配信日時 2022/07/11 20:00

【我が国の未来を見通す(31)】「農業・食料問題」(13) 「農業の高付加価値化」の推進(その1)    宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
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WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんばんは、エンリケです。

本連載のアーカイブサイトができました。
https://wagamirai.okigunnji.com/

過去記事をすべて格納してますので、
ブックマークに入れ、折に触れ読んでみてく
ださい。


ウクライナ紛争は下手うつと30年戦争の再来にな
るような印象があります。時代の転換点の戦争は往
々にして長期化する印象もあります。ただ、いま、
その再来を簡単に認めるのはよくない、ことは専門
知識が少なくても何となく皆が感じているところで
しょう。

今回宗像さんが冒頭文で書かれていることこそ、そ
の「感じ」の核にあるものであることは、あなたも
うなづいて同意されることでしょう。


エンリケ

追伸
30年ほど前、農学部の教授が「才覚ある人にとっ
て農業は最大最強最高の舞台」と言ってたことを思
い出しました。当時も農業は、時代最先端の科学技
術がフル発揮されている場で、ほんとうにエキサイ
ティングでした。今もその状況は変わってないよう
ですね。


ではきょうの記事、さっそくご覧ください。


エンリケ


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我が国の未来を見通す(31)

「農業・食料問題」(13)
「農業の高付加価値化」の推進(その1)

宗像久男(元陸将)

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□はじめに

 「歴史が戻った」ようです。先日、欧米30か国
で構成する軍事同盟であるNATO首脳会議が開催
されました。その中で向こう10年間の指針となる
「戦略概念」が改訂され、ロシアを「最も重大かつ
直接的な脅威」と位置づけ、NATOの防衛力強化
が盛り込まれました。この首脳会議を機にトルコが
翻意したことで、フィンランドとスウェーデンのN
ATO加盟が早晩、現実のものになりそうです。

また、中国に対しても、「体制上の挑戦を突き付け
ている」と、東西冷戦期の旧ソ連に向けた懸念と同
等の強い警戒感を示したことが注目されました。こ
の首脳会議には、日本、オーストラリア、ニュージ
ーランド、韓国の首脳も招待され、「パートナー国」
として協力強化するのに加え、NATOがインド
太平洋地域の安全保障問題にも関与する姿勢をはじ
めて打ち出しました。

 首脳会議前にドイツで開催された先進7カ国首脳
会議(G7)においても、ロシアに対する圧力強化
や中国に対する対抗姿勢で結束することが確認され
ました。

 ロシアのウクライナ侵攻は、この機を巧みに利用
したゼレンスキー大統領(との分析もあります)も
あって、国際社会は、プーチン大統領のみならず、
だれもが全く予想もつかなかった、とんでもない方
向に向かいはじめました。習近平も戸惑い、悩んで
いることでしょう。

 ここに至った原因と責任をひとりプーチンに押し
付けることは簡単ですが、歴史をどこまでさかのぼ
るか、あるいは表には出ていないそれぞれの国のリ
ーダーらの“真の意図”などによって見方も変わっ
てくることでしょう。

 大事なことは、これ以上のエスカレーションを回
避することであると考えます。今回のようなロシア
包囲網の強化は、ロシアとウクライナの2国間の局
地戦争が周辺国を巻き込む地域戦争に、そして通常
戦力の限定戦争が核戦争に拡大する、つまり第3次
世界大戦のトリガーとなる“大義名分”をロシア側
に与えてしまう危険性があることを私たちは認識す
る必要があるのです。

一方の盤石な体制は、相対する側にとっては脅威の
増大です。この関係は、個人でも組織でも国家でも
同じです。ほどよいバランスが共存を生むと歴史は
教えています。すでに地球上には人類社会を10回
破壊できる量に相当する核兵器が存在するといわれ
ます。おおげさな言い方をすれば、双方が完全に納
得できなくとも何とか妥協できる“落としどころ”
を見つけてエスカレーションを回避する、そのため
のさまざまな「智慧」を出すか否かに、人類の生存
がかかっています。歴史をみれば、朝鮮戦争時のマ
ッカーサー解任やキューバ危機の際の危機回避など、
いつの時代もある種の「智慧」が発揮されました。

