配信日時 2022/06/27 20:00

【我が国の未来を見通す(30)】 「農業・食料問題」(12) 「スマート農業」の推進(前段)   宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
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WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんばんは、エンリケです。

本連載のアーカイブサイトができました。
https://wagamirai.okigunnji.com/

過去記事をすべて格納してますので、
ブックマークに入れ、折に触れ読んでみてく
ださい。


冒頭文は、実に貴重な内容です。

これを読めただけで、
メルマガを発行してきてよかった
と思う内容です。

地上戦と洋上戦の何がどう違うのか?

が、現在進行形で展開されている
「戦場の霧」問題
を通して見事にくっきり浮き彫りにされています。

「地上戦の本質」は何か?
をつかみ、地上軍への理解を深めたい方は必読です。

本文記事も具体的で、痒い所に手が届く内容でした。
現在最高の科学技術が形になっている分野が一次産
業という話は30年以上前から知ってましたが、いま
もその状態は変わってないようです。
農業機械や林業機械のすさまじいまでの性能能力に
接するたび幸せを覚えます。

こちらもぜひお楽しみください。


ではきょうの記事、さっそくご覧ください。


エンリケ


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我が国の未来を見通す(30)

「農業・食料問題」(12)
「スマート農業」の推進(前段)


宗像久男(元陸将)

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□はじめに

 ウクライナ戦争が始まって以来、ロシア側(一部
ウクライナ)の活発な情報戦(プロパガンダ)に接
しているうちに、私自身はいつも「『戦場の霧』は
なくなったのか」ということを考えていました。今
回は、その話題に触れておきましょう。
 
 とは言え、ほとんどの読者は「戦場の霧」とは何
なのか不明であると思いますので、そこから説明し
ましょう。この言葉を最初に使ったのはクラウゼヴ
ィッツで、名著『戦争論』に出てきます。
 
 要約すると次の通りです。軍隊は、古来より作戦
や戦闘における意思決定の的確性を期すため、その
ベースとなる正確な情報を得ようとしてさまざまな
手段を活用してきました。しかし、戦場において完
全な情報を把握することは極めて稀(まれ)でした。
なぜならば、地上戦においては複雑な地形のもと、
自軍や敵軍の状況や行動を完全かつリアルタイム
に把握することは技術的に困難だったからです。特
に敵情については、何と言っても敵指揮官の“腹の
中”まで完全に読み切るのは不可能なこともあって、
非常に流動的で、常に情報の不完全性がつきまとい、
指揮官を悩ませてきました。
 
この結果が、指揮官が充分な根拠と確信をもって意
思決定することを妨げてきました。この状態をクラ
ウゼヴィッツは「戦場の霧」と呼んだのです。
 
ウクライナ戦争のような現代戦は、軍事分野の情報
革命が進展し、GPS、人工衛星、サイバー、レー
ダー、センサー、あるいは情報化指揮統制システム
(C4ISR)などの技術の発展によって効率的に
敵情を確認することが容易になり、「戦場の霧」を
払拭することに貢献しているといわれます。その上、
SNSなどの普及によって、戦場の実相がほぼリ
アルタイムで当事者のみならず全世界に同時発信さ
れる時代になり、あたかも「戦場の霧が晴れた」か
のような錯覚に陥ります。
 
洋上であれば、オデーサ沖でロシアの軍艦「モスク
ワ」が撃沈された様子が一斉発信されたように、隠
しようがありません。しかし、実態はどうでしょう
か。地上戦の戦場の実相は、複雑な地形や市街地が
あり、地下という“見えない部分”もかなりあるこ
とから、自軍の生存者の正確な把握すらおぼつかな
い状態が続いています。その上、地上戦はいつの時
代も攻防の繰り返しなど流動的です。敵の情報収集
能力を回避し、逆用する技術も発達してきています。
 
このような実態から、現在のような技術をもってし
ても、「戦場の霧」を晴らすのは困難であり、「戦
場の霧」の状態が“一昔前とは違っている”とは言
えても、なくなったわけではないと考えるべきでし
ょう。ロシアも、たぶんウクライナ側も、そのよう
な現状を知っているからこそ、自軍に有利になるよ
うにさまざまなフェイクニュースを流し、その“霧”
を活用しているものと推測されます。
 
いかにリアルな映像であっても、時間的・空間的な
断片映像のみで、それが事実かフェイクかを見極め
るのは困難で、「情報戦」とか「認知戦」といわれ
る分野に活用するのは依然として可能なのです。
 
ここにこそ、地上戦の本質があり、その特性は、か
つても、今も、簡単には変わらないと考えるのが妥
当なのでしょう。現在、将来の軍事技術は「知能化
戦争」、つまりAIを活用してこの「戦場の霧」を
晴らすことを含む“異次元の戦い”に焦点が行って
いるようですが、果して机上の結論のように「霧」
が晴れるかどうか、私にはわかりません。
 
