配信日時 2022/11/25 08:00

【ウクライナ情報戦争(6)】ウクライナも得意とする積極工作(アクティブメジャーズ) ──プーチン大統領側近の娘の爆殺事件の真相とは?──

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
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WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは、エンリケです。

あなたも、
インテリジェンスのプロフェッショナルである
樋口さん(元防衛省情報本部分析部主任分析官)
に聞きたいこと、書いてほしいこと、ありますよね?

コチラからお知らせください。
https://okigunnji.com/url/7


興味深い質問が取り上げられています。

現在進行形で展開中のインテリジェンス活動につい
て本記事では整理分析されています。

それもプロの方によるものです。

これがどれだけありがたくうれしいことか。
あらためてその思いに浸っています。

樋口さんに聞きたいことがあれば、
いつでもこちらからどうぞ。
https://okigunnji.com/url/7/


ではさっそくどうぞ。


エンリケ



おたよりはコチラから
 ↓
https://okigunnji.com/url/7/


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ウクライナ情報戦争(6)

ウクライナも得意とする積極工作(アクティブメジ
ャーズ)

──プーチン大統領側近の娘の爆殺事件の真相とは?──


 樋口敬祐(元防衛省情報本部分析部主任分析官)

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□はじめに──米インテリジェンス機関の信ぴょう
性が高まった

読者の方からウクライナ情報戦争に関連して「西側
のインテリジェンス機関が効果的に事実を発信して
ロシアをけん制したという報道や意見がありますが、
西側の手の内が他国にばれてしまうリスクがあるの
ではないか? 一時的なけん制のための情報発信と
手の内を明かす費用対効果をどのように考えるか?」
との鋭い質問がありました。

この点については、今後の「偽旗作戦vs.機密情
報積極開示」の回で詳しく書こうと思っていますの
で、今回は簡単に触れておきたいと思います。

2021年11月召集された国防総省、国務省、エ
ネルギー省、財務省など関係省庁の担当者からなる
専門家によるアメリカ大統領直轄の「タイガーチー
ム」は、ロシアのウクライナ国境付近での行動に対
し懸念を示しました。そして軍事機密を基にした情
報発信によりロシアの活動を明らかにすることで、
ロシアの行動をけん制しようとしました。

実際にはロシアは、そのようなアメリカの発表など
まったく意に介することなく、むしろアメリカこそ
嘘をついているとばかりに、国境付近での演習を終
えた軍が撤退しているとする映像を公開していまし
た。その後、その舌の根の乾かないうちにウクライ
ナにロシア軍が侵攻を開始したのは皆さんご承知の
とおりです。

アメリカは、大統領や国務長官などが機密情報を基
にロシアの行動を判断していると強調していました
が、軍の活動において機密情報を基に判断し行動す
ることは当たり前でロシアも当然そう思っているは
ずです。

アメリカも、軍事機密を基に明らかにしたとはいっ
ても、具体的な中身やその情報源を明らかにしたわ
けではありません。情報源が画像なのか電波なのか、
または人(的情報源)なのか明らかにされていな
いため、実は情報機関が手の内を明かしているわけ
ではありません。

以上のようなことを考えると、アメリカは機密情報
を基にロシアが軍事侵攻の意図があると、大統領は
じめ機密情報を開示した発言をしましたが、ロシア
の軍事行動をけん制することはできませんでした。
したがって、機密情報の開示によるけん制の効果は
なかったということができます。

しかし、アメリカは機密情報の開示において、手の
内を明らかにしているわけではなく、その意味では
効果もなかったけれど、特に費用もかからなかった
といえます。

むしろ、ロシアがアメリカのインテリジェンス機関
の指摘通りに軍事侵攻したということは、ロシアが
偽情報を平気で流す一方で、米インテリジェンス機
関の情報が正しかったことが立証されました。その
ことは、その後のウクライナ戦争におけるアメリカ
の発言の信ぴょう性が高まったという点で大きな効
果があったと思います。

特に、ロシアがウクライナに侵攻する以前は、一般
的な学者やマスコミの論調では、ロシアがウクライ
ナに侵攻する可能性は低いと語られていたことを考
えるとなおさらです。

さて、今回は第4回目で触れました積極工作(アク
ティブメジャーズ)のディスインフォメーション以
外の暴力活動部分について述べたいと思います。

(*積極工作:他国の政策に影響を与えることを目
的として、伝統的外交活動と表裏一体で推進されて
いるディスインフォメーションから暴力活動をとも
なう活動までの公然・非公然の諸工作)

特にソ連(ロシア)は伝統的に行なっており得意と
していますが、同じソ連に属し似たような情報機関
を有していたウクライナも得意なはずです。

SNSをめぐる戦いはどこかまだ現実感がわきにく
いですが、暴力活動の部分は、結果が目に見えるだ
けにより現実感がわくのではないでしょうか。


▼ロシアによるゼレンスキー大統領の暗殺計画

4月1日の米FOXニュースのゼレンスキー大統領
へのインタビュー記事によれば、ロシアによる暗殺
計画をこれまで何度阻止してきたのか問われ、「試
みがあったことは聞いているが、何度あったのか数
えるのは難しい」と答えました。