「冷戦」と「熱戦」は違います。「冷戦」はエスカ
レートするまで時間があることからそれを抑制する
協定の締結などが可能ですが、いったん「熱戦」が
始まり、だらだらと続けるうちに、偶然か必然かは
別にして“あるトリガー”によって突然エスカレー
トする危険性をはらみます。

これらから、私は、ウクライナ戦争はそろそろ収束
に向けて動き出す時が来たと考えます。だれが人類
を救う牽引者となるか。並みいる各国の為政者をは
じめ各界のリーダーなど、その候補者はたくさんい
るように見えますが、なぜ名乗り出て行動しないの
か、その原因は何なのか・・・現在のリーダーたち
の思慮が至らないのか、それぞれの思惑なのか、全
体を取り巻く「空気」なのか、とても不思議です。

いずれにしても、(これも真の理由は不明ですが)
プーチン大統領の “自制”が効いている間に、牽
引者の早期出現と収束に向けた調整を待望するばか
りです。冒頭から重くなりました。

本メルマガが発刊される頃には参議院選挙の結果が
出ていることでしょう。選挙の前に、「主権」につ
いて書こうと思っていたのですが、間に合いません
でした。いずれ取り上げることにします。

▼「スマート農業」による環境負荷軽減と今後の課


「農業の高付加価値化」を考える前に、前回のテー
マ「スマート農業」についてまとめておきましょう。

「スマート農業」の推進は、生産性の向上と人手不
足に対応するだけでなく、センシングデータなどの
活用により、農薬・肥料の適切な利用、CO2の排
出削減などに貢献しています。

最近特に脚光あびているのが、ドローンを活用した
「リモートセンシング技術」の導入です。ドローン
に搭載したマルチスペクトルカメラによって、「ほ
場」の作物の生育のバラつきをマップ化し、そのデ
ータから可変施肥(せひ)設計を行ない、適切な肥
料散布により収穫と品質の向上を図ろうとするもの
です。またドローンによって、害虫被害の確認やそ
の結果に基づくピンポイント農薬散布技術も実用化
されています。

同様に、衛星リモートセンシングを活用した「クラ
ウド型営農支援サービス」も実用化されています。
この診断レポートに基づき、「ほ場」ごとの状況に
応じた作業計画の立案、適切なタイミングでの施肥
や収穫が可能となり、高収量化、高品質化、省力化
に寄与しています。

「光合成データ等を活用した栽培管理」もすでに行
なわれています。直接計測した光合成速度や蒸散速
度に基づいて栽培環境(温湿度・かん水量・二酸化
炭素濃度等)を最適化したり、 液肥やCO2の余
分な施用を抑制し、環境負荷を低減しようする技術
です。無駄のない暖房により化石燃料の消費を削減
に努めている例もあります。

このあと詳しく触れる、生産から流通・加工・消費・
販売までデータの相互利用が可能な「スマートフ
ードチェーン」も開発中です。 共同物流によるC
O2排出削減や需給マッチングによる食品ロス削減
により、環境負荷の低減を図ろうとするものです。

これらの例のように、農林省主導のもと、「スマー
ト農業」の定着を加速化する狙いとして「スマート
農業実証プロジェクト」が全国各地で展開されてい
ます(2019年以降、全国202地区)。一方、
まだまださまざまな課題があることも明白です。

「作業の自動化」においては、「 スマート農業機
械」の導入により、減反された水田にトマトの生産
拡大に取り組むことができたとか、 「直進キープ
田植機」や「アシスト機能付きトラクター」などを
活用して、新規就農者でも熟練技術者並みの精度・
時間で作業が可能となったなどの農作業の革新が現
実のものになりました。

