配信日時 2022/09/19 20:00

【我が国の未来を見通す(38)】 「気候変動・エネルギー問題」(3) 地球温暖化の元凶はCO2 宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
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WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんばんは、エンリケです。

本連載のアーカイブサイトができました。
https://wagamirai.okigunnji.com/

過去記事をすべて格納してますので、
ブックマークに入れ、折に触れ読んでみてく
ださい。

冒頭文の「嗅覚」
本文の「二酸化炭素」
といったキーワードだけからでも、
さまざまな思いをはせることができますね。

「人間ならではの力」
をもっともっと信用したほうがいいなあ
個人的にそういうことを感じています。

さあきょうも、さっそくご覧ください!


エンリケ



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我が国の未来を見通す(38)

「気候変動・エネルギー問題」(3)
地球温暖化の元凶はCO2

宗像久男(元陸将)

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□はじめに──9・11テロ事件について

 米国においては例年どおりの追悼式典が催される
だけになり、我が国においてもあまり話題になるこ
となく過ぎてしまいましたが、この時期になると、
21年前の「9・11テロ事件」を思い出します。
たまにはこのような話題も取り上げてみましょう。

私は当時、札幌で勤務しており、事件が起きた夜は、
近くのスナックで仲間とワイワイ酒を飲んでいる最
中でした。映像をみるや「これはただ事ではない」
とすぐ駐屯地にはせ参じ、徹夜で情報収集したこ
とを思い出します。

 翌日、さっそく旧知の新聞記者から「どう思うか」
と問い合わせメールが来ましたので、思い浮かぶま
まに「世界貿易センタービルが崩壊していく映像、
今後何度もみることでしょう。たぶん、自分の自
衛官時代の最も衝撃的な映像なるものと思っていま
す。というのは、映し出されている映像の裏側にあ
る守るべき価値とか国家の役割とか人間の生存とか
運命とかと交錯して、人類の悲しさとか愚かさとか
やりきれなさとかが入り乱れ、複雑になっているか
らです。それだけ、当事者でないゆえの冷静さがあ
るのかも知れません」と返信しました。

 それからだいぶ過ぎた頃、当記者は『自衛隊指揮
官』という書籍を上梓しました。その中に、名前は
伏せられてはいましたが、このメールの一節がその
まま掲載されていました。記者は、「終わり」と
「はじまり」と題して、「何が終わり、何が始まっ
たか」という視点で「軍人には見えないものが見え
ている」(原文のママ)、その例として私のメール
を取り上げたのでした。

 ブッシュ大統領が「これは戦争だ!」と叫んだアメ
リカが、その後、何を行なったかについて説明する
必要はないと思いますが、それから約1年半後、私
は、陸幕防衛部長に就任、「イラク復興支援作戦」
の計画・実施の担当部長となって“のたうち回る”
ことになります。当時、「9・11テロ事件」後の
影響については、我が国も決して逃れられないだろ
うと「嗅覚」で感じていましたが、自分自身に降り
かかってくるとは夢にも思っていませんでした。

 私は、今に至るも日ごろから自分の持つ能力で最
も鍛えているのはこの「嗅覚」です。「先見洞察力」
といってもよいかもしれませんが、この「嗅覚」
を鍛えるのはとても難しく、そう簡単には他人に伝
授できないことも実感しています。数学者の藤原正
彦氏は、「嗅覚を培うためには、教養とそこから生
まれる見識が大きく働いている」(『国家と教養』
より)と解説し、その教養自体も実に曖昧ものだと
も付け加えておりますが、この意味することはよく
理解できます。

この曖昧な「教養」を“自分のもの”とすることが
「嗅覚」の向上につながると信じ、歴史の研鑽をは
じめ、様々なことにトライし続けてきました。この
歳になると、悲しいかな、“自分のもの”にした順
番に忘れてしまうことも度々ですが、時に突然“蘇
る”という不思議な感覚も味わっています。

