配信日時 2022/08/01 20:00

【我が国の未来を見通す(34)】 「農業・食料問題」(16) 「農業の魅力化」PRの必要性 宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
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こんばんは、エンリケです。

本連載のアーカイブサイトができました。
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過去記事をすべて格納してますので、
ブックマークに入れ、折に触れ読んでみてく
ださい。

魅力化戦略

大好きな言葉です。

わが国にとって最も重要な考え方、感覚であると考
えます。

さっそくどうぞ


エンリケ



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我が国の未来を見通す(34)

「農業・食料問題」(16)
「農業の魅力化」PRの必要性

宗像久男(元陸将)

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□はじめに

 久しぶりにウクライナ戦争を取り上げましょう。
7月23日、またしてもロシアへの不信感が増大す
る事案が発生しました。ロシア軍の巡航ミサイル「
カリブル」が黒海の軍艦から発射され、そのうちの
2発がオデーサ港に着弾したのです。

 幸い、死傷者も港湾インフラも大きな被害はなか
ったようですが、世界の食糧危機が叫ばれ、それを
回避するために、トルコや国連が仲介役になって、
ようやくウクライナとロシアの間で輸出再開や航行
の共同監視を軸に合意文書が交わされた翌日のでき
ごとでした。

 ロシアは、当初はミサイル攻撃を否定していまし
たが、その後に「軍事インフラを狙った」と攻撃の
正当性を主張しました。もし、本攻撃が、ロシア政
府(つまりプーチン大統領)の命令によって、この
タイミングで実施したとなれば、“別な意図”があ
ったと考えるのが常識です。「世界の食料危機悪化
の全責任をロシアが負うことになる」とウクライナ
外務当局の発表のみならず、国連事務総長も非難声
明を発表しましたが、当然、この程度の反発は想定
内でしょう。

 仮に、ロシア政府の命令なしに現地指揮官の判断
による攻撃だったとすれば、いよいよロシア軍の“
タガ”は救いがたい程度に破壊されていることを意
味するのではないでしょうか。

ロシア当局が、当初は否定していたことから、現地
指揮官の判断によるミサイル攻撃だったとも推測し
ますが、過去の戦争において、現地の部隊が中央の
意図に反する行動をとったことは枚挙に暇がありま
せん。このような場合、なかなか真相が明らかにな
らないのも歴史の教えるところですし、“後に引け
ない”政府が現地の判断を容認し、その事実を巧み
に活用することも何度も繰り返されてきました。

その後、ウクライナが穀物輸出を週内にも再開する
との報道がありましたが、今後も何かあればロシア
の攻撃の脅威にさらされ、輸出がストップする、つ
まり、しばらく世界の食料事情はロシアのコントロ
ール下にある状態が続くことを覚悟しなければなり
ません。定期点検という名目で欧州に対する天然ガ
スの供給を一時停止しましたが、言葉を代えれば、
ロシアが「エネルギー」や「食料危機」を“戦争の
武器”として使い始めたと考える必要があります。

ロシアによる占領地の「同化政策」を強行している
との報道もありますが、当面、「現状」の打開に動
く“救世主”も期待できないことから、残念ですが、
事態はますます“泥沼化”していくことでしょう。

▼国民の「農業・食料問題」への関心

戦争開始後5か月を経た現在、慣れてしまったのか、
ウクライナ戦争への関心が少なくなっており、我
が国においても、当戦争への報道がめっきり減って
しまいました。多くの国民が「食料危機にほとんど
関心を持たない」ことの方に私はよけいに危機意識
を持ちます。冒頭のように、「世界の食糧危機」を
左右しかねない事案が発生していることへの関心を
含め、日本そして日本国民のこの危機意識のなさは
どこから来ているのでしょうか。