その反面、「ロボットトラクター」や「自動運転コ
ンバイン」については、外周は手動で作業しなけれ
ばならず、不定形で狭小な「ほ場」の多い経営体で
は利用できる「ほ場」が限定されるとか、一部の地
域では、スマートフォンによるGPS位置制御が不
安定になる場合があり、情報通信基盤の整備が「ス
マート農業」が隅々まで普及する際の課題になって
いることもあるようです。ただし、これについては、
前回触れました「みちびき」を活用することによ
り、スマートフォンやGPS受信のための地上局に
頼らずとも高精度位置情報の取得がすでに実証され
ています。

また、導入コストについても、それぞれの農機具が
かなり高価なことから、さまざまな工夫が必要なこ
とはいうまでもないでしょう。

これらもあって、農林省は、2020年10月、「
スマート農業推進総合パッケージ」を策定し、研究
開発、実証、現場実装までの総合的な施策の推進を
図ろうとしています。つまり、(1)スマート農業
の実証・分析・普及、(2)新たな農業支援サービ
スの育成・普及、(3)実践環境の整備、(4)学
習機会の提供 、(5)スマート農業技術の海外展開
などです。

また、地方の活性化を目指した「デジタル田園都市
国家構想」も「スマート農業」の普及・拡大に貢献
することも狙いの一つとなっています。細部は省略
しますが、“政府(農林省)が本腰を入れていかに
真剣に取り組むか”が、「スマート農業」の将来、
ひいては我が国の農業の将来を大きく左右すること
は間違いなさそうです。

▼「フードバリューチェーン」と農業の「6次産業
化」

 さて、話題を「農業の付加価値化」に移しましょ
う。まずは「フードバリューチェーン」です。

「フードバリューチェーン」とは「生産から製造・
加工、流通、消費に至る各段階の付加価値をつなぐ
こと」と説明されています。つまり、農林水産物の
生産から消費までを鎖(チェーン)のようにつなぐ
ことで、総合的な付加価値(バリュー)を高めよう
とする考え方です。

食物は生産されてから消費者の食卓に届くまでの間
に、さまざまな付加価値が加えられると同時にコス
トが発生します。たとえば、加工の段階では、消費
者が手間をかけずに食物を食べることができるよう
付加価値が加えられますが、加工に伴う諸費用が生
じます。流通の段階では、消費者が地元の商店で食
品を購入できるようになるという付加価値と運送費
が発生します。付加価値には、輸送コストを削減し
たり、販売機会を増やしたりすることも含まれてい
ます。

これらの具体例からわかるように、農産物が消費者
に届くまでには、種子や苗をつくる種苗(しゅびょ
う)会社、実際に農産物を生産する農家、農産物の
加工会社、物流会社、販売会社など多くの人の手が
関わっています。各段階における関連会社が連携し
て生産効率や品質を高め、それらが鎖のようにつな
がることで、商品の付加価値を高めるのが「フード
バリューチェーン」の目的です。

 生産効率を高めることで生み出される商品の付加
価値とは、(1)農産物自体の品質の向上、(2)
加工による魅力的な商品作り、(3)流通システム
構築、(4)販売ルートの開拓や認知されるための
工夫などがあります。「1次産業」である農業もフ
ードバリューチェーン上にあるといえますが、これ
まで農業とフードバリューチェーンのつながりはあ
まり認識されておらず、農家は農家、販売会社は販
売会社など、バリューチェーン内の各アクターが個
別に活動してきました。

しかし、最近、生産から加工・販売までを一気通貫
で実施する農業法人も増えてきました。いわゆる農
業の「6次産業化」です。「6次産業化」と「フー
ドバリューチェーン」という概念には強い親和性が
あります。農家がフードバリューチェーンの中で「
6次産業化」を行なうことで、他事業者との連携が
可能になり、より新たな生産システムや物流体制を
構築できると考えられています。

