配信日時 2022/07/27 09:00

【陸軍工兵から施設科へ(43)】トンネルの湧水は丹那盆地の水だった  荒木肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!

自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。

『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。

「陸軍工兵から施設科へ」第43回です。

220725の佐藤正久さんtwitterで、
安倍さん国葬時の自衛隊参加協力分野の
紹介がありました。

と列など数個ありました。

これから本格準備に入るそうですが、
不世出の国家指導者の、葬儀に続く
国家セレモニーでの自衛隊の存在発揮を
一国民として、ありがたくうれしく頼もしく
思うばかりです。

さっそくどうぞ
 
エンリケ



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陸軍工兵から施設科へ(43)

トンネルの湧水は丹那盆地の水だった

荒木 肇

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□政治家と宗教団体

 安倍元総理の遭難から半月が経ちました。いまは
容疑者が宗教団体に恨みをいだいていたこと、その
団体と安倍氏が親しいと思いこんだために銃撃をし
たというストーリーが描かれています。新聞もテレ
ビも、ひたすら容疑者の家族が崩壊した経緯を次々
と報道しているようです。いつの間にか元自衛官と
いう言い方もなくなりました。

 ただし、この事件の位置づけについては、7月2
4日付けの産経新聞に載った京都府立大学教授岡本
隆司氏のご指摘にうなずくばかりです。氏は次のよ
うに言われます。『立場・利害・思想を異にするは
ずの関係者・識者が、第一報に口をそろえて「民主
主義」に対する「挑戦」「攻撃」「冒涜(ぼうとく)」
といいたて、新聞・メディアもほぼ同じ論調だった
からである』

 このことは同じように感じました。氏も指摘され
るように、民主主義国家ではテロや暗殺は少しも珍
しいことではありません。アメリカ大統領のリンカ
ーン、近くではロバート・ケネディが銃撃で命を失
いました。また、英国でもアイルランド共和国軍に
よるテロ等がよく知られています。

 わが国の歴史でも、たとえば陸海軍の正規将校ら
による5・15事件、部下をも連れ出した2・26
事件などがあります。当時も普通選挙が行なわれ、
民選の国会、政党もあり、それなりの民主主義があ
りました。これこそが民主主義への挑戦でありまし
ょう。

 しかし、今回はどうでしょう。今のところ容疑者
の動機は「私怨(しえん)」です。これが民主主義
とどう関わるのでしょうか。民主主義への挑戦・攻
撃・冒涜とは、力によって、正しい手続きによらず
に国家体制の変革や転覆を図ることではないでしょ
うか。今回の容疑者には、今までの捜査の結果、そ
うした思想はまるでなかったようです。


 むしろ、安倍政権に反対するデモなどのプラカー
ドに「安倍死ね」とかありました。「戦争ができる
国にするような首相は殺せ」とか、なかには「安倍
をぶった斬ってやる」などと公言する大学の先生も
おりました。こうした言動こそ、まさに民主主義へ
の挑戦・攻撃・冒涜なのではありませんか。マスコ
ミや有識者といわれる方々の見識や教養を疑います。

▼畑地区からの嘆願

 豊かな地下水の恵みを受けて来た人々。渓流の3
つが涸れてしまいました。1924(大正13)年
の末のことです。残っているのは水頭(みずがしら)
の泉だけだと畑地区の人々は言いました。飲料水
を得るために麓から高地にある泉まで毎日桶を担い
であがっているというのです。家族の飲み水ばかり
ではなく、家には平均2頭の乳牛がいます。この飲
料水もたいへんな量なので、それぞれの家では男性
が1人、ひたすら一日中水汲みをしていました。田
んぼは全滅です。ワサビ田も湧水が涸れたためにで
きなくなりました。

 地区の人々の嘆願は、3年前に地質調査のために
ボーリングをした孔をもう一度開けてもらいたいと
いうものでした。鉄道省は4か所の穴を開けました
が、そのうち1つが畑地区にありました。


地上から106メートルの地下に掘削の先端が入っ
た時でした。勢いよく水が6メートルも噴き出し、
それがなかなか止まらない。そうして周囲の湧水が
減ったのです。そこで大量のセメントを圧搾空気で
送り込み孔をふさぎました。それをもう一度開けて
欲しいという嘆願でした。あの6メートルもあがっ
た水がもう一度欲しいというわけです。


 しかし、技師たちが検討してみると、再掘削は技
術的にとても無理だと分かりました。鉄道省では議
論がされました。おそらく・・・トンネル工事が原
因だろう、現場での大量の湧水は丹那盆地の地下水
に違いないという結論が出ました。ただし、ボーリ
ングをもう一度、別の地点でやってみようとなった
のです。

▼トンネルの水は丹那盆地からだ

 ボーリングの準備が始まりました。必要とする資
材は東海道線沼津駅から私鉄駿豆(すんず)鉄道の
大場(だいば)駅まで貨車で運ばれます。そこから
軽便鉄道で函南村大竹区に送られ、その後は馬車で
畑地区に運ばれました。


並行して鉄道省の技師たちは飲料水の確保にも努め
ました。水頭の泉は少しも涸れていません。この豊
かな水を鉄管で畑地区の各家に送ろうというのです。
住民たちも希望を持たされてきました。

 そのころ、なんと鉄道省の中でも、工事を放棄す
るという選択もあるという意見が出ていました。難
航する掘削、それは主に湧水が原因です。また、複
線型の大きなトンネルのせいだという意見もありま
した。

 阿部という技師がいました。逓信省の技師から鉄
道省に移った人ですが、水力発電所建設のために水
について研究した経験がありました。その知見から
すると、一般の山岳地帯では降水量によって河川の
流量が変わるというのです。ところが、火山地帯で
は降水量による水のかさの変化はないということで
した。

 それは降った雨の水は、一般の山岳地帯では地中
にしみ込むことが少ないのです。多くは河川に注ぎ
込みます。だから降水量が多かった場合は河川の流
量が増えます。ところが火山地帯では雨水が地下に
しみ込みやすい。地質が粗いために、岩石の隙間に
入って水が地中に溜められています。

 丹那盆地は典型的な火山地帯の地質です。地下に
大量の水が貯えられていたと考えられました。トン
ネルは盆地の地下160メートルに掘られています。
そこへ地中の水が流れ込んで、トンネルが巨大な
排水管になっていると考えられたのでした。


▼各地区でも渇水の被害広がる

 ボーリングは進みました。1927(昭和2)年
の夏でした。ボーリング先端のノミはとうとう10
6メートルの深さに達しました。誰もが3年前のよ
うに勢いよく水が噴き出すことを期待しました。た
しかに水は出ました。ところが水の勢いは弱く、5
0センチほどしか上がりませんでした。付近の地下
水が減っているということです。

 鉄道省も畑地区の水の減少に手をこまねいていた
わけではありません。鉄管による給水も40戸の家
々に行なわれました。延長1580メートルにも鉄
管は伸びていました。おかげで畑地区の人々の気持
ちも少しは救われましたが、減水は他の地区でも始
まります。

 盆地の軽井沢地区では山間部の泉からの竹の樋で
水を取っていましたが、その泉も涸れました。2台
の水車も動かなくなり、他の地区も同じです。


 とうとう、大貯水池を造る計画を鉄道省も立てま
した。用地買収もされ、鹿島組が工事を請け負うこ
とになりました。省からは各農家に見舞金も出し、
遠い川からポンプで水を汲み上げる設備には県庁か
らも補助が出ました。しかし、住民たちの過去の豊
かな暮らしはとてもそんなことでは戻りませんでし
た。

 そうしてとうとう住民たちは立ち上がりました。






(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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