2月24日のロシア侵攻以降、ウクライナ当局は3
月末までに少なくとも3回の暗殺を阻止したとの報
道もありますが、ミハイル・ポドリャク・ウクライ
ナ大統領府長官顧問は侵攻から2週間で12回以上
の暗殺未遂があったと明かし、「我々は非常に強力
なインテリジェンスと防諜ネットワークを持ってい
る」と語っています。

ロシア民間軍事会社ワグナーグループの傭兵やチェ
チェン共和国の特殊部隊がウクライナに送り込まれ
ているとされていますが、ロシア連邦保安庁(FSB)
の内通者からの情報により未然に防ぐことができて
いると欧米メディアは伝えています。

当然4月以降も、暗殺計画はあると思われますが、
その後目立った報道はなされていません。

▼プーチン大統領側近の娘の爆殺はウクライナによ
るものか?

2022年8月20日、ロシアの著名な思想家アレクサンド
ル・ドゥーギン氏の娘ダリア・ドゥーギナ氏が、モ
スクワ郊外で運転していた自動車が爆発して死亡し
ました。

8月22日FSBは、この犯行はダリア氏を標的と
してウクライナの情報機関によって準備され実行さ
れたものだと発表しました。

ダリア氏はロシアの国営メディアに頻繁に登場し、
タカ派のコメンテーターとしても知られていました。
そのためウクライナ側の標的となったのだとして
います。

さらにその声明の中では、1月ほど前の7月23日
にウクライナ人女性がロシアに入国し、ダリア氏の
住むアパートを借りて同氏のライフスタイルに関す
る情報を入手するなどして爆発の機会をうかがって
いたとしています。

また、この女性は、爆発前にはダリア氏とその父親
が出席したナショナリストの祭典にも出席していた
としており、事件後はすぐにエストニアに出国した
とされています。

ロシアのメディアは、このウクライナ人女性は、ウ
クライナ国家親衛隊のアゾフ大隊の一員だと伝えて
いますが、アゾフ大隊はすぐに「何の関係もない」
との声明を発表しました。

さらに、実はダリア氏の父親のドゥーギン氏を殺害
しようとして、手違いで娘を殺害したとの見方もあ
ります。

ドゥーギン氏は西側からは、ロシアがロシア語圏を
統一することなどを主張する極右思想家と指摘され
ているからです。

彼の著作はロシア政府の強硬派に愛読され、プーチ
ン大統領が2014年、ウクライナのクリミア半島
を併合し、東部地域を実効支配する決定を後押しし
たとされています。このように、ドゥーギン氏はプ
ーチン大統領の外交政策にも影響を与えるとされ
「プーチン氏の頭脳」と呼ばれることもある人物で
す。

一方で、ウクライナのミハイル・ポドリャク大統領
府長官顧問は、FSBの声明は「フィクションの世
界」からの「プロパガンダ」だとツイート
(“propaganda” from a “fictional world.”)
するなど、ウクライナ側は攻撃直後から殺害への関
与を否定し、その後も米情報機関の質問に対し暗殺
への関与を否定し続けているようです。

しかし、10月5日のニューヨークタイムズ紙は、
米情報当局者への取材でダリア氏の車の爆発につい
ては、ウクライナ政府関係者が関与していたと米情
報機関が判断したと報じました。

ただし、当局者は、ウクライナ政府のどの組織が任
務を承認したと考えられているか、誰が攻撃を実行
したか、ゼレンスキー大統領が任務を承認したかど
うかについては明らかにしていません。

暗殺の主な標的はドゥーギン氏であり、娘のダリア
氏と共にイベントに参加し、同じ車で帰宅する予定
を乗車する車を急きょ変更したため難を逃れたとし
ています。

米当局者は、この作戦についてアメリカは情報提供
なども行なっておらず、事前に相談を受ければ中止
を求めていただろうとも語っています。

▼ロシアによる自作自演の疑い

ダリア氏の殺害については、米国の報道にもあるよ
うにウクライナ政府の関与の疑いは強いものの、ロ
シアによる自作自演説も根強くあります。

つまり、ダリア氏殺害は、ウクライナに対する憎悪
を煽って戦意高揚や総動員令を出しやすくするため、
また、エストニアに対する厳しい対応をとる口実
のためにFSBなどの指示による自作自演ではない
かとの見方です。

ロシア国内では、ロシア政府の都合によって暗殺さ
れる人や不審死があるからです。

国際NGOジャーナリスト保護委員会によると、ロシ
アでは2000年1月から2014年12月までの間にロシア
政府に批判的な39人のジャーナリストが殺害されて
います。また、それらの犯人はほとんど検挙されて
おらず、検挙されても当局から詳しい説明はほとん
どありません。

たとえば、ロシア政府を強く批判していた独立系ジ
ャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏は、2
006年10月7日、モスクワ市内の自宅アパート
のエレベーター内で射殺されました。

