配信日時 2022/11/24 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (388)】神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(25)

こんばんは、エンリケです。

「ライター・渡邉陽子のコラム」。
こんかいは第388号です。

「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」
の25話目。

きょうは、うれしいお知らせを

渡邉陽子さんはこのたび、

毎週月曜放送のニッポン放送
「私の正論」(0610~0620)

に出演されることになりました。

来週11/28(月)から4週連続(12月19日を除く)です。

スマホ、PC、タブレットで使えるラジオ受信ソフト
「Radiko」を使えば、
全国どこに住んでいても一週間聞けます。(有料)
聞きのがしても大丈夫!

詳しくはコチラで

Radiko
https://radiko.jp/

ぜひ聞きましょう!


では今日の記事、早速ご覧ください。


エンリケ


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『ライター・渡邉陽子のコラム (388)』

 神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(25)

  渡邉陽子(ライター)

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こんばんは。渡邉陽子です。上富良野から「今日ジャムを送りまし
た」といううれしい連絡がありました。手作りジャム! 本当は預
かってもらっていたレンズフィルターを送ってもらうはずが、「ジ
ャムができたら一緒に送ります」と言ってくださったときからジャ
ムがメインに(笑)。レンズフィルターはレゾリュート・ドラゴン
22の取材時、オスプレイのダウンウォッシュで飛んできた小石で
割れてしまったのです。急いで注文したのですが、宿に届いたとき
はもうチェックアウトしてしまっていたのでした。ちなみにオスプ
レイだからダウンウォッシュがすごかったのではなく、距離が意外
に近かったのが原因です。チヌークや2017年に除籍した海自の掃海
ヘリMH-53を撮影したときは、強烈なダウンウォッシュで転がらな
いよう、隊員が背中を押さえてくれていたほどです。それを考えれ
ばオスプレイは立っていられましたから、小石は単なる不運です。
北海道から手作りジャムが届くって、素敵な響きですよね。

<ラジオ出演のご案内>
毎週月曜、1810~1820に放送されているニッポン放送「私の正論」
に、11月28日から4週連続(12月19日を除く)で出演します。自衛
隊のことなどお話させていただきます。
私の正論 https://www.1242.com/seiron/


◆最新刊です!

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◆雑誌記事のお知らせです。

●『正論』12月号に「北海道日米共同訓練密着ルポ 実戦知る部隊
に学ぶ「リアル」の緊張感」が掲載されました。先日取材したレゾ
リュート・ドラゴン22について、いつものレポートとはちょっと
異なり、個人の見解も結構書いています。また「われらの女性自衛
官」は陸上自衛隊中央警務隊のSP! 任務中のきりっとした雰囲
気と、インタビュー中のほんわかした雰囲気のギャップが最高でし
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■神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(25)

「なんで今さら空挺なんだよ」と思いつつ着任した場所で全力を尽
くせたのは、今まで新職務に就くたびに状況判断のイロハのイに当
たる「任務分析」という考え方を教わり、その中に己の地位・役割
を明らかにし、具体的に達成する目標を設定する手法を身につけた
おかげだった。
「今の自分の地位において与えられている権限でかならず達成しな
ければならない目標はなにか」を基準に、それよりさらに望ましい
目標を設定して精強な部隊を作ることを、火箱は実践したのだ。

その仕事ぶりを見ていた楠元空挺団長から、東部方面隊の指揮所訓
練の際に「空挺の幕僚幹部を鍛えてくれ」と特命を受けた。空挺で
の任期も終わりに近づいていた頃である。
状況が進み戦場で空挺が使われる場面において審判をやることにな
った火箱は、容赦なく団本部の先輩の幕僚などに「なんだこの作戦
計画は! 本当にこれでいいのか、これで攻撃するのか」と詰め寄
り、「いい」という答えが返ってくればすぐさま「火力の支援もな
いのに攻撃して成功するはずがない。攻撃失敗! 部隊全滅!」と
審判した。全滅ならそこで状況終了である。
当然ながら全滅と言われた戦場指揮官は「なにいいい!」といきり
立ち、攻撃計画を立案する3科長は怒り狂った。その様子を見たほ
かの部隊は「空挺同士でケンカしてる」と野次馬根性丸出しで見て
いる。それでも火箱には自分が正しいという信念があった。

