配信日時 2022/09/28 09:00

【陸軍工兵から施設科へ(52)】幻の弾丸列車計画(5)    荒木 肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!

自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。

『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。

「陸軍工兵から施設科へ」第52回です。

高名な評論家の方が、

「我が国は戦後突然高度成長したんじゃない。戦前
からの高度で良質な営為の積み重ねが高度成長につ
ながった。戦争があろうがなかろうが我が国の高度
成長はあった」

とおっしゃっているのを聞いて深く首肯したことが
あります。

きょうの記事を拝読してそのことを思い起こしました。

さっそくどうぞ
 
エンリケ



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陸軍工兵から施設科へ(52)

幻の弾丸列車計画(5)


荒木 肇

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□いよいよ国葬儀せまる

 先日は台風の合間に用事があって市ヶ谷の防衛省
に出かけました。四ツ谷から久しぶりに歩き、木々
のたたずまい、空の高さに季節の変わり目を感じて
おりました。
 
人の出入りは全体に少ないようでしたが、広場には
ふだんめったに見られない緑色の作業衣の隊員が整
列しています。ああ、302保安中隊だなと、すぐ
気付きました。木部が美しい儀仗用の小銃を携えて
います。

故安倍首相の国葬儀に参列するための訓練でしょう。
ちなみに、この第302保安中隊は警務科(ミリ
タリー・ポリス)の隊員で構成されています。諸外
国からの賓客や、新しい大臣などが就任すると「儀
じよう(部内ではこう表記します)」を行なうこと
になっているのです。

小銃の開発の経緯なども耳にしています。長い間、
自衛隊ではM1ガーランド・ライフルを儀仗用に使
って来ました。防衛大学校生、高等工科学校生徒の
ドリルでもご覧になった方もおられると思います。
やはり木部が美しく、いかにも儀仗用にふさわしい
外観ということもあったようです。

いまの儀仗用の小銃は豊和工業で製造され、特徴は
ボルト・アクション、槓桿(こうかん)式小銃であ
ることです。わが帝国陸軍最後の制式小銃だった9
9式小銃にたいへんよく似ています。長さも中隊員
の平均身長は175センチほどでしょうか、バラン
スも良いようです。

わが国の陸自の面白いところがあります。英国やス
ウェーデンなどの欧州各国の王公族首長の近衛兵の
儀仗はその陸軍の最新装備の小銃で行なうのです。
熊の毛の帽子をかぶり、赤いコートに身を包んだ英
国近衛兵は真っ黒の新素材小銃を使っています。そ
ういうことでは陸自も89式、もしくは新型の20
型小銃を使ってもいいのでしょうが、そのようには
なりませんでした。

なお、ドイツ陸軍の儀仗用小銃も、第2次大戦型の
マウザー・カービン、ボルト・アクション小銃だそ
うですが、わたしはまだ見たことがありません。

27日には国葬儀、安倍元首相のご冥福を心より祈
ります。第302保安中隊の皆さんの英姿を楽しみ
にしています。(26日記す)



▼弾丸列車の始発駅はどこか?

 始発駅はどこにするか。これはいつも問題になる
ところです。やはり東京駅だろう、いや市ヶ谷あた
りがふさわしい、いっそ中央線の中野付近はどうか
と意見が飛び交いました。中央線の話では、高円寺
という意見もあったそうです。既存の東京駅なら線
路増設、あるいは地下化と大騒ぎになります。市ヶ
谷ならお堀の問題があったのでしょう。ほかに新宿、
目黒、渋谷、高田馬場なども候補地に上がりました。
しかし、結論は東京駅でした。

 理由は、その時代には東京の昼間の人口の中心点
は、やはり丸の内だったことからです。有楽町には
日本劇場があり、その角を削り取って線路を通す計
画だったと青木氏は書いています。戦後になって東
海道新幹線の工事では、この狭隘な場所も見事に解
決してしまいました。戦後の技術の進歩の成果です。

