配信日時 2022/11/03 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (385)】神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(22)    渡邉陽子(ライター)

こんばんは、エンリケです。

「ライター・渡邉陽子のコラム」。
こんかいは第385号です。

「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」
の22話目。

現場って、面白いですよね。
読みながら、現場の良さをしみじみ味わっています。

今月号の「正論」に渡邉さんの記事が二本掲載されています。
とくに「RD22」の記事は必読でしょうね。

では今日の記事、早速ご覧ください。


エンリケ


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『ライター・渡邉陽子のコラム (385)』

 神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(22)

  渡邉陽子(ライター)

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こんばんは。渡邉陽子です。昨年度から防衛モニターをしているの
ですが(期間は2年)、研修などは基地モニターと同一です。で、
私はある駐屯地から研修等の案内をいただくのですが、担当者がC
Cでメールを送ってくるのです。ほかのモニターさんたちのメアド
が一目瞭然で、メアドは重要な個人情報なのでCCでの送信はやめ
て欲しい旨、お願いしました。でもそう頼んだ後も、何度もCCで
メールしてくるのです。今回改めて指摘すると「すみません、間違
えてしまいました」と。個人情報の取り扱いに対してあまりに危機
感や慎重さがなく、腹立たしさを通り越して今や心配です。


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■神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(22)

火箱氏が「え? え?」とわけもわからないうちから「有無を言わ
さぬ」空挺ワールド全開、まるでコメディのような前回のお話の続
きです。

駐車場に止めていた自家用車は、幸いなことに移動してくれた人が
いたおかげで無事だったが、火箱自身は冠水した道路を進まない限
り自宅に帰れない。身分証明書、財布が濡れないよう、それだけは
手に掲げ、胸まで水に浸かって帰った。なんとも長い1日である。
翌日は着隊日で上司へ申告する日だったが、替えの靴がどの段ボー
ルに入っているのかわからず、結局昨夜びしょびしょに濡れた靴を
履く羽目になった。しかも官舎から駐屯地までの道がよくわからな
い。「とりあえず髪の短い人に付いていけばたどり着くだろう」と
思い、実際それで習志野駐屯地まで無事にたどり着いた。
2連隊の所在する高田の官舎に引越したときは、1階の玄関が雪に
埋もれて開かず、九州育ちの火箱と妻は大いに驚いたものだったが、
習志野の初日も相当強烈なものだった。

1986(昭和61年)8月、第1空挺団普通科群第2中隊長としての日々
が始まった。
最初こそ乗り気でなかったものの、かつては憧れていた部隊である。
どれほどの精強さを見せてくれるのかと、火箱の気持ちは次第に盛
り上がっていった。
ところがである。
「なんなんだこいつら。降下することしか考えてないじゃないか」
愕然とした。第1空挺団の隊員たちは降下することに誇りを持って
いる。もちろんそれはそれでいい。しかし降下してからはただ刹那
的に攻撃するだけで、基本的な動作もまるでできていない。普段は
ラグビーだ駆け足だ柔道だと、競技会のための練習にばかり熱心で、
射撃の腕前も散々である。そのくせ「俺は空挺だ」と鼻高々にして
いる者もいる。
「これは1から鍛え直さないといけない」
火箱のやる気スイッチが押された瞬間だった。野外行動訓練は火箱
の得意分野である。CGS課程で学び、富士学校の訓練教官として研
究・教育した日々で得たものを2中隊に注ぎ、真に精強な部隊へと
生まれ変わらせるのだ。楠元空挺団長も「徹底的に鍛えろ」と言っ
てくれた。
「お前らの脳みそは筋肉か! ただわーっと走ってわーっと降りて
るだけで、なにも考えてない、頭が空っぽだ。これじゃ第1空挺団
どころか第1空っぽ団だ。なにが精鋭無比だ」
容赦ない言葉を浴びせながら、大切なことを言って聞かせた。
「空挺作戦でいちばん大事なのは降りてからだろう。たとえば降下
後応急陣地を作るときはどうする。転がっている板切れを使ってで
も隠・掩蔽すんだよ」と指導すると、隊員たちは一様にぽかんとし
た顔をしている。「タコつぼの中で窒息死しそうなときどう生き残
るか考えたことがあるか」「ナパームでやられたら一瞬で黒焦げ、
窒息死だぞ、だから土嚢を固め、できたら水嚢を作って一気にやら
れないようにするんだ」などと話しても同様だ。
資材がないときの陣地の作り方なども、火箱が教えるまでやったこ
とすらなかった。
「いいか、お前たち空挺隊員の適性を知っているか? これはマル
秘だ。頭のレントゲンを撮って、頭蓋骨に2センチ以上の厚みがあ
る奴だけが空挺に合格することになってるんだ。ということは、お
前らの脳みそはこんな程度の小ささしかないんだ。だから俺の言う
ことには、ただ“はい”と2文字で答えればいい。“いいえ”とい
う3文字は長くて覚えられなくても、2文字なら覚えられるだろ?」
そんな冗談も、曹士は大真面目な顔で聞いていた。




(つづく)


(わたなべ・ようこ)



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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。
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