最近では、ウクライナ戦争や台湾有事など、「嗅覚」
を鍛える格好な材料があります。国のリーダーや
現役自衛官達には、過度に恐れず、誇張せず、過大
にも過小にも評価せず、冷静かつ客観的に情報を分
析することを願っています。

「最悪の事態を見積もって」という言葉が一人歩き
していますが、この「最悪」を“過度に最悪に”見
積もることも避ける必要があります。台湾情勢など
楽観的な見方は禁物ですが、さりとて「明日にも戦
争が起きる」という見方は極端過ぎます。歴史を振
り返れば、いつの場合も、またどこの国にあっても、
武力行使の決心はそう安易なものではなく、そこ
に至る複雑なプロセスが必ず存在します。

「9・11テロ事件」事件の映像をみて、私自身は、
将来、この事件の現場を必ず訪問するということ
を「嗅覚」で感じたことを今でもよく覚えています
が、ペンタゴンにはそれから約2年後、マンハッタ
ンの「グラウンド・ゼロ」には、自衛隊退職後数年
経った頃に訪問する機会がありました。それぞれの
現場に立ち、当時の悲惨な事件とその後に起こった
様々な出来事が交錯しましたが、犠牲になられた方
々に哀悼の意を表することができました。

ウクライナ戦争や最近の中国の台頭など、見方を変
えれば、事の始まりは「9・11テロ事件」ではな
かったかと思うところがあり、歴史のつながりを感
じる昨今です。長くなりました。気候変動・エネル
ギー問題についても、自分の持つ「嗅覚」を大事に
しつつ引き続き取り組んで参ります。

▼気温が2℃以上上昇すると何か起こるか

前回に続き、『地球に住めなくなる日』の著者ウェ
ルズ氏の主張をもう少し続けましょう。彼は「私た
ちは、2100年までに平均気温が4℃以上に上昇
する未来に向かって突進中だ。これが未来の基本路
線だ」としていますが、前回述べたように、「2℃
上昇すれば、100都市が水に浸かる」以外にも、
起きるであろう様々な事象を紹介しています。

その概要を紹介しますと、2℃上昇すれば、(1)地表
部を覆う氷床の消失がはじまる、(2)4億人が水不足
に見舞われる、(3)赤道帯に位置する大都市は居住に
適さなくなる、(4)北半球でも夏の熱波で数千人単位
の死者が出る、(5)インドでは熱波の発生率が32倍
になり、居座る期間も5倍に伸びて、影響を受ける
人の数が93倍に増える、などと紹介しています。

 これが3℃上昇の場合は、(1)南欧州では干ばつが
慢性化し、中央アフリカ、カリブ海では干ばつがそ
れぞれ平均1年7カ月、1年9カ月も続く、アフリ
カ北部に至っては5年続く、とあります。

 さらに、4℃の場合は、(1)デング熱感染者がラテ
ンアメリカだけで800万人になる、(2)地球規模の
食糧危機が毎年起きる、(3)酷暑関連の死者が全体の
9%を占める、(4)河川の氾濫被害はインドで20倍、
バングラデシュで30倍、イギリスで60倍に増え
る、(5)複数の気象災害が1カ所で同時発生すること
が増え、損害は世界全体で600兆ドルに達する
(1ドル130円換算で約7京8000兆円、現在、
世界に存在する富の約2倍以上に相当)、(6)紛争
や戦争も倍加するであろう、とあります。これらの
主張が正しいとすると、まさに「地球が住めなくな
る日」が現実のものになる可能性があります。

▼「地球温暖化」の元凶はCO2

 さて、「地球温暖化の主要因はCO2にある」と
いうのが「地球温暖化」の脅威を訴えるグループの
共通の主張でもあります。

 ゴア氏は、約1000年前からの気温の変化とC
O2濃度の相関関係を比較しつつ、「大気中のCO
2が多ければ、太陽から地球の届く熱が大気に吸収
される割合が多くなるので気温が上がる」とする一
方で、65万年前までさかのぼり、南極のCO2濃
度と気温の測定値から、(1)産業革命が始まるまでの
65万年間、CO2濃度が300ppmを越えたこ
とは一度もない、(2)その後急上昇し、現在の数値約
400ppm(最新値は407ppmといわれる)
は過去の記録にあるどの点よりも高い、(3)45年後
には600ppmを超える。これは事実であり、反
論できるものは1つもないと断定しています。