 四ツ谷が候補地になったのは、地下を走って横浜
方面に進む時に技術的には素晴らしいルートが取れ
たからだそうです。高円寺というのは、関東大震災
(1923年)以後、東京の人口中心はだんだんと
西に移っていった、これ以後も震災があればその傾
向はますます高まるだろうということからでした。

 また、新宿が副都心化してくれば高円寺はその後
背地が深い、そこに操車場が建設しやすい、将来の
都心にもなるだろうという見通しです。大規模な天
災があって、下町の被害が大きくても、もう1本の
東海道新幹線があれば交通の途絶が防げるだろうと
いう意見もありました。

▼弾丸列車の予定路線と機関車

 まず、横浜市港北区の菊名(現在も東急東横線と
JR横浜線が交差します)に出ます。そこから新横
浜、小田原へ向かいます。小田原から熱海までは海
岸沿いに山腹をトンネルで縫って、熱海を出たら新
丹那トンネルをくぐります。三島へ出て、沼津は在
来線の山側を通り、静岡へ。浜松は海岸寄りを通り
抜け、名古屋駅は在来線と合わせます。京都、大阪
方面へは新逢坂山トンネルを抜け、大阪から神戸へ
は六甲山下にトンネルを掘る計画です。ただし、布
引(ぬのびき・現神戸市中央区、新神戸駅近く)付
近にトンネル内に地下停車場を造るといいます。山
陽線に沿って下関に行くという大計画でした。あれ?
と気が付かれましたか。現在の、東海道・山陽新幹
線とほとんど変わりません。

▼東海道新幹線の前の旅

 東海道の輸送力増強、これこそが敗戦日本の悲願
です。今でこそ、京浜、中京、阪神工業地帯などと
いうと古い言葉になりますが、昭和20年代後半(
1950年代)、そして30年代(1960年代)
は輝かしい復興のシンボルのようでした。東海道沿
線の人口は、全国の43%にもなり、沿線の工業生
産高は全国の70%にもなったのです。

 人の移動も大変なものでした。まだ敗戦後の景色
がうかがわれる映画「東京物語」には尾道から東京
に出かける老夫婦の旅が描かれます。東京駅には急
行に乗るための待合室の様子が見られますが、整然
と並ぶ乗客たちの様子が懐かしいです。1953(
昭和28)年の映画でした。

笠智衆さんと東山千恵子さんの老夫婦は東京で暮ら
す長男、長女と戦死した次男の嫁と会いに上京しま
す。老妻は帰りの車中で発作を起こし、亡くなって
しまいますが、広島行夜行急行「あき」に乗ってい
ました。もちろん寝台急行ではありません。堅い3
等客車の背もたれにもたれて「空気枕」を頭にあて
て旅をしました。

1958(昭和33)年の松竹映画、「張込み」も
列車が出てきます。大木実さん、しぶい脇役俳優宮
口精二さんが刑事のコンビです。追われる殺人犯は
田村高廣さん、その恋人が高峰秀子さんでした。原
作は松本清張の短編ですが、橋本忍が脚色、野村芳
太郎が監督しました。

2人の刑事の夏の列車の旅が時代をよく映していま
す。東京駅で新聞記者と出会ってしまった2人は焦
げ茶色の京浜東北電車に乗って「横濱」に行き、ホ
ームを駆け下りて上り、急行「さつま」に飛び乗り
ました。この急行は22時19分に横浜を発車しま
す。終着は鹿児島。いまは東海道・山陽新幹線を乗
り継いで、さらには九州新幹線というコースですが、
当時はそうは行きません。しかも3等車は満席で、
2人は通路に新聞紙を敷いて座ります。

冷房もなく、もちろん禁煙席などありません。トイ
レは開放式で走っていると、下には飛ぶように枕木
が後ろに行くところを見られます。旅は大変でした。


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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