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荒木さんの最新刊
知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。
そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
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おはようございます。エンリケです。
「陸軍工兵から施設科へ」第46回です。
冒頭文を拝読し、
さまざま思うところありました。
あなたはどうでしょう?
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エンリケ
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陸軍工兵から施設科へ(46)
丹那トンネル貫通す
荒木 肇
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□77回目の「終戦記念日」
もう何回も、いや何十回とわたしはこの日を迎え
てきました。戦後生まれですから当然です。自分が
生まれるわずか6年前に戦争があって、物ごころつ
いた時にも、街には戦争の傷跡がけっこう残ってい
ました。何より、都電荒川線で大塚駅から早稲田に
向かって帰ってくると、線路の脇に「渡洋爆撃記念」
と弾体に刻まれた航空爆弾が立っていたのです。
いつの間にか取り払われていましたが、当時はあま
り関心ももっていませんでした。
皇居の千鳥ヶ淵に面した竹橋に行くと、立派なレ
ンガ建ての建物がありました。あれが近衛師団司令
部で、終戦の時にはあそこで師団長が殺されたのだ
と父親に聞かされました。当時は、近衛部隊とか師
団とかの意味も分からず、気味の悪い建物があるも
のなんだなと思ったくらいです。
事件の概要を知ったのは映画です。三船敏郎さん
が敗戦時の阿南陸軍大臣を演じた『日本のいちばん
長い日(1967年・東宝)』でした。ほかにも陸
軍省軍務局員畑中少佐を黒沢年男さんが熱演しまし
た。彼らは「國體を護持するために」、上官を殺し、
偽の命令まで出して軍隊を動かしてしまいます。
いまでは「国体」といえば、国民体育大会の略称を
思い浮かべる方が多いのではありませんか。194
5(昭和20)年の当時では『國體』には特別な意
味がありました。わが国のあり方を表し、万系一世
の天皇陛下を中心にした国の仕組みそのものを指し
たのです。
8月14日午前10時過ぎ、陛下の発意による御前
会議が開かれます。終戦の断が下りました。阿南陸
軍大臣は最後まで抗戦を主張しますが、涙をのんで
敗戦を認めます。その夜のこと、自刃されました。
午後11時には大詔が発せられ、ポツダム宣言の受
諾が決まり、その発表は翌15日の正午となります。
陸軍省の主戦派将校たちは、天皇陛下の裁断をひっ
くり返そうとしました。そのためには陛下のお言葉
の録音盤を奪い、放送を中止させることが必要でし
た。一方で近衛師団長に決起を強要し、東部軍まで
も動かそうとします。
陸軍省軍務局の井田中佐、椎崎、畑中の両少佐、こ
れに応じた陸軍航空士官学校教官上原大尉の4人は
14日の深夜、竹橋の近衛師団司令部に乗りつけま
す。森師団長に決起を呼びかけますが、中将は賛成
しません。とうとう畑中少佐は拳銃で師団長を撃ち、
たまたま居合わせて、師団長をかばった第2総軍
参謀(森師団長の義弟でした)も射殺します。
そうして彼らは偽の近衛師団命令を出してしまいま
した。宮城(きゅうじょう・江戸城のこと)と放送
局を遮断し、陛下を守護する。近衛歩兵第1聯隊は
待機。近衛歩兵第2聯隊は現状に加え1個大隊を宮
城内に増派し、宮城内の通信網を遮断する。近衛歩
兵第6聯隊は2個大隊で大宮御所を守護する。近衛
歩兵第7聯隊は主力を宮城前広場に集め、1個中隊
で放送局を占拠する。こうして彼らは上官を殺し、
偽の命令で軍隊を動かすといった暴挙に走りました。
東部軍は田中軍司令官以下、「承命必謹(しょうめ
いひっきん)」、「陛下のご聖断が下った」という
