配信日時 2022/07/06 12:43

【陸軍工兵から施設科へ(40)】 丹那盆地の水が抜ける  荒木肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!

自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。

『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。

「陸軍工兵から施設科へ」第40回です。

冒頭文にこころから共感します。
 

さっそくどうぞ
 
エンリケ


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陸軍工兵から施設科へ(40)

丹那盆地の水が抜ける


荒木 肇


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□電力の涸渇が示すもの

 それにしても猛暑が続くと、渇水と電力消費が話
題になります。いろいろと議論があるようですが、
要は原子力発電をどうするかということでしょう。
東日本大震災のあとに、原子力発電所はすべて禍々
しいものとされました。再生エネルギー推進、火力
発電は地球温暖化に害ありとされて縮小する、原発
は動かさないとしてきたのです。

 おかげで原子力が全電力に占める割合は、わずか
4%となりました。あわてて再稼働を検討すると言
っていますが、この冬には間に合わないとのこと。
施設が老朽化しているために再稼働には時間と経費
がかかるのは当然でしょう。

 なにか防衛力の話とも、つながる気がするのは私
だけではありまぜんね。ドロナワです。泥棒を見て
から慌てて捕まえ、縛るための縄をなうという諺で
す。どうも、わが国はいつもこれだとしか思えませ
ん。

 多くの政治家、政党はまだ「専守防衛」と主張し
ます。そうして、そんな人たちが当選するのは、お
そらく多くの国民がそう考えているのでしょう。や
られてから初めて撃ち返す、つまり当初のこちらの
犠牲は甘んじて受けるということです。ミサイルに
よって1つの都市が攻撃され、多くの死者が出ます。
そこで初めて反撃できる。ところが、敵の基地は
安全です。だって、その基地を叩く能力は持っては
いけないのでしょう。

 二の矢、三の矢が飛んできてもそれを撃ち落とす
ことしかできません。当然、すべてが命中するわけ
ではありません。そうしている中で国会では「話し
合いをする」とか、「国際連合に訴える」と話し合
うのが唯一の対処でしょう。


国土は侵され、敵軍が銃砲火を浴びせてくる、避難
態勢もきちんと計画されていない一般国民はどうす
ればいいと言うのでしょう。いや、そんなことは努
力すれば絶対起きないよと言いながら、いざとなっ
たら「座して死ね」と国民に言っているのが憲法9
条ではありませんか。

さて、丹那トンネル工事は進みます。いよいよ電力
も使えるようになります。吉村氏の取材の結果は「
闇を裂く道」に詳しく書かれています。今回もお世
話になりました。


▼工事が再開された

 崩壊事故の原因は地質が想定以上に悪く、粘土層
が多かったからだと推定されました。その粘土の上
を岩石が滑って動いてしまい、支保工の丸太が次々
と倒れた、そう考えられたのです。

 事故から4カ月後、1921(大正10)年8月
に火力発電所が完成します。三島口から600メー
トル、蒸気汽缶4基、米国製発電タービン、発電機
各1台が据えられました。熱海口までも高圧送電線
がのびて2万2000ボルトの受電設備も両口にで
きます。こうして電力で削岩機は動き、坑内も電灯
がともりました。電気機関車も入り、トロッコを牽
くようになったのです。

 世界大戦が終わり、好況が過ぎたため電力会社は
低価格での供給を申し出てきました。そうなると経
費上も火力発電より安くなります。こうして火力発
電設備はいったん完成したのですが、水力発電の会
社の申し出を受けてすべて供給を受けることになり
ました。火力発電は緊急時に使うことになったので
す。

 熱海口の工事はさらに進み、三島口は導坑を掘り
進めるのと同時に大量の水に苦しめられていました。
これが坑道の上で何が起きているかは、当時は誰
も気づきませんでした。


▼三島口でも悪断層にぶつかる

 1922(大正11)年といえば、今年からちょ
うど100年前になります。2月16日には三島口
の導坑先端は入り口から約1500メートル(49
40フィート)の地点に進んでいました。翌日の午
前5時のことでした。導坑の切端から9メートル手
前の地点で、すさまじい勢いで大量の水が溢れだし
てきました。支保工は将棋倒しに倒れ、15メート
ル手前の地点からも土砂が流れ出ました。

 水の高さはどんどん増して、排水溝を増やすこと
にします。幅は80センチ、深さ30センチの溝を
2本つくりました。その溝も入口まで1500メー
トルも掘らねばなりません。それが完成したのは5
月初旬になってしまいました。床の岩をくだいて溝
を埋設します。その間も、水は上から降り注いでき
ました。

 どうやら水が外へ排出されましたが、導坑は強い
土圧におされて狭くなってきます。樫の堅い板を土
中に打ち込んでも板は割れ、いっこうに掘削は進み
ません。鉄道のレールを3本まとめたものを板の代
わりにしました。直径20センチの鉄管を丸太代わ
りに使うことになりました。もともとは換気用の送
風管に使うものでした。


 それでも鉄管は曲がり、レールの束もゆがんでし
まいます。秋が過ぎ、冬になっても導坑は1センチ
も進みませんでした。まったく未知の断層だったの
です。

 迂回して断層を突きぬけよう、そう技術陣の結論
が出ました。切端から45メートルの地点で45度
の角度で右方向に18メートルの導坑を掘削する、
その位置から予定線と平行に掘り進める。そうして
良い地質になったら元の予定線に戻るというもので
した。当初はうまく行きました。しかし、39メー
トルを進んだところで、また水の噴出があったので
す。さらに12メートルを進んだところで、また土
砂と水が噴き出してきて丸太と板を押し流してしま
います。こうして迂回路は放棄されました。


▼ボーリング調査を行なう

 もう1年以上も導坑工事は止まっています。1月
25日、切端から37メートル手前で45度に向か
って、今度は左方向に進むことにします。そこでボ
ーリング調査をして、前方の地質を調べることにし
ました。先端にダイヤモンドを埋め込んだノミで前
方の様子を探るのです。

ダイヤは、1個が1.5カラットの鉱業用ダイヤモ
ンドでしたが、1カラット200円もするもので、
それを6個から12個付けました。6個で1800
円もします。1円がおおよそ現在の7000円くら
いと考えると、1260万円もの経費がかかります。

ノミが水平にされて切端から前の土中に入っていき
ました。しかも30センチを進めるのに経費は6円
50銭から25円もしたそうです。4万5000円
から17万5000円ということですね。

結果が出ました。切端から約12メートルの間には、
きわめて悪質な断層破砕帯がありました。そこの
地質は悪かったけれど、それさえ通り抜ければ集灰
岩、安山岩の堅い地質であることが分かりました。
掘削工事は続けられ、北側の迂回坑は断層破砕帯を
突きぬけ、6月4日に36メートル先に着くことが
できたのです。

こうした状況で、未完成のトンネルは9月1日、関
東大震災を迎えます。1923(大正12)年のこ
とでした。
 


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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