配信日時 2022/10/26 20:00

【海軍戦略500年史(46)】 米軍の「失われた10年」   堂下哲郎(元海将)

こんにちは。エンリケです。

『海軍戦略500年史』の四十六回目

きょうも読み応えあります。

中共では、習の独裁体制が着々と整えられています。
臺灣有事(=日本有事)という冒険。
ヒトラーやスターリン、金正日と同じく、
彼は必ず実行するでしょうね。

あなたはどうしますか?

さっそくどうぞ。


エンリケ


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海軍戦略500年史(46)

米軍の「失われた10年」


堂下哲郎(元海将)

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□はじめに

 今回は9.11同時多発テロから今日に至るアメ
リカの戦略の変遷です。

 私は米中央軍司令部への統合幕僚監部からの連絡
官として勤務したことがあります。当時も短期では
終わらないとみられていた対テロ戦争でしたが、結
局10年もかかってしまいました。司令部にいると
日々膨大な戦費を使っているのを実感しましたが、
この負担にさすがのアメリカも疲弊して「世界の警
察官」をやめてしまいます。

 軍予算もカットされ、様々な悪影響が出てきまし
たが、米第7艦隊で頻発した事故などはその象徴的
なものでした。この間に中国は軍の拡大、近代化を
果たし、ついにはアメリカの前に堂々たる戦略的競
争者として立ちはだかることになります。

▼長かった対テロ戦争

 9.11同時多発テロ(2001年)は、米英戦争以来
200年ぶりの外部勢力の米本土への武力攻撃であり、
米国はこれに対して英国とともにアフガニスタンで
の「不朽の自由」作戦を開始した。2002年には、
イラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、
「イラクの自由」作戦(03年)に突入する。

 米海軍は、空母を作戦地域の近くに航空基地がな
い場合の柔軟かつ有効なプラットフォームとして運
用して、空母を時代遅れの装備の代表と見なしがち
だった海軍改革派の人々を黙らせた。その他、艦艇
からの巡航ミサイル攻撃を行ない、強襲揚陸艦から
上陸した海兵隊は地上の進攻部隊の一翼を担った。
最も重要なことは、米海軍が海を支配しているおか
げで、長射程の戦力投射能力を任意の場所に長期間
持続できるということこそ真の海軍力の活用法であ
ることが改めて認識されたことだった。

これらの戦争は「米国一強」のもとで行なわれたが、
アフガンもイラクも治安が悪化し、米軍は撤退の
出口戦略をなかなか描き出せず、オバマ政権がイラ
ク戦争の終結を宣言したのは2011年末のことだ
った。米国が長い戦争に足をとられた「失われた1
0年」とでもいうべき期間のうちにロシアが復活し
中国が台頭してくる。

 このようななか、国際的には大量破壊兵器の拡散
問題、海賊対処、洋上での違法活動取締りなどの課
題が山積し、米国一国では手が回らず各国海軍が連
携しなければ解決しないとの考えから、米海軍は「
1,000隻海軍」の構想を提唱する(2005年)。

このような構想に基づき、米海軍は海兵隊、沿岸警
備隊とともに「21世紀のシー・パワーのための協
調戦略(A Cooperative Strategy for 21st Century
Seapower)」(2007年)を発表した。この「協調戦略」
は2015年に改訂されているが、海軍の任務を米本土
防衛、紛争抑止、危機対応、武力侵略の撃破、海洋
国際公共財の保護、共同関係の強化、人道支援・災
害救援としている。また、これら任務達成に必要な
能力として、(1)前方プレゼンス、(2)抑止、(3)制海、
(4)戦力投射、(5)海洋安全保障、(6)人道支援・災
害救援をあげて戦略の具体化に取り組んでいる。
 
▼「世界の警察官」を降りた米国

 オバマ政権下で出された「4年ごとの国防見直し
(QDR2010)」では、アフガニスタンやイラク紛争
への対応を重視するとともに、新たな脅威として
中国に対する懸念を表明し、同国の接近阻止・領域
拒否(A2/AD)構想に対する米軍の作戦として「統
合エア・シー・バトル」構想を開発するとした。
一方で、2006年のQDRにあった中国を「最大の軍事
的な潜在的競争国」という表現は消え、中国との関
係を重視する民主党政権の立場を反映したものとな
った。

 2011年には、米国の戦略的重点地域をアジア太平
洋地域に転換することを明らかにし(ピボット、リ
バランス政策)、米海兵隊のオーストラリアへのロ
ーテーション配備などを発表した。2012年に公表さ
れた「国防戦略指針」では、米国の国益がかかった
地域をアジアと中東と明記し、東アジアの平和のた
めに中国に対する関与政策で協力の重要性を認めつ
つ、その軍拡路線や海洋進出については意図を明確
にすべきとした。

 政権2期目になると、2014年のQDR、2015年の
「国家安全保障戦略」と「国家軍事戦略」とにおい
て、米国にとっての脅威となる国家としてロシア、
イラン、北朝鮮、中国を名指しし、米国の軍事的優
位がもはや絶対的ではないとの認識を示す。そして
米国のリーダーシップは必要だが、緊縮予算のもと
で資源と影響力は無限ではないことを踏まえて、
「賢明な戦略」として軍事力だけに頼らず同盟国等
との協調を重視する方針を打ち出した。「米国は世
界の警察官ではいられない」と宣言したのもこの頃
だ。

