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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
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こんにちは、エンリケです。
あなたも、
インテリジェンスのプロフェッショナルである
樋口さん(元防衛省情報本部分析部主任分析官)
に聞きたいこと、書いてほしいこと、ありますよね?
コチラからお知らせください。
https://okigunnji.com/url/7
さて今日の記事。
一読し、昔学んだコピーライティングを思い起こし
ました。軍民は、見えるところも見えないところも
すでにボーダーレスですね。
ではさっそくどうぞ。
エンリケ
おたよりはコチラから
↓
https://okigunnji.com/url/7/
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ウクライナ情報戦争(5)
新たな戦争の実態──「いいね戦争」と「ナラティ
ブの戦い」
樋口敬祐(元防衛省情報本部分析部主任分析官)
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□はじめに
松野博一官房長官は11月10日午前の記者会見で、ウ
クライナで日本人義勇兵が死亡したとの情報がSNS
などで拡散されていることについて「情報があるこ
とは承知している。現在、在ウクライナ日本大使館
が事実関係の確認を行なっている」と述べました。
翌11日午前の記者会見では、戦闘に参加していた
20代の邦人男性が現地時間9日に死亡したと語り
ました。ロシアのウクライナ侵攻による日本人の死
者は初めてとみられます。
このように、SNSの情報は既存の報道よりも早く
伝わります。いわばSNSは、報道関係者さえ入り
込めない危険な地域も含め世界各地に特派員を派遣
しているようなものです。
しかし、軽易に情報を発信、拡散できるため、正し
い情報だけでなく虚偽の情報も拡散しています。
今回もディスインフォメーションに関連してSNS
を活用した戦い「いいね戦争」と「ナラティブの戦
い」について述べたいと思います。
▼SNSによる悪意のない拡散問題
SNSの中でも特に世界に10億人超のユーザーがいる
TikTokはニセの動画拡散にも大きな役割を果たして
います。
たとえば、ウクライナ戦争に関連しロシア国旗とと
もに投稿された軍用機の離陸シーンのTikTok動画は、
300万近い閲覧数です。しかし、その航空機がそも
そもロシアのものではありません。2017年頃に
YouTubeに投稿されたアメリカ海軍の展示飛行隊で
あるブルーエンジェルスのビデオに銃声の音が重ね
られたものだと判明しています。
また、ウクライナでの爆撃の様子とされた動画は60
0万近い閲覧数を記録しましたが、実際は国外で撮
られた映像に2020年にレバノンで起きた爆発事故の
音声を重ねたものだったとされます。
そして、これらの動画を広めているのが、一般の
人々であり多くの人は、それらを拡散することに悪
意はないとみられます。ネット上で動画の真偽をわ
ざわざ見極めて拡散する人は少ないでしょう。
さらに、米ワシントン大学の研究者レイチェル・モ
ラン氏はウクライナにおける拡散行為について、ウ
クライナにおける激しい戦況を前に人々はもどかし
さを募らせており、無力感をやわらげたい心理行為
が拡散行為に拍車をかけているのだと分析していま
す。
我が国においても、悪意のないいやむしろ善意の情
報の拡散の例が見受けられます。
たとえば、コロナ禍において、トイレットペーパー
が不足するということがありました。しかしそれは、
東大の鳥海教授の調査によれば「トイレットペーパ
ーが不足するというのはデマだ」から騙されないで、
というむしろ善意の情報の拡散のほうが多かったと
しています。
善意の情報がより多く拡散し、トイレットペーパー
が不足するとはあまり思わないけど、念のため買っ
ておこうという心理がトイレットペーパーの買い占
めを招いたとしています。
▼いいね戦争──誰もが情報戦争の戦闘員
「いいね戦争」とは、軍事研究とSNS研究の第一線
で活躍するP・W・シンガーとエマーソン・T・ブル
ッキングが、多数の事例をもとに新たな戦争の実態
を解明した本のタイトルです(2019年出版)。
アメリカ大統領選挙、イスラム国、ウクライナ紛争
(2014年)、インドの大規模テロ、メキシコの麻薬
戦争など国際政治から犯罪組織の抗争まで、SNSは
政治や戦争のあり方を世界中で根底から変えてしま
いました。
インターネットは新たな戦場と化し、情報は敵対者
を攻撃する重要な兵器となってしまいました。誰も
が情報戦争の戦闘員になり得ます
そして、その「いいね!」や「シェア」が殺戮を引