この指揮所訓練の際に統裁官を務めていたのが、東部方面総監部幕
僚副長で後に第25代陸上幕僚長となる渡邊信利陸将補である。こ
の渡邊陸将補に呼ばれ、「お前、そろそろ陸幕広報に異動だって?」
とささやかれた。
火箱がもっとも直視したくない現実が迫っていた。この時点ですで
に内々示が来ていて、空挺の次は陸上幕僚監部広報室への異動が決
まっていたのだ。
当時の火箱にとって、それはまるで死刑宣告だった。
「俺は軍人だぞ。中隊長も真剣にやってきたつもりなのに、なんで
駐屯地訪問者を案内するような広報を俺がやらなくちゃいけないん
だ。ばかにしてんのか。俺の状況はこれで終わったな」 火箱は自
衛隊を辞めたいとすら思った。

第1空挺団普通科群第2中隊長としての1年7か月間は、火箱にと
って心技体の充実した日々だった。
最初こそあまり気乗りしないまま着任し、しかも降下することとラ
グビーのことばかり考えている中隊の実態に唖然とした。「なにが
精鋭無比だ。お前ら第1空っぽ団だ!」と罵り、1から鍛え直し、
“即動”には長けていても持久力がなかった部隊を長期野営で追い
込んだ。そして隊員たちは厳しい訓練を懸命にこなし、最終的には
「磨けば光る」と火箱の胸を熱くするほど精強な部隊となった。
バブルまっさかりの六本木で防衛庁の警備をした際には、瓦防衛庁
長官(当時)から「空挺が守っているときは安心だ」お褒めの言葉
をいただいたり、観閲式で観閲行進したり、まさにフルライフな日
々だった。「フツーの中隊長がいい」と思っていたのが嘘のようだ
った。

しかし幹部自衛官の異動は避けられない。火箱も空挺を去る日がや
ってきた。
苦楽も共にした隊員たちとは固い絆で結ばれているというのに、そ
れを断ち切ってガイドをするような仕事に就かなくてはいけないと
は(当時の火箱の広報業務に対する認識は“ガイド”だった)。気
がふさぐばかりか、「状況終わった。自衛隊辞めたい」とまで思っ
た。

離任式のとき、挨拶はごく短く済ませ、自分の気持ちを代弁するつ
もりで『星影のワルツ』をアカペラで歌った。幹部候補生学校を卒
業して最初に配置された第1混成団の桑江良逢団長が、離任の際に
歌った歌だ。「指揮官が部隊を去るときはこういう気持ちなのか」
と、空挺の中隊長を経験して火箱は初めて知った。だから尊敬する
桑江団長にあやかって、同じ歌を歌わせてもらったのだ。
「別れることはつらいけど 仕方がないんだ君のため 別れに星影
のワルツをうたおう……」
空挺への思い、2中隊への思い、1年7カ月のさまざまな思い出が
走馬灯のようによみがえり、こらえようとしても涙が止まらない。
鼻水が出てほとんど歌にもなっていない。整列している隊員たちも
号泣している。あとから聞いた話では、離任式支援をしているほか
の部隊の隊員まで感極まって泣いていたそうだ。

後に空挺団長としてここに戻ってくることになるとは夢にも思って
いなかったから、空挺とは今日限りという思いと、厳しい訓練に耐
え、自分に付いてきてくれた隊員たちへの「よくやってくれた」と
いう思いで胸がいっぱいだった。
その後、連隊長、師団長、方面総監、そして陸上幕僚長と、率いる
隊員の数がどんどん増えていった火箱だが、どの立場の指揮官のと
きでも、その職から離れるときは涙があふれた。大の男が人前で涙
を見せるのは情けない。絶対に泣くまいと思っていても、一緒に働
いた隊員たちへの感謝の気持ちが込み上げて涙腺が緩んでしまう。
陸上幕僚監部の部署から部署へのいわゆる「スリッパ異動」では経
験できない、部隊勤務ならではの熱い思いがあるのだ。



(つづく)


(わたなべ・ようこ)



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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。
2022年 https://amzn.to/3ar7IBq
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