 ビル・ゲイツ氏は、CO2の排出量に着目し、世
界の年間排出量が約510億トンであること、この
排出量が1850年代から劇的に増加したことを指
摘し、その原因は、化石燃料の使用など「人間の活
動の結果であると断定しています。そして1850
年頃からの地球の気温の上昇とCO2の排出量増加
の急上昇が一致していると説明しています。

 そして、ゴア氏同様、地球の温暖化の原因となっ
ているCO2を排出する「人間の活動」の影響は深
刻であり、今後さらにひどくなること、その影響は
いずれ壊滅的になると予測しています。「それが、
30年後か50年後は正確にはわからないが、問題
解決が極めて難しいことを考えると今すぐ行動する
必要がある」と結論づけ、「CO2排出ゼロ」を声
高に叫んでいます。

 ウェルズ氏は、4億5000万年前までさかのぼ
り、「地球温暖化には温室効果ガスが関わっていた、
特に温暖化がひどかったのは2億5200万年前
の『三畳紀』で、地球の気温が5℃上昇した。この
時には強力なメタンが放出され、温暖化に拍車がか
かり、ほんのひと握りの生き物を残してみな死んで
しまった。今、この時の少なくとも10倍の勢いで
CO2を出している。産業革命以前と比べると10
0倍だ。大気中のCO2の半分以上は、この30年
以内に化学燃料を燃やして発生したものである」と
断定しています。

 さらに、「大気中のCO2は、過去の1500万
年で最も高いレベルにある。当時はまだ人類は存在
せず、海面水位は現在より30メートル以上高かっ
た」とつけ加えます。

▼IPCCの見解

 それでは、国連IPCCの「報告書」には「地球
温暖化とCO2の関係」についてはどのように記載
されているのでしょうか。第1次から第6次までの
「報告書」を振り返ると微妙にその“変化”を読み
取ることができます。

 まず1990年の第1次報告書では、「人為起源
の温室効果ガスがこのまま大気中に排出され続けれ
ば、生態系や人類に重大な影響を及ぼす気候変化が
生じるおそれがある」という表現に留まっていまし
た。

1995年の第2次報告書では、「地球の平均気温
および海面水位の上昇に関する予測から、人間の活
動が人類の歴史上かつてないほどに地球の気候を変
える可能性がある」と一歩踏み出し、「温室効果ガ
スの蓄積に対する気候系の反応は、時間スケールが
長いことから、気候変化は多数の重要な点に関し、
すでに取り返しのつかない状況にあるといえる」と
も警告しています。

これが2001年の第3次報告書になると、「過去
50年間に観測された温暖化の大部分は、温室効果
ガス濃度の増加によるものであった可能性が高い」
と変わり、2007年の第4次報告書では、「20
世紀半ば以降に観測された全球平均気温の上昇のほ
とんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によって
もたらされた可能性がかなり高い」という表現にな
り、地球温暖化は「温室効果ガスによるもの」と確
信に近い表現になります。

 さらに、2013~2014年の第5次報告書で
は、「人間による影響が20世紀半ば以降に観測さ
れた温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて
高い」としてほぼ断定し、最も新しい2021年の
第6次報告書では、「人間の影響が大気、海洋およ
び陸地を温暖化させてきたことには疑う余地がない。
広範囲にわたる急速な変化が、大気、海洋、雪氷圏
および生物圏に起きている」と「疑う余地がない」
という断定的表現に踏み切りました。

 第1次報告書を受けて、1992年5月、ブラジ
ルのリオ・サミット(地球サミット)において「国
連気候変動枠組条約(UNFCCC)」が採択され、
1994年3月に発効されます。そして、大気中の
「温室効果ガス(二酸化炭素、メタンなど)」の
濃度を安定化させることを究極の目的とし、本条約
に基づき、1995年から毎年、「気候変動枠組条
約締約国会議(COP)」が開催されるようになり
、今日に至っています。