 中国とロシアは、米国がイラクやアフガニスタン
で莫大な戦費と貴重な時間を費やしている間に軍の
近代化を進めて自らの国家戦略を着々と進めていた。
核大国であるロシアは、2014年のクリミア併合をめ
ぐる欧米との対立などからNATO諸国との対決姿勢を
強めた。中国は一方的な海洋進出を進めて、A2/AD
能力を急速に増強させたのだが、オバマ政権は国際
規範の順守を求め軍備の近代化と活動の活発化を注
視するという方針に終始し、南シナ海の岩礁埋め立
てが地域の緊張を高めているといいつつも、中国の
発展を支援し建設的な関係の発展を追求する姿勢を
示したのだった。さらにロシアと中国は、ウクライ
ナ問題を機に接近を強め、2012年からは合同海上演
習を実施するようになり、2016年には南シナ海でも
実施した。
 
▼米国防予算削減の影響

 米国では財政悪化により、予算管理法にもとづく
国防予算の強制削減が発動された(2010年)。
これにより将来の水上艦艇部隊の減勢が見込まれ、
2030年代には300隻を下回ると見積もられるように
なった。中国海軍の急速な拡大と近代化やロシア海
軍の活動の活発化を受けて、前方展開部隊の負担は
大きくなり、整備、訓練、休養に支障をきたし始め、
特に第7艦隊では2017年に立て続けに艦艇の衝突事
故などが起きた。2016年に大統領選に勝利したトラ
ンプは「力による平和」のため「350隻海軍」建設
を訴えたが、それより前に海軍は前年を47隻上回る
355隻体制を求めていた。

 予算削減の影響は戦術、作戦面にも及び、米海軍
は冷戦後しばらく海上に挑戦者がいなかったことも
あり、戦力投射に傾斜を強めたが、結果的に制海能
力の基本である対潜、対水上戦能力が相対的に低下
してしまった。中国海軍の拡大とA2/AD能力の向上
を前に、米海軍は戦闘力を高めて本来の攻勢的な作
戦能力を取り戻そうとしている。
 
▼大国間競争に舵を切った米国

トランプ政権は国家安全保障戦略(2017年)や国防
戦略(2018年)において、台頭する中国への警戒感
を鮮明にし、米国の安全保障の最優先事項は、テロ
ではなく大国間競争であると明言した。そして、国
防総省の最優先事項は、中国とロシアとの長期的な
戦略的競争であるとした。

 バイデン政権でも国家防衛戦略(2022年)で、中
国を「最重要の戦略的競争相手」と位置付け、ロシ
アも「深刻な脅威」とし、両国を抑止し紛争に勝利
することを優先事項に挙げた。中国が中長期的に最
も警戒すべき相手で、インド太平洋地域が最重点と
なることは間違いないが、ロシアのウクライナ侵攻
(2022年)により、欧州防衛の強化も喫緊の課題と
なった。今後は中露の「二正面」に対処せざるを得
ないというのが現実だ。

 バイデン大統領は、ロシアのウクライナ侵攻前に
は「第三次世界大戦」を回避する必要性を繰り返し、
侵攻直後のウクライナへの軍事支援策では、「ジャ
ベリン(対戦車ミサイル)を携え、静かに話す」と
述べた。ウクライナが強く求めていた戦闘機などの
「大きなこん棒」とは違ったが、NATOを中心とした
武器、弾薬、情報等の提供は拡大を続け、戦況を左
右する重要な要素になっている。また国際社会と連
携した強力な経済制裁も、戦争の終結にどの程度結
びつくかは今のところ不透明だが、前例のないもの
だ。

 新しい国家防衛戦略では、同盟国や友好国の力を
最大限活用し、サイバー、宇宙などすべての戦闘領
域で優越する「統合的抑止」を目指すとしている。
日本などの同盟国の積極的な役割を果たすことがこ
れまで以上に必要となっている。


(つづく)


(どうした・てつろう)


◇おしらせ
2021年11月号の月刊『HANADA』誌に、
櫻井よしこさん司会による「陸海空自衛隊元最高幹
部大座談会」が掲載されています。岩田清文元陸幕
長、織田邦男元空将とともに「台湾有事」「尖閣問
題」について大いに論じてきました。

月刊Hanada2021年11月号
https://amzn.to/3lZ0ial



【筆者紹介】
堂下哲郎(どうした てつろう)
1982年防衛大学校卒業。米ジョージタウン大学公共
政策論修士、防衛研究所一般課程修了。海上勤務と
して、護衛艦はるゆき艦長、第8護衛隊司令、護衛
艦隊司令部幕僚長、第3護衛隊群司令等。陸上勤務
として、内閣官房内閣危機管理室(初代自衛官)、
米中央軍司令部先任連絡官(初代)、統幕防衛課長
(初代)、幹部候補生学校長、防衛監察本部監察官、
自衛艦隊司令部幕僚長、舞鶴地方総監、横須賀地方
総監等を経て2016年退官(海将)。
著書に『作戦司令部の意思決定─米軍「統合ドクト
リン」で勝利する』(2018年)『海軍式 戦う司令
部の作り方―リーダー・チーム・意思決定』(202
0年)がある。


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発行:
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