配信日時 2022/11/16 09:00

【陸軍工兵から施設科へ(59)】 新幹線建設の頃    荒木肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!

自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。

『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。

「陸軍工兵から施設科へ」第59回です。


あの大女優さんの立ち位置。

非常に気になりますね。


荒木先生、何ごともなく本当に良かったです。
どうぞお大事に。

ではきょうの記事、さっそくどうぞ


エンリケ

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陸軍工兵から施設科へ(59)

新幹線建設の頃

荒木 肇

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□ご挨拶

 コロナに罹りました。まず、家内が発熱、いつも
お世話になる医院で陽性が確認されました。わたし
は濃厚接触者なので土曜まで経過観察。ところが次
の日にはわたしも発熱。珍しく身体のだるさを自覚
し、やはり陽性確認。薬を服用したところ、たちま
ち解熱して今週の水曜日までの自宅生活となりまし
た。

 おかげさまで、かえってゆっくりと休むことがで
きました。ところが、ほんとうにゆっくりかという
と、そうでもありません。電話が鳴るのです。高齢
者であるものですから県から「自動会話」の連絡が
やってきます。


安否確認のようですが、質問に「はい・いいえ」で
答えるようになっています。毎日、必ずかかってき
て、大声で答えるのですが毎回「あなたの声が認識
できません。これで通信を終えて、また電話します」
という繰り返しです。

なんの意味があるのか分からない某社が請け負って
いるとかいうシステム。それに対して、保健所の方
による電話の確認。心配りに溢れ、体温と状況を伝
えると、「それはよろしかったですね~」と優しく
答えてくださいます。つくづく人は人との対話で心
が和むものだと思いました。


▼建設が進む

 新幹線を建設して東海道線の輸送力を倍加する。
特急、急行の利用客の人々に新幹線を使ってもらう、
そうして在来線に通勤列車を増やして通勤ラッシュ
を緩和したい、そうした願いがありました。また、
特急や急行を減らすので、その空いた線路に貨物列
車を走らせて輸送力も増やそうという計画でした。

 当初はいろいろな反対意見がありましたが、結果
的には開通60周年を迎えようとする現在、おおよ
そ国鉄の計画は間違っていなかったと思います。東
海道線の輸送力はパンク寸前でした。1日に片道1
50回が線路容量の上限だったこと、運転間隔が4
分から5分になっていたことなど青木氏の著作で初
めて知りました。

▼土地の買収

 鉄道の新線建設には、まず用地の買収が前提です。
たいへんだったのは戦前の弾丸列車計画で買収済
みの箇所ではなく、初めて交渉にあたるところでし
た。開業のゴールラインが1964(昭和39)年
10月なので急ぐ必要がありました。

 手順があります。いきなり買いにゆくというわけ
には国鉄にはできません。まず、新幹線の意義につ
いて広報し、おおよそのコースを、どのあたりに駅
をつくるかを公表します。そうしなければ予算が取
れません。

 地形測量のために航空機から写真を撮ります。5
万分の1の地図でルートを決めました。すると起き
たことは、賛成、反対の意見です。

 なんとかルートが決まると、それから買収という
ことになります。コースの中心測量を行なって地元
と協議します。道路のこと、迂回させるか橋を架け
るか、排水溝の新設やつけ替えなどの調整、こうし
たことをしてからやっと幅が決まり、用地には試験
杭を打って、ようやく地元と交渉に入れるようにな
ります。

 こうしたことがあると、明治の昔から地元とのト
ラブルでつきものが「ゴネ得」などといわれる行為
でした。売る側の人にとっては当然のことでしょう
が、なかには先祖伝来の土地もあり、少しでも値を
上げたいというのは人情です。


 大正の昔、いまは航空自衛隊の基地になっている
所沢の飛行場を買収するときには、経理官や航空将
校たちは用地買収の下調べと気づかれないように私
服で視察に行きました。明治の頃には、いまも使わ
れる中央線の路線買収に前には、噂が立っただけで
予定地の樹木が一晩のうちに増えたとか。

 こうしたことがないように、地主さんとは個人折
衝はやらない、村とか市とかの被買収者の団体のみ
を相手にするとしました。その団体には当事者では
なく、公正な第3者を入れて協議会、対策委員会を
つくったのです。

▼交渉は社会の縮図

 昔のように「お上のひと声」で決まる時代ではな
いとは当時の人の語るところです。神奈川県小田原
の近くで問題になったのは、果樹園や農園の木でし
た。みかんの木は1本で10万円とか、カキやクリ、
ナンテンなどがそれぞれ数万円と主張もされました。

 また市街地では、不法占拠した土地に家を建てて、
その家を人に貸しました。借りた人はまた家の一
部を間借り人として貸すといったことをします。こ
んな時は、地主、不法建築者、間借り人のそれぞれ
に補償の交渉をすることになりました。商店などは
毎月の売上額の申告を受けますが、うのみにはでき
ません。いろいろと調べる手間がありました。

 苦労したのは墓地や神社、寺院です。子孫の思い
や、さまざまな思惑があります。古墳などの文化遺
産もあれば大騒ぎになりました。

 用地の買収がいちばん難しい。用地さえ取得すれ
ば、工事は簡単なものだという言葉が残されていま
す。

 さまざまな話がいまも伝わりますが、まさに当時
の社会の縮図だった気がします。

▼昭和が明るかった時代

 昭和戦前期(昭和5年まで)が不況と混乱の時代
なら、昭和20年の敗戦戦までは無我夢中の時代で
しょう、戦後は歯を食いしばった再建の時代です。

 再建は確かに実感できました。いま若い人たちは
映画、『三丁目の夕日』などで、東京タワー(昭和
33年3月完成)の建設、その暮らしなどを見るこ
とができます。わたしの小学校時代はまさに新幹線
の建設中であり、中学校に入った年にシンカンセン
は走りだしました。

 こんな時代に、またまた映画の話です。吉永小百
合さんという大女優がおられます。わたしよりもだ
いぶ年上ですが、「キューポラのある町」という映
画に17歳で出演されました。1962(昭和37)
年のことでした。キューポラというのは埼玉県川
口市にある鋳物工場の設備です。彼女はそこで働く
貧しい職工(いまはもう死語です)の娘さんで、就
職か進学かを悩みながら、最後には働きながら定時
制高校に進学する道を選びます。

 この時代に詳しい方なら、当時、「地上の楽園」
だった北朝鮮への帰国事業が背景にあるのだろうと
気づくことでしょう。マスコミも芸術界もみな、北
朝鮮は発展を続け、医療費も教育費も無料、在日の
方々は帰国し素晴らしい暮らしをしているというプ
ロパガンダを行なっていました。視察という名の大
名旅行をした文学者や芸術家はみな北朝鮮や総連の
肩をもちました。

 原作は早船ちよさんという1914年生まれの社
会派の童話作家の作品です。これを当時の日活の監
督である今村昌平さんが脚本化し、浦山桐郎監督が
製作します。貧しい暮らしの中でも希望を失わない
頭の良い、素直な少女を吉永さんは演じ、友達の北
朝鮮への帰国事業などを背景に「貧困」の問題に立
ち向かいました。

 その後、彼女は当時の日活を代表する女優になっ
ていきます。構造的な社会問題と、それを支えた
「ずれていた人々の存在」、映画は見事に描き出し
ますね。そうして、ずれていた人々への優しいまな
ざしが渥美清さんの人気の元になったと思います。
では、吉永さんの立ち位置はどうだったのか。よろ
しければ次回もふれてみます。




(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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