配信日時 2022/10/19 09:00

【陸軍工兵から施設科へ(55)】 昭和30年代の風景     荒木肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!

自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。

『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。

「陸軍工兵から施設科へ」第55回です。

先日料理中にスマホを煮立った鍋の中に落として、
24時間以上使えない状態になりました(涙)

幸いその後使えるようになったのですが、
スマホがない生活を久しぶりに味わい、
すごく新鮮な思いに浸れました。

驚いたのは読書量が飛躍的に伸びたことです。
普段は一日一章とかいうペースでしたが、
この期間は、本によっては一冊、専門書は数章いけ
ましたw

スマホは便利ですが、
知らないうちに大切な時間を失っていることが
こんかいの経験を通じてよくわかった次第です。
定期的にスマホ等に触れない時間を作ろうと思いま
した。

ではきょうの記事、さっそくどうぞ


エンリケ

追伸
荒木先生、お誕生日おめでとうございます!!!
今後も末永くご活躍されますよう祈っております!



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陸軍工兵から施設科へ(55)

昭和30年代の風景


荒木 肇

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 □71歳になりました

 鉄道記念日の10月14日、わたしは満71歳に
なりました。すでに市には敬老優待乗車券という制
度があって、市内のバスや地下鉄は年間1万円弱を
先払いしていて、カードをちらりと見せるだけで乗
ることができます。

たいへんお得な気がしますが、その代わり勤務先か
らは交通費の支給がありません。全く無料で支給な
ら仕方がないと思えますが、年間1万円を負担して
いるのです。微妙に割り切れませんが、まあいいと
しております。計算も面倒ですものね。

 興味深いのは、もう2年を越えましたかマスクを
するようになってから、一度も席を譲られたことが
ありません。以前は若い女性や男性、高校生の方な
どに「どうぞ」と言ってもらうこともありました。
それがマスク常時着用になってから、誰からも声を
かけてもらえません。おそらく、わたしが歳相応に
見えなくなったからではないでしょうか。

 それは私が他の人を見ても同じです。よそ様の年
齢が分かりにくくなりました。それに電車内の女性
を見ると、みな若く、美しく見えます。どうやら人
の歳の取り方の様子は口元にあると言えそうです。
また、心理学の方の話を聞くと、マスクで見えない
ところを美化して想像するとのこと。

 見えないところはよく見えるのです。見るように
すると言ってもいいのかも知れません。今でも外国
と比べて、日本のここが遅れているとか、ここがダ
メだという人が多いのは、そうした事情もあるかも
知れません。

 今日は、映画「張込み」が見せてくれる昭和30
年代を見直してみたいと思います。


▼2人の刑事の泊る肥前屋

 暑いさなかに刑事たちは佐賀警察署に向かいます。
署長室のような広い部屋には応接セットがあって、
夏の制服姿の署長が迎えました。テーブルの上の
扇風機を回します。2人の刑事は上着を着て、大木
刑事(大木実さんが演じるので便宜上、大木刑事と
します。宮口刑事も同じです)は長袖ワイシャツに
ネクタイをしています。宮口刑事も半袖開襟シャツ
ですが、上着を着ていました。階級社会のモラルは
厳しかったことが分かります。

 2人は警視庁の捜査一課の刑事です。地方警察か
ら見れば、きらびやかな立場でしょうが階級的には
宮口巡査部長と大木巡査でしかありません。署長は
佐賀県警察とはいえ、国家公務員の警視正ですから、
まあ椅子にお座りなさいと宮口に勧めるのは客へ
の厚意でしょう。序列が下の大木は座りません。

 協力の約束をとりつけた2人は容疑者の恋人だっ
た高峰秀子さんの嫁ぎ先に向かいます。拳銃を持っ
て逃亡している田村が連絡を取ってくるだろうと狙
いをつけているからです。ちょうど彼女の家が見下
ろせる部屋をもつ旅館がありました。屋号は肥前屋、
歳とった女将さんが2人の女中(今ならメイドさ
ん?)を使って営業しています。

 宮口刑事は、自分たちは農機具のセールスマンで
東京から営業に来たと偽りました。1泊2食付きで
700円というのが女将の言葉。宮口刑事が5日か
ら6日はいるんだから勉強してくれと頼みます。結
局650円で話がつきました。この頃、「値段の風
俗史」を見ると全国の民宿の平均が900円とあり
ます。 

