配信日時 2022/08/03 09:00

【 陸軍工兵から施設科へ(44)】建設事務所に蓆旗(むしろばた)   荒木肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!

自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。

『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。

「陸軍工兵から施設科へ」第44回です。


一揆という言葉を見てふと思い出しました、

一揆には、起こした側のリーダー格は死罪。起こさ
れた役所側も責任者が切腹、という「覚悟の分かち
合い」があったと聞きます。

きょうの記事を拝読し、そんなことを思いました。

さっそくどうぞ
 
エンリケ



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陸軍工兵から施設科へ(44)

建設事務所に蓆旗(むしろばた)


荒木 肇

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□コロナの蔓延

 皆さま、猛暑の中、いかがお過ごしでしょうか?
 こちら関東では、むこう1週間、毎日が晴れとい
う予報が出ています。コロナの感染者の方々も日々
増えて、医療体制もひっ迫との報道に不安がつのり
ます。

 友人の感染対策の専門家によれば、過去3年間の
統計をみれば、感染拡大のピークはお盆休暇のあた
りとのことです。ワクチン接種については、いろい
ろな意見もありましょうが、要は換気をよくし、会
話ではマスクをするという対処が最良とのこと。あ
わせて、ウィズ・コロナというべきか、経済活動、
人との交流も並行していきたいものです。

 ウクライナ情勢については、いつもの通り「飽き」
がきているのか、あまり報道もされなくなってき
ています。一方で防衛費の増加の方針についても、
やれ財源がとか、社会保障費との兼ね合いがとか、
ストップをかけようとする方々が出てきました。と
りわけ、政権与党の地位にある政党が慎重な意見を
持ち出してきています。


 「平和が一番」というその政党の主張の裏には、
もう「戦争の被害者になるのはご免だ」という熱心
な支持者の意見が透けて見えます。ところが、その
コアな支持者の方々が高齢化し、前回の選挙でも大
幅に得票を減らしています。応援してくれる宗教団
体の勢力が落ちてきているのでしょう。どのように
舵とりをされていくのか興味が湧いています。

 電力のひっ迫についても、それに関わる原子力発
電について議論も低調です。中国とロシアの艦隊は
協力して東北地方や北海道の海で演習を繰り返して
います。危険は少しも減らないどころか、かえって
緊張の度を増しているようです。どうか、国民の負
託を受けた方々にはそこを真剣に考えてもらいたい
ものです。


▼池に水は溜まらなかった

 1929(昭和4)年になりました。不況は深刻
化しています。田中義一内閣は景気を刺激するため
に、膨脹する経費に公債の発行と国庫の余剰金をあ
てました。ますますインフレの気配は高まります。
その一方で、社会主義に対しては弾圧を加えました


 貯水池の建設は進んでいました。しかし、192
4(大正13)年から盆地の水は減るばかりでした。
水のない不自由な暮らし、田んぼも減り、ワサビ田
もなくなって5年目にもなりました。とうとう人々
は怒りに燃えて立ち上がります。

 4月下旬には池が完成し水も溜まり始めました。
鉄道省では盆地の5地区に2万5000円あまりの
見舞金を出し、田から畑への地目変換費として2万
7500円、干上がったワサビ田の山林への変換費
に1万8200円を支払いました。地目の変換は課
税の苦しみを少しでも減らすためでした。

 熱海口の坑内では、やはり水との戦いが続いてい
ました。慎重に、人命第一だと現場は努力していま
す。粘土層にセメントを入れて固めてから掘削とい
う方法を取りました。確実に、安全にと工事は進め
られていたのです。

 しかし、頼みにした貯水池の水は計画通りには溜
まりませんでした。流れ込んだ水はどんどん地中に
しみ込んでいってしまったのです。大きな期待をか
けていた住民たちは、ひどく失望しました。


 地区の中でも、丹那区はこれまでひどい被害はあ
りませんでした。それがこの1929年のこと、急
に状況は悪化しました。25戸の家の井戸はすべて
涸れ、鉄道省の工事で引かれた鉄管の水に頼ること
になりました。


貯水池からの水はほとんどなく、前年までの被害面
積が2町4反1畝2歩だったのに、この年は18町
3反2歩にも広がります。およそ2.4ヘクタール
から同18.3ヘクタールに増えたわけです。およ
そ8倍です。被害の総合計は20町7反強であり、
うち10町にはまったく水が入らず、稲は少しも育
ちませんでした。


被害はそれだけでは済みません。地区内にはところ
どころに陥没するところまで現われました。丹那区
ばかりではなく、他の地区でも陥没は起きたのです


▼熱海建設事務所に押し寄せる住民

 「むしろばた」といわれるものがありました。農
家が作った蓆(むしろ)を編んでつくった旗のこと
です。江戸時代などに起きた農民の一揆(いっき)、
強訴(ごうそ)と呼ばれた農民たちの集団行動には、
仲間の目じるしとして「蓆旗」が掲げられました。

 畑地区、丹那地区の住民300名余りが竹ざおな
どにくくりつけた蓆旗を掲げて山から熱海の町に下
りてきました。初冬の11月初めのことでした。住
民たちは事務所を取り囲みましたが、警察官の介入
で話し合うことになりました。

 住民の不満は決して不当なものではありませんで
した。事務所に訴えると書類で出せといわれる。書
類を出せば不備があるという。出し直すと今度は音
沙汰がない・・・。鉄道省の対応はいつも後手後手
にまわっているというのが何よりの不満でした。こ
のような問題は昔も今も変わらないのだと思います。

 訴えがあれば役所はまず書面を要求する。これは
まあ当然で、口頭で聞いた話はあてにならぬし、後
で水かけ論の元にもなってしまう。じゃあ、書面に
書かせればいいかというと、訴える方の多くは素人
です。役所では書類というものは、その中身より形
式が重視されます。書式が決まっていて、それから
外れると戻すのが普通です。要望を出す人は素人で
すから、書式に慣れていないのが普通ですね。

 では正しい文書が出されたとして、今度は予算に
関わることなら多くの関係部署に回ることになりま
す。これにも時間がかかるわけです。そうして最後
に会議にかけられる。これではとてもすぐに、要望
に対応できるわけはありません。


 このときの話し合いで、要望にすぐに対処するた
めに貯水池のかたわらに常駐する職員を置くことに
しました。これでどうやら昭和4年は暮れることに
なりました。




(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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