配信日時 2022/10/27 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (384)】神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(21)    渡邉陽子(ライター)

こんばんは、エンリケです。

約1か月ぶりとなる「ライター・渡邉陽子のコラム」。
こんかいは第384号です。

きょうから
「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」
のつづきが始まります。

漫画のような出来事が実際にあるのが自衛隊。
こういうことを聞いたことがありますが、あながち間違いではなさ
そうですw

それにしても、
若いころは思いもよりませんでしたが、

身体が一番ですよ。ホント。

では今日の記事、早速ご覧ください。


エンリケ


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『ライター・渡邉陽子のコラム (384)』

 神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(21)

  渡邉陽子(ライター)

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こんばんは。渡邉陽子です。こんなに長くメルマガをお休みさせて
いただいたのは初めてですが、今週から改めてどうぞよろしくお願
いいたします。
9月末から北海道で行なわれた日米共同実道演習、レゾリュート・
ドラゴン22の取材に行ってきました。ちょっと長めの取材だった
こと(そして現地での移動が2000キロ近くに及んだこと)、もとも
とお盆明けからかなり仕事がハードだったこと、取材から戻ってか
らの10日間近くも地獄の締め切りラッシュと、完全にキャパオーバ
ーでした。無理がきかない年になっているのに…体のあちこちにガ
タがきて、ダメージから回復するのにも時間がかかっています。本
当に今回はつくづく自分の年を痛感しました。気持ちは頑張りたく
ても体が応えてくれないとは……


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■神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(21)

これまでに書籍『神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳
文の半生』(※)の防大入学時から初任地の沖縄での経験、過酷な
レンジャー課程、そして東日本大震災時の対応の部分を抜粋してこ
のメルマガでご紹介してきました。
今回から30~40代前半の、まさに心技体が満ち満ちた全開MAX状態
である(それだけ浮き沈みが激しいということでもあるのですが)
火箱氏の波乱万丈自衛官時代をご紹介します。
自分で取材し、書いて、そして読んで、改めて「本当にエンタメ本
だなあ」と思います。これは私にとって火箱氏に対する最大の賛辞
です。(※)https://amzn.to/3TW4g33

2年間におよぶCGS課程での教育後、富士学校で訓練教官を務めた
火箱が次に赴くことになったのは第1空挺団だった。
第1空挺団は1954(昭和29)年に福岡県で創設された臨時空挺練習
隊、千葉県の習志野に移駐した後の空挺教育隊の編成を経て、1958
(昭和33)年に編成された。1960(昭和35)年に東部方面隊新編に
伴いその隷下となり、2007(平成19)年には中央即応集団隷下、そ
して2018(平成30)年には陸上総隊隷下となり現在にいたる。
所属している陸曹以上の隊員のほぼ全員が空挺・レンジャー徽章保
持者という精鋭部隊であり、「精鋭無比」と称されることも少なく
ない。また、空挺隊員に対するおもな教育としては、ほかのレンジ
ャー課程よりさらに過酷と言われる空挺レンジャー課程、降下の準
備から降下および物料梱包から投下までの指揮・監督ができる隊員
を養成する降下長課程、そして高高度から降下できる自由降下課程
などがある。
火箱は20代前半の若い時期に空挺の基本降下課程を経験している
ので、空挺徽章はもちろん、富士の幹部レンジャー徽章もある。陸
自でもっとも精強な第1空挺団で思う存分力を発揮したいと熱望し
ていた時期もあった。しかし新潟の高田駐屯地の第2普通科連隊に
着任した時点で、「空挺はもうないな」と思った。空挺に行くなら
このタイミングだと思っていたので、時機を逸したと感じたのだ。
体力的にはまだまだ自信があったが、もう何年も降下していない。
傘の付け方もあやふやになった今になってお呼びをかけられてもと、
火箱の心中は複雑であった。
「以前、空挺に行きたいと希望していたときには就けてくれなかっ
たくせに。だいたい降下ってのは、普通は誰でも恐怖で緊張するん
だ。それを何年もブランクがある状態で、いきなり空挺の中隊長を
やれっていうのかよ」
富士学校で訓練教官をしているとき、次の補職先はどこがいいかと
聞かれたことがあった。火箱は富士学校で連群長の地上戦闘の教育
を担当したという自負があったので、その知識を活かすべく「第一
線普通科中隊長がやりたいです」と答えた。その際、空挺の中隊長
も打診されたのだが、「いやいや、私は空挺ではなくフツーの普通
科中隊長がいいです」と重ねて上司の訓練班長に伝えていた。
ところが富士学校の普通科部長の水野陸将補から、「なにを言って
るんだ、だめだ! 火箱、決心しろ!」と強烈な指導を受けた。水
野陸将補もかつて空挺の普通科群第2中隊長を務めていたこともあ
って、「2中隊は名門だぞ」と尻を叩かれた。
火箱にとって水野部長は単なる上司ではなく、防大1期生柔道部の
主将で偉大なる大先輩、ほとんど神のような存在だった。そういう
人から言われれば、もう腹をくくるしかなかった。
習志野の官舎への引越しを翌日に控えた日のことだ。突然、空挺の
2中隊から「夏祭りがあるので中隊長も出席してください」と、隊
員が御殿場の自宅まで迎えに来た。
「まだ中隊長に上番してないのに!」
驚く火箱を半ば強引に夏祭りの会場に連れていき、隊員たちは協力
会などの方々へ紹介した。
さらに翌日も御殿場に現れ、「引越しを手伝います」。
引越し当日はあいにくの大雨で、道路も渋滞し、昼頃には習志野に
到着する予定だったのが夕方になってしまった。しかもそのまま、
「中隊長の歓迎会です」と連れ出された。
なんの荷ほどきもしていない状態で、妻と幼い子どもふたりを段ボ
ールだらけの官舎に置いて、ほとんど拉致のような状態で2次会ま
で連れ回される。「空挺はとんでもない人使いの粗いところだ」。
火箱はこの段階ですでに痛感した。
ようやくタクシーで官舎まで帰ると、官舎そばで消防団が「これ以
上先には進めません」と車を止めている。どうしたのかと思えば、
大雨のため道路が冠水し、官舎も1階の階段の途中まで浸水してい
るではないか。


(つづく)


(わたなべ・ようこ)



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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。
2022年 https://amzn.to/3ar7IBq
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