▼「フードバリューチェーン」の海外展開

農業ビジネスに可能性を求める農業経営者は、フー
ドバリューチェーンが「農業のイノベーション」に
なると注目しています。2014年、政府は「グロ
ーバル・フードバリューチェーン」戦略を策定し、
農業生産~加工~物流までの「フードバリューチェ
ーン」を国内に留まらず海外にも展開させる戦略を
打ち出しています。しかも対象は農産物だけでなく、
食産業の海外展開も視野に入れています。

日本には世界に誇れる「日本食文化」と、ICT技
術や先進的な流通技術がありますが、これらの強み
を生かして、農林水産物の生産から消費にいたる過
程をフードバリューチェーンでつなげれば、より付
加価値の高い製品で海外市場を開拓できると期待し
ているようです。

 農林省は、2014年に「グローバル・フードバ
リューチェーン推進官民協議会」を発足し、201
9年12月の時点で、450を超える民間企業、関
係機関が参画しています。

その戦略は、「基本戦略」と「地域別戦略」の2つ
からなり、その核となるのは、産学官が連携してバ
リューチェーンを構築することであり、日本の「強
味」を「ジャパンブランド」として構築し、食のイ
ンフラシステムの輸出を推進することも目標に掲げ
ています。

ここでいう日本の「強味」とは、ユネスコ無形文化
遺産である「日本食」を基盤とした産業や高品質コ
ールドチェーン、高度な農業生産と食品生産システ
ム、さらに先進的な日本型食品流通システムのこと
を指しています。このほかにも、開拓市場となる海
外に対しては、二国間政策対話や経済協力の活用、
コールドチェーンなどの食のインフラ整備を通じて、
グルーバル・フードチェーンの展開を働きかける
ことも含んでいます。

一方、「地域別戦略」では、品質の優れた日本産食
品の輸出促進をめざし、対象となる主な地域は、A
SEAN,中国、インド、中東、中南米、ロシア、
中央アジア、アフリカなどとされていますが、特に
日本に近く、6億の人口を抱える巨大市場のASE
ANは、フードバリューチェーン構築のために不可
欠なパートナーとなっています。

昨今の国際情勢の変化から、このような日本の計画
がすんなりと実現できるかどうかは未知数ですが、
世界人口そのものが増加する中にあって、食糧不足
が現実のものとなりつつあることから、農業先進国・
日本の果たす役割は決して低くないと考えるべき
でしょう。またそれができる農業先進国を目指す必
要があると考えます。

▼「フードバリューチェーン」のオーケストレータ


 最後に「フードバリューチェーン」のオーケスト
レーター(指揮者)について触れておきましょう。
生産から製造・加工、流通、消費に至る各段階の付
加価値をつなぐ「フードバリューチェーン」は、各
プレーヤーがそれぞれのステップでベストを尽くす
だけでは達成できず、目的を共有し、目的に向かっ
て連動すること大事なことは言うまでもありません。

それぞれは業種も業務内容そのものも違うことから、
その間には乗り越えがたい「壁」も存在するのが
通常です。しかし、「フードバリューチェーン」が
うまく機能するためには、この壁を取り払い、ある
いはその壁を乗り越えてそれぞれのプレーヤーに指
示を与えるオーケストレーターを置き、全体の流れ
を統率する役割が必要不可欠になってきています。

 問題は、この役割を誰がやるかです。その特性か
ら、農林省など官が立ち入る性格のものではないの
ですが、この役割こそが、従来のバリューチェーン
以外の業界にビジネスチャンスを与え、農業ビジネ
スに大変革をもたらす可能性があるといわれます。
名乗りを上げている企業もあるようですが、細部は
後述しましょう。



(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学
校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロ
ラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第
8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高
射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、
陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、
陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て
、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊
急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業
開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自
衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会
世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防
史』(並木書房)




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発行:
おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)

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