先般の参議院選挙においても、農業や食料問題につ
いては話題にすらならなかったと記憶しております。
我が国の選挙制度は、いつも「1票の格差が大き
くなると、『すべての国民は法の下に平等』とする
憲法14条に違反する」みたいな話題ばかりがクル
ーズアップされ、そのたびごとに格差是正のために
選挙区の見直しが行なわれ、地方出身の議員が減り、
都会出身の議員ばかりになりつつあります。

 当然、都会の候補者は都会に住む人たちが関心を
持つ話題(聞けば、どうでもよいような話題ばかり
ですが)を流し続け、高齢化した有権者がほとんど
の地方にあっては、年金とか医療とか高齢者向けの
話題に集中します。昔はよく「農林族」という言葉
がマスコミでも取り上げられましたが、農業が「票」
に結びつかない現在はたぶん死語になっているの
でしょう。また、地方出身で声が大きく、力もあっ
た“大物政治家”も次々に姿を消しています。

 6月、農林省から「食料の安定供給に関するリス
ク検証」が公表されました。確かに、新型コロナや
ウクライナ戦争の影響で、日本がその大半を輸入に
頼っている飼料や肥料、穀物の価格高騰が「重要な
リスク」と位置づけされているようですが、そのよ
うな文書が公表されたこと自体が話題にならないの
で、大多数の国民は知らないでしょう。

実際に読むと、いかにも役人が作った文書らしく、
全般網羅型の文章が“他人事のように”綴られてお
り、そこから“深刻な危機意識”を感じることがで
きませんでした。個人的な印象では、失礼ながら「
農林省は、このような“アリバイつくり”を何度繰
り返してきたのだろう」と思ってしまいます。

先般、岸田政権ではじめて策定された「骨太の方針
2022」においても、方針の末尾に近い第3章の
最後の方に「食料安全保障の強化と農林水産業の持
続可能な成長の推進」の中項目で、(1)世界の食料需
給等を巡るリスクが顕在化していることを踏まえ、
生産資材の安定確保、国産の飼料や小麦、米粉等の
生産・需要拡大、食品原材料や木材の国産への転換
等を図る、(2)将来にわたる食料の安定供給確保に必
要な総合的な対策の構築に着手し、食料自給率の向
上を含め食料安全保障の強化を図る、(3)気候変動に
対応しつつ人口減少に伴う国内市場縮小や農林漁業
者減少等の課題克服に向け、人材育成を始め農林水
産業の持続可能な成長のための改革を進める、(4)み
どり戦略の実現に向け、新技術の開発、有機農業の
推進、環境負荷低減の見える化等を進める、など農
林省の“手製”と思われる従来の農業政策が羅列さ
れているだけで、政府の危機意識も意気込みも新鮮
味も感じられません。よって、マスコミさえ関心を
持たず、記事にもしませんでした。

 後日、産経新聞には、心ある記者が「新自由主義
で食卓は守れるのか」「農業を広げる気があるのか」
と取り上げましたが、「さもありなん」と思いつ
つ、農業・食料問題の厳しい現状と将来、遅々とし
て進まない政府のリード、低い国民の関心と危機意
識などに対して、「このままでいいのか」との懸念
がよけいに増すばかりです。

▼「農業の魅力化」PRの必要性

 農業や食料問題の現状と将来は厳しいものがあり
ます。しかし、その厳しさだけを訴えても問題の抜
本的解決には結びつかないことは、「現状」が物語
っています。解決に向かっての重要な鍵は、いかな
る形であっても「農業が魅力ある事業」であること
を理解し、農業分野に参入する法人が増えること、
そして、いかなる形であっても、社会的な意義や処
遇や働き甲斐などが他の職業に決して負けない「魅
力ある職業」として農業を選択する人が増え、これ
らの総和で「農業の従事者が増える」ことに尽きる
と考えます。