き起こすのです。 いまやこの戦場で人びとの注目
を集めるべく、政治家やセレブ、アーティスト、兵
士、テロリストなど何億人もが熾烈な情報戦争を展
開する事態になっています。
そして、ウクライナ戦争で「いいね戦争」はさらに
進化しています。
▼ナラティブの戦い
そして、SNSの発信においては「ナラティブの戦い」
も組み合わされて行なわれています。ナラティブ
とは、「物語」と訳されることが多いですが、安
全保障の枠組みでは、「人々に強い感情・共感を生
み出す、真偽や価値判断が織り交ざった感染性の強
い通俗的な物語」のことです。
その特徴は、「シンプルさ」「共鳴」「目新しさ」
です。そのため、状況や相手に応じて柔軟に変化す
るのも特徴です。
ウクライナ戦争では、ロシアは「ネオナチにウクラ
イナが支配されている」「ロシア人が迫害されてい
る」そのため「抑圧されるロシア系住民を救出する
ための特別軍事作戦」を行なうと世界に発信しまし
た。
これらのナラティブはロシア国内やウクライナのド
ンバス地域の住民など東部の一部の人には受け入れ
られたものの、世界的には受け入れられませんでし
た。
また、ロシア占領地域において従来になかった工作
活動らしきもの(弾薬庫の爆破、クリミア橋の破壊
など)が起こってくると非難の矛先を「ネオナチ」
から「テロリスト」へとあっさりと変更しています。
より受け入れられやすい物語であれば、過去との
整合性など関係ないといった姿勢が見て取れます。
一方ウクライナ側は、ゼレンスキー大統領が自国を
捨てて逃げたとするロシア側の発表にすぐさま反応
し、「わたしたちはここにいる」と主要閣僚たちと
ともに、キーウからSNSですぐさま動画を発信しま
した。
その後、自国をロシアに蹂躙され失地を回復するた
めに、各国の議会などにおいてその国に受け入れら
れて国民感情を揺さぶるような表現を使い分けナラ
ティブを世界に向けて訴え始めました。
たとえばアメリカでは「パールハーバー」、我が国
に対しては「原発事故」、「復興」などをキーワー
ドとして、各国の議会などに対し、オンラインで訴
えかけました。誰もが知る歴史や社会集団の記憶に
根差すナラティブは特に拡散しやすい可能性が高い
のです。
その結果、西側各国からは、ウクライナへの軍事的、
経済的支援がすぐに集まりました。
ただし、ウクライナ側が語るナラティブが、必ずし
も正しいわけではありません。たとえば2月24日
のズミイヌイ島(ウクライナの南西沖にある、面積
0.17平方キロメートルの小さな島)での戦闘では、
ウクライナ政府筋は13人の国境警備兵がロシア軍へ
の降伏を拒否し玉砕したと発表し、その悲惨さとロ
シアの残虐性をアピールしました。
しかし、実体は、通信が不通になり玉砕の前に警備
隊が自ら投降して捕虜になったというものでした。
▼ウクライナ側のSNSの活用
SNSによるウクライナ側の情報の発信は、ナラテ
ィブを世界に伝え、国際世論を味方にする上でも大
きな役割を果たしています。ウクライナへのロシア
の侵攻直後、ゼレンスキー大統領が自国を捨てて逃
げたとするロシア側の発表に対して、SNS上です
ぐさま反応し、「わたしたちはここにいる」と主要
閣僚たちとともに、キーウから動画が発信されまし
た。このことは、ウクライナ国民の愛国心を高揚さ
せ、国際社会によるウクライナへの支援を取り付け
ました。
ウクライナ人から発信されている写真や動画情報は
極めて多く、それらは地域におけるロシア軍の残虐
な行為を世界に知らしめるとともに、地域住民がロ
シア軍の動向に関する情報を軍に提供する役割も果
たしています。今までも戦場の様子などがSNS上
に流れることはありましたが、このような意図的な
行動も今までにはないものです。
これは、戦場がウクライナ国内であり、一般市民が
スマートフォンなどで撮影した画像をSNSに気軽
に投稿することができる環境が整っていることも理
由の一つでしょう。
ただし、このような市民による行為は、ロシア側に
とっては、いわばスパイ行為であり、このことが、
ロシア側が地域住民を逮捕して拷問などを行なって
いる行為につながっている可能性もあります。
▼ロシアは兵士のSNS投稿を禁止
ウクライナ側がSNSを多用する一方で、侵攻した
ロシア軍の兵士からと思われるSNSへの投稿は見
られません。兵士の投稿を厳しく規制しているから
です。ロシア軍で、このような規制が徹底されたの
は、2014年のロシアによるクリミア併合の時の
教訓によるものです。
2014年当時は、クリミアではリトル・グリーンマン
と称される徽章をつけていない覆面の武装集団が主
要施設を次々と占拠していきました。ロシアはハイ
ブリッド戦の一環として、親ロシア派の集団がウク
ライナ政府に反旗を翻してそのような行動をとって
いることにしたかったのです。
しかし、これらの兵士の中には、スマホで自撮りし
てSNSに投稿する者がいました。そのため、それ