 今でいうといくら?という換算は難しいのですが、
当時の小学校教員の初任給は分かっています。19
57(昭和32)年で8000円でした。同じ年
の国家公務員上級職の人が9200円だったそうで
す。だいたい今の20分の1か、25分の1かでし
ょうか。
 
一般の物価が、もり・かけそばが30円から35円、
ラーメンが40円、とんかつが洋食屋で170円、
蕎麦屋の天丼が150円だったそうです。カレー
ライスも100円ほど。惣菜ではコロッケが1個7
円、鶏卵は高価でしたから1キロあたりで230円
になります。2人は夕食のビールも我慢しますが、
1本125円ですから贅沢なものでした。


▼小さい物が多かった時代

 スバルといえば富士重工のスポーツ性の高い乗用
車です。でも、この1958(昭和33)年には、
軽自動車のスバル360が発売されました。排気量
は356CCで、車体の全長は3メートルもなかっ
たのです。4人乗りでした。

 60年には三菱から500、マツダR360クー
ペが発売されました。もちろん、やや大きな車もあ
り、高級車といえば55(昭和30)年に発売され
たトヨタ・クラウンです。値段はなんと101万円。
大卒の初任給がさきほど書いたように約1万円と
すれば、100倍、つまり8年分でした。

 スバル360は42万5000円だったので、そ
れでも初任給の40倍。いまでは800万円から9
00万円にもあたるわけです。クラウンは今でいえ
ば、ベンツやアウディといった超高価格車ですね。

 ルノーのタクシーもあった。たしか初乗りが70
円だったような気がします。みんな小さかったのが
思い出です。そうしてもっと目立ったのが、オート
3輪というトラックでした。オートバイのようなハ
ンドルで前輪が1つしかありません。近所の八百屋
さんが使っていました。これの軽自動車版もあって
ダイハツ・ミゼットです。排気量は249CC、全
長はたしか2メートル50センチほど。


▼活字が力を持った時代

 宮口刑事は急行列車の中で「週刊新潮」を読んで
います。当時の定価は30円。そばのモリカケより
少し安いくらい。まあ、今の感覚とあまり変わらな
いようです。大木刑事は文庫本の詩集を手にしてい
ました。青年らしく外国のものらしい。当時の警察
官ですから、おそらく高校卒業でしょう。優秀な向
学心があればこそ、その結果の刑事づとめ、勉強熱
心だったのです。

当時は、テレビもラジオも未熟だったし、インター
ネットなんて想像もされていませんでした。情報を
集めようとしたら、新聞、雑誌、本を読むしかなか
ったのです。このあたりは鴨下信一氏の『誰も「戦
後」を覚えていない「昭和30年代篇」』(文春新
書・2008年)から学びました。

 面白いのは、当時の大人は情報の多くを「小説」
から得ていたという指摘があることでしょう。人生
をどう生きるか、社会の仕組みはどうなっているか、
そんなことがらを小説を読むことで知り、考えて
いたらしい。

 実際、当時人気があった松本清張の小説は「推理
小説」の形を取りながら、官僚機構や大会社の仕組
みを教えてくれました。また、「点と線」がこの昭
和33年の前年32年に発表され、時刻表を使った
ミステリーの走りになりました。


列車の発着がいつもある東京駅の混雑の中で、たっ
た4分間だけ13番線ホームから15番線ホームが
見渡せるという発見。鉄道マニアでなくとも興味を
ひかれます。しかも事件は中央官庁の課長補佐が汚
職にからんで女性と心中するといった、権力の腐敗
と追いつめられたノン・キャリアの悲哀です。

読者はふだんでは遠いところにある中央官庁の官僚
や、贈収賄が日常の支配階級の実態を知った気分に
なりました。この33年には「ある小官僚の抹殺」
が出ます。これまた砂糖汚職に関する下級官僚が周
囲から自殺をすすめられる話です。


もちろん、主人公は案外身近なところにいる人も登
場します。「坂道の家」は真面目に店を守ってきた
駅前商店街の化粧品屋の初老の主が若い女に騙され
て、最後は女の情夫に殺されるという話です。

社会のことを小説で知る、その映画化作品で納得す
る、そんな時代だったような気がします。



(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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