 企業など法人の参加には様々な形があることも明
白です。繰り返せば、ア)資本のみ参加、イ)自社
の得意分野を拡大する方向で農業分野に進出、ウ)
農業生産法人を買収あるいは支援する形で参加、エ)
新たな農業生産法人等の立ち上げ、オ)未来の農
業への先駆者となるような分野の開拓などです。

5月28日に発売された週刊「ダイヤモンド」には
『儲かる農業2022』として、「大離農時代後の
農業はどうなるのか」という観点から様々なデータ
が紹介されていました。その内容は、決して悲観的
なものばかりではなく、「儲かる農業」としてかな
りの数の農業法人等がすでに参入し、売上高100
億円を越える「豪農」も出現しておいることも記事
にしていました(その一部は本メルマガでもすでに
紹介済みです)。

また、「スマート農業」の分野においては、AI、
ロボット、センサーなどのIT技術を最大限に活か
す場として、この分野の達人たちにとっては「農業
は、最大・最強・最高な舞台」であることも間違い
ないでしょう。

 日本が最も遅れている「有機栽培」や「自然栽培」
などもまだまだ発展途上にはありますが、日本の
農業を救うばかりか、環境問題や日本人の食生活の
抜本的な改善につながる大チャンスでもあります。

 さらには、最近話題の「SDGs」、つまり、国
連が定めた持続可能な開発目標の実現に向かって、
日本政府も2050年までに温室効果ガスの排出を
全体としてゼロにする方針を掲げ、経済界をあげて
動き始めています(この細部については第3編で取
り上げます)。

農業分野と「SDGs」は切っても切り離せない関
係にあることは明白です。「食料を供給すること」
は目標2「飢餓をゼロに」そのままですし、農業が
地球環境にさまざまな影響を与えること、特に、農
薬の生態系への影響、化学肥料が石油や天然ガスな
どの化石燃料を使って生産しているため水質汚染や
地球温暖化につながることから、目標12「つくる
責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な
対策を」、目標15「陸の豊かさを守ろう」、目標
14「海の豊かさを守ろう」まで関連するでしょう
し、農業分野の雇用を支えることは、目標8「働き
甲斐も経済成長も」や目標9「産業と技術革新の基
盤をつくろう」に関連します。

 2016年、内閣府から「Sociaty 5.
0」が発表されました。このような事実もどれほど
の人々が知っているのか不明ですが、サイバー空間
(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を融合
させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解
決を両立し、新たな未来社会の実現として提唱され
たのが「Sociaty 5.0」です。

経団連は、「Sociaty 5.0」を国連が提
唱する「SDGs」と軌を一にするとして「Soc
iaty5.0 for SDGs」を掲げていま
す。その中には、「農業分野における恩恵」として、
ドローン、ロボット、AIなどなど農業分野での
新しいテクノロジーの開発・推進も含まれています。

昨年、EUが2030年、わずか10年で有機農業
の面積を25%にするなどの目標を打ち出し、関係
者の間で衝撃が走りました。今年秋には「国連食料
システムサミット」が予定され、環境と農業の両立
などについて各国の考えを示す方針となっています。
こうした場で日本の立場を示すためにも、野心的
な目標を掲げる必要があるでしょう。


▼岐路に立つ従来の農家

実際に農業分野に参入しようとする動機は、一企業
や一個人だけの力では成就しないこともまた明らか
でしょう。農業分野は、すでに様々な補助金あるい
は支援金の類で溢れているともいわれますが、それ
らの有効性のチェックを含めて、政府が先頭に立っ
て、農林省に任せることなく、農業の様々な現状と
厳しい将来を訴え、「魅力ある農業」を打ち出し、
我が国の農業の存続と更なる発展のため、未来の地
球や人類のためにも“旗振り役”となることが求め
られています。

