配信日時 2022/08/24 09:00

【陸軍工兵から施設科へ(47)】丹那トンネル運転に向けて   荒木肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!

自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。

『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。

「陸軍工兵から施設科へ」第47回です。

冒頭文を拝読し、
我が意を得たり、と感じたのは
わたしだけでしょうか?

さっそくどうぞ
 
エンリケ



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陸軍工兵から施設科へ(47)

丹那トンネル運転に向けて


荒木 肇

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□マスコミの狙いは何か

 まずお断りしておきますが、わたしは何かの熱心
な信者というわけではなく、先祖代々浄土真宗の信
徒です。お寺とのお付き合いもあり、親族の葬儀で
はお世話になります。もちろん、旧統一教会とわた
しは何の関係もありません。

 マスコミはいま一斉に、主に自民党の代議士や議
員たちと旧統一教会の関係について大騒ぎをしてい
ます。このことにちょっとひっかかりを覚えます。
おかげで岸田政権の支持率が下がったり、安倍元総
理の「国葬」問題の反対が増えたりしたとのことで
す。

 おかしいなと思うのはわたしだけでしょうか。信
教の自由が保障され、旧統一協会が反社会的集団と
認定されているというわけでもありません。政治家
が宗教団体と関わるのは悪なのでしょうか。

 たしかにいま最も糾弾されている自民党の山本元
防衛副大臣の歯切れの悪い弁解などを聞いていると、
どうしようもない。しかし、それは山本氏の品格だ
けのことであり、政治家と適法な地位をもつ宗教団
体が関わること自体は問題があるとは思えません。

萩生田政調会長と生稲参議院議員のことも、しつこ
く報道を重ねていますが、地盤も、政治家としての
実績もないタレント候補です。少しでも支持者を、
票を得ようとする行為ではないでしょうか。

 またまた野党はさまざまな論法を使って、国会で
話題にするようです。そのために、また防衛予算の
ことや、憲法改正などの重要な議論が横に押しやら
れているように思います。政治家も政治家です。「
支持者を増やすために適法な団体の会合に顔を出し
て何が悪い」と言えないのでしょうか。さらに叩か
れるのが怖いというような臆病な人が政治家でいい
のでしょうか。情けなくなっています。


▼試運転が始まる

 熱海、来宮(きのみや)、函南、三島の各駅の改
修や新設が始まります。いよいよ東海道線が丹那ト
ンネルを走ることになりました。トンネル内の線路
敷設、電化設備も完成し、1934(昭和9)年1
0月1日には、電気機関車にけん引された客車が関
係者を乗せてトンネルを走り抜けます。

 12月1日にはいよいよ完全な開通が見込まれま
した。その日をもって、熱海線は国府津、小田原、
熱海、三島を通る東海道本線となります。同時に、
国府津から松田、山北、御殿場、裾野、沼津を結ん
だ線路は支線の御殿場線となるのです。

 第1号の記念すべき列車は、東京駅を11月30
日午後10時発の神戸行き急行と決定しました。2
7日の朝から売り出された乗車券はたちまち売り切
れます。そのため、鉄道省は列車を15輌に増やし、
当時としては長大な編成にしました。

 使われた機関車はEF53型でした。Eは電気機
関車、Fは動輪が6つであることを表します。当時
の新鋭高速・旅客型機関車です。編成は機関車の後
ろに荷物車1輌、2等寝台車2輌、2等車、食堂車、
2等車が各1輌、3等車7輌、3等寝台車、2等
寝台車が各1輌という15輌編成になりました。

 乗客は1200人あまりで、改札は9時40分か
ら始まります。発車は10時ちょうど、最初の停車
駅は神奈川県の大船駅です。そこで20秒間の停車
をし、次の駅は一気に沼津駅でした。国府津駅には
停まらなくなりました。しかし、各駅には祝いの文
字が入った赤い提灯をもつ人々でいっぱいでした。

 小田原駅でも列車は「万歳」の声を受けながら疾
走します。早川、根府川、真鶴、湯河原を過ぎまし
た。各駅とも提灯や幔幕が張られています。私事な
がら、夜中でも列車を見に行ったと小学生だった家
内の亡父から聞いたことを思い出しました。熱海通
過はまさに午前零時でした。

▼列車は三島へ

 車内では乗客専務車掌が「丹那トンネルに入りま
す」と言い続けて走りました。零時3分30秒、列
車は定時に来宮信号所を通過。トンネルの坑口が迫
ります。そこには数十個の提灯が上下していました。
熱海建設事務所の所長をはじめ、作業員たちによ
る歓迎でした。

 零時4分、機関車は警笛を鳴らしトンネルに進入
しました。側壁には灯がともり、青色の信号灯も点
いています。乗客は誰もが日の丸の小旗をもち、互
いに笑顔を交わし合ったそうです。トンネルの通過
時間は機関車に同乗した運転主任がストップ・ウオ
ッチで計っていました。三島口に出た瞬間で針を読
むと、9分2秒でした。

 函南駅にも提灯が飾られ、三島駅にはイルミネー
ションが輝いています。列車は速度を落とし、沼津
駅に入ります。停車は時刻表通り零時28分でした。
ホームには沼津市長をはじめ、市の有力者が正装
で迎え、青年団員、在郷軍人の人々が歓声を上げま
した。乗客たちは窓を開けて小旗を振って応えまし
た。

 機関車に乗っていた東京鉄道管理局の運転局長が
駅長室に入り、記者会見を行ないます。それによる
と、トンネル内の速度は中央付近で時速55キロメ
ートルを出し、揺れもなく、線路はまったく安全だ
というものでした。

 当時の電化区間は沼津までです。蒸気機関車につ
け変えられます。零時34分、列車は走りだしまし
た。続いて、その日の午後10時30分に東京発鳥
羽行き、11時26分には大阪行き、11時40分、
大阪行きが丹那トンネルを通過します。

 東海道線の新しい駅が造られた三島の町は大いに
賑わっていました。江戸時代には東海道の大きな宿
駅だった三島は鉄道の開通以来、すっかり寂(さび)
れていたのです。

 あらためて確かめてみます。御殿場経由の時代に
は、国府津と沼津間は60.2キロメートル、最高
地点は海抜455.4メートルの御殿場駅です。そ
れが48.5キロメートルと11.7キロメートル
もの短縮になり、最高点もトンネル中心で海抜79.
6メートルにしか過ぎません。
 
 何より、重量のある貨物列車は海抜107.1メ
ートルの山北駅で2つに分けて、それぞれを機関車
が引いて455.5メートルの御殿場まで登りまし
た。東京行の列車も、海抜123.6メートルの裾
野から御殿場まで急勾配を上がっていました。輸送
力が大きく向上することになりました。

 次回からは現在の新幹線につながる「弾丸列車」
計画についてお話しましょう。



(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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