画自体はたいへん申し訳ありませんが、安直な発
想で作られたとしか言えません。ただ、わたしのよ
うな小学生にとっては、ほかの土地・世界の様子を
知ることができるという新鮮さがありました。
この映画が、実は旭さんが主演する「渡り鳥シリ
ーズ」全9本の第1作になります。「渡り鳥故郷に
帰る」を入れれば10本になりますが、最後の
「・・・帰る」は物語のトーンも何より主人公もそ
れまでと変わるので普通はシリーズに入れないよう
です。
「南国・・・」では、旭さんは刑務所から出て、
故郷の高知に帰ります。そこで父親のおかげで10
0万円の借金を背負ったルリ子さんのために、自分
で封印してきたダイス(サイコロ)の技を解禁しま
す。コップの中に5個のダイスを入れてカラカラと
振り、すっとコップを挙げると、中には柱のように
ダイスが積みあがっています。
旭さんが扮する原田譲司には特攻隊で戦死した兄
がいました。兄の「母を頼む」という遺言に従って
故郷に帰ります。しかし、元ヤクザの前科者です。
社会は、故郷はそう簡単に受け入れてはくれません。
また女性のからみもあります。亡くなった兄の婚約
者が南田洋子さんです。この人にもひかれ、ルリ子
さんにも好意をもちます。しかし、結局は「・・・
後にして」、故郷を去ってゆきました。
旭さん扮する主人公は戦争の影をもっています。
兄が特攻隊で死んだなどという設定が当時はおかし
くありませんでした。元海軍予科練習生だった、陸
軍少年飛行兵だったという人たちは、映画の公開当
時には30歳になるかならぬかという歳だったので
す。
まだ彼は過去にこだわってもいました。死んだ兄の
遺志を果たすとか、兄が愛した女性を慕い、そのこ
とを罪深く思う。そんな文芸路線が「南国・・・」
です。
これが次の「ギターを持った渡り鳥」になると、ま
ったくリアリズムは無視されます。
▼次男や三男は都会に出た
同じ1959(昭和34)年には守屋浩さんとい
う人の「僕は泣いちっち」という妙な歌が流行りま
した。たしか、その前の流行歌の多くは、東京に出
た男性が故郷に残した女性を思うようなものが多か
ったのです。ところが、守屋さんの歌はそうではな
かった。村に残された青年が、東京に出た娘を思っ
て泣いたあげくに「僕も東京に行こう」と決意する
のです。職を求めて上京する女性も増えてきたとい
うことでしょう。
東京には女性の仕事はずいぶんありました。まだ
駐車場を備えた大きなスーパーマーケットはありま
せんでしたが、小売店という商売が、ふつうに私鉄
や国鉄の駅前でできた時代です。近所の奥さんたち
は買い物かごを提げて近くの商店街に行きました。
勤め帰りの人たちもお客にはたくさんいたのです。
女店員さんという言葉もありました。都会の大工場
ばかりか、中小工場も昔と変わらず女性労働者を吸
収していました。全国の農山村、漁村から続々と若
者は都会に出て来たのです。家を継ぐ、継がねばな
らない土地がない次男や3男は都会に出て行った時
代でした。
▼滝伸次のさすらい
ギターだけをかついで、着替えをつめたカバンも
バッグもありません。旭さんこと滝伸次は急に現わ
れます。北海道でした。馬車に便乗してきた旭さん
は町へ降りてゆきます。この他にも1960(昭和
35)年から「流れ者」シリーズが始まり、旭さん
はそこでは野村浩次として主役を務めました。
撮影所の不幸な事故で亡くなった赤木圭一郎さん。
この人がスターになった「抜き撃ちの竜」シリーズ
では旭さんは「剣持竜二」という名前になります。
みな「次男」の名前です。故郷を離れた根なし草の
虚無感、次男だからこそ家を出なければならなかっ
た諦念、あきらめといった感じをうまく演じること
で、都会の若者たちの心をつかんだのでしょう。
うちの近所の町中華にも地方からきたオニイサン
がいました。店主に叱られながら家族扱いをされて、
いつも元気に働いています。皿やどんぶりを洗って、
自転車も片手運転で出前に走り回っていました。い
つか自分の店を持とうとしていたのでしょう。八百
屋さんにも酒屋さんにもそうした人がいっぱいいま
した。お元気なら70歳代後半、あるいは80歳代
でしょうか。
時代を移す鏡としては、地方都市には必ずヤクザ
がいました。渡り鳥シリーズには必ず土地買収や再
開発が描かれます。各地の新興暴力団のリーダーが
います。またこの人がたいて金子信雄さんという脇
役俳優です。アミューズメント施設(ドリームラン
ドとかいう言葉を知りました)を計画したり、ホテ
ル建設や駅前の再開発を企画したりします。牧場や
鉱山、昔からの商店の土地を狙いました。
古い暴力団同士の抗争ではありません。経済ヤク
ザによる開発を考える人と、現状維持派の戦いです。
そうした中に入った「渡り鳥」は事件を解決します。
痛快なほどの活躍ぶりです。
浅丘ルリ子さんは善玉のフィアンセであったり、
娘さんであったりしますが、滝に心を寄せます。し
かし、滝はなぜか拒みます。事件の解決とともに地
域の祭りが始まりました。滝はやぐらの上で1曲歌
います。そうしてルリ子さんの熱いまなざしに背を
向けて人ごみの中に姿を消して行きました。
滝には過去も未来もありません。街から街へ、自
分の腕と度胸だけを頼りに生きてゆく。そうしたカ
ッコイイ姿は、都会で暮らす多くの次・三男たちの
心をとらえました。
次回は拳銃とマドロス・・・などを思い出しまし
ょう。そうして60年安保のことも調べてみます。
今回は『日活アクションの華麗な世界(合本)』
(渡辺武信・未來社・2004年)に多くを学ばせ
ていただきました。
(つづく)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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