政府の名誉のために、改めて近年の政府による農業
政策の取り組みを整理しておきましょう。実は、農
政を大きく変えたのも安倍政権でした。つまり、安
倍内閣の経済政策「アベノミクス」によって、それ
まで競争原理の矢面に立たされることがなかった「
医療」「教育」「農業」にも競争が奨励されました。
農業分野においては、6次産業化をめざして雇用
の創出を促進し、将来にわたって国の活力の源とな
り得るように舵を切り、「攻めの農林水産業」を打
ち出しました。

具体的には、平成27年に策定された「食料・農業・
農家基本計画」において、競争原理による「強い
農業」を目指す「産業政策」と「活力ある農村」を
目指す「地域政策」を基本方針の両輪として推進し、
食料の安定的確保と自給率の向上と食料安全保障
をめざしたのでした。そして、「『強い農業』と『
美しく活力ある農村』」の創出」が当計画の狙いで
あることが明示されました。

菅内閣も安倍内閣の政策を踏襲しました。今後のコ
メ政策について業界からヒアリングする会合(20
20年10月11日開催)に、従来のJA全中やJ
A全農の加え、日本農業法人協会の役員も出席した
ことが日経新聞で「『農業社長』と政治の距離」と
の見出しで話題になりました。それまでは農産物の
流通をほとんど担っていて、主に「農家を守る」立
場にあったJAグループに対して、「強い農業」を
目指そうとする農業法人の声にも耳を傾ける必要が
あるとの判断だったと解説されました。

そして、令和2年の「食料・農業・農村基本計画」
は、「~我が国の食の確保と活力ある農業・農村を
次の世代につなぐために~」とのサブタイトルも掲
げ、やや総花的になった感はありますが、依然とし
て「産業政策」と「地域政策」の2本柱が掲げられ
ました。

岸田内閣においても、前述しましたように、ややト
ーンダウンしたような印象は否めませんが、依然と
して、「競争」を奨励する立場と農家を「守る」立
場の2本柱は維持され、「2極化」していると分析
されています。

 国や消費者の立場からすれば、農産物は安く、安
定的に供給されることが大前提ですが、従来の農家
の立場からすれば価格が高い方がいいと考えるのが
当たり前で、そのためには、競争相手が増えるより
減る方が“メリットが大きい”ことも理解できます。
立場によって、そもそも目指す方向に矛盾を含ん
でいます。

 これらから、従来の農家(農業従事者)は、補助
金や支援金をいただきながら、JAグループに頼り、
小規模・こだわり生産を続ける、つまり、昔なが
らの「営農」を維持するか、大規模土地改良に賛同
して雇用型の組織化を推進し、大量生産型にシフト
するとともに、流通もJAを通さず、小売量販店と
か外食産業とか輸出業者を直接相手にする農業にシ
フトするか、どちらを選ぶか岐路に立たされている
といわれます。

 かつてのアメリカがそうであったように、「弱い
立場にある農家も切り捨てられない」との観点も加
味しなければならないところに、農政の難しさがあ
るのでしょうが、逆にそのような政策の迷いが、ま
すます農業問題解決に向かって混迷を深めている一
面もあるのです。

 平成27年度の基本計画には、「成長産業化の土
台となる生産基盤を強化していくことで、 多様化
する国内外の需要に対応しつつ、創意工夫により良
質な農産物を合理的な価格で安定的に供給すること
ができる農業構造を実現」との文言があるように、
2本柱のウエイトは、「強い農業」の方に傾いてい
たと読み取れます。政府がこのあたりの“踏ん切り”
と“強い舵取り”ができるか否かに我が国の農業
の未来がかかっていると私は考えます。

我が国の人口はやがて急減することから、将来の食
料問題について楽観的な見方もあるようですが、人
口問題よりも農業・食料問題の方が時期的に喫緊の
課題であると考えます。その付近を含めて次回、第
2編「農業・食料問題」を総括したいと思います。



(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学
校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロ
ラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第
8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高
射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、
陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、
陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、
現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊
急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業
開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自
衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会
世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防
史』(並木書房)




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(代表・エンリケ航海王子)

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