らの写真からリトル・グリーンマンの中にロシア軍
の現役の兵士が含まれることが次第に判明し、ロシ
アの工作活動の実態が明らかになりました。その教
訓から、ロシア軍ではスマホの使用に制限が設けら
れました。
2019年2月には、その制限がさらに厳しくなり、兵
士の軍務中におけるスマートフォンやタブレットの
使用禁止、軍に関する話題をSNSへ投稿したり軍の
話題をジャーナリストに話したりすることなどが禁
止される法律が策定されました。さらにこのような
情報統制を一般人にも拡大しています。
ロシアはSNSを活用するよりも情報を統制する方法
をとっています。
国民には情報を統制する一方でプーチン大統領は、
自らメディアに向け発信したり、RTやスプートニ
クといったメディアの活用、IRAといった民間会
社による偽情報の拡散により、ナラティブを発信し
ています。
次回は、秘密工作活動について考えてみたいと思い
ます。
□出版のお知らせ
このたび拓殖大学の川上高司教授監修で『インテリ
ジェンス用語事典』を出版しました。執筆者は本メ
ルマガ「軍事情報」でもおなじみのインテリジェン
ス研究家の上田篤盛、名桜大学准教授の志田淳二郎、
そしてわたくし樋口敬祐です。
本書は、防衛省で情報分析官を長く務めた筆者らが
中心となり、足かけ4年の歳月をかけ作成したわが
国初の本格的なインテリジェンスに関する事典です。
2017年度から小学校にプログラミング教育が導入さ
れ、すでに高校では「情報科」が必修科目となって
います。また、2025年の大学入学共通テストからは
「情報」が出題教科に追加されることになりました。
しかし、日本における「情報」に関する認識はまだ
まだ低いのが実態です。その一因として日本語の
「情報」は、英語のインフォメーションとインテリ
ジェンスの訳語として使われているため、両者の意
味が混在していることにあります。
一方で、欧米の有識者の間では両者は明確に区別さ
れています。状況を正しく判断して適切な行動をす
るため、また国際情勢を理解する上では、インテリ
ジェンスの知識は欠かせません。
本書は、筆者らが初めて情報業務に関わったころは、
ニード・トゥ・ノウ(最小限の必要な人だけ知れ
ばいい)の原則だと言われ、ひとくくりになんでも
秘密扱いされて戸惑った経験から、ニード・トゥ・
シェア(情報共有が必要)の時代になった今、初学
者にも分かりやすくインテリジェンス用語を伝えた
いとの思いから作り始めた用語集が発展したもので
す。
意見交換を重ねているうちに執筆賛同者が増え、結
果として、事典の中には、インテリジェンスの業界
用語・隠語、情報分析の手法、各国の情報機関、主
なスパイおよび事件、サイバーセキュリティ関連用
語など、インテリジェンスを理解するための基礎知
識を多数の図版をまじえて1040項目を収録する
ことができました。
当然網羅していない項目や、秘密が開示されていな
いため、説明が不足する項目、現場の認識とニュア
ンスが異なる項目など不十分な点が多数あることは
重々承知していますが、インテリジェンスや国際政
治を研究する初学者、インテリジェンスに関わる実
務者には役立つものと思っています。
『インテリジェンス用語事典』
樋口 敬祐 (著),上田 篤盛(著),志田 淳
二郎(著),川上 高司(監修)
発行日:2022/2/10
発行:並木書房
https://amzn.to/3oLyWqi
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ひぐちけいすけ(インテリジェンスを日常生活に役
立てる研究家)
樋口さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
このURLからお知らせください。
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【著者紹介】
樋口敬祐(ひぐち・けいすけ)
1956年長崎県生まれ。拓殖大学大学院非常勤講師。
NPO法人外交政策センター事務局長。元防衛省情報
本部分析部主任分析官。防衛大学校卒業後、1979年
に陸上自衛隊入隊。95年統合幕僚会議事務局(第2
幕僚室)勤務以降、情報関係職に従事。陸上自衛隊
調査学校情報教官、防衛省情報本部分析部分析官な
どとして勤務。その間に拓殖大学博士前期課程修了。
修士(安全保障)。拓殖大学大学院博士後期課程修
了。博士(安全保障)。2020年定年退官。著書に
『国際政治の変容と新しい国際政治学』(共著・志
學社)、『2021年パワーポリティクスの時代』(共
著・創成社)、『インテリジェンス用語事典』(共
著・並木書房)
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(代表・エンリケ航海王子)
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