のちほど触れる1997年の「京都議定書」は「2
020年までの枠組み」としてCOP3で採択され、
2015年の「パリ協定」は、「2020年以降
の枠組み」としてCOP21で採択されました。

▼「温室効果ガス」とは

 改めて、「地球温暖化」を引き起こしている主要
因とされている「温室効果ガス」(GHG)につい
て整理しておきましょう。「温室効果ガス」とは、
「大気圏にあって、地表から放射された赤外線の一
部を吸収することにより、温室効果をもたらす気体」
を指し、水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二
窒素(亜酸化窒素)、クロロフルオロカーボン類な
どの6種類からなります。このクロロフルオロカー
ボン類は1970年代からオゾン層を破壊する可能
性が指摘されていたフロンの一種で、冷凍庫やエア
コンなどに使用されていました。

「温室効果ガス」は、CO2が全体の64%を占め、
続いて、メタン(17%)、クロロフルオロカー
ボン(9%)、一酸化二窒素(6%)、その他(3
%)と続きます。これらから、人為的に排出されて
いる「温室効果ガス」の中では、その量からCO2
の影響量が最も大きいと見積もられています。CO
2は、石炭や石油の消費、セメントの生産など、ま
さに「人間の活動」により大量に大気中に放出され
ています(細部は後述します)。

あまり耳慣れない言葉に「地球温暖化係数」(GW
P)というものもあります。「CO2を基準に、各
種気体が大気中に放出された際の濃度あたりの温室
効果を100年間の強さで比較して表したもの」と
定義され、CO2の1に対して、メタンは25(つ
まり25倍)、一酸化二窒素は298、クロロフル
オロカーボンに至っては、4600~14000と
されています。

 これらから、「温室効果ガス」に占める割合は、
CO2は64%ですが、温暖化に影響するガスとい
う観点からみれば、メタンとか一酸化二窒素とかク
ロロフルオロカーボンの“寄与度”も無視できない
ことは明らかです。

そのCO2の国別の排出割合は、一昔前まではアメ
リカがトップを走っていたのですが、最近は中国に
取って代わりました。最も新しい2019年のIE
A(国際エネルギー機関)のデータによると、中国
(28.4%)、アメリカ(13.9%)、インド
(6.4%)。ロシア(5.8%)、日本(2.8
%)、ドイツ (1.8%)、韓国(1.8%)、
イラン(1.7%)、カナダ(1.7%)、カナダ
(1.7%)、インドネシア(1.6%)、その他
(34.0%) と続きます。

2015年から19年までの経年変化をみてみます
と、逐年排出量が増加しているのは、中国、インド、
ロシアです。中国は2015年の99億トンから2
019年の106.6億トンへ7.6億トン増加、
インドは21.4億から24.2億トンへ2.8
億トン増加、ロシアは20.1億トンから21.8
億トンへ1.7億トンの増加です。詳しくは後述し
ますが、アメリカなど先進国が「京都議定書」など
の協定によりCO2排出対策が進んでいるなか、こ
れらの国々は大きな制約を受けていない証なのです。

ちなみに、日本の「温室効果ガス」排出は、過去に
は2007年度が最高で13億7400万トンでし
た。その後、リーマン・ショックの影響で、200
8、2009年度の排出量は前年度より下回りまし
たが、2011年の福島第一原子力発電所の事故以
来、電源構成が原子力から火力に変化したため、2
011、2012年度は前年度を上回りました。

2019年の「温室効果ガス」排出量はCO2換算
で12.4億トンであり、その内訳はCO2が
91.4%、メタン2.3%、一酸化二窒素1.6
%、その他4.6%となっています。
 
 

(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学
校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロ
ラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第
8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高
射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、
陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、
陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、
現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊
急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業
開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自
衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会
世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防
史』(並木書房)




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