配信日時 2022/11/21 08:00

【桜林美佐の「美佐日記」(196)】防衛産業の衰退──撤退してもおかしくない制度の不備 桜林美佐(防衛問題研究家)

196回目の美佐日記。

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桜林美佐の「美佐日記」(196)

防衛産業の衰退──撤退してもおかしくない制度の
不備


桜林美佐(防衛問題研究家)

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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』、令和4年11月の今
回は196回目となります。

 島津製作所が防衛事業から撤退するのではないか
と話題になっています。同社は操縦席のコックピッ
トディスプレーなどを手がけている「防衛産業」の
一つです。

 撤退するかどうかはまだ分かりませんが、少なく
とも採算が合わない防衛事業は資源配分の順位が最
も低い「再編事業」に位置付けられたようです。

 このところ、ベンダー企業だけでなくプライム企
業の撤退も相次いでいることから、さすがに国とし
ても懸念を深めている様子です。

 現時点で撤退した大手企業は、航空機用レドーム
などの住友電工、航空機用タイヤなどの横浜ゴム、
車両部門で小松製作所、射出座席や火工品などのダ
イセル、そして次期機関銃から手を引いた住友重機
械工業、航空機用ディスプレイの横河電機といった
社名が並びます。

 ベンダー企業には、撤退を申し出た会社、またそ
のつもりでいる予備軍はもっと多いと思います。

 そこで、最近は「防衛事業を儲かるものにすべき」
という声もあがるようになり、勢い「利益率アップ
が必要」などと言われています。

 なんだか、この辺りの言葉の選択にも嫌な予感が
するのは、「利益率アップ」とは、いかにも企業の
利益がじゃぶじゃぶ上がるかのような印象を受ける
からです。

 「企業に損をさせない仕組みにする」だったら、
まだ分かりますが、それでもちょっと疑問も拭えま
せん。本当に損をしないようになるのかと。

 現状、防衛省の原価計算で7~8%の利益率と言
われていますが、予期せぬ事故や部品価格高騰など
でコストが増加し、実際の利益率は2~3%にすぎ
ないと言われています。

 なので、聞こえの良い「利益率10%に!」と、
仮になっても、利益率名目7%その実2%の企業に
本当に恩恵があるのかどうか甚だ疑問です。

 それなのに、仮に「10%まで上げた」というこ
とになれば、世間的には評価され、それだけしたの
にまだ文句を言っているのかということになってし
まうのではないでしょうか。
 
防衛費「2%」もそうなのですが、何か、文句を言
わせないためのマジックに感じて仕方ありません。
防衛関係者、踊らされてないでしょうか?

 そのような表面的な数字よりも、入札時の価格が
低すぎることや、かかった経費を認められないこと
のほうが問題だということではないでしょうか。

 そこの核心部分は無視して、インパクトのある「
〇〇%アップ」のフレーズに注目させるというのは
目くらましのように見えます。専門家の方は「埋没
原価は原価で、利益ではない」と指摘されています。
本来ならこれは防衛省・自衛隊が積極的に訴え改
善に動くことではないかと思います。

 企業がこれまでずっと言い続けて来たのは「可動
率」を維持することです。装備を持っていても動か
なければ意味がないのであり、日本の関連企業が自
衛隊の運用を支えてきたことは各所で私も繰り返し
述べてきました。

 もしかしたら、自衛隊自身よりも防衛産業の方が
可動率に対する意識が高かったと言っても過言では
ないかもしれません。

 企業の撤退を報じる際も、採算が合わないとか利
益率が低いと表現されると、企業側の身勝手のよう
なイメージも持たれそうですが、不測の事態で経費
が高騰しても面倒見てもらえず持ち出しで賄わなけ
ればならない事業など継続できるわけがないですよ
ね。

 島津製作所の動向はまだ分かりませんが、すぐに
でも撤退しても全くおかしくない状況であることは
間違いないでしょう。

 同社は過去に防衛省に対する「過大請求事案」を
起した数多い企業の中の一つです。いわゆる「過大
請求」については、制度上の問題が大きいことは、
私も書いてきましたし、防衛省内でも関係部署では
暗黙の認識になってきました。

 しかし、その制度問題を解決させることなく、事
案が発覚した企業は一定期間指名停止される上、多
額の違約金を納入しています。この種の違約金はこ
れまでで合計数千億円あるとみられますが、全て国
庫に入っています。

 制度が悪いと皆が分かっているのに、そこには手
を付けずに企業から億単位の違約金を取り、その損
失だけでなく世間からの風当たりも含め企業を痛め
傷つけ、そりゃ、撤退されてもおかしくないでしょ
うよ、と私などは思ってしまうのです。
 
 そんなわけで、今回は、制度上の不備を理解せず、
いや知っていても知らないふりをしているのかも
しれませんが、防衛産業が衰退していて大変だと表
面的にだけ問題意識を持っている風潮について考察
してみました。

 今日も最後まで読んで下さりありがとうございま
す!どうぞ良い1週間をお過ごし下さい!


<おしらせ>

●オープニング動画に全力が傾けられていると評判
の(!?)YouTube企画『Boei Caf
e』がアップデートされました。今回は元国家安全
保障局次長の兼原信克さんです。4回シリーズで、
毎週月曜の朝にアップされるようです。
前回の、内閣官房参与で安倍元首相のスピーチライ
ター谷口智彦さんの4回シリーズも引き続きどうぞ
よろしくお願いします。
https://www.youtube.com/channel/UCzO7HYpVqnrnCAdlaq7bRwg


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(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(P
HP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。新刊『誰も語
らなかったニッポンの防衛産業』(産経NF文庫)、
「陸海空 軍人から見たロシアのウクライナ侵攻」
(ワニブックス)




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編集後記

明治以来の官尊民卑、歪な武士道感覚のままだと、
泣きを見るのは官の側、という時代に入ってます。
お上の意識改革が、いま最も必要なことと感じてな
りません。

(エンリケ)


発行:
おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
 
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