ロシア警察は事件直後、犯人らしき人物が写ってい
る防犯カメラの映像を公開するなど、積極的に捜査
を行ない、チェチェン人2人の身柄を拘束しました。
しかし、2009年に証拠不十分で無罪となりました。

事件から6年後の2011年5月31日、ロシア連邦捜査委
員会は殺害の実行犯とみられるチェチェン人の容疑
者の身柄を拘束したと発表しました。しかし、それ
を画策したとされる黒幕は治安機関関係者だとされ
ています。

また、政権に反対する政治家も同じです。2015年2
月27日には、ロシアの反プーチン派指導者で野党党
首のボリス・ネムツォフ氏が、モスクワ中心部のモ
スクワ川大橋で銃殺されました。

FSBは3月7日に実行犯の男2人を拘束したと発表。
1人はチェチェン共和国の現役将校だったとしてい
ます。しかし、「プーチン政権あるいは過激なナシ
ョナリストによる暗殺」というのが、西側のメディ
アの大方の論調でした。

この事件では、ロシア当局は当初「現場付近の監視
カメラの電源が落ちていたので映像はない」と述べ
ていました。

しかし監視カメラを管轄するモスクワ市が「クレム
リン付近の監視カメラが中断されることはない」と
反論。その後、映像データが市当局からFSBに引き
渡されたとするなど、不透明な印象はぬぐえません。

次回も、積極工作について述べたいと思います。



□出版のお知らせ

このたび拓殖大学の川上高司教授監修で『インテリ
ジェンス用語事典』を出版しました。執筆者は本メ
ルマガ「軍事情報」でもおなじみのインテリジェン
ス研究家の上田篤盛、名桜大学准教授の志田淳二郎、
そしてわたくし樋口敬祐です。

本書は、防衛省で情報分析官を長く務めた筆者らが
中心となり、足かけ4年の歳月をかけ作成したわが
国初の本格的なインテリジェンスに関する事典です。

2017年度から小学校にプログラミング教育が導入さ
れ、すでに高校では「情報科」が必修科目となって
います。また、2025年の大学入学共通テストからは
「情報」が出題教科に追加されることになりました。

しかし、日本における「情報」に関する認識はまだ
まだ低いのが実態です。その一因として日本語の
「情報」は、英語のインフォメーションとインテリ
ジェンスの訳語として使われているため、両者の意
味が混在していることにあります。

一方で、欧米の有識者の間では両者は明確に区別さ
れています。状況を正しく判断して適切な行動をす
るため、また国際情勢を理解する上では、インテリ
ジェンスの知識は欠かせません。

本書は、筆者らが初めて情報業務に関わったころは、
ニード・トゥ・ノウ(最小限の必要な人だけ知れ
ばいい)の原則だと言われ、ひとくくりになんでも
秘密扱いされて戸惑った経験から、ニード・トゥ・
シェア(情報共有が必要)の時代になった今、初学
者にも分かりやすくインテリジェンス用語を伝えた
いとの思いから作り始めた用語集が発展したもので
す。

意見交換を重ねているうちに執筆賛同者が増え、結
果として、事典の中には、インテリジェンスの業界
用語・隠語、情報分析の手法、各国の情報機関、主
なスパイおよび事件、サイバーセキュリティ関連用
語など、インテリジェンスを理解するための基礎知
識を多数の図版をまじえて1040項目を収録する
ことができました。

当然網羅していない項目や、秘密が開示されていな
いため、説明が不足する項目、現場の認識とニュア
ンスが異なる項目など不十分な点が多数あることは
重々承知していますが、インテリジェンスや国際政
治を研究する初学者、インテリジェンスに関わる実
務者には役立つものと思っています。



『インテリジェンス用語事典』
樋口 敬祐 (著),上田 篤盛(著),志田 淳
二郎(著),川上 高司(監修)
発行日:2022/2/10
発行:並木書房
https://amzn.to/3oLyWqi

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ひぐちけいすけ(インテリジェンスを日常生活に役
立てる研究家)



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このURLからお知らせください。

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【著者紹介】

樋口敬祐(ひぐち・けいすけ)
1956年長崎県生まれ。拓殖大学大学院非常勤講師。
NPO法人外交政策センター事務局長。元防衛省情報
本部分析部主任分析官。防衛大学校卒業後、1979年
に陸上自衛隊入隊。95年統合幕僚会議事務局(第2
幕僚室)勤務以降、情報関係職に従事。陸上自衛隊
調査学校情報教官、防衛省情報本部分析部分析官な
どとして勤務。その間に拓殖大学博士前期課程修了。
修士(安全保障)。拓殖大学大学院博士後期課程修
了。博士(安全保障)。2020年定年退官。著書に
『国際政治の変容と新しい国際政治学』(共著・志
學社)、『2021年パワーポリティクスの時代』(共
著・創成社)、『インテリジェンス用語事典』(共
著・並木書房)


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おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)

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