厳しい態度を崩しません。午前4時ころ、田中大将
は副官塚本少佐と2人で坂下門から宮城に入ります。
そうして決起した将校たちは多くが憲兵隊に逮捕
され、中には自決する者もおりました。
この他にも航空士官学校、水戸の陸軍航空通信学校、
埼玉県の飛行第88、同89戦隊の航空兵団の暴
発があり、小さなものでは予科士官学校の教官と生
徒が埼玉県川口にある海外向けの放送局を占拠する
といった事件もありました。
連合国に降服すれば「國體」が破壊され、日本が滅
びると彼らはそう考えていました。さまざまな事情
で、天皇陛下は退位されることもなく、現在のよう
な「平和な国」になりました。いろいろなことを考
えた8月15日でした。
▼トンネルの貫通迫る
1933(昭和8)年の6月、残りの距離が90
メートルとなりました。お互いのダイナマイトの炸
裂する音が聞こえています。ダイナマイトをつめる
孔を掘る削岩機の音も岩盤を伝わってきます。三島
口の工事の方がやや進んでいました。お互いの水抜
き抗がつながれば、それはもう貫通と同じです。そ
の予定が決りました。おそらく6月25日になるだ
ろうと予想されました。
6月16日のことでした。熱海口から掘った水抜
き坑は坑口から3891.5メートルに達します。
三島口からの水抜き抗の先端から10メートルにな
りました。貫通日を繰り上げて19日と予定します
。
8月には丹那地区の住民たちへの補償も実行されま
す。静岡県知事がまとめた請求総額は117万50
00円というものでした。あまりの巨額に鉄道大臣
は驚きますが、すぐに小切手を振り出しました。8
月18日には買収した土地、貯水池、鉄管、ポンプ
などを無償で譲渡することにもなります。補償の総
額は200万円にものぼりました。もちろん、被害
にあった住民たちにとっては、なんとも複雑な心境
だったと思えます。
▼ついに貫通
導坑の貫通は8月25日でした。次は坑内のコン
クリート貼りです。熱海口では中心点まで280メ
ートル、三島口は同じく250メートルまでトンネ
ルは完成し、補強工事が続いていました。
貫通祝賀式は10月21日、慰霊祭のあとに挙行
されました。熱海口で行なわれます。すでに192
8(昭和3)年2月末には、東京と熱海間の電化は
完成していました。そのため、東京方面の観光客は
増えていましたが、丹那トンネルの完成で関西方面
からの訪客も期待できるようになります。国府津か
ら小田原、湯河原、熱海といった「盲腸線」はとう
とう東海道本線の一部となりました。
1934(昭和9)年3月10日、コンクリート
の貼付も完成し、トンネルはいまと同じ姿になった
のです。後は坑内に線路を敷き、電化のための工事
を残すだけになりました。1918(大正7)年4
月1日に起工され、15年11カ月10日の時間を
かけて2500万円の工費を費やしました。従事し
た人は延べ人数で250万人を超えました。
線路の敷設と電化工事は7月末までに終わり、1
0月、11月を試運転にあてて、12月1日を開業
日にすることにします。
もう地下水が減ることはないだろうと思っていた
丹那盆地を中心した住民たちは失望することになり
ました。水は涸れたままだったのです。吉村氏の記
述によると、トンネル工事で失われた水の量は、箱
根山上の芦ノ湖(あしのこ)の貯水量の3倍にもな
ったといいます。トンネルの水抜き抗を流れる水は、
日量で10万トンにもなっていました。鉄道省は
水抜き抗の中に堰を造って、熱海へ4万トン、三島
に6万トンの水が流れるようにします。
当時、函南村の年間予算は8万円、渡された補償
金は117万5000円です。水田を奪われた方々
は田方平野に新しい土地を手に入れることができま
した。酪農も冷却装置を買い入れることで三島町へ
の搬送も安全にできるようになりました。牧草地も
整備され、ホルスタイン種の乳牛が飼われるように
なりました。
次週は列車の試運転のお話を調べましょう。
(つづく)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
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