しかし、このような次元までを考慮に入れて、国家
防衛のために新たな防衛力設計が求められているこ
とは間違いなく、それを含む防衛機能を整備すると
なると、「GDP2%が独り歩きしている」などと
議論している場合ではないのです。なんせ我が国周
辺には、国民の異論など全く気にすることもなく、
為政者の考え方ひとつで核戦力を含むいかなる軍事
力の保持も強化も最優先できる国が少なくとも2か
国以上は存在するのです。
 
さて、ウクライナ戦争はいわゆる“消耗戦”の様相
を呈してきました。ロシアに兵器や弾薬がどれほど
備蓄されているか、あるいは緊急増産能力がどれほ
どあるのかは不明ですが、ウクライナ各地の惨状を
みるに、開戦以来4か月弱、相当量の兵器や弾薬を
消耗していることは間違いなく、兵士の犠牲と合わ
せ、ロシアの国家自体がかなり消耗していることで
しょう。
 
ウクライナ情勢の次の転換点は、ロシアの通常兵器
による継戦能力(組織的な戦いを継続できる能力)
が“底をつきかけてきた時”であり、その時の選択
肢は、一般には、(1)核戦力の使用も辞さない別な
フェイズに進むか、(2)停戦に向かうか、でしょう。
一方のウクライナは西側の継続的支援があることが
強みで、局地的には劣勢になることはあっても、現
在のように国土の一部が占領された状態では簡単に
は妥協しないでしょう。
 
これらから、最近、上記(1)のフェイズの可能性、
その延長にある第3次世界大戦の危険性まで説く意
見も出始めました。ウクライナが頑張れば頑張るほ
ど、あるいは戦争が長期化してロシア国内に厭戦気
分が拡大すればするほどそのリスクが増大するとも
言えるので、状況は穏やかではありません。
 
さあどうしましょうか。それを回避するために、ロ
シアとウクライナ両国の当事者たちのみならず、人
類の“叡智”が試される時が迫っているのかも知れ
ません。我が国とて決して他人事ではないと考えま
すが、参議院選挙の論点などをみるに、与野党の政
治家たちに“言いようのない寂しさ”を感ずるのは
私だけでしょうか。
 
今の我が国には、「戦場の霧」ならず「政界の霧」
があたり一面に深く立ち込めているような気がして
ならないのです。
 
▼「スマート農業」のメリット・デメリット

今回は、「農業の魅力化」の2つめの“切り口”と
して「農業のスマート化」、つまり「スマート農業
」の推進を取り上げます。

「スマート農業」とは、「ロボット技術や情報通信
技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品
質生産などの実現を目指している新たな農業」のこ
とをいいます。我が国の農業の現場では、依然とし
て人手に頼る作業や熟練者でなければできない作業
が多く、省力化、人手の確保、負担の軽減が重要な
課題となっていることから、最近、特に脚光を浴び
ています。農業のDX(デジタル・トランスフォー
メーション)ともいわれています。

「スマート農業」のメリットは次のように整理され
ています。まず第1は、「少ない人員での作業が可
能なこと」です。農作業の各場面でロボットなどの
機械が活用されれば、少ない人数でも多くの作業が
できます。人手不足に悩まされがちな農家にとって
、これは大きな利点であり、かつパワードスーツの
使用で重労働の軽労化や除草ロボットなどで作業の
自動化も図ることができます。細部は後述します。

第2は、「生産量のアップが期待できること」です
。人が休んでいる時間にも作業を任せられるAIロ
ボットのようなものを活用して少ない労力で作業量
をアップする、あるいはデータの活用により作業精
度も上げることなどは、それぞれ生産量のアップに
つながります。その結果、今までより多くの作物を
収穫でき、農家の収入が増え、国としても食料自給
率アップが期待できます。

第3は、「環境への負荷が減ること」です。たとえ
ば、データを活用して、ドローンによる農薬散布が
できれば農薬の使用量を大幅に減らすことができま
す(農薬使用量が1/10まで減った例もあるよう
です)。さらに、AIを活用することで、液肥やC
O2の余分な使用を抑制できるばかりか、高精度な
需要予測なども可能となり、食品ロス削減にもつな
がることも期待されています。

 第4は、「農業への新規参入がしやすくなること
」です。農業には熟練の知識・技術が必要な場面が
多々あって、経験がなければなかなか作業がうまく
いかず、生産量アップにつなげられないとの問題が
ありました。しかし、「スマート農業」の先端技術
のデータなどを活用すれば、農業を始めたばかりで
も安定した成果を出すことや農業機械のアシスト装
置を使用すれば経験の浅いオペレーターも高精度な
農作業を実施することが可能となります。この結果、
経験がなければ生産量につなげにくいといったイ
メージがなくなり、新しく農業を始めたい人が増え
ると考えられます。

 他方、「スマート農業」にもさまざまなデメリッ
トもあります。まず何といっても「導入のためにコ
ストがかかる」ことでしょう。「スマート農業」に
はロボットやシステムなどさまざまな機器の使用が
不可欠で、始めるとなれば初期投資が必要になりま
す。農家向けのロボットは工場などで使用している
ものより安価な傾向にありますが、まだ気安く買え
るほどリーズナブルではないでしょう。また、「ス
マート農業」はまだ始まって日が浅い分野であるた
め、どの程度の成果が出るのか、その費用対効果を
見極めにくいことも課題でしょう。

 第2には、「AIなどによるデータ管理は、デー
タ以外のことに対処しきれない可能性がある」のも
デメリットといえるでしょう。特に農業は、天候や
気温など自然の動きに大きく左右されることから、
データにない予期せぬ出来事が起こった場合、対処
しきれなくなることが考えられるのです。

 第3には、「スマート農業」の技術を駆使するた
めには、それを使える「スキルを身に付けなければ
ならない」のもデメリットの1つと考えられます。
高齢化が進む農家に対して、先進的で難しい技術を
伝えるのは口で言うほど簡単ではありません。「ス
マート農業」のスキルを教えられる人材、それを活
用できる人材の育成が必要不可欠です。

このように、「スマート農業」は、我が国の農業が
抱えるさまざまな問題を解決する突破口となること
が期待され、成功事例も多く、現在、さらなる開発
も進められており、大きな可能性を秘めていること
は間違いないでしょうが、これまでの農業従事者と
最も縁遠かった技術の導入を余儀なくされ、また、
そのための投資額も個人の農業者の限界を超える可
能性もあることから、「農業の企業化」と「スマー
ト農業」の導入は不離一体ととらえる必要があると
考えます。

▼ここまで来ている「スマート農業」

 すでに導入されている、あるいは農林省や大学や
メーカーを中心に現在、検証中の「スマート農業」
の技術をまとめて紹介しておきましょう。

 まずは「自動走行トラクター」の導入です。数年
前、『下町ロケット』のシリーズでも話題になりま
したが、この導入効果は、限られた作期の中で、一
人当たりの作業可能な面積を拡大し、大規模化が可
能になることにあります。

 我が国は、独自のGPSを保有するために、準天
頂衛星「みちびき」の開発し、2018年11月以
降、4機体制で運用を開始しています。この「みち
びき」の信号とGPSなど他の信号と合成して利用
することで安定した高精度測位を行なうことが可能
となっており、その誤差は数センチメートルといわ
れています。

 このような技術を「自動運転トラクター」に利用
することにより、使用者が搭乗した状態での自動操
縦(レベル1)や有人監視下での無人走行(レベル
2)を経て、ほ場間の移動を含む遠隔監視下の無人
走行(レベル3)まで開発が進み、まもなく市販さ
れるようです。

 ここでいう「ほ場」とは一般には田畑の農地を指
しますが、多くの農地は区画が小さく、その形も不
揃いです。その障害を克服する技術は、ハードルが
一段高いようで、この点からも農地の区画整形が要
求されます。「自動運転トラクター」と同様の技術
を活用した「自動運転田植機」や「自動運転アシス
ト機能付コンバイン」などもすでに販売されており、
農作業の自動運転化はかなり進んでいるといえます。

次に、「農業用アシストスーツ」もすでに実用化さ
れています。これによって、中腰姿勢での作業時の
おける腰の負担を軽減し、高齢者や女性の就労支援
にもつながっています。同様の目的で、「リモコン
式自走草刈機」も実用化され、人が入れない場所と
か傾斜地のような危険な場所での除草作業をリモコ
ン操作によって実施することが可能となっています。

また、「自律走行無人草刈機」、つまり負担の大き
い草刈りの無人化という画期的な技術も開発されて
います。これは、天候・場所・時間を問わず、草刈
り・帰還・ 充電すべてを自動で行なうため、規模
拡大の障害となる雑草管理を自動化し、労働力不足
の解消につながっています。

収穫のため作業は農作業の中でも特に難しい作業で
すが、すでに実用化されている「トマト収穫ロボッ
ト」は、収穫適期のトマトを認識し、高速・高精度
で収穫することで、収量の5割以上をロボットで収
穫できるという“すぐれもの”のようです。また「
キャベツ自動収穫機」は、AIを用いてキャベツを
認識して自動収穫し、コンテナへのキャベツ収納や
コンテナ交換も自動で行ない、収穫・運搬作業にか
かる時間と人手を大幅に縮減することができるよう
です。

農業従事者は、長年の経験によってようやく熟練農
業者に成長するのが一般的ですが、ICTやロボッ
トを活用することによって、熟練農業者の技術や判
断を継承しようとする試みも開発されています。

一例を挙げれば、ぶどうなどの房づくり、摘粒、収
穫時期の判断といった熟練農業者の「匠」の技を、
農業者が装着するスマートグラスで撮影し、データ
化、AI解析やローカル5Gの活用により、新規就
農者が装着するスマートグラスに作業のポイントを
投影しようするものや早期習得を可能とする学習支
援システムの実証研究が行なわれています。
長くなりますので、この続きは次回にしましょう。


(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学
校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロ
ラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第
8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高
射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、
陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、
陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て
、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊
急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業
開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自
衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会
世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防
史』(並木書房